地獄の二人三脚
自分の種目が終わってしまうと後は退屈だ。
他の人の競技を見るだけだし何よりクラスの勝ち負けとかはあまり興味がないっていうのが主な原因だろう。私を薄情だと思いますか? いえいえきっとみんな同じような感じだろう。
勝った負けたとかそんな単純な想いじゃなくきっと今を楽しんでるだけだ。
掛け替えのない青春に掛ける今にクラスみんなで酔いしれる。結果は二の次。そう考えると勝ち負けで競い合ってた方が複雑なんじゃないかと思えてくる。
まあなんやかんや言ったが有体にいえば楽しんだもん勝ちなんだろう。
「なによ今更それに気付いたわけ?」
何を今さらと未来。体育祭を鼻からバカにしてるような奴だと思ったけど誰より学校行事を楽しんでるから意外である。元ヤンのクセに。
「元ヤン関係ないでしょ。あと別に誰よりも楽しんでるとか言うの止めて」
「どうしてよ。事実でしょ?」
「事実じゃなっ――いや…ちょっと事実だけど…」
「ちょっと事実ってなに? 完全事実よ完全事実。何で否定すんのよめんどくさいわね」
「そこまで言う必要ある!?」
「ある。だいたいアンタが誘って来た二人三脚だって最高にめんどくさいんだから」
リレーの練習に二人三脚。
休日はもちろん授業開けも練習に練習を重ねた。香蓮が横で裏目がましく泣いていたのが最高に鬱陶しかった。
「アンタさっき楽しんだ者勝ちっていってたじゃない…」
未来がゲンナリする。いや確かにそう言ったけどさあ…ここで楽しんだら恨まれるのは私なんだよねえ…。
だいたい楽しむって難しいのよ。意識すると尚更にさ。
こうなんていうのかなあ…そういった感情って起こすものじゃなくて湧いてくるものでしょ?
だから楽しんだ者勝ちと分かっていてもなかなかそうはいかにものでね? 心情と感情は別ということですよ。
『――…続いての競技、二人三脚に出場する選手は待機場まで集まって下さい』
今しがたやってた競技が終わったところでアナウンスが入った。
私は力強く立ち上がる。
「いよっしゃああああああああ! 絶っ対勝つわよ未来!! 気合入れなさい!!!」
「…楽しそうね」
ゆっくりと立ち上がる未来は何か言いたそうである。でも無視。無視だ。
だってその瞬間の感情はその瞬間でしかない。感情とは常に移り変わるものよ。だから呆れないで。
ふたりして待機場へと向かうと足を結ぶテープを渡される。解けないように本結びしていると肩をつつかれた。しかも珍しいことに両肩である。
振り向けば綺麗になびく金髪と視界に映らない小人が一匹。
「おい如月凛! さっきはよくも――」
「一時間ぶりね、凛。すっごく嬉しいわ!! おい元ヤンそこどきなさいよ!!!」
「ああんっ!!?
「邪魔するなですよこの腐れヤンキー共!!」
「……気分台無し」
うるさいバカ三羽ガラスが一堂に会す。
地獄の二人三脚の始まりであった。
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