呼び出しです。
その後の数日、カールは普通に王都観光していた。レーオンハルトとは下町で時々あって、彼おすすめのの名所を教えてもらった。だいたいが歴史的な建造物や、芸術的な建物が多かったので、カールも楽しめた。そして、だいたい下町の端から端まで、危なくない場所は歩いた感じだろうか。美味しそうなお店も覚えたし、前にフェルディナントとルッツに教えてもらった人達にも挨拶をした。
ヴォーヌングの食堂では相変わらず視線を感じるが、今の所は何ともない感じだった。そう、”だった”のだ。今日は朝食後にコンシェルジュに呼び止められて渡されたのは王子からのお手紙だった。
読めば、この手紙を受け取った時点で王宮の自身のサロンに来い、という内容で、忘れずにブローチを着けてともある。
「明日で良いかなー。って無理だよね」
大きなため息をつきながら、王宮に行ける格好をするって言っても、前回行った時と同じだ。それに、ハイリンヒ王子から貰ったブローチが胸元に追加されている。
王宮に着けば、カールが身につけたブローチを見て、騎士がサロンへと直に案内された。そして扉をあけて中に入れば、既にハイリンヒ王子と、ジェームズ、ペーターがいた。
そして開口一番にハイリンヒが怒った。
「おい、どうして今まで来なかったんだ、一週間だぞ!」
会って早々言われ、カールはぽかんとした。
「えっと?」
カールは一介の代理人だ、確かに王子からブローチは貰ったが、貰ったからといって用が無いのに伺って良いものなのかなんて判断出来る訳がなかったのもあったが、すっかり忘れていたというのもあった。何より身分が違うし、カールは王宮のルールなんてほぼ知らない。
「レオはお前と城下町で会っているというし!カールに目をつけたのも、友人になったのも俺が先なのに!」
そう、怒るハイリンヒに、カールはどうして良いか分からなかった。何よりも現在の王子の格好は、貴族の格好でないのも気になったが、とりあえず謝る事にした。
「えー・・・申し訳ありません。」
何が起きているのかさっぱりな様子のカールにジェームズは苦笑し、ペーターは肩を竦めるだけだ。
「まぁまぁ、ハイリンヒ。カールは王都が初めてなんだからしょうがないだろ?いろいろ観光してたらしいじゃないか。」
そう、フォローしたのはジェームズだ。
「だが、俺のサロンのメンバーになったんだぞ!!他の貴族共は呼んでも居ないのに来ようとするくらいの!」
「まぁまぁ、ハイリンヒ王子。でもさ、いきなり王子のサロンに出入りしていいって言われたって、一介の代理人じゃ気後れするって、僕だって気後れしたしね。」
そう行ったのは、ペーターだ、ハイリンヒ王子の腕を捕まえて言った。
「お前は、普通に次の日も来ただろうが。」
頭一つ分小さいペーターを見下ろして怒鳴るハイリンヒに、ペーターは苦笑しながら言い返した。
「それは、兄に嬉々として連れてかれたから来れただけです。僕だって、兄が居なかったらカールと同じでしたよ?」
「む・・・そうなのか?」
「そうだろうな。」
ジェームズも頷いたので、カールもとりあえず頷いといた。
「だがな、お前は、ロイヤルズのメンバーなんだぞ。だいたい、レオだけと遊ぶなんて狡いじゃないか!」
空いている右手で指差してきたハイリンヒにカールは、また雲行きが怪しいぞっと思った。
「えっと、遊ぶというよりは、王都の名所を・・・」
「ということで!」
ハイリンヒは、パンと手を叩いてカールの言葉を遮った。
「王子?!」
「俺も行くぞ!」
「えぇええ?!待って下さい。意味が分からないです。」
カールはハイリンヒの両脇に居る二人を見たが、二人とも首を横に振った。
「俺は止めたよ。止めたんだよ?本当は君が居るヴォーヌングに行くっていうのをちゃんと阻止したんだ、偉いだろ?」
「あ、ありがとうございます。」
ジェームズの言葉にカールは冷や汗をかいた。王子がヴォーヌングになんて来たら大騒ぎだ。
「服は僕が選んだから大丈夫。文句は言われたけど。」
「えー・・・本気ですか?」
「本気だ!俺も城下町に行く!案内しろ!」
「無理です!」
そう、一通り王都探検もとい、散策をしたといってもハイリンヒ王子が好みも分からないし、何より何処が有名なのかも分かっていない。というより、自分より王都はハイリンヒ王子が詳しいのでは?っと思いながらカールは困った顔をした。
「私は、代理人ですよ。王都案内はレオの方が良いかと。」
そう言うとハイリンヒはむっとした顔で言った。
「ハインツだ!」
「え??」
「俺の愛称だ。レオだけ愛称を呼でいるんだろう、だから俺も愛称で呼べ。それと、レオは抜け駆けしたから抜きだ!!」
まさかの王子の愛称呼びに視線を彷徨わせれば、二人とも大きなため息をつくだけで、ジェームズには呼んでやれっというような目線を投げられてしまった。
「ハインツ様」
「・・・」
何かハイリンヒが言う前に、ジェームズが言った。
「彼は代理人だ、レオとは違うし、それ以上は困らせるだけだぞ?」
「うっ・・・分かった」
「えっと・・・本当に行くですか?」
「行く!カールが乗って来た馬車に乗るぞ」
そう言って、カールの腕を取って歩きはじめた。ジェームズとピーターはその後に、その後ろに近衛達がぞろぞろついてきている。そして、カールとハイリンヒ、そしてジェームズとピーターと馬車に乗り込んで、向かったのは、王都内にある、貴族ではない一般のお屋敷だった、そこにはジークハルトが待っていた。
「やぁ、やっぱり来たね。」
ジークハルトは笑顔で迎えた。どうやら、これまでの事を粗方知っているようだ。というより、この家はジークハルトの家のようだ。
「じゃー着替えは用意してあるから」
そう言って案内された部屋には3人分の普通の服が並べられていた。
「これは、僕もってことだよね。」
カールはため息をついた。
「そう言う事、ハインツが珍しく我が侭を言うんだ。諦めろ」
ジェームズが楽しそうに耳打ちした。
「早く着替えろ!!時間は有限だぞ!」
ハイリンヒは楽しげに急かしてくる、その様子にカールもしょうがないなぁっと思ってしまった。
カールはため息をついて、ジャケットとワイシャツを脱いだ。
「なんだ、その服?」
ハイリンヒは不思議そうにカールを見た。カールはワイシャツの下に領内生産のインナーを着ていたのを思い出し言った。
「これは、我が領内のインナーです。筋肉補助的な役割と、防具的な意味もありますね。」
「へー」
カールは気にせずに、その上からワイシャツを着た。他の人達は素肌の上からワイシャツだ。
「ごわごわする」
嫌そうに、そう言ったのはペーターだ。
「これでも、庶民からしたら良い生地なんだよ?」
笑いながら、ジークハルトが言った。
かくして、5人で王都を探索する事になり、カールはホッとした。ジークハルトが案内してくれる事になったのだ。
とりあえず、観光名所と言われる、2番目に大きな教会から、お店屋さんが並ぶ大通り、そして人気店のカフェやに行く事がジークハルトから告げられた。そして、近衛の人達も私服に着替え、前後は慣れた場所で警護するらしい。
確かに、お忍びとはいえ王子を連れていくのだから、計画無しに彼方此方とは行かないのだろうとカールは思いながらも、ハイリンヒの楽しそうな表情に、思わず頬が緩んだ。
「楽しそうですね。ハインツ様の方が王都をご存知じゃないんですか?」
カールはふと思っていた疑問を告げてみた。
「地図は頭に入ってるが、実際に行った事がある場所なんて、劇場とか大聖堂くらいだ。王宮の外に出るのには許可が必要だし、近衛がぞろぞろ居て楽しめないだろ?」
「そうなんですか?」
カールは、意外だっと思った。
「そうだよ。今回許可されたのだってね」
ピーターが言うと、その後をジェームズが続けた。
「君が居るからさ。アムストラ辺境伯の代理人なら何かあった時に対処出来るってさ」
苦笑しながら言われた言葉に、カールは顔が引きつった。どうしてそう言う事になったのか、いくらアムストラ辺境伯出身で代理人だと言っても、領内の騎士の様にカールは強くない何より実践経験は無いに等しいのだ。
「そうだぞ、俺はジークハルトと友になった時にも行こうとしたがな、父にバレて一週間反省部屋に軟禁だった。」
「ははは、そんな事もあったな!!あの時は、ハインツが一人で抜け出そうとしたからだろ」
「そうだが。なんで抜け出すルートがバレたんだろうか」
「ハインツって時々無謀な事するよね。」
そう言いながら、教会にたどり着いた。ここは貴族や裕福な商人等が式を挙げられる教会だ。王族は大聖堂のみで、入るのも貴族のみだがこっちの教会は普段は一般に解放されているので入りやすい。
ハイリンヒは楽しげにジークハルトから名所や謂れを聞きながら廻った、その間ずっとカールの腕を掴んで放さない。
困ってジェームズを見るも、肩を竦めるだけだし、ピーターは笑っているだけだ。教会を出ると、そのまま通りをぶらぶら歩きながら、大通りへと向かった。途中、道にはみ出してパラソルを並べているお店をみたりしていると、美味しいそうな匂いをさせている露天を見つけた。
「アレは何だ?食べてみたい」
ハイリンヒが指差したのは、ホットドックが売られている店だった。皆手に持って齧り付いている。だが、私服に着替えている近衛に無言で首を横に振られ、残念そうに。
「そうか」
と呟くだけで、やめてしまった。
「食べなくても良いんですか?」
「カール、もしもここでハイツお腹を壊せば、処罰されるのは近衛と店主達だ。」
ジェームズの言葉に、カールは首をかしげた。
「お腹を壊す?」
「ハイツは、これでも高貴な方だからね。食べ物の衛生面が違うんだ、慣れない食べ物はお腹を壊すんだよ。僕も昔やった事ある。皆平気なのに僕だけ壊したんだ」
舌をぺろっとだしてピーターはいった。カールは何とも言えない思いがした。
「やるとしたら、別の機会だね」
ジェームズが苦笑しながらも、先に進んで行く。
お店を素見しながら歩いて行けば、あっという間に大通りだ。馬車が行き交い、物売りが歩き回っている。
「へーこういう風に見えるのか」
ハイリンヒは感嘆の声を上げた。
「人が凄いな。いつも馬車の上からしか見た事が無いからな〜」
そう言ったのはジェームズ。それに頷いたのはピーターだ。迷子にならない様にピーターはジェームズの腕にしがみついている。
「ここは、いつも凄いですね。」
カールが言えば、前を歩いているジークハルトが振り返って言った。
「ここは交通の要でもあるからね!西と東の大門に繋がっているから、交通量が多いのさ、そして観光客もね」
カフェ屋は大通りの途中にあるエメラルド色の外壁に塗装されているお洒落なお店だった。中に入ればチェンバロの音が流れている。中に入れば注目を浴びてしまった。淑女の皆さんは何故か、ヒソヒソ声だし、頬を赤らめてたりしている。
「ん〜これは、バレたかな?」
ジェームズの呟きに、ハイリンヒは眉間に皺を寄せた。
「今日は、サービスする気はないんだが」
「個室にして貰いましょう」
ジークハルトが素早く店員に声をかけて、2階の個室へと直に移動になった。カールは初めてお店で個室というのを体験している。思わずキョロキョロしてしまうのも致し方ない。店内も外観と同じ色で作られているが、壁や柱一つにとっても細かい装飾がされているのだ。アクセントとして金の唐草模様が入っていたり、花々があしらわれている。
「カール、廻り見過ぎだよ?」
ペーターにとうとう言われてしまった。
「だって、カフェ屋に個室があるなんて、知らなかったし、何より内装が凄いです!」
「でしょ、ここはヴィンチ男爵の支援している建築士が手がけたカフェですからね。内装のこだわりが凄いですよ。」
ジークハルトが言ったヴィンチ男爵は、レーオンハルトの家だ。
「ヴィンチ男爵家ってことは、レオの家ですよね?建造物に造形が深い家柄なんですか?」
カールが聞けば、周りの人達は頷いた。
「そうだな、3代くらい前は宮廷お抱えの建築士だったらしい。当時の王の要望で、狩猟館を建てたんだが、それが余りにも素晴らしく、喜んだ王が爵位を与えたんだ。それからは、建築士というより、男爵という立場から、建築士の支援や技術制度に尽力する貴族として現在まで繁栄しているんだ。」
ハイリンヒが説明してくれたが、どうりでレーオンハルトがあんなに建築が好きなのか分かった気がした。
「血筋だったんですね。」
「そうなんだ。あいつは天才だ。」
ハイリンヒは嬉しそうに答えた。




