一緒にダンスを踊りましょう
王子のサロンは、家具が端にどかされ、ジークハルトのチェンバロがワルツを奏でていた。それに合わせるように一組の男女が踊っている。
「はい、いち!に!さん!いち!に!さん!足元見ない!」
手拍子と共に教師の男性から注意が飛んだ。その声にカールは顔を引きつらせながら踊っていた。
「カール!顔が引きつってるぞ、にこやかに!」
ジェームズが楽しげにチャチャを入れてくる。
「はい!」
また注意をされて、思わずカールは大きな声で返事をすれば、相手役を務めている侍女にクスクス笑われてしまった。
そんなカールを見ながら、ロイヤルズのメンバーは壁側に移動されたソファでくつろいで鑑賞していた。
「意外だな、カールって相手に合わせるのが苦手なんだな。」
レーオンハルトが手元のノートに何かを書きながら、呟いた。
「リズム感は、ある程度持ってるみたいだけどね〜」
ペーターはお茶を飲みながら、目線はカールに向けられている。
「剣術のセンスあったがな。あれは、慣れじゃないか?」
ハイリンヒは本を片手に持ちながら、楽しげにいった。
「まぁ、今までの話から聞いていると、領内では騎士達と剣を振り回すか雑務をこなしてたっぽいですからね。華やかな世界とは無縁でしょう」
フィリップは苦笑しながら、魔法学校の課題を進めている。
「間に合うのか?」
ジェームズの問いに、ハイリンヒが答えた。
「間に合わせる、が正しいかな。まーそこまで酷くないし。毎日やらせればできるだろう」
にやりっと笑みを浮かべたハイリンヒにジェームズは肩をすくめた。
「うわぁ!」
カールの悲鳴にみんな振り向けば、カールがバランスを崩して相手役の侍女に抱きついているところだった。
「ご、ごめんなさい。足大丈夫ですか?!」
「大丈夫ですよ。軽く触れただけですから、踏まれてないですよ」
あわあわと慌てるカールの姿に、メンバーは顔を見合わせて肩をすくめた。
「あれは、あれでいいんじゃない?」
と呟いたのはペーターだけだった。
丸一日、カールのダンスの練習で費やされ、部屋に戻れば、そうそうにベットに倒れこんだ。
「あ”ーーーー疲れた」
まさかのダンスのスパルタ教育の始まりに、体は悲鳴をあげている。いつも使わない筋肉が使われ腕がプルプルするし、背中も痛い。
「きっつい。しかも明日も来いとか」
ぐったりと、していると笑い声が聞こえた。見れば鏡の向こう側にシャルロッテが笑って立っていた。
「お疲れ様。カール」
「疲れたよ。」
「大変そうね。でもダンスは男性のリードで変わるのだから、真面目にやらないと。ロイヤルズの王子様」
シャルロッテがからかい混じりに言えば、カールはむすっとした。
「僕はただの代理人であって、王子様じゃないよ。」
「ロイヤルズのメンバーってだけで、お嬢様方には王子様よ。練習相手の侍女達も目がハートだったわ。」
「そう?笑われてたけどね」
「王宮の、王子様に使える侍女達だから身分もそこそこあるしね。襲われないように気をつけてね」
「わお。」
カールはその言葉に突っ伏した。
*
そうして数日間みっちりダンスの練習とかした、途中でメンバーが見本として踊ってくれたが、皆上手だった。
「さすが、お貴族様」
カールが呟けば、ジークハルトは苦笑した。
「僕は貴族じゃないよ」
「そうだった、でも貴族みたいだよ。すごい上手だね。はぁ。剣だったら負けないのに」
それを聞いて、踊り終えたハイリンヒが笑いながら言って来た。
「一回女性の立場が分かれば踊れるんじゃないか?」
そう言うと、座っていたカールの両手をとって部屋の中央へ
「ん?!」
周りの侍女達からは小さい悲鳴、そしてメンバーは小さく笑っている。
カールの手はハイリンヒの肩に添えられ、手を取られている。
「え」
「いくぞ」
にやりっと笑みを浮かべた、ハイリンヒにジークハルトが答えるように曲を弾き始めた。
「うわっと、ちょっと」
ぐっと腰を掴まれ、そのまま踊り始めてしまった。慌てて、足を踏まないように動かして行く。行き先は全部ハイリンヒが決めて行く。
「お、うまいぞ、カール!女役の方がいいかもな」
「ハインツ!?」
「確かに、上手ですね。背丈的にもカール様の方が低いですし。踊りやすいのかもしれませんね」
講師の男性も賛同するように呟かれ、カールはがっくりと肩を落とした。うまいのなんて当たり前だ、この体はシャルロッテのものだから、体がダンスの方法を覚えているのだろう。男爵令嬢であるシャルロッテは、徹底的に礼儀作法を叩き込まれているし、ダンスも得意だ。
「・・・ふん、まぁいい練習になったんじゃないかな、僕とシャルロッテは同じ背丈だし。来年踊れるかわからないしね」
「・・・なるほど。シャルロッテ嬢はカールと同じ背丈か、言われて見ればそうだな。と言うことは」
そう言うとぎゅっと腰を寄せられてしまった。近く顔に思わず息を止めれば、耳元で囁かれた。
「顔もこのくらい近づけられるってことだな。確かにいい練習だ」
艶めいた言葉に、カールは一気に顔が暑くなるのを感じ思わず飛び跳ねて、腕から逃げ出した。
「ハインツ!!僕のお姫様に不埒なことするなよ!」
「あははははは!!それは、どうかな〜来年にならないとわからないな〜」
そんなやりとりをしているうちにあっという間に夜会となってしまった。
カールは、先日と同じ衣装に身を包んでいた。ご令嬢達の要望に応えるのもロイヤルズのマナーらしい。というのは、後付けらしいが、フィリップ曰くモテるから要望に応えるというのもあるとか。
ちなみに、ペーターはお留守番組だ。まだ社交デビュー前のため、この場所にいない。
「僕も免除される立場のはずなのに・・・」
カールはキリキリする胃を抑えながら呟けば、ジェームズが笑って言った。
「確かに、そうだけど。男の場合は15歳から出ても問題ない、何より君は代理人として来てるんだから、社交は必須だよ。そう言う場合は免除される。つまり」
「お前は、出ないとダメだな。仕事的に」
ハイリンヒがだめ押しで言って来た。
「ですよねー」
と答えつつ、カールは今年だけ、今年だけだし。と心の中で呟くも、来年はここに入れないことに気づいてしまった。所詮自分は代理人だ。来年、アムストラ辺境伯自身が来れば、カールはいる必要もないし、そもそも来年はシャルロッテの社交デビューだ。カールが表立って行動するのは今年までだろう。
そう思うと、今年だけの特別なことだ楽しんでしまおうっと思えるようになった。
「さて、行こうか。美しい花々を愛でに」
ハイリンヒが姿勢良く立ち上がり王子然とした振る舞いに変われば、メンバーもしっかりと立ち上がって礼をした。
「はい、殿下」
並んで歩いて行けば、扉を守る衛兵達が順次開けて行く。
最後のホールの部屋に着けば、一気に華やいだ世界。
ざわめきと、紳士淑女の社交場だ。ざわめきとファンファーレとともに、入場が告げられ人々の視線を集めるのは見目麗しい青年達。王子を先頭に並んで歩く姿は、女性達の憧れの存在。一度でもその手にふれ声をかけられてほしいという熱い視線が集中する。
「すごいな」
思わずカールが呟けば、隣にいたジークハルトが笑った。
「まだまだ、序の口だよ。こないだのお茶会の続きさ」
そう言って、ウィンクすればその姿を目撃したご令嬢の黄色い悲鳴が上がった。
「なるほど」
挨拶をすませ、軽くワインやシャンパンを手に取って談笑して入れば、チラチラと視線を感じながら前を通り過ぎるご令嬢達。
「みんな声をかけてほしいのさ。一緒に踊りたいためにね」
そう耳打ちしたのはフィリップだ。
「君は決まった?」
「誰と踊っていいのかすらわからないよ。」
「だよね。まずは王子である、ハイリンヒが有力貴族のお嬢さんと踊るよ、そのあとの女性達が僕たちとダンスしてくれる可愛い花だ。」
「何人か、カール担当に決めてしまえばいいんじゃないか?」
そう言ったのは、ジークハルトだ。
「そうだね、その方が楽だろう。」
横で聞いていたジェームズも賛同し、3人のご令嬢と踊ることが決まった。終わったらここにまた集合。王子はすでに有力貴族の令嬢と踊り始めている。
「そろそろだね。」
ジェームズが声をかければ、みんな持っていた飲み物を給仕に返した。一曲終わり、ハイリンヒが戻って来た。
「踊る相手は決まったかな?」
にっこりと微笑みながら、ハイリンヒが聞いた。
「まぁね」
「えぇ、決まりましたよ。」
「もちろん」
「決めてもらいました。」
「いつも通りに」
ジェームズ、フィリップ、レーオンハルト、カール、ジークハルトの順に返事をすれば、満足げにハイリンヒがうなづいて優雅に方向転換をした。
「では、一緒にダンスを踊りにいこうか」
「「はい、殿下」」
優雅にカール達も礼を取れば、令嬢達から黄色い悲鳴が上がった。これは、ハイリンヒ達がなんとなくやり始めた合図だ、みんなで踊る時のやりとりでもある。
だからこそ、やりとりを聞いた令嬢達は優雅に自然と集まる、恥ずかしそうに、でも期待を込めた眼差しで。メンバー達はその中から、一人一人手をとってホールの中央へ連れて行く。
めでたく、メンバーの踊りの相手に選ばれた令嬢は顔を赤らめ、嬉しそうにしている。
カールが手に取った令嬢も、目をキラキラしてはにかみながらも嬉しそうだ。
音に合わせて、足を動かす。練習の時と違って華やかな衣装を来ている令嬢のドレスは繊細そうだ
優雅にドレスの花が舞う中、素敵な王子様の夢を令嬢達は見る。
音楽が鳴り止むまで、カール達は踊り続けた。楽しそうに、嬉しそうに踊る令嬢達にカールも自然と笑みを浮かべて、時には少し会話をして初めての舞踏会を楽しんだ。




