ディソナンツ 少年は優しく旋律を紡ぐ
「カール様またご一緒に踊ってくださいな」
そう言って、可愛らしい令嬢がカールの頬に口付けて去って言った。
「えっ」
ダンスの輪から離れた会場の端にいるため、他の人はほとんどダンスに視線を向けられている。今の様子を知る人はいないはずだっと思いながらも、周りを見渡せば誰もカールを見ていない。ほっとしたのもつかの間背中に衝撃を受けた。
「あははは!カール流石だな!」
なんとハイリンヒが笑いながら、カールの背中を何度も叩いた。
「ハイリンヒ様・・・」
笑いながら、カールの肩に腕をかけながら、ハイリンヒは楽しげに耳元で囁いた。
「あの、ご令嬢はな綺麗な青年に手をつけるのが早いっていうので有名だ。襲われないように気をつけろよ。俺達メンバーはあらかた危ない目にあってる。」
「え”」
ハイリンヒの言葉に赤い顔から青い顔へと様変わりだ。
「冗談ですよね」
「いいや、本当の話さ」
「僕はこれで・・・」
「夜会はまだまだこれからだぞ」
笑いながら、ハイリンヒはカールの両手をとって楽しげに、次の令嬢へと渡されてしまった。踊り続けて、メンバー全員で控え室に戻る時にはもう足が震えていた。
そのあとは飲み食いが始まり。気がつけば。
「重い・・・」
腹の重さに目が覚めれば、カールの腹の上にジェームズの足が乗っかっていた。よいしょっと、どかして周りを見渡した。
「ここどこ?」
起き上がってみれば、自分がソファベットにジェームズと一緒に寝転んで居ることに気づいた。ハイリンヒはしっかり一人だけ、ソファベットで眠っている、その横の椅子にフィリップが座ったまま寝ていた。
「あぁ!夜会の控え室!」
「起きたのか。水いるか?」
そう声をかけたのはレーオンハルトだった。手には水差しを持ち、服はワイシャツ一枚に胸元が空いて着崩れしている。
「あぁ、いただく。てか、昨日途中から記憶がないんだけど」
「だろうな。ハイリンヒに飲まされてたからな、ジェームズが潰れたあとカールも潰れてた。」
「レーオンハルトは?」
「僕は、酔わない体質なんだ。フィリップは酔い止めを飲んでいたしな。」
そう声をかければ、寝てると思っていたフィリップが目を開けた。
「まぁね」
「起きてたんだ。」
「仮眠してたよ」
そう返すフィリップに、カールはあることに気づいた。二人はハイリンヒの友人という名の護衛だ。部屋の外の気配を感じるし、ちゃんと近衛達も控えてることに気づいたが、二人の様子はやはり普通の友人という感じではなく、騎士ならではの緊張感を感じられた。
「あぁ〜」
騎士として学んでたはずなのに、自分はあっさり酔いつぶれてしまったことにカールは俯いた。うっかり羽目を外してしまった、ハイリンヒは友人だがこの国の王子だし命だって狙われているというのに。
「どうした?」
「うっかり酔いつぶれてしまった自分が情けない」
カールの言葉に二人は顔を見合わせて笑った。
「ははは、しょうがないよ。こういう場は初めてだろう。緊張してたみたいだしね」
そう、フィリップはフォローしてくれた。
「そんなこと言ったら、こいつは早々に潰れたからな」
「しょうがないよ、昨日徹夜だったからね」
「そうなの?」
「ふぁ〜よく寝た。そうだよ、徹夜明けだよ」
欠伸と共に起き上がったジェームズに、カールは首をかしげた。
「あれ?瞳の色」
「あぁ、まだかかったままか」
そうフィリップに視線をかければ、フィリップが指を鳴らした。すると、ジェームズはハイリンヒに、ハイリンヒはジェームズへと変わった。
「これ、秘密な」
その言葉にカールはまた、胃が痛くなる思いがした。いつ入れ替わったのだろうか、控え室に入る前までは、たぶん入れ替わってない筈だ。しかもこんな機密、ドンドン深みにはまってる気がする。
「そういう秘密は、ずっと秘密にしててください。なんで僕の前でバラすんですか」
「あははは、ごめんごめん。さてと・・・ジークハルトがいないな」
困ったような顔をしてハイリンヒは周りを見渡した。その言葉通りに、確かにジークハルトだけいない。
「あれ?」
「彼は、明け方でかけてしまいましたね」
フィリップがその問いに答えた。
「戻って来るかな?」
ハイリンヒが聞けば、レーオンハルトは眉間にしわを寄せて答えた。
「・・・無理だろうな。ご令嬢と一緒だった」
「そうか。残念だな」
「?」
話が見えず、カールが首をかしげてると、ジェームズが起き上がった。
「ふぁ〜よく寝た。そろそろ出るかい?」
「あぁ、そのつもりだ。」
ハイリンヒが答えながら、ジェームズと交換していたジャケットを受け取り羽織り直し邸を後にした。
*
「疲れた。そしてまだ帰れないのか」
「お疲れ、カール。そうみたいだな。俺たちの部屋も用意されてるぜ」
ベットに突っ伏したカールに答えるのはルッツだ。フェルディナントは優雅に椅子に座り侍女からお茶をもらっている。今3人がいるのは王宮の一室。なんと、ハイリンヒがいつのまにか部屋を用意していたのだ、両隣の部屋はジェームズとフィリップの部屋らしい。
「なんでだよー。」
「仕方ないだろ。まだ王子を暗殺しようとしたやつが見つかってないだけでなく、ロイヤルズのメンバーも狙われている可能性が出てきたんだから」
「そうだぞ、しかもカール。君は今はアームストラ辺境伯の代理人だ。ある意味、王子の次に狙われている。」
フェルディナントにそう言われてしまっては何も言えない。事実、自分が泊まっている部屋には進入しようとした形跡が残っていたのだ。最低限必要な荷物はこちらに運び込んだが、何とも心ともない。
「湯の用意はお願いしたから、体をさっぱりしてから談話室に集合だとよ」
ルッツに頭を揉みクシャに撫でられながら、カールは片手を上げて答えた。部屋を出てくれた二人に感謝しつつ、用意された桶の中で体洗い終えれば、またメンバーが待っている談話室に移動だ。
「きたきたー。お疲れ〜」
元気に声をかけてきたのは腕に包帯を巻くペーターだ。
「ペーター大丈夫か?怪我はどうなんだ?」
そう、襲われたのはペーターだった。他のメンバーが夜会に出ている間、ペーターが襲われていたのだ。
「大丈夫だよー。僕のところの護衛は優秀だからね。ちょっとしたかすり傷なんだけど、母上が大騒ぎして、こんなに分厚く巻かれちゃっただけ」
えへへっと可愛い笑顔を見せるペーターにカールは少し安心した。
「元気そうでよかったよ」
「全くだ。それにしても、犯人が自害したのは痛いな」
そういったのはハイリンヒだ。
ジェームズとフィリップも今日から数日、王宮に滞在することが決まっていた。ジークハルトだけはお屋敷に教師として呼ばれているため、滞在ができないそうだ。
そんな中、レーオンハルトは談話室で何か作業をしている。
「何してるの?」
レーオンハルトだけは視線は手元のまま答えた。
「今度、新しい宮殿のプレゼンがあるんだ。その模型を作ってるんだ。」
「新しい宮殿の模型?」
「そう、実際の建物の縮小版だよ。本館はうちが支援してる設計士が作ったんだ。離れは僕のデザインもプレゼンしてみようと思ってね。皆も見に行く?」
「プレゼンの場に?」
行けるのかとハイリンヒをみれば、うなづいた。
「俺はもともと参加予定だからな。きたかったら連れてけるぞ」
「いくいく!」
カールは手を上げて喜んだ。なかなか体験できなさそうなこと行かれるならいっとかないと損だ。年の近い友人との共同生活にカールは何だか楽しくなってきていた。謹慎とまではいかないが、ある程度の自由もある。美味しい料理に、ルッツ達と王子達と訓練したり、勉強したりして過ごせるのだ。
安心できる護衛もいるため、狙われているということを忘れてしまうほどだ。
「やっぱり、いいな〜」
ハイリンヒはレーオンハルトとペーターの剣の指導中のルッツとフェルディナントを見ながら呟いた。
「何が?」
「やっぱり、動きが段違いに違うよな。アムストラ辺境伯の騎士は」
ハイリンヒが呟けば、ジェームズがうなづいた。
「だな。動きのキレが違う」
「そういうものかな?」
カールは首をかしげながら二人をみれば、軽く手を振られたので、振り返した。
「教え方は結構スパルタだと思うけど」
「確かにな、でも実戦向きで良い」
ハイリンヒは真剣な顔をしながら答えた。
「・・・」
カールはその表情がかっこいいなっと思った。
そんな数日を過ごす中、ただ一人。ジークハルトだけが、この中にいない。王宮で一度見かけたのだが、顔を見るなりさって行ってしまった。カールは思わず追いかけるも、見失い諦めてきた道を戻っている途中、庭から声が聞こえた。
「おい、ジークハルト」
レーオンハルトの声だ。カールは庭へと降りて声がした方へと歩いて行くと、ジークハルトがそこにいた。
ボソボソと話す声は近づくにつれてハッキリとしてきた。
「・・・手をひけ・・・じゃないか」
「・・・悪い話じゃない・・・だから」
2人の姿が見えた瞬間、2人はカールの方を振り返った様子に驚いた。
「どうしたの?」
「何でもない。行こうカール」
レーオンハルトはジークハルトを掴んでいた手を離し、歩き始めてしまった。
「レオ?」
カールは慌てて追いかけようとジークハルトの横を通りすぎる瞬間、腕を掴まれた。
「ジークハルト、どうしたんだい?」
カールの問いかけに、一瞬視線を彷徨わせたがすぐにジークハルトは、声を潜めて言った。
「・・・ねぇ、カール。レーオンハルトには気をつけて。」
「どうして?」
唐突な忠告にカールは首をかしげた。
「また、君のお姫様を狙ってるみたいなんだ」
「まさか、もう彼は僕のお姫様の魅了にはかかっていないよ」
ジークハルトの真剣な様子に、カールは訝しんだ。
「今度は本当に好きになったかもしれないんだよ?」
「まってよ。あの後、二人は会ってもいないし、話題にもなってないのに、好きになるわけないよ。気にし過ぎだよ」
「会っているよ」
「・・・どうしてそう思うんだい?」
「見たから」
「見た?」
「うん。図書館で二人で会っているのを」
シャルロッテは図書館になんて、一度しか行ってないのに何を言ってるんだっとカールは思いながらも答えた。
「シャルロッテがうちの騎士と一緒になら図書館に行ったことあるけど、一人では行ったことないよ。人違いじゃないか?」
「・・・そっか」
感情の読めない顔でジークハルトはカールを掴む腕を解放すると去って行ってしまった。
「なんだったんだろう?」
滞在してる館に戻って来れば、談話室にはハイリンヒしかいなかった。
「ジークハルトが何か言って来たのかい?」
「よく知ってるね。」
「僕の耳はとっても良いからね」
カールはため息をつきながら、ハイリンヒの向かい側に座ると先ほどのやり取りを話した。
「よく分からないけど。僕のお姫様とレオとの間を気にしてた」
「そっか」
「ジークハルトの様子がおかしいけど、何かあったの?彼は保護しなくて良いのか?」
「彼の両親がいいっと言ったんだ。身分も低いし、狙われる理由がないとね」
「でも」
「しょうがないんだよ。カール」
そう寂しそうに言ったハイリンヒに、カールは何も言えなくなってしまった。
ジークハルトはハイリンヒの私的な友達のはずなのに、なんだか隔たりを感じてしまった。




