表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
文学乙女  作者: 月乃輪
11/12

嘘カラ 出タ 実


一人の少女が歴史的快挙を達成した。

それは誰もが驚き、興奮した瞬間だった。


そして、その少女が多くの人から祝福を受けながら放った言葉。

それは誰もが驚き、興奮した瞬間だった。


かつてない程の盛り上がりを見せた会場は。

違う意味で盛り上がり。


彼女を讃えていた観客達は。

生贄を求める暴徒と化した。

さながら食糧とガソリンを求め、荒野をバイクで走るモヒカンである。


そんなエクストラダンジョンになった文化区民会館は、まさに僕にとってはモンスターハウス。


一歩動けば多くの魔物が襲い掛かって来る、そんな状況だ。



ううっ……


周りの視線が痛い……


矢のごとく突き刺さる視線は、僕のSAN値を容赦無く削る。


宝くじ高額当選者の気持ちが今なら分かるね!

目に映る全ての物がメッセージなのだ、ただし殺戮の。

と、飛びたい……

デッキブラシで良いから飛びたい……



『相内君』


『み、宮崎さん……』



この殺伐とした状況において、心のオアシスと呼べるのは彼女ただ一人。


彼女越しに見える人々の視線が半端ないが、そんな事を言っていられない。

僕のHPは真っ赤なのだ。

教会に行って復活して貰わないと行けないのだ。



『ベスト8おめでとう。

負けたのは悔しいけれど、これで【下克上】が出来るわね』


『うん、ありがとう!宮崎さんのおかげだよ!

それに、宮崎さんこそ優勝おめでとう!』



互いの健闘を讃える僕達だが。

本当に喜ぶのはまだ早い。


宮崎さんが言う通り、僕の【大会】はまだ終わっていない。


まだ僕にはやらなければならない事があるのだ。



僕の最終目標である意劔は。

そのまま“大学生・男子の部”で優勝を納めた。


会場から贈られるまばらな拍手が、彼がどんな経緯でそのトロフィーを手にしたかを僕に痛感させる。


事実、今日、彼が取られた札は0枚。


相変わらず、彼がこの大会に参加してから今の今まで、彼から札を取れた人は居ない。


つまり、ベストタイミングという事なのだ。



《下克上の受付をします。

優勝者の方は控室に。

各種目ベスト8の人は、受付までお願いします》



『ほら、始まったわ。相内君』


『OK。 言って来るよ!』



颯爽と受付へ向かう僕を出迎えてくれたのは多くのモヒカン達。

宮崎さんの一言で、色んな意味で一躍時の人となった僕。

その動向は、今、多くの注目を浴びている。


あまりのプレッシャーにゲロが出そうになったが、そうも言ってられない。

何とか受付に着き、係員に下克上を申請をする。



『これはこれは、相内さん。下克上ですか?』


『はい』



係員の人まで毒のある言い方をする。

煽る様な口ぶりで紹介された為か、周りがざわついている気がする。

これはアゴが尖りそうだ。



『では、下克上をする相手の名前をお願いします』


『はい、意劔 賢一さんでお願いします』



その名を口にした途端。

ざわめきは大きくなり、ギャラリーが僕に声をかける。



『あんた本当に意劔に挑むのか?』


『おい!正気か?』


『え? ええ……』



若干パニックになる僕に。

係員の人までも聞き直す。



『相内さん、変更はまだ出来ますよ?』


『いえ、変更はしません。

僕は意劔 賢一に下克上を申し込みます』



その瞬間、ざわめきは歓声に変わった。

それまで敵意剥き出しのモヒカンが。

まるで勇者を見送る村人達の目つきに変わった。

一体、何がどうしたって言うんだ?



『分かりました!相内さんの下克上の申し込み、受理致します!』



『『『オォーーーー!!!』』』



ちょ、え? 何?

温度差がヤバい、着いて行けないよ……


咄嗟に、一番最初に声をかけて来たギャラリーのおっちゃんに事情を聞く事にした僕は

数分後、僕がしでかした事の重大さを思い知る事となる。





〜文学乙女〜

〜嘘 カラ 出タ 実〜





【下克上ルール】

これはその年の優勝者に対し。

ベスト8に残った人が競技を申し込めるシステム。

申し込まれた方は、自分に下克上を仕掛けた人を抽選で選び競技する。


この下克上ルール最大のポイントが。

優勝トロフィーは【勝った方に贈られる】というまさに下克上なルール。


そのパフォーマンス性の高さから、大会のメインイベントと称されているぐらい、極めて面白みのあるルールだ。


事実、この下克上によって多くのドラマや多くの感動が生まれている。

が、近年ある男のせいで【大学生・男子の部】が低迷気味となっている。

その男の名は【意劔 賢一】

その完膚無きまでに相手を駆逐するスタイルにより、彼がこの大会に参加して以来、彼に下克上をする者は居ない。


by おっちゃんpedia



つまり、僕がした事は。

天下の徳川家康に対し、一人の農民がクワで立ち向かう様な物。


歴史的な大事なのだ。



『宮崎さんの彼氏さん!頑張って!!』


『意劔を倒してくれよ!』


『相内さん!応援してるよ!』



一国一城の姫君【宮崎姫】を意中に収めたうつけ者の農民は。

いつの間にか。

圧倒的な武力で国を支配する【意劔政権】に対し、不満を持つ民衆を代表とする一揆の立役者になってしまったのだ……



これは別の意味でプレッシャーがヤバい。

胃が…… 胃が痛い。

勝たなければいけない流れになってるぞ!!



《さあやって参りましたメインイベント!

【下克上】の時間です!

それでは優勝者の方はステージにどうぞ!》



会場に入っても、その痛みは消える事は無い。


こんな時は現実逃避だ!!


ああ、宮崎さん綺麗だな……



《さあ、見事殿堂入りを果たした宮崎 香菜里さん!

対する下克上の数は何と62人!

さあ宮崎さんは誰の下克上を受けるのか!?

このボックスから一枚どうぞ!》



下克上でも大人気だなー




ん?抽選?



司会者がどこからともなく取り出した四角い箱に目が釘付けになる。



って事は、僕が選ばれない確立だってあるって事だよな?



《今回、宮崎さんへの下克上は、河島 渚さんだーー!!

ステージにどうぞ!!》



おっちゃん曰く、意劔に下克上した人は居ないって話だけど。

万が一って可能性もある……



《続いては大学生・男子の部において最強の男!意劔 賢一!

さあ、今回は彼に下克上をする無謀なチャレンジャーは居るのか?それとも居ないのか!?》



よし!来た!!

司会者よ!空気読むな!

別の奴を呼べ!!!頼む!!



《何と、今、何かと話題の男!

世界一の幸せ者!!

相内 拓馬が挑戦だーー!!!!》



名指しかよ!!!!

ボックスはどこだ!!

ボックスを出せ司会者ァ!!!



名前を呼ばれた他の選手同様に、ステージへと案内される。


逃げ場は無い。


帰り道も無い。


心はまさにギロチンへ向かう咎人。




『まさか君とこんな形で一戦交えるとはね……

手加減はしないよ?覚悟してね』



ステージ上で、僕にしか分からない声で意劔から宣戦布告を受ける。

出来れば手加減して下さい。



『お手柔らかにお願いします……』



顔合わせでの成績は0-10で意劔リードだ。

望んでいた事とは言え、これはかなり悪い出だしだ……



しかもあろう事か、若年齢順で下克上は行われる為。

意劔と僕との競技はいわゆる大トリ。

一番最後に行われる。


気分は死刑執行を待つ囚人だ。

不安と不安と不安と昼に食べたハンバーガーが胸に溢れて来る。


一度括った腹は、思いも寄らぬ受け取られ方をしたせいで、もう一度緩んでしまったらしい。


そんな僕の気持ちとは梅雨知らず。


下克上は順調に進んで行く。


僕は逃げ出したい気持ちを抑えて観客席に居た。


あーこんなに大事になるならやめておけば良かった。


いや本当、最初は軽いノリだったのよ。


マジで。


その、魔が刺したって言うか……


ここまで大事になるなんて……



苦悶の表情を浮かべる僕に、話し掛けて来たのは意外な人物だった。



『拓馬、何やってんのよ』


『姉ちゃん? 何で?バイトは?』


『早めに終わったからね。

可愛い弟のやられっぷりを見に来た。

で、実際どうなのよ』


『いや〜その〜 ハハハハハ……』



こんな時に駆け付けてくれる優しい姉と思ったが、やっぱりいつもの姉ちゃんだった。


安心して下さい。

姉ちゃんが望む物はもうすぐ見れますよ。



『へぇ、やれば出来るじゃん!』


『でもねぇ……

まさかこんな形になるなんて思ってもなかったからさ』


『あんたねぇ……』



話の途中だったけれど。

いよいよやって来た宮崎さんの出番に、姉ちゃんも目を奪われた。

その出で立ちは、姉の小言を封じ込める程の魅力を秘めているのだ。



『うわ〜香菜里ちゃん綺麗ねー

お人形さんみたいじゃない』


『そうだね……』


『あんな彼女と付き合えて、あんたは幸せ者だね』


『そうだね……』



生返事を繰り返す僕に対し。

姉ちゃんは思いっきり太ももを抓った。

鋭い痛みで、身体がビクンッと跳ね上がる。



『あんたねー

何をそんなに弱気になってんのこの馬鹿』


『いやさー』


『言い訳はすんな!!

あのね…… 香菜里ちゃんがどういう気持ちであんたとこの大会に出たか分かる?』


『そんなん知らないよ……』



煮え切らない僕に向けて、溜息を放ち。

姉の顔が真面目な表情になる。

カウンセリングモードだ。



『乙女の秘密をバラす形になるなら言いたく無かったけど。


この大会を一番楽しみにしてたのは香菜里ちゃんよ?


あんたと一緒に大会に出れるって喜んで居たのは香菜里ちゃんよ?


それを負けるのが、どーとか。

舞台がどーとか、小さいよ!!』



それはまさに衝撃だった……


とてつもなく巨大なハンマーで頭をカチ割られたかの様な気分だった……


宮崎さんは、僕を……


僕との大会を……


これまでの記憶がフラッシュバックされる。


最後まで、僕に付き合ってくれたのは誰か?

最後まで、僕を諦めさせないでくれたのは誰か?

最後まで、僕の応援をしてくれたのは誰か?

最後まで、僕の勝利を信じて居たのは誰か?


そして今。

最後まで、僕を待っていてくれているのは誰か?


咄嗟に折鶴を取り出す。


答えは一つしか無かった……




『お?終わったみたいね。

香菜里ちゃんカッコ良かったわね。


ほら、そろそろあんたの試合でしょ?

つまんない事言ってないで、とっとと行きなさい!』




そうだ……


そうだよね!!


うん!!僕は馬鹿だった!!!


いつだって姉ちゃんは大事な事を思い出させてくれる。


OK!! 任せて!!!


何だかひどく遠回りをしていた気がする。

“答え”は最初から出ていたのに、色んな物を巻き込んでいる内に大きくなって、中の答えが見え難くなってしまった。


やがてそれは更に大きくなり。

その重さに耐えれず、僕は支えるのを辞めようとしていたのだ……


でも結局、その“答え”に色んな物をデコレーションしていたのは紛れもない自分なのだ。



ならそんな物、取ってしまえば良い。


他人の期待や、周りの人の意見。

自分の思い込み、不安感。


そんなもの、全部全部、何の意味も無い物なのだ!!


失った闘志を取り戻し。

僕は再び、戦闘モードに突入する。



《お待たせしました!!

今大会最後のイベントを行います!!!

私もこれを言う日が遂に来たんですね!!

【大学生・男子の部、下克上】を只今より行います!》



歓声が上がる、凄い歓声だ。

多分、今日で一番の歓声だと思う。


不思議と気分が良い。

まるで全部応援の様に聞こえる。



《今回、優勝者、意劔賢一に挑むのは、宮崎香菜里さんの彼氏!

相内拓馬だ!!》



……それでもやっぱりその紹介は辞めて欲しかった!

スゲー恥ずかしい!!



照れながらも会場に入る。

特設ステージの周りには、優勝者が並んで居て。

トロフィーを持った宮崎さんもそこに居た。

勿論、意劔賢一も……




『相内君、是非いい勝負をしよう』



畳を挟んで向こう側から。

もう何回も差し向けられた手を、今までで一番の力で握り。


僕は答える。



『今日で封鎖ですよ、工場長』




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ