二人はチャーリ
大丈夫、大丈夫、そう呟きながら、一人両手を握っていると、上から被せる様に手が握られた。
「大丈夫だよ、チャーリ」
見上げれば自分と同じ顔がいる。それは・・・。
「チャーリ・・・私カールになってたきがするの、戦った感触があるの」
いつも、カールになってる時は傍観者のはずなのに、しっかりと重い剣の感触の記憶がある。
「そうだね。」
「でも、ジークハルトはどうやって防衛したか見えてないわ」
ジークハルトに裏切られた時、腹を刺されたと思った後からぶつりと、思考が切れたて思い出せない。いつもならうっすらとわかるのに、さっぱりわからないのだ。カールは見なくていいものは少しの間視界や音を遮ることはあっても、全てを数時間遮られたのは始めてだった。
「ごめん、無様な姿は見せたくなくって、意識をきっちゃったんだ」
何があったのか話すそぶりもせずに、イタズラがバレたようにチャーリが舌をだした。
「チャーリ」
「ねぇ、チャーリ。僕のふりして、僕の友達にあってよ」
誤魔化すように言われた言葉に、戸惑ってしまう。
「チャーリのふりして?」
「そう、シャルロッテの意識のまま、ハイリンヒに会ってよ」
「そんな事できないよ。ばれちゃうわ」
「大丈夫、できるよ。僕の真似をするんだ」
「チャーリ!」
「そうだな、合言葉は、”僕はカール、フェミニストな青年” さぁ唱えて」
気障ったらしく言ったチャーリに、思わず笑ってしまった。
「もう!」
「一緒に言おうか」
「本気で言うつもり?」
「本気だとも、こう言うのは最初が肝心さ。」
「「僕はカール、フェミニストな青年」」
両手を取られて、くるりと回された。気障ったらしくたったチャーリを真似るように、腰に手を当ててたてば、すとんと何かが落ちて来た気がした。
「頑張って。僕のチャーリ」
鈍い痛みに目が覚めた。
横を見れば、フェルディナントが手を握って椅子に座って眠っていた。手を抜こうとしたらそれだけで目が覚めてしまった。
「ん?起きたか?おはよう」
「おはよう、フェルディナント、ごめんね。」
そういって手をあげれば、空いてる手で頭を撫でられた。
「気にするな。気分はどうだ」
「大丈夫、落ち着いてる。”僕はカール”だよ」
「そうか、食事を持ってくる、身だしなみは整えておけ、誰かが見舞いに来るかもしれないからな」
「わかった」
フェルディナントが出ていくと、カールは一つため息をついた。
「ちゃんと出来てるかな?」
鏡を見れば、カールがうなづいてくれた。
「”僕はカール、フェミニストな青年”」
カールはもう一度呟いて、サラシを巻き直し、首元まで閉まる服を選んで着替えた。ベストは硬めの服に、これである程度隠れる。
しばらくすると、フェルディナントが食事を持って戻って来た。
「さっき、そこで王子とあった。あとで会いたいとさ」
「わかった。ありがとう」
「ルッツは今、駅馬車に一度戻ってる。昼にはこっちに戻ってくるから。」
「うん・・・昨日捕まえた人たちは」
「あぁ・・・雇い主は不明だとさ。一人が首謀者らしき人物の名を吐いたらしいがな」
「じゃー時間の問題?」
「どうかな」
食事を済ませると、カールはベットに戻った。部屋に備え付けの本棚から数冊取り出して、とりとめなく読んでいると、フェルディナントが戻って来た。そのあとしばらくして、ハイリンヒ達が訪ねて来た。
「カール、調子はどうだい?」
椅子をベットの側まで持って来てハイリンヒが訪ねた。ジェームズもペーターとフィリップはソファで休んでいる。
「まぁまぁかな?しばらくは安静だって」
「そうか・・・」
何か言いたげに口を開きかけてハイリンヒはやめてしまった。
「はぁ・・・カール」
ため息をつきながら、ジェームズが立ち上がってカールの元に来た。
「何?」
「僕たちは、君を巻き込んだ。実際に何か起きるかもしれないって思っていたんだ。」
「やめろ、ジェームズ」
「ハイリンヒ、君は王子だ。聞いているだけでいい」
「なっ」
冷たく言い放ったジェームズに、カールも驚いた。
「カール、ジークハルトが犯行に及んだ理由は知っているかい?」
「本人から聞いた内容であれば」
「そうか・・・。あいつは、少し野心があったんだ、それは俺たちも知ってた。向上心と野心は似たようなものだろう?あいつの才能は確かだ。俺たちと友達になることで、あいつの箔がつくなら全然構わなかったし、色々な茶会にも連れ回してた。貴族と同じ装いもさせたし、舞踏会にも連れていった。」
「やめろ、ジェームズ!」
「ハイリンヒは黙ってて。カールは巻き込まれたんだ。なら知る必要がある。」
「これは、俺が招いてしまったことだ!」
二人のやりとりに、カールは思わず口を挟んでしまった。
「違うよ。ハイリンヒ。僕は自分が狙われてるって知ってた。だって、僕はアムストラ辺境伯の代理人だ。領内から出た時から、命を狙われているって。だからわざと一人で来たんだ。」
「カール」
「ハイリンヒも知ってるだろ?アムストラ領は国境線の要だ。堅牢な城壁を作って守っているからこそ、関係者はよく狙われるんだ。あの砦が制圧されたら大変なんだ。」
「だが」
「それに、僕は大丈夫だったでしょ?まーちょっと怪我したけど。ジェームズ、だから誰も悪くない」
「・・・」
「僕も、ジークハルトの様子がおかしいのには気づいてたけど何もできなかった。」
ハイリンヒの手を握って、カールは目を合わせて言った。
「ねぇ、ハイリンヒ。人の心まで分かろうとするのは・・・無理だよ。ある程度は推し量れても、本当の奥底までは誰だって、本人だってわからない。ジークハルトが望むものを例えハイリンヒが用意できても、それは彼が本当に望んだ形で手に入れたかはわからない。」
「カール」
「僕たちは友達だ。友達が間違いを犯したら、怒るのは当たり前だよ。でも、友達である君が謝るのはおかしいよ」
「・・・信じてたんだ・・・信じていたかった。彼はいい奴だから絶対そんなことしないって思いたかった。自分の目で見て友達になった・・・周りが用意した友達じゃない」
「ハイリンヒ・・・」
項を垂れたハイリンヒに思わず、カールは頭を撫でた。
「僕も、昔友達だと思ってた子に裏切られたことがあるよ。一緒に・・・行こうって言ったのに、僕を突き飛ばして・・・置いて行ったんだ。危うく・・・それで死にかけたことがあった。」
「カール」
「うまく言えないけどさ。僕はそう言うことがあったから、人と付き合うのがダメになったことがあったんだ。そんな時に、兵士のお兄さんに言われたんだ。長い人生、裏切られる事や嫌いな奴、信用できない奴とか沢山出会うって。でも、人と繋がっていれば信用できる人も優しくしてくれる人も現れるんだって、だから人と繋がる事をやめるなってね。いろんな人と出会うことで、人生は豊かになるんだってさ。でもそのおかげで、僕はハイリンヒ達に出会えたよ。」
「カール、ありがとう」
「こちらこそ、ありがとう。」
「ハイリンヒ王子、お迎えが来たようですよ」
フェルディナントが静かに告げた。みれば、入り口に近衛達がきていた。
「はぁ、もうそんな時間か。あと5分待ってくれ」
そう言うと近衛達は廊下へと戻っていった。
「どこかに行くの?」
「これから、会議だよ。僕の友達も仲間にいたからね。」
「ジェームズ達も?」
「いや、僕たちは中に入れないんだ。だからここで待ってようかなって思ってる。」
その言葉に、カールは思わずフェルディナントを見た。これからハイリンヒは一人で会議に出なくてはならないのだ、明らかに叩かれに行くために、何か武器になる情報を渡してあげたかった。
「ダメだよ。カール」
「お願いだよ。フェルディナント」
「・・・」
じーっとフェルディナントを見つめ続けるカールに周りはどうしたものかと黙っていると、フェルディナントの方が折れた。
「はぁ、わかったよ。ハイリンヒ王子」
「困った時にだけ使えよ。そうだな、”バラのご婦人のご機嫌はいかがですか”とでも聞いてやれ。そうすれば一人か二人くらい顔を青ざめる奴がいる。」
「いいのか?」
「平気さ。どっちにしろ陛下は既にご存知だし」
「わかった、危なくなったら使わせてもらうよ。流石アムストラ辺境伯の兵士だ、すごいな」
「たまたま知っただけさ。カールも言ってただろ?代理人は結構命が狙われてるんだ。その一環で知っただけだよ」
「なるほど。ありがとう、フェルディナント、カール」
そう言うとハイリンヒは部屋をでていった。
「さて、ハイリンヒが行ったことだし。」
ペーターがボードゲームを取り出して広げた。
「ゲームでもしようよ」
その言葉に、カールもベットから出て、ソファに腰掛けて観戦することにした。
「そういえば、レーオンハルトは?」
その答えにジェームズが答えた。
「彼は、後始末中だよ。今回使った館は、レーオンハルトの家が支援してる建築士でね、最近そっちも怪しくって動いてたんだよ。その建築関係者を捕縛しに行った。」
「そうなのか」
「信用問題に関わるからね。一人借金を抱えてる奴がいて、怪しんでたらしいよ」
「今回も僕は除け者だった。」
頬をプックラ膨らませてペーターがいうと、対戦相手のフィリップが乱雑にペーターの頭を掻きむしりながら言いました。
「当たり前だろ、お前はまだ未成年。危ないことはさせられない。」
「僕だって何か手伝いたいのに」
「大丈夫だよ。僕も何も知らなかった」
「でも、活躍しただろ?」
「それは、結果的にね。でもペーターは剣術で実戦はあるのかな?」
「うっ・・・」
「なら危ないよ。適材適所だよ」
ジェームズがおもむろに口を開いた。
「本当はさ、今日カールをロイヤルズに外すつもりできたんだ。君は貴族じゃない。だから・・・」
「ジェームズ」
「でも、それは違うって気づいた。それに、ハイリンヒが望んでいたのは、友達だ。僕はさ、用意された方の友達なんだよ、それでも仲良くなれた。用意された中でロイヤルズになれたのは、俺と、レーオンハルトだけ、他はご学友のままさ。ペーターとフィリップはハイリンヒ自身が望んだんだ。」
「・・・」
「ジークハルトはその中で、唯一貴族じゃなかった。ハイリンヒにとっては新鮮だったんだよ。貴族社会以外のことを教えてくれる存在。僕たちも楽しかった。彼が、野心を持ってる事くらい分かっていたし、この世界は優しすぎてもダメだから、そのくらい大丈夫だと思ってたんだ。友達になれたと思ってたんだ。」
その言葉に、カールはジークハルトが言っていた言葉を思い出した。
”憐れむってことは、同等じゃないって事だ!!僕を下に見てるんだよ!”
そっか、っとカールは思った。仲良くしているつもりでも、ジークハルトにとって、哀れみの目で与えられた物として感じていたのだ、中途半端に魅せられた世界は彼に手に入らないものを見せつけるだけだったんじゃないだろうか、彼は劣等感が拭えぬまま、それを吐き出すことができないまま、友達になり続けて歪んでしまった。ずる賢い人だったら、平気だったんだろう。でも彼は、根が真面目すぎて自負心がそれらを許せなかったんだ。
「・・・ジェームズ。 優しさが仇となる事もあるんだよ。」
「カール?」
「ジークハルトが・・・彼は僕に地位が欲しいと言っていたけど。きっとそれは、最初の頃に求めていたものと違っているんじゃないかなって、勝手に僕は思うんだ。彼が弾く音楽はとても繊細で優しかったし、楽しかった。・・・なんて言うか、地位がないとダメだと思うような事があったんだと思う。」
思わず呟いてしまった。しかもうまく説明できないままだ。
「ごめん。うまく言えないや」
フィリップが静かに言った。
「いや、そうかもしれないな」
その言葉にペーターが不安そうな顔をしている。
「俺たちは何も分かっていなかった。・・・カールは平気か?」
「僕は平気さ。貴族も平民もどちらの世界も知っているからね」
ジェームズがびっくりして言った。
「そうなのか・・・」
「うん。それに、ジェームズはあえて汚れ役をやろうとしてるのもね」
そういうと、くしゃりと顔をゆがめてジェームズが俯いた。




