スーパーエロいやつ
開始線で待つ間に体育祭実行委員がグラウンドに入って行く。様々なアトラクションもとい障害物が置かれていく。
最初の種目は障害物リレーだ。
「なぁーんでこんな種目選んじゃうかなあ…」
いつものことながらついつい愚痴ってしまう。そう言いつつもクラスに全部任していた自分が悪いんだけど。
「ふん、ここであったが百年目です」
にしても障害物リレーか。網潜って平均台走って最後にパン食べるのね。朝ご飯抜いて来れば良かった。
「おい如月凛! 聞いているのか!」
はあダッルー。朝一で全力ダッシュなんてやるもんじゃないわよ。身体に悪いっつーの。運動不足を舐めるなよ。
「舐めているのは貴様だっ!!」
「ぐはっ! …なに?」
腹に正拳突きをくらう。周囲には誰も居ない。いったい誰が?
「まさか…魔術……っ!?」
「なわけねーだろ! わたちを忘れたのか!」
平行移動させていた目線を下に向ける。すると頭二つ分は小さい女子が一人。
「なんだ柚子か。迷子センターならあっちよ」
「だれが迷子か!? わたちも出るんだよこの障害物リレーに!」
ビシッと下から指をさしてくる。
このちっこいの誰だと思う人も多いだろう。一応説明しておくと、こいつは空手に助っ人で出た時のチームメイト。期間限定とはいえ仲間として一緒にやっていたのだ。…しかしそのはずなんだけど、その時から何故だか疎まれてるのよね。どうしてかしら?
「疎まれて当然。自分の心に聞いてみやがれです」
「だからそれが分かんないっつってんの。ぶん殴るわよ」
「いたたたたっ!!! グリグリはやめるです! いや止めて下さい!!」
さっきまでの啖呵はどこへ。泣きながら抵抗してくる。弱過ぎでしょ。
「うるさい如月凛! 暴力とは卑怯な!
「んじゃ言いなさいよ。なにが気にくわなくて突っかかってくるわけ」
「……そんなにしりたければ教えてやるです」
柚子がビシッ! とSEが聴こえてくるようなポーズで言った。
「お前がわたちの欲しいものを全部持ってやがるからですよ!」
「それだけ? バカなの?」
「天才です!」
自称天才が両手を振り回して暴れている。
一発ぶん殴ってやろうかと思ったがやめた。周りから笑い声がきこえたからだ。
…しまったな。私たちは競技前で注目の的なのだった。
「ぷぷ…笑われてる。反省しやがれですよ」
「お前も笑われてんだよ!」
『えー…選手の皆さんは準備を――』
再び言い合いが始まったところで競技アナウンスが入る。
当然最初は一年から。私たちからだ。
クラウチングスタートで開始線へと準備する。
「如月凛。謝るなら今ですよ。ここからはわたちの時間です」
「時間も良いけど柚子。靴紐ほどけてるわよ」
「へっ!?」
パンっ!
「あーーー!! 如月ぃぃーー!!!」
「ふははっ! バカねぇ相変わらず」
よそ見してる間に号砲が鳴る。反射的に服を掴んできた柚子を振り払い遠く置き去りにする。後方から恨み節が聴こえるけどこんな古典的な策に引っかかる奴が悪いのだ。自業自得よ。
私は振り払った勢いをそのままにおもいっきり駆け出した。網に平均台にパン喰いだって? 邪魔さえなきゃこんなの余裕なんだから!
『一着が今ゴールインっ! 見事一着に輝いたのは如月凛だ!!』
アナウンスの声と共に大きな歓声に答える。なぜだかクラス以外も大盛り上がりだ。変な感じだけど主人公みたいで気持ちがいい。ひれ伏せ愚民共が。
「…んーでもやっぱ変な盛り上がりだなあー」
自分のクラスへと戻る間にふと思い直す。
答えがでないと分かりつつも悩まずにはいられない。違和感のある盛り上がりだ。
「お姉ちゃん!」
駆け寄って来たのは我がマイ・スイートハニーの楓である。
観覧席から走ってきたのか髪が乱れていた。うーん非常にエロい。
「バカ言ってないで気をつけなってホントにさっ!」
「な、なにがよ。何をそんなに怒ってるのよ」
何だか口調が強い。
ただ競技に打ち込んでいただけなのに何故に怒られるのか? 説明してよ。
「…パンツ」
「へ?」
「へじゃないから。スタートの時に柚子さんが服引っ張ったでしょ? あの時にズボンがずり落ちてパンツ丸見えだったんだよ」
「…マジ?」
「マジマジ。走ってる時に奇跡的に戻ったから良かったけどかなりの間パンツ見えてたからね」
「…おもいっきり?」
「おもいっきり。しかもスーパーエロいやつ」
…最っ悪。あの騒ぎはそういうことだったのか。
「固まってるけど現実だからねお姉ちゃん」
「…熱狂は興奮だったのね」
「だね。一応写真には収めたけど。いる?」
「いらんわ!!」
突っ込んだけどこれ以上の注目を浴びるのは御免なので身をかがめてクラスへと戻る。とりあえず今度部活に参加する時は柚子をボッコボコにしてやろうと心に誓った。
読んで下さりありがとうございます。感想お待ちしています。
また更新します。




