王都探索
目覚めて最初に思ったのは、この天井どこだ?っとカールは寝ぼけた頭でしばし考えて思い出した。
「そうだ、王都だ!」
がばっと起き上がり、カールはいそいそと窓のカーテンを開けた。見えるのは中庭だ。朝日を浴びてキラキラと木々や花々が輝いている。
ニンマリ微笑んで、カールはいそいそとタンスを開けた。そしてメモを見ながら朝の朝食に行く時に大丈夫な服装を取り出し着替えた。
「貴族って大変だな」
っと呟きながらも、浮かれていた。身だしなみをチェックしてからカールは一階の食堂へと向かった。
入れば、ほんの少しの囁きと食器の微かな音、そして朝の優雅な一時を彩る為に、ハーブの演奏付きだ。流石貴族御用達のヴォーヌング中央のテーブルに果物やスープ、パンやゆで卵に、ソーセージ、そして野菜があった。給仕係の人が控えているが自分で取りに行くスタイル。
カールは早速パンとゆで卵、ソーセージに野菜を取ると、窓際の席に座った。
窓の外は外の大通りが眺められた。道にはこれから仕事に向かう紳士や、荷物を運ぶ行商の姿がみられる。
眺めていると、給仕係がきた。
「コーヒーのおかわりはいかがですか?」
「いただきます」
そう言うと、銀のポットに入れられたコーヒーを注いでくれた。給仕係が持っている盆は細長い大きめの物で、ポットの横には新聞も置かれていた。
「本日の新聞もございますが見られますか?」
「お願いします。」
そう言うと、一部を渡された。
カールは内心ドキドキしながら受け取った。いつも領内で過ごす朝と違うというのもある、領内だと食事は騎士達と一緒だ、とにかく争奪戦だし、騒がしい。国境近くというのもあって、何か合った日の朝はピリピリしている、だがココはもの凄くゆっくりと食事が出来るし心安らぐ感じだった。
ぱさりと広げられた新聞には、隣国とのきな臭い内容の事がほんの少しだけ書かれただけで、後は各貴族の領内の産物の品評会の結果や、何処の貴族と貴族が婚約を発表した、今シーズンの流行のドレス、装飾品、柄などが掲載されていた。
王室の話だと、今年17歳になるハイリンヒ王太子殿下の婚約者が白紙に戻った、という記事が書かれていた。そのせいで、婚約が決まりかけていた家の令嬢達はいったん保留になり王太子の婚約者候補になるべく画策しているらしい。
「令嬢が画策って言うより、父親の貴族達だろ」
っと思わず呟きながら、食後のコーヒーを飲み干した。
王太子の似顔絵が描かれたページとは別の場所には、楽しい話題ではなく、政治的な内容が載っていた、王太子の婚約者が白紙となった原因の記事を読むと、どうやら友好条約として嫁入りしてくるはずだったフォルスヴォーゲル王国の公爵令嬢である王の姪っ子、だがその国自体がシュバイツ王国の傘下に入ってしまったそうだ。
我が国とは一つ国を挟んだ場所にあるフォルスヴォーゲル王国も、一部がシュバイツ王国と隣接しており、シュバイツ王国に対して敵対する国同士、支援をする関係を築いている最中だったが、内部による裏切り者と反乱者によって傘下に入ってしまったようだ。
王族のほとんどは死刑され、王の叔父が実権を握っているようだった。
カールは眉根を寄せて嫌悪感を感じた。
だが、そのかわりシュバイツ王国とは隣接はしていないが我が国と隣接する国は支援を強化してくれているようだ。完全に、我が国が防波堤のような状態だ。ココが崩れれば他国にまで侵略が続くだろう。
ぱさりと、新聞を折り畳むとカールは自室に戻った。
布袋に質素なズボンと上着、そしてブーツを入れ、それを手持ち用の鞄に入れた、もちろん先ほど貰った新聞と護身用の短剣も一緒に入れる。先ほど着ていた服は脱ぎ、昨日着て来た服に着替えれば準備万端。
「では、行きますか」
カールはコンシェルジュに挨拶をした後、辻馬車を捕まえて駅馬車に向かった。駅馬車の前には、移動する人達でごった返している。その間をすり抜けながら、中に入れば、馬車のマークがついた受付と家のマークが着いた受付の横に、剣や兜、縦の絵柄に掘られた柱と扉の前があった、護衛騎士の部屋だ。入り口の兵士に声をかけ、中に入れば、暖炉と大きな窓、そして剣を手入れをするための道具等が置かれた棚に囲まれた中に木の長椅子が置かれ思い思いに休憩している騎士達が居た。その中の騎士の一人がカールを見て嬉しそうに笑った。
「おう、チャールズ。久しぶりだな」
厳つい騎士のおじさんがカールに声をかけた。
「お久しぶりです。フェルスさん、今はカールですよ」
「おっと、そうだったな」
このフェルスという騎士は、足を痛めて前線を退いた騎士だ、今は主に駅馬車の警護をして各地を渡っている。カールはこのおじさんから、剣を教えてもらっていた。
「フェルスさんは次はどこに行かれるんですか?今年の冬は戻ってこられるんですか?」
「次は、フロリアン領に行く。冬には帰って来れると思うがな〜」
っとあごひげを撫でながら言った。
「また訓練つけてくださいね」
「おう、戻れたらな。あ、あいつらに会いに来たんだろ、この扉奥が騎士が泊まる宿だ、階段登って3の番号の部屋にいるぞ」
「ありがとうございます。」
カールはお礼を言ってから、騎士の部屋の奥にある扉を開けた。
そこには、黒々とした筋肉質な肌をし、眼帯を付けた男性が小さい受付の中にいた。小さいというより、その男性に取って小さい受付だが。
「おう、坊主。なんのようだ」
「フェルディナントとルッツに会いに来たんです。」
その言葉に方眉だけ器用に上げて、顎で階段をさした。
「ありがとうございます。」
お礼を言いながら、階段を登り、部屋の扉にでかでかと絵の具で描かれた3の部屋をノックした。
「おはようございます。カールです」
「お?ちょっとまってろ」
バタバタとした物音の後、扉が開いた。
「どうした?」
そう言いながら中に案内してもらえば、中は木目が剥き出しのままの狭い部屋だ。そこに2段ベットが置かれ、甲冑や剣が壁に置かれていた。二人はラフな格好で、ブーツとズボン、白いワイシャツのみだ。
「今日は、王都探索をしようと思っていて、あと今日もらった新聞です。」
そう言って鞄から新聞を取り出した。
「おう、ありがとうな。領内にもってくわ。」
そう言ってフェルディナントは受け取った。実は王都の雑誌や、新聞を領内に届けていたのは駅馬車で行き来する騎士達が持って来ていた。といっても仕事の合間に手に入れて持ってくるので、必ず持って帰ってくる訳ではない。
「探索ってどこに行くつもりだ?」
そう聞いて来たのはルッツだ。
「下町の方に行こうかなって。で、今日お二人は休みですよね?」
「ははーん。俺たちに案内しろって魂胆だな」
ルッツはニヤリと笑いながら言った。
「えへへ。」
「初っ端一人で歩き回って危ない目に遭うよりはましだろう、着替えは持って来たのか?」
フェルディナントの言葉に、カールは目を輝かせて鞄から布袋を取り出した。
「もちろん!」
準備いいな〜っというルッツをの言葉を無視してカールが着替えようとするのをフェルディナントは止めた。
「じゃー俺たちがちょっくら朝食と外出申請してくるわ、その間に着替えとけ」
そう言って、二人は部屋を出て行った。
カールは持って来た服とブーツに着替えた。先ほどと違って、くすんだ色のシャツは首元でしっかりとリボンに結び、くたびれた茶色のズボン、使い込んだブーツ。護身用の短剣はズボンを止める腰布の中に隠し入れた。先ほどの貴族っぽい格好からすぐに下町にいそうな少年へと変わった。
しばらくすると、二人は戻って来て、そのまま外出した。
二人が案内してくれたのは、武器や服屋、美味しい屋台の場所、危ない道や地区、抜け道だ。
王宮は西側の小高い丘の上にあり、大きな道に行けば見えるため目印に最適だった。王都は人口が増えて、拡張された都市のため、旧時代の城壁が都市の中に残っている。それは今は貴族エリアと一般市民のエリアに大きく分ける役割を担っている。因にカールが泊まっている場所はその壁の外側だが、壁の入り口に近い場所だ。
今回廻った場所は、現在の壁側の下町だ。細い路地をくねくね歩きながら、カールは頭の中に地図を叩き込んで行く。途中屋台でバケットとリンゴを買い、小休憩として選んだのは橋の上、川の風を受けながら、レンガの欄干に座って町の説明を受けながら昼食にした。
「右手に見える塔があるだろう、あそこら辺は金持ちが住むエリアだ、建物が比較的新しいだろ?手前あたりに来ると治安が良くない。ただし、突き抜けるならここのルートは良いな。」
ルッツが指差したのは川を挟んだ右側のエリアだ。川の先にはそのエリアへと続く橋が架けられている、通るのは馬車が多いようだった。今カール達がいる橋はした町の為、ロバや歩行者が多い。
「そうなの?」
「おう、中央に戻りたかったら、この橋を渡れば良い、外に出たかったら、この川沿いに沿って行けば出れる」
「・・・それって門を通らないってことだよね?」
「逃走ルートだからな」
逃走かぁ〜っとカールは思いながら、一応頭に叩き込んでおく。
「まぁ、あっち側の奥はストリートチルドレンが多いから、お前の逃走には不向きだな。下手したら死ぬぞ」
「分かった、行かない」
朝刊に載っていた内容を思い出し、カールは即座に返答した。もしも敵国の諜報員が忍び込んでいた場合、狙われるのはカールだ。一番邪魔な辺境伯の代理人。それが少年だというだけで、敵は侮るだろうし、取り込もうとするだろう事にカールは気づいてしまった。宮廷に出せる人間が少ないのもそうだが、辺境伯の中でカールは都合が良かったのだろう、敵を油断させるのに、騎士に見えないカールが最適だ。ということは、狙われていると考えて良いだろう。
「はぁあ。浮かれ気分だったのに〜」
そう呟いたカールを見て、フェルディナントは頭をなでた。
「気づいたか。ま、頑張れ。俺たちが王都に居る間はなるべく声をかけろよ。危なそうな誘いがあったら警護に行く。あと、お前には特別なプレゼントもある」
そう言ってカールの手を取って乗せられたのは黒い布袋。中身を見れば宝石が付いた指輪とブローチ。
「お前なら、2時間動きを止められる」
その言葉に、カールは魔法を使うのかっと気づいた。薬は魔法師が作ったものは高級だ、効き目は確実に現れるし、魔力を持っている物が使えば効力は2倍になる、魔力が無い者はその半分。普通の薬剤師が作る薬はゆっくりと効くが、魔法師の薬は即効く。
「これを使わない日が来る事を祈っててよ」
「そうだな」
食べ終われば、あとは二人の買い物に付き合いながら、下町に住んでいる辺境伯出身の人達と顔合わせだ。その意味を考えただけで、カールは胃がキリキリしたが、知り合いが増えたという事だけだっと自分に言い聞かせた。
「そういえば、明日はどうするんだ?」
そう聞いて来たのは、フェルディナントだ。
「ん〜装飾品を買いたいと思ってるんだ。貴族用のは王都で揃えろって辺境伯に言われてたし。」
カールは腕を組みながら、明後日の王宮へ行く為に少し気張らないとなっと考えていた。
「そうか、そしたら明日は迎えに行く。」
フェルディナントの言葉にカールは嬉しそうにお礼を言った。
夕方には、駅馬車に戻り服も着替えて、辻馬車に乗ってヴォーヌングへ戻った。コンシェルジュには夕飯を済ませた事を伝え、部屋に戻ればシャルロッテの姿になり夕飯のために食堂へと移動。部屋ごとに席は決まっているようで案内された場所に部屋の鍵に付いていた装飾と同じマークの紙が置かれていた。周りを見渡せば、席が埋まっている様子に、どうやら宿泊者以外も来ているようだった。
食堂で空いている席には紙がおかれており、それはカールの部屋の鍵に付いていた装飾のマークがついていた。だがそれも、給仕係がとり、後から来た人にその席を使用させた。
先ほど、コンシェルジュに夕飯はいらないと伝えたからだろう。
数人の紳士がカールが使用するはずだった席を気にしているような様子に、シャルロッテは心にとどめておこうと思った。




