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文学乙女  作者: 月乃輪
12/12

花ヨリ 団子


これまで本当に色々あった。




確か、目の前に居る意劔と初めて会ったのもこの文化区民会館だったな。


正直、あの日から僕は貴方の事が嫌いだ。


そこから色々あって今ココにいる。


叩き過ぎて、わけ分からなくなった右腕に貼った湿布、27枚。


授業中に和歌を覚え、先生に怒られた回数、19回。


使用頻度に耐え切れなくなったイヤホン、2本。


宮崎さんにフルボッコにされた回数、スマイルレス。


だが、それも全部全部この日、この時!

貴方に一矢報いる為にやって来た事だ!!


あえて言う!


僕は今でも貴方が嫌いだ!意劔賢一!


大嫌いだ!!



《それでは始めます!!》



準備は万端だ!!



《両者、礼!》



かかって来い!!



『『よろしくお願いしますッ!!』』



〜文学乙女〜

〜花 ヨリ 団子〜




なんというか……


いざ心を決め対峙したのは良いけれど、流石に今までの人とは格が違う。


この空気。

この雰囲気。

この重圧。


全てが段違いだ。




《【あひ】》



パンッ!!


ざわつく会場が一撃で静まりかえる。

さっきまでお祭り状態だったのに、今は意劔戦独特のお通夜モードに突入。


それほどまでに、この男の初手は速く、そして確実。


紛れもなく強者。

看板に偽り無しの男なのだ。


そして、それは、対峙してる僕が一番よく分かる。



何、今の?

メチャメチャ速いんですけど!?




《【ゆらの】》



パンッ!!!



いやいや!見えない!!

見えないって!!!!


ハッキリ言おう。

今の僕は心身共に最高の状態と言って良い。


読み手の声もよーく聞こえ。

周りの風景は真っ暗だ。


まるで、この小さい畳以外は宇宙に感じる程に精神力は研ぎ澄まされている。


だけど、それでも速いのだ。



読まれた札が何なのかは分かる。

分かるし、身体も動く。


でも、負けるのだ……




『【む】』



パンッ!!!!



これが意劔賢一……


凄まじい……




そこからは、淡々と競技が進む。


次から次へと和歌が読まれるも、札を取るのは全て意劔。


【あの理不尽な攻撃】がやって来ない前半にしか僕の勝ち目は無いのに。

その前半から大量リードを許してしまう。


きっと、これを見てる人は



《また駄目だったよ、あいつは人の話を聞かないからさ……》



と思っている事だろう。



見てるのと、やるのとでは全然違うのだ。

観客席から見る意劔と、畳の上で見る意劔は別人だ。

そう感じる程に彼は強い、ただひたすらに強い。


次々と、差が開いてく最中。

遂に、更なる【だめ押し】が行われた。




パンッ!!!


《【みかきもり〜】》



来た!先出しクソじゃんけん!!

【意劔工場】は今日も元気良く平常運転ですか?



『一つ聞いても良いですか?』


『手短にお願いします。』


『どうして“読まれる札”が分かるのですか?』


『んー……』



真剣勝負の場において、この様な会話はご法度。

しかし、それ以上にこの男の行為は常軌を逸してる。


きっと何かカラクリが……


きっと何かチャンスが……


か細い可能性を手繰り寄せ、疑問を投げつけた結果。

帰って来たのは、またしても読まずに取られた札と絶望の答えだった。



『なんとなく。勘かな?』


『勘?』


『逆に聞きたいよ、どうしてみんな“コレ”をしないのか?と』



え、この人なに言ってるの?



『読まれる札と取る札は同数。

つまり、読まれた札は取られた、もしくは取った札。

しかも、百人一首の枚数は最初から決められている。

そこから逆算して答えを導き出せば自ずと次に何が読まれるかはおおよそ予想はつく。

非常に簡単なロジックだよ。

まあ、多少経験は必要だけどね、ハイ。』


『【せおはやみ〜】』



会話を交わしながらまたしてもさらりと札を取るこの男。


凡人と天才の格の違いをこうも容易く見せ付けられる。



『なるほど分かりません。

でも安心しました、超能力でもスタンド能力でも念能力でも無いって事ですね?』


『後ろの二つはよく分からないけど、そういう事だね。』


『ありがとうございます。

なら、まだ……』



そんな【もうダメだ】が積み重なり、ジェンガの如く崩れる様なこの状況。


完全に世の中を舐め切ってる男が作り出した不平等なこの状況。


きっと誰もが諦めムードに突入し、帰りの準備をしているだろう。



ただ……




『僕も足掻けますね』




僕一人を除いて。







満身創痍で倒したボスが、更なる進化を遂げて蘇ったぐらいにキツく、誰もがコントローラを投げて開発者に抗議の電話をする場面において、僕は静かに、冷静に“ある瞬間”を見定めていた。



まだ残っているのだ……



最後の希望が……



まさに【切り札】



ラストチャンス。



僕がこの畳に座る前から狙いを付けていた札は。

確立50%をくぐり抜け、紛れもなくこの畳の上に存在する。


確かに運ゲーだが、それを遥かに上回るクソゲーを仕掛けて来る意劔に対してならやっても良い行為だ!!


後は読まれるのを待つか、意劔の手がその札に狙いを定めた時が勝負。



いいぜ、あんたが未来を予知するって言うなら。

まず、そのふざけた幻想をブチ破る!!



全神経を意劔の手に集中し機会を待つ。

さながらサバンナのチーターの様。


彼の手に何か変化があれば即座に動ける様にと身体にインプットしつつ。

意識を読み手に向け、後はひたすら時を待つ。



来い……



来い………



来い!!



来い!!!!




《【しの】》







時間が止まる。







目的の札が読まれたと同時に、微かに意劔の手が動く。


僕はそれを見逃さない。


限界まで高められた集中力により、僕はスローモーションな世界に入る。


そのまま、最も少ない動作で、最大の力で。

狙いを済ました札に手を伸ばす……



そして僕は。







手の甲に感じた違和感によって。


その世界から抜け出した。




『『『ウォォォォォォォッ!!!』』』




観客席からはち切れんばかりの歓声が飛ぶ。



僕はやった。


やったのだ。


あの意劔から。


完全無敵、24時間フル稼働の意劔工場から。


見事に札を取ったのだ…………






《そこまで!!》



程なくして、試合終了の声が聞こえる。


結果を言えば、僕が取れた札はたったの一枚。


見事なまでの惨敗っぷりだが、会場はそんな僕を攻める所か拍手で迎えてくれた……


一人の男も含めて



『まさか君に札を取られるなんてね。

正直、今まで相手をした中で一番の強敵だったよ君は!ありがとう!』



終わった瞬間、握手を求められ。

両手で僕の手を握る意劔。



あれ?

もしかしてこの人、良い人?



《皆さん!相内拓馬選手に拍手をお願いします!!》



思わず司会者も煽るその中。



今まで浴びた事のない拍手の雨を受け、照れ臭そうに彼女を見た瞬間。



もう試合は終わっているのにも関わらず。


僕はまたスローモーションの世界に迷い込む。


手に持ったトロフィーを投げ捨て。


一目散に両手を広げ。


見た事も無い笑顔を向けながら。


僕に向かう彼女は。


どんな言葉よりも真っ直ぐに。


どんな記念品よりも美しく。


僕が目標を成し遂げた事を伝えてくれた……



かくして、今年の下克上大会は過去最大の盛り上がりをみせ、歴史に残る大会となり。


大きな拍手の元、その幕を降ろした。












『お待たせ相内君』



背後から僕を呼ぶ声。

振り返れば、私服に戻った宮崎さんがそこに居る。


和風姿も素敵だったが、私服姿も素敵だ。


美しき桜の花びらは、時期に合わせた茶色の木枯らしへと姿を変え僕の前に現れる。



『宮崎さん、本当にありがとう』



街灯に照らされた彼女を見て、思わず出たのは心からの感謝だった。



『宮崎さんのおかげで、僕はここまで来れた。

きっと君が居なかったら絶対に途中で諦めてしまったよ』


『諦めなかったのは相内君の強さよ。

私はそれを支えただけ、それだけ。


ねぇ、それよりも何の札を切り札にしたの?』


『ああ、それは……』



競技の後。

“これは君の物だ”と意劔から受け取った札を宮崎さんに見せる。



『この和歌……』


『その札だけはね、どうしても意劔には渡したく無かったんだ』



【しのぶれど

 色に出にけり

 わが恋は

 ものや思ふと

人の問ふまで

〜平 兼盛〜】



それは、宮崎さんが“あの時”僕に歌った和歌だ。


死に物狂いで和歌を覚えていた最中、その和歌の意味を知った時の事を今でもよく覚えている。


僕にとっては一生忘れる事のない和歌だ。



『相内君』


『何?』



小さな札を握り締める彼女は、札から視線を逸らし、真っ直ぐに僕を見て呟く。



『私、今、貴方に抱き着きたいのだけれど、よろしいかしら?』


『勿論!喜んで!』



さして広くも無い僕の胸にうずくまる小さい彼女。

肌寒い秋の夜だが、僕にとっては全く別の物に感じる。



『ねぇ相内君』


『何だい?』


『私の鶴は役に立ったかしら?』



そのままギュウッと抱き着かれ、心地よい圧迫感が身体全体を包む。



『うん、とても役に立ったよ、本当にありがとう』


『じゃあ、ご褒美を貰ってもよろしいかしら?』



その言葉を受け、少し恥ずかしながら、艶やかな黒髪をなぞる。

2、3回、その髪の柔らかさを確かめた所で、より強い幸福感に締め付けられ、僕は改めて確信する。



『違うわ相内君。

今回のご褒美はその程度じゃ満足出来ない』


『じゃあ何をすれば良い?』


『決まってるじゃない』



僕はきっと。



『抱きしめて、何処にも行けない様に』




一生、彼女には勝てないと。







ああ、このまま時が止まってしまえば良いのに。


よく耳にした恋愛の歌詞が何度も何度も頭をリピートする。


しっかりと抱える彼女の体温は暖かく。

僕は、腕の中にある壊れてしまいそうな儚い存在を、ただただ愛おしく感じるだけだった……





『ねえ、おまじないはどうするのかしら?』


『……この状況でそれを聞くのはズルいよ宮崎さん』


『女はね、ズルい生き物なのよ』


『実はね、最初にあれを見た時から決めてたよ』


『そう、じゃあ教えてくれるかしら?』


『良いよ…… あのね……』

























〜翌朝〜





壮絶な一日から一夜明け。

僕の平和な日常がやって来る。


思えば朝起きて、床を叩かない日ってのも珍しいな……


そんな風に思いながら、リビングに行き、お弁当を作る。


今日は人参と里芋の煮物と、鯖の味噌煮と和風ミートボールだ。


あと、昨日の夜に茶道部へ作ったクッキーも忘れずに……


しばらくして起きて来た姉に弁当を渡し、足早に学校へ向かう。



『随分と嬉しそうじゃない?

なーんかムカつく』



と言っていた姉を置いて外に出れば、今の季節を嫌と言うほど肌で感じ取れる。


随分と寒くなった……

秋の朝は思った以上に寒い。


何だかんだで車通学をしている姉が羨ましいね。


まあ、徒歩通学じゃないと出来ない物もあるんだけどね!


並木道に差し掛かる路地を曲がると。

そこに彼女が居た……


さっそくおまじないの効果を試してみるかな?












『おや理事長それは?』


『昨日宮崎さんが百人一首の大会で優勝しましてね、そのトロフィーですよ』


『何だかココ、凹んでません?』


『投げて落としたらしいです。

上手い事、コレを隠す様に置かないといけませんね…… おや?何ですかコレは?』


『折り鶴ですかね……

どうしてトロフィーの中に?』


『随分と綺麗に畳まれてますね、どれどれ……

【目的を果たせたら、何でも一つ言う事を聞きます】と書いてありますよ、どういう事でしょう?』


『さあ?』









『おはよう、香菜里さん!』


『拓馬君、おはよう』









やっぱりどう考えてもさ。


おまじないにかかってるのは僕の方な気がするんだよね……








〜終劇〜

ご覧頂きありがとうございます。


少しでも皆様の暇な時間の箸休めになり、楽しんで頂けたなら幸いです。


初めての恋愛小説だったので至らない点も多々あったとは思いますが、何卒お許し下さい。


作品に対して意見や感想などがありましたら、どうぞお気軽に投げて下さい。

喜んで顔から取る気持ちです。

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