鞭 ト 棘
『あらおかえり、随分遅かったじゃない、ご飯は?トンカツは?
え? いらない?ゴメンってどういう事?
どうしたの?
あんた……
何をそんなに……
怒ってるの?』
〜文学乙女〜
〜鞭 ト 棘〜
憎い憎い、ああ憎い。
思い出すだけでも腹が立つ。
あまりの怒りに何もする気がおきない。
マジで切れそう5秒前だ。
超絶最低人型屑教師ポケモン“担任”から。
身を焦がす程の怒りを与えられてから数時間後。
僕は今、ベッドにてその怒りの矛先を持て余している。
あの【自主規制】の【自主規制】野郎め。
【自主規制】で【自主規制】な【自主規制】をしてやがる!
絶対に【自主規制】だ、間違い無く【自主規制】だ!!
【自主規制】!!!!
いっその事、ホモ疑惑では無く、ガチホモ疑惑にしておけば良かった。
鞄の中からボワッと、新たな扉が登場した事にすれば良かった。
《我が校としては、宮崎さんの学力、及び、その才能を高く評価している。
内密な話だが、彼女の進路に関して国内だけで無く、海外も視野に入れていてな。
先方からも是非との声がかかってる。
つまり、大事な時期なんだ。
彼女の事を思ってるなら、相内がどうするかは分かるだろ?》
途中から僕の脳内スイッチが“憤怒”に変わった為、あまり覚えて無いが。
担任(呪)から言われたのはこんな感じだった気がする。
要約するとこう言う事だ。
《学校のメンツがあるから別れろクソが》
そんなん納得出来るかよ!
ふざけんな!!
畜生……
僕はどうすれば良いんだよ……
『拓馬?大丈夫?』
姉ちゃんの声だ……
ちょっとこの顔は見せられないな。
でも、もしかしたら姉ちゃんなら、何か良い方法を教えてくれるかもしれない……
『大丈夫…… じゃないかも』
『そ、じゃあ話聞いてあげるから。
ココで良いから話しなさい。
顔、合わせたく無いんでしょ?』
『ゴメン、ありがとう』
持つべき物は優しくてエスパーな姉だね。
〜説明中〜
『はぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?
何だソレ!!
ふざけてんのかあの【自主規制】は!!
私が在学中もそうだったけど!
相変わらずあの【自主規制】野郎は【自主規制】ね!!
【自主規制】だわ本当!!!!』
ぜ、前言撤回……
年頃の女性がこんな時間に大声でそんな事を言ってはいけません!
近所の人に聞かれたらヤバイ!!
『ちょ、姉ちゃん落ち着いて!』
『落ち着いてられるか!
よし拓馬、今からあの【自主規制】野郎を埋めに行くぞ。
そんな引き篭もってないで早くしろ!』
ああダメだ。
姉ちゃんの魂が完全に穢れてる。
手の施しようがないぐらい真っ黒だ。
こんなの絶対おかしいよ。
『おち、落ち着いて!姉ちゃん!!!?』
『いい!あんたが行かないなら私一人で行ってくる!!』
ヤバい!!
担任(哀)の首から上が消し飛ぶ!!
と、止めに行かなきゃ……
『姉ちゃん待って!!!』
慌ててベッドから飛び起き。
一目散にドアを開けた途端、僕は何かに引き寄せられた。
『あんたよく我慢したね、偉いよ』
僕を引き寄せ抱き締めたのは、魔女になってるハズの姉。
どうやら僕を外に出す為に一芝居打ったらしい……
『姉ちゃん……』
『いや、本当、あんたは偉いよ。
私だったら
何 ヲ シ テ タ カ
ワ カ ラ ナ イ モ ノ …』
あれ?本当に芝居だったの?
何だかさっきより怖い。
落ち着いた僕と、落ち着かないといけない姉は。
そのままリビングで作戦会議をする事になった。
今日の晩御飯は姉の得意料理であるカップヌードルだ。
小さい頃から変わらない姉の手料理は、たまに食べるととても美味しい。
『で、あんたどうするの? 別れるの?』
『別れたくないから、別れない』
キッパリと答えると、少し姉の顔が嬉しそうになっていた。
まるで
“ほう…、 少しは成長した様だな……”
とでも言いたげな、どこぞのシェフに似たドヤ顏をしている。
『じゃあ隠れて付き合うの?
どう、出来そう?』
『正直無理かな。
もうクラスメイトにはバレてる。
どちらかと言えば、周りの観客を静かにさせるのが無理、タイムリー過ぎる』
『じゃあどうするの?』
正直、この解決策を家族に伝えるのは厳しい。
でも仕方ない、今の僕には他に方法が見当たらないんだ……
『姉ちゃん』
『何?』
『もし僕が学校辞めるって言ったらどうする?』
『そうね……
口に銃弾詰め込んでビンタして“まだ言うかい?”って聞く。』
で、ですよねー……
その眩しい笑顔の奥に秘められたグラップラーとしての素質がヤバい。
『じ、冗談だから、安心してよ。
学校はちゃんと卒業します』
『当たり前じゃない。
お父さんとお母さんの金で行かせて貰ってるのよ?
卒業して当然。
辞退なんてありえないわ。』
『じゃあどうすれば……』
『ん〜〜……』
姉が出した答えは非常にシンプルだった。
そして何より、僕が真っ先に思い付いて真っ先に削除した物だった。
でもやっぱりそうなるよね……
『香菜里ちゃんと相談すれば?』
『大丈夫かな?』
『やってみないと分からないでしょ?
その代わり、
かなり、ちゃ〜んと相談しなさいよ?』
念押しなのかな?
それともワザとやってるのかな?
〜翌朝〜
この日僕は遅刻した。
目が覚めた時には二限目が終わっており、姉の姿は無かった。
ただし置き手紙に。
《ねぼすけへ。
今日の遅刻は許すが、次回の遅刻は許さないDETH》
と書いてあった。
優しいんだか、優しくないんだか……
身支度を整えて出発する際、携帯を取り出し更新をしてみる。
《新着メールはありません》
まあ、そうだよね。
この程度でメールをしてくる様な人には見えないしね!
おっと!歯ブラシ歯ブラシ!!
遅刻もある程度行くと開き直りに変わる。
こんな時間に制服でおにぎりを買ってる人は不良か遅刻者だろう。
そもそも不良は制服着ないか……
遅れて来ながらコンビニの袋をぶら下げていては格好が悪いので、鞄の奥に入れ、無事に学校到着。
そんなに遅刻した事無いけど、この授業中にこっそり後ろから入るのってだいぶ勇気が居るよね!!
意を決して突入。
『おや?相内君、遅刻とは珍しいですね、とりあえずそこに立ってなさい』
まあ、そうなりますよね……
科学のメガネが淡々とした口調で罰を与える。
確かに、教室の後ろに立つのは一般的には罰かもしれないが、今の僕にはある意味イベント的要素を含んだハプニングに過ぎない。
ああ、宮崎さん、後ろ姿も綺麗です!
時々、髪の毛を耳にかける動作が半端なくcoolです!!
遅刻をして来ると、いつも以上に肩身が狭い物で、何となくクラスメイトの反応も悪い。
遅刻する=今日一日はバツが悪いまま時間が進む
という事だが、大丈夫。
全然耐えられる。
何故なら僕には、楽しい楽しいお昼休みがあるから!
『宮崎さん、あのお弁当……』
『ごめんなさい、今日は一人で食べたいの』
なん……だと?
そんな、何故だ、どうしてだ?
そう言って、ススッと教室を去る宮崎さんを横目に。
置いてけぼりの僕は絶望を隠し切れずにいた。
馬鹿な…… 何故こんな目に?
僕が何をしたと言うんだ?
宮崎さんお手製弁当のおかずでおにぎりを食べようとしていた為。
マシーンによって作られた具は、繊細な味と風味を壊すと判断し、何も入ってないおにぎりをチョイスしたのに、このザマである。
それどころか、唯一誰にも邪魔されずに二人の時間を共有するランチタイムが、二日目にして拒否された事が何よりの痛手だ……
結構キツいねこれ、喉の奥が酸っぱい。
心なしかクラスメイトの視線も痛い。
そりゃそうだ。
二日目にしてあんなにキッパリ断られたら誰だってピエロに見える。
そんな空気に耐え切れず、僕は教室を出る。
どこに向かうかは決めて無い。
とりあえずここ以外ならどこだって良い。
最悪、トイレだって構わない!
良いじゃないかトイレ!!
逆転の方法を思いつくかもしれないざんす!
『おい相内!』
聞こえたのは最悪の声だ。
このタイミングでこの声を聞くのは本当に最悪の気分だ。
『遅刻とは珍しいな。
まぁいい、で、どうだ?昨日の件はまとまったか?』
うるさい……
お願いだから話しかけないでくれ……
『で、どうすんだ?』
『……まだ考え中です』
『そうか…… まあ、なるべく早めによろしく頼むよ』
クソ……
今日は本当、最悪の日だ……
いっそのことあのまま家で寝てれば良かった……
一度忘れかけた怒りは。
再熱すると、もう手に負えない。
結局、授業中もずーっとイライラしていたし、それを知ってか知らずかクラスメイトはおろか、宮崎さんも話し掛けて来なかった。
都合が良いっちゃ良いが、正直これじゃ何の解決にもならない。
溢れる怒りを抑えながら、机の下でコッソリと僕は宮崎さんへメールを送った。
《件名:無題》
《本文:大事な話があるから、放課後ちょっと話そう》
後はコレに気付いてくれるか……
ん?
胸元が震える。
宮崎さんからだ……
《件名:Re:無題》
《本文:分かりました、図書室でまってます》
本当に恋人同士のメールかと思う程に質素で無機質なやり取りをかわし、僕は机に伏せる。
眠る為じゃない。
このイライラを少しでも抑える為だ。
こんな顔は、宮崎さんには見せられないから……
最後のチャイムが鳴り。
全ての授業が終わった事を告げる。
終わりのホームルームがヤバかった、担任(滅)の顔は本気で今は見れない、刺しそうだ。
在校生は各々、自分の身支度を整える。
部活に行く者。
そのまま帰る者。
友人達とこの後どっか遊びに行く者。
そして、図書室へ向かう者……
終わりの挨拶と共に即座に宮崎さんが教室を出たのを、僕は覚えている。
じゃあ、僕も行きますか……
足取りが重い…… 超重い……
憂鬱だ、憂鬱過ぎる。
しかし、どんなにネガティブなメンタルでも、前向きに歩いている限り目的地には着いてしまう。
ガイアからのエネルギーは得らぬまま、図書室の前で立ち止る。
溜息にも似た深呼吸をし、決死の思いでドアを開ける。
『宮崎さん、お待たせ』
あれ?
誰も居ない……
いつも座ってるハズの特等席に彼女は居ず。
視界を見渡すが、やっぱり居ない。
おかしいな、僕よりも先に向かったのに。
とりあえず席に座って待とうかと思った時、不穏な音が聞こえる。
《カチャン》
鍵が閉まる音だ……
その音がした方を見ると、そこに僕の探し人が居た。
どうやら、僕が中に入った後に施錠出来る様、ドアと壁の隙間に隠れていたらしい。
でも、何でそんな事をする必要がある?
鍵をかける必要なんて果たしてあるのか?
なんだか背筋がゾッとする……
『居たんだ、遅れてゴメンね』
『大丈夫』
いつも以上にオーラが静かだ……
なんだか元気が無い様に思える。
こんな状態の彼女に、こんな話を持ち掛けて良いのだろうか?
少し躊躇ったけれど、先延ばしにして何も解決はしないと思い、意を決して本題に入る。
『宮崎さん…… あのね?』
『待って、その前に私から言わせて欲しい』
え? 何だろう……
僕の大事な話しを遮った彼女は、一歩一歩こちらに近付く。
僕との距離がちょうど1mぐらいになった所で、思いも寄らぬ光景が広がった。
『ごめんなさい』
『へ?』
意外、それは“お辞儀”
腰の角度が90°の完璧なお辞儀だった。
何だか分からず動転する僕に向かい、宮崎さんは続ける。
『私は、貴方とお付き合い出来た嬉しさのあまり舞い上がり。
貴方の事を何も考えて無かった馬鹿な女です。
偉そうに二人で恋人なんて言いながら、自分だけ楽しんでた馬鹿な女です。
本当にごめんなさい。
心から非礼をお詫び申し上げます』
え? この人何言ってるの??
『ちょっと待って!待って!!
全然話が……』
『だから!!!』
初めて聞いた大きな声……
静かな図書室が、更に静まりかえる。
数秒後の静寂の後、ゆっくりと顔を上げた宮崎さんは
『別れないで下さい』
僕の気持ちと同じ事を言った……
『だ、ぜ、絶対に別れない!!
約束する!!』
『本当?』
『本当だって!!
何で僕が宮崎さんと別れるんだ!』
『そう、それを聞いて安心したわ』
あ、ちょっと表情が緩んだ。
どうやら少し元気になったみたいだ……
それにしてもさっきのはツッコミ所が満載だぞ?
どっから行こうか……
『あのさ、ちょっと色々聞きたいんだけど良いかな?』
『いいわよ、今回も特別に放送コードギリギリの質問に答えるわ』
いつか絶対に聞いてやる!!
『“舞い上がり”ってどういう事?
そんな素振り正直気付かなかったよ』
『あら?メールが届かなかったのかしら?
嬉しくてメールを思わず返してしまったのよ』
……まさか、あの“業務連絡”の事か?
いや、きっと、彼女の携帯から僕に届くまでの間に何かが起きたんだ!
そもそもメールを返す事が好意の証なんて難し過ぎる!!
恋愛ゲームのヒロインなら自力攻略不可能だよ!
『それに、宮崎さんはちゃんと僕の事を考えてくれているじゃないか!』
『いいえ、私は嬉しさのあまりに日曜日の大会に行ってしまった。
だから、昨日は元気が無かったんでしょ?』
宮崎さんは、嬉しいとつい大会に出ちゃうんだ……
どういう事だよ……
それに、大会に行った事と僕が元気が無いのは全くの無関係だと思うんだけど……
『宮崎さんが大会に出る事と僕は関係無いよ!』
『トロフィー展示所の前で相内君が絶望の表情で立ち尽くして居たって聞いたの。
それで、普通は大会を優先する彼女なんて居ないって言われて』
『誰に言われたの?』
『クラスの男子、高橋君』
あいつは俺を怒らせた。
いつか必ずその報いは受けさせる。
絶対に許さない、絶対にだ!
『じゃあ怒って無いの?私はてっきり嫌われてるかと思ってたわ』
『怒って無いよ!!
どーして嫌われると思うのさ!』
『お弁当食べてる時、すごく残念そうな顔をしていたし。
一緒に歯磨きしてる時はずっと私の事を見ていた。
それに……』
『イヤ、ソノ、ソレハ全部、勘違イデス、大丈夫デス』
辞めろ!辞めてくれ!
僕のライフはもうゼロよ!!
『担任の先生と相内君が話してるのを見たって言う人が居てね』
まさか……
じゃあ既に……
『そっか……
じゃあ、宮崎さんも知ってたんだね』
『ええ、人の噂だから信じなかったけど。
相内君からメールを貰って確信したわ』
まさか、こんな流れで言うハメになるな……
『大丈夫、私は相内君と先生との仲を引き裂いたりはしないから』
『は?』
『まさか、先生と相内君がそういう関係だなんて知らなかったの。
私のせいで二人の関係にヒビが入ってしまったなんて』
『待て!!待ってくれ!!
頼む、行かないで来れ!!!
そっちは変な方向だ!帰って来て!!』
どういう事だ…… 何が起きてる?
僕は今から重い話をしようと思ったら、別のベクトルで途方もない重さの話をされた。
不幸自慢をしようと思ったら、相手が昨日彼女にフられてたみたいなものだ……
これに関しては徹底的に追求しないとマズイ。
男としてのプライドが亜空間にばら撒かれて粉みじんになって死ぬ!!
『僕と先生はそんなんじゃない!
どうしてそういう事になった?』
『クラスの女子が言ってたの。
あの先生は実はソッチ系で。
昨日、相内君とコソコソ話してるのを見たって』
まさか僕が流したデマによって自爆するとは誰が予測出来ただろうか……
ある意味良かった、もし本気でガチホモ疑惑を流していたら。
僕は完全に再起不能にされていたと思う。
『と、とりあえず僕はホモでは無い!
信じてくれ、あとあの先生は大嫌いだ!』
『それは良かったわ。
流石に私も“彼氏がホモ”という事実を受け止めるには少々時間がかかったから、そうじゃないのは嬉しいわ』
まさか、お昼の時間はそれに?
そうか……
クラスメイト達の様子までおかしかったのはそういう事か!!
う、噂って怖ぇぇぇ……
小学生の頃ありもしない“○○菌”が。
さながら本物の感染菌の如く広まり、学校側から禁止になったのを思い出した。
以後、細心の注意を払い、あの担任(乙)を社会的に抹殺しよう。
『勘弁して欲しい、何で僕がそんな目に……』
『じゃあ何で、相内君は先生と?』
『そ、それは……』
正直、なんか今なら何でも言える気がする。
でも、こんなふざけた流れで言って良い物なんだろうか?
もっと真面目に考えて、真面目な流れで……
《かなり、ちゃ〜んと相談しなさいよ?》
なる程ね……
いやはや、我が家の姉は本気でエスパーかもしれないね。
『その事なんだけど、実は……』
〜説明中〜
『そう』
僕が話し始めた途端黙り込み。
ひたすら話しを聞き続けた彼女は。
僕が全てを伝え終わると一言だけ漏らした。
何だろう。
目が怖い。
あれ?まさか……
宮崎さんメチャメチャ怒ってる?
『ねえ相内君、私、これからどうしても行かなければならない所が出来たの。
良かったら一緒に来て欲しいんだけど、良いかしら?』
ヤバい、断わったら殺される!
それに何だろう。
宮崎さんから禍々しい黒紫色のオーラが見える……
今の宮崎さんに、水の入ったグラスに葉っぱを浮かべて渡したら、どんな変化が起きるのか非常に楽しみだ。
『も、勿論!任せて!』
『ありがとう。
もし“何かあったら”ヨロシクね?』
何かあるんですか!?
言われるがまま、宮崎さんに付いて行くと、見慣れない場所に着いた。
他の部屋にあるものとは違い。
妙に豪華で物々しい木製のドアには。
これまた少々豪華に“理事長室”と書いてある。
……え?
理事長室?
『理事長、私です、入ります』
若干テンパる僕を尻目に。
宮崎さんは怖じ気も無くそのドアを開ける。
『おや宮崎さん、来るなら来ると事前に言って頂ければお茶の一つでも用意しましたのに』
『いらないわ、そんな物』
この人が理事長?
掃除のおっちゃんじゃないか!
聞き慣れぬ名前の主は、見た事のあるおっちゃんだった。
『では、本の注文ですか?
それとも、次の大会の申請ですか?
それとも“例のアレ”ですかな?』
『いいえ、違うわ』
状況整理が付かない僕を置き去りで、会話が進む。
“例のアレ”って何だ!?
事と場合によっては、担任(獄)とカップリングさせるぞ!?
新しい情報が次々と飛び交う中。
完全に僕の思考をクラッシュさせる発言がこの場に撃ち込まれた。
『私、この学校辞めるわ』