王宮の貴公子達
カールは何度も姿見の前で確認をした。
今日はとうとう王宮へ出仕する日だ。昨日のうちにコンシェルジュには伝えてあるため、11時に用意された馬車に乗って王宮に行くのだ。
朝食は緊張のあまり、あまり喉を通らなかったが無理矢理詰め込んだ。じゃないと、王様の報告の後は、舞踏会が開かれる。もちろんお酒もあり、朝まで続くのだ。
「ベルト良し、タイもよし、ブローチは、辺境伯代理人のブローチと、魔法師見習い。曲がってないよね。あとは、巾着袋もよし。小銭と招待状、報告書と。あっ、護身用の指輪。あと剣帯」
メモを再度確認して身につけながら。カールはドキドキしっぱなしだった。
「後なんだろう。あー懐中時計だ。そうだよね時間に気をつけないと。」
メモには今日の大体のスケジュールが書いてある。毎年同じ流れらしいのだ。
王宮に着いたら、剣帯を受付で預け、控え室で王様に呼ばれるまで待つ、呼ばれたら報告書を渡し、聞かれた事に対して答える。退出の指示が出たら退出し、夕方の舞踏会までの間を王宮の庭やサロンで時間をつぶし、時間になったら広間に集まって、再度王様にご挨拶をしてから舞踏会が始まる。
長い。そして面倒だ。
用意された馬車に乗り、とうとう王城へとたどり着けば、馬車ごと入れるエントランスに思わず口が開いてしまった。扉を開けられて、挨拶と共に招待状を渡し案内に沿って階段を登り、踊り場で曲がって見上げれば、そこには大きな天井のフレスコ画が描かれていた。天へと舞う神とそれに連なる初代王と神話が描かれている。
「凄い、天上への階段みたいだ」
そう呟きながらも、案内人にくっついて昇って行く。いくつもの間を通り過ぎ、王がいる謁見室へとたどり着けば、心臓がばくばくいっていた。
「アムストラ辺境伯代理、カール」
大きな声で名を呼ばれ、中に入れば3段程高い場所に王様と王妃様が座っていた。その隣に第一王子であるハイリンヒ王子が座っている、その3人を囲う様に、近衛が槍を立てている。
跪き、面を上げよっという言葉と共に顔を上げれば、王冠を乗せた王様と赤みの強い紫の瞳と目があった。王様と王子は同じアッシュブロンドで、王妃様は金髪だ。
カールの横に盆をもった従者がきて盆を差し出した。ここに書類を置かなくてはならない、慌ててカールはその上に起いた。
それを確認すると従者が王の元へと持って行き書類を渡した。それを一読してから王様は辺境伯の容態や現在の領内の様子を2、3質問されたが緊張しながら答えたせいか、たどたどしい答えになってしまったし、何より部屋から出た後は頭が真っ白になっていた。
「き、緊張した。胃が痛い。あ、やばい、なんて報告書を書こう。ちゃんと謁見の内容覚えてない」
大きなため息と共に案内されるままに、王宮のサロンに到着した。まだ人は疎らだ。ほっと息をつきつつ部屋付きの侍女にお茶を頼んで椅子に座った。
「こんにちは」
いきなり声をかけられ驚いて顔を上げれば、恰幅の良い紳士がカップを片手に持ってたっていた。
「こ、こんにちは」
「横良いかな?」
そう言いながらも、すでに座り込んでソファーの前にある机にカップを置いた。
「あの」
「君は代理人だろ?その紋章は、アムストラ辺境伯か。彼は元気にしているかい?」
「は、はい。あの、失礼ですがお名前を伺っても良いでしょうか。私は代理人を務めさせて頂いてるカールと申します。若輩者で、お目汚しになるかとおもいますが」
「いやいや、こちらこそ失礼。名乗るのを忘れていたよ。私は、アヒム・グラーフ・フォン・モルゲンドナーよろしく」
そう言って手を差し出されたのでカールは慌てて握手をした。
そのとき、そっと紅茶が侍女の手に寄って机に置かれた。とりあえず水分補給だっと思いカールは失礼にならない程度に飲んだ。グラーフという事は伯爵の位だ、モルゲンドナ伯爵といえば、宝石が出る山を所有していて、金持ちだが色々噂のある貴族のはずだ。有り余る程お金があるのに、お金もうけには目がなく、また美しいものが大好きだと、貴族名鑑で教えられた時に若くて美しい人であれば男女とも関係なく手をつけるというのを聞かされた事を思い出し、カールは焦った。
やばい、これは狙われてるのか?!っと周りを見渡せば、皆目をそらしながらも此方を観察している。
「君は王宮に来るのは初めてだろ?どうだろう、私が案内しようか」
「いえいえ!そんな、モルゲンドナ伯爵の手を煩わせるなんてとんでもない!」
「まぁまぁ、そんな事はいわずに、私は結構顔が広いだよ。姪が宰相の奥さんでね。」
バックが凄いぞっと脅しにきているっと思いながらも、そっとカールの膝をなで回しすモルゲンドナにカールは顔が引きつった。振り払いたいが、こっちは一介の代理人、辺境伯の方が位が高いが自分は使用人にすぎない、まずいぞっと一気に紅茶を煽ると、約束がありますのでっと告げて急いで立ち上がった。
「そうかい?残念だ。いつでも頼ってくれ」
そう言いながらひらひらと手を振られたが、カールは誰が頼るかっと心の中で毒付きながら笑顔でサロンを退出した。
「あ、危なかった。」
とりあえず、このサロンに戻るのは危険だ、確か庭園にもいけるはずなので、そっちに移動する事にしようと思い、丁度出て来た侍女に案内をお願いした。
くねくねと角を曲がったあと、階段を下りた先に庭園へとたどり着いた。ここら辺にもすでにご婦人方が散歩していたり、男性は椅子に座って談笑していた。
歩き回っていれば、若い貴族の青年達の集団が歩いて行くのが見えた。
その様子をご婦人方がため息と共に見つめていたため、カールも注目した。
「見て!!ロイヤルズの皆さんよ。」
「あぁ〜今日も麗しいわ」
「ジェームズ様は今日も一段とかっこいいわ、あのエメラルドの瞳に見つめられたい!」
「あら、フィリップ様も素敵よ」
「ジークハルト様の方が素敵よ!あの黒髪とミステリアスな赤茶の瞳に見つめられたら、もう〜」
「私はやっぱり殿下が一番素敵だと思うわ。」
「今、殿下が公務でいらっしゃらないから良いの」
「今日はペーター様がいらっしゃらないわ。あの可愛らしい顔が見られると思ったのに」
「彼はまだ14歳よ、こういう場にはまだ来られないわ。」
「あら、残念」
「それにしても、取り巻きの方々が邪魔よね」
「本当よ、麗しいロイヤルズの皆さんの顔がよく見えないわ」
「早く舞踏会にならないかしら、揃った姿が見たいわ」
「本当よね、今の方々だけでも素晴らしいけど」
「それよりもダンスでしょ」
「それもそうね。誘われる様にがんばんなきゃ」
カールはご婦人方の話を木の陰で聞きながら、なんとなく名を知る事が出来た。どうやら真ん中のイケメン数人がロイヤルズと言われるメンバーでその周りは取り巻きのようだ。
カールが居る事に気づいていないご婦人方は、熱い視線を彼らに送っているが、当の本人達は楽しそうに男達だけで会話をし、どうやら室内に戻るようだ。
その後に続く様に、ご婦人方も後を追いかける。
さて、自分はどうしようかなっと噴水へと近づいてみた。女神が抱える壷から吹き出す水を眺めながら、辺境伯へどのような情報を調査しようか悩んでいた。
じゃばじゃばと水が流れ落ちるのを眺めていたら。また声をかけられてしまった。
「こんにちは、君は初めて見るね」
振り返れば、背の高い男性が立っていた。
「こんにちは。私はアムストラ辺境伯の代理人を勤めます、カールと申します。」
にっこりと微笑んで答えれば、ほうっと探るような目をされた。
「若いね。あそこは人手がいつも足りないが、こんな若い者を代理人するなんて。まーあんな荒くれ者の中から選ぶよりはましかな」
全身くまなく見られながら言われた言葉に、カールは辺境伯と仲が悪いのかっと即座に思った。名乗ったのに、向こうが名乗らないし、さてどうしようかと悩んでいると、今度は同情的な言葉をかけられた。
「・・・君はもう謁見は済んだのかな?」
「はい、滞りなく」
「そうかい、ふむ。辺境伯あたりはかなり緊迫していると聞くがどうだろうか、代理人をよこす事はままあったが、君はその中で一番若い」
「そうですね。ですが勉強の為とアムストラ様が送り出して下さったんです。やはり、領内では学べる事には限りがありますから、実際に王都に行き、ちゃんと実地で学んだ方が良いと」
にっこりと微笑みながら言えば、男性は方眉だけ器用にあげ、なるほどっと呟いた。
「それにしても、もう一人付けた方が良いだろう。君は若いのに苦労が多そうだ。」
「痛み入ります」
「彼は格式張った場所を嫌がるからね。君はどうだい?慣れたかな?」
「まだ、始まったばかりですから、知らない事ばかりで驚いております。」
「ふむ、そうか。辺境伯によろしくと伝えといてくれ。カール君」
そう言って去って行った。
なんだったんだろうっと思いながらも、ちらりと見えたシーリングの指輪の柄を見た。船の形と大きなGのマークの様に見えた。後で調べようっと心の中でメモをしながら、その後も庭園を散策したが、似たような感じで他の貴族の人に声をかけられ、疲れたので室内に戻った。
軽く昼食をサロンで頂き、時間はそろそろ舞踏会だ。
ぞろぞろと、昼間よりも豪華に着飾った御夫人を連れながら貴族の男性は歩いて行く。カールもその列に並んで、名を呼ばれながら入って行けば、そこは広い舞踏会ホール。シャンデリアの灯りで照らされた、豪華絢爛な場所だった。
楽団による演奏が鳴り響きながら、様々な人達の会話が飛び交う。
階段を上がった上には王様と王妃様が座り、その横に王子が立っていた。
順番に挨拶をしてまたホールに戻れば、皆ダンスを踊りはじめているが、カールは既に人酔いを仕始めていた。こんなキラキラした場所に来るのは初めてだし、優雅にダンスなんて踊れるはずも無い。
困ったぞっと思いながら隣の大きな扉が開け放たれている場所に目を向ければ、立食用の食事が並んでいた。まだそこには人が少ないのを幸いと思い、いそいそと移動し腹ごしらえをする事にした。
「うん。美味しい」
ソースが凝っているとか、フルーツは凄い甘味が強いとか思いながら、一通り食べれば、今度はワインに手を伸ばした。
この国では15歳からワインが飲める。といってもカールは甘いのがすきなので白ワインだ。
「う〜美味しい」
今日はもう、このくらいで良いかな?っと心の中で勝手に思いながら、見つけた人目につかないソファに腰を落ち着かせた。
「僕の仕事はもう終わったし。後は適当に過ごして帰ろう」
うんうんっと一人頷きながら、舞踏会に流れる音楽を聴きながら目を軽く瞑った。
「始めまして、見ない顔だけど何処の貴族かな?」




