王子達の社交界
久しぶりのサロンに皆が集まった。既にジークハルトがきており、きれいな音楽が響いている。この間までと同じ様に、皆思い思いに過ごしていた。
チェスをしながら、ジェームズが先日のハイリンヒの抜け出した時にカールと一戦交えた出来事を話していると、ペーターが羨ましげに言った。
「いいなーハイリンヒとカールが手合わせ?!僕もしてみたい!」
その言葉に、対戦していたハイリンヒは自慢げに言った。
「あぁ!楽しかったぞ!魔法を使いながらの剣術なんて初めてだったからな!良い勉強になった!」
「へー!面白そう!」
「狡いぞ!本当は先に俺がやりたいってカールに言っていたのに!」
ジェームズは悔しそうにチェスを弾いて置いた。ペーターは気にせず、本を読んでいたカールに向かって叫んだ。
「カール!今度、僕とも手合わせしてよ!」
「んー機会があったらね」
読んでいた本を閉じながら、カールは苦笑しながら答えた。
「絶対だからね!機会を作ろう!ハイリンヒ!ジェームズ!」
「もちろん!やるぞ!」
ジェームズが力強く頷く様子に、カールは困ったような笑顔を向ける事しか出来ない。
そんな中、レーオンハルトとジークハルトが紙の束を持って戻って来た。実は先程、使いの物がきて二人を連れていったのだ。そんな二人はチェスをしていたジェームズとハイリンヒのチェス版に紙の束を置いた。
「なんか、嫌な予感がするぞ」
ハイリンヒの言葉に、ジークハルトはニッコリと微笑みながら答えた。
「正解です。王妃様の謹慎もとけたので、出席する様にっと王様から今まで止めていた招待状の束を渡されました。」
「げっ」
「因に最優先は、公爵夫人開催のお茶会、その後は舞踏会、この束の順番通りです。」
続く様にレーオンハルトは紐で纏められた紙の束をハイリンヒに渡した。
「これは・・・」
ジェームズは机の上に散らばった招待状を取りながら、ちらりとジークハルトに目線を向ければ、肩を竦めて答えてくれた。
「そちらの纏めてある招待状は、断っては駄目だそうですよ。逆に此方の招待状は、断っても良いそうです。そのかわり、ロイヤルズのメンバーで参加して良いそうです」
「わざわざ分けたのか・・・ロイヤルズメンバーで参加して良いというより」
ジェームズはため息をつきながら、隣に居るペーターに招待状を数枚見せた。
「出ろって感じだね。他のは全部ご婦人方からじゃん!しかもお茶会!可愛い子がきてそうだね〜」
勝手に招待状の封を開けながら、ペーターは楽しげだ。そんなやりとりを聞いていて、カールは思わず確認をしてしまった。
「え、メンバーって?」
「そ、ここにいる全員だね」
「待ってください。僕にはそんな場所に来ていく服なんて持ってないですよ。あの謁見で使用した一張羅しかないです」
「それなら、うちの母上がなんとかするだろう。時々俺たちの衣装をお揃いにするっていう暴挙に出るからな。」
そうハイリンヒは苦笑しながら答えた。
「あれにはびっくりだったね!一応王宮のルールには大きく外れていなかったけどさ。僕の両親は卒倒してたよ。王子と同じ衣装だなんてー!って」
「そうだね。本来ならマナー違反だ」
「まぁ、ご婦人方には大人気だったけどね」
「そうだね〜」
カールは呆気に取られつつ、ということは暫く外出が増えるのかということに気づいた。ルッツ達にも伝えないと、と思いながら、スケジュールの確認にカールも参加した。
「この公爵夫人が先だ。マリアンネ・フュルスト・フォン・キルヒアイス。マリアンネ様は王家との血の繋がりが強い人だから、外せない。僕の曽祖父の兄妹で降下した方の娘なんだ。」
その名前を見ながらカールは、ハイリンヒが並べる招待状を見た。その次に置かれた貴族名は知っていた。
「なるほど。この方は、南辺境伯のお名前ですよね。」
「そう。次のは舞踏会だな、ギュンター辺境伯だ。南の運河の守りを主としている辺境伯だから蔑ろになんて出来ない。物流の要でもあるしな。屋敷内も輸入品で溢れかえっていて楽しいぞ。カールは顔を合わしたことがあるのか?」
「いえ、ないです。ただ同じ辺境伯のせいか、我が主人であるアムストラ辺境伯の口からよく出てくる名前なんです。」
カールは苦笑しながら答えた。聞く内容はどっちが強いかという張り合いばかりなのだが。
「あーあそこは、なんというか。犬猿の仲というか」
ジェームズも知っているのか、苦笑しながら言った。
「ライバル?」
フィリップがしばし考えてから口にした。
「そんな感じです。」
「ということは、絡まれることがありそうだな。俺たちと一緒に行動だな。令嬢とダンスもいいだろうが、あそこには二人ご令嬢がいたな。間違っても誘惑するなよ。」
ハイリンヒが笑いながら忠告した内容にカールは苦笑いをした。もしも、そのご令嬢に気に入られでもしたら、ライバルの領地の人間というだけでも風当たりが強そうだ。下手したら、決闘だ!とか言われかねない。アムストラ辺境伯の話だと二人はよくやっているみたいなのだから、軽々しくやりそうだ。
「わお、それは恐ろしい。僕はおとなしく壁の花になるよ」
「それは無理だな」
「「無理だね。」」
全員に言われ、カールは大きなため息をついた。
そんな感じで招待客の名前と地位を聞いた後はお開きとなった。次の人はニコニコ笑顔の王妃様がサロンで待ち構えていたが、それは嵐のように採寸が始まり、あっという間に1日が終わっていた。
というか、ほぼめまぐるしくお針子や侍女達が出入りして記憶がないとも言える。
そんなやりとりを数日過ごした後、件のお茶会の日となった。
ルッツ達もちゃんとした制服をきて馬車の護衛としてついてきてくれている。その様子にメンバーは大興奮だ。なかなかアムストラ辺境伯出身の兵士を一般の貴族が雇うことは難しいらしい、というのを知ったのは余談だ。
屋敷に到着後、案内されたのは公爵夫人お気に入りの庭園。薔薇が咲き乱れる庭園で、紳士淑女たちが集まっていた。そこに現れたロイヤルズのメンバーに周りは感嘆の声が上がる。メンバーが着ている服は王妃が選び仕立てた服だ。同じ白地にピンクゴールドの糸で刺繍され生地は、陽の光を浴びて動くたびにキラキラと輝くのだ。デザインは若干違えど、皆揃いの服を纏う姿は特別だ。
「きゃーさすがロイヤルズですわ!かっこいい!」
「はぁ〜絶対今度の舞踏会では一緒に踊って頂きたいわ!」
「私も!!新しくメンバーに入られた方と踊りたい」
「私も!」
「今日のお衣装で舞踏会に出てくださらないかしら?」
「王妃様にお願いのお手紙を書いたら?」
「そんな、恐れ多いわ!」
「やっぱり、ここは主催者のマリアンネ様にお願いしましょう!」
「それが一番ね」
女性達は、優雅にあるくロイヤルズのメンバーを見つめながら、口元を扇子で隠しながらもおしゃべりは続く。
メンバーが主催者のマリアンネ様の元にたどり着けば、挨拶の順番待ちをしていた人達が道をすぐにあけた。
「まぁまぁ!ハイリンヒ王子!ようこそお越しくださいました!!」
「ご機嫌よう、マリアンネ様。本日もバラにも負けぬ美しさ、ご招待いただき嬉しく思います」
そう言って、うやうやしく手の甲に口付けたハイリンヒに、ハイリンヒの母親と同じくらいの年齢であるマリアンネは頬を染めて嬉しそうだ。
「ぜひ、楽しんで下さいな。美しく若いバラも多くいますもの。お眼鏡に叶う子がいればいいのだけれど」
こっそりと言った公爵夫人にハイリンヒは苦笑した。
「目移りしてしまいそうです。私たちを惑わす美しいバラに、翻弄されてしまいそうだ」
そう言いながら、他のメンバーを連れて移動した。向かうは王子達に用意されたソファ席だ。
「ここが僕たちの特等席だよ」
ペーターがそう言いながら、カールの手を取ってソファに座らせた。
「特等席?」
カールの問いに、フィリップが答えた。
「そう、ご婦人方が僕たちを眺めるための席さ」
そう言いながら、こちらを伺う令嬢達に手を振れば、黄色い声が上がった。
「そして、勇気あるご令嬢が近づいてくる場所でもある。」
給仕から受け取ったカップを手に持ちながらジェームズは楽しげにカールに渡した。カールの横に座りながらハイリンヒは楽しげに肩を回して、カールを抱き寄せながら耳元で囁いた。
「そうだカール。声をかけたい令嬢は今のうちに探しとけよ。じゃないとあっという間に、ドレスの森で隠されてしまうからな」
「こないだのお茶会とはまた違うということですね。」
「そういうこと、あれは母上のお茶会だったしね。ほら、見てごらん。ご令嬢達の熱い視線がわかるだろう」
そう流し目でハイリンヒが令嬢達を見れば、また小さい悲鳴をあげながら、扇子で顔を隠しながらもその視線の熱さで、こちらを伺う様子がよくわかる。
「凄いですね・・・」
思わず苦笑しつつ、目があった令嬢に軽く手を振れば、可愛らしい悲鳴をあげて顔を赤らめてしまった。横にいる令嬢がずるいっと言っているのが聞こえてくる。
「こらこら、気をつけてよねカール!下手にご令嬢を誘惑したら、あっというまに絡め取られちゃうよ。」
「そうなのか?」
「勘違いさせずに、上手くご令嬢達を楽しませないとね」
ジェームズが楽しげに言った。
「ほら、ジークハルト!チェンバロがきたぞ。」
使用人達が庭に運んで来たチェンバロにいち早く気づいたレーオンハルトが叫んだ。
「さすが、マリアンネ様。チェンバロを外に出すなんてなー」
ハイリンヒが苦笑しながらも、ジークハルトに弾いてこいと指示をした。
「じゃー早速、一曲弾かせてもらうよ」
ジークハルトは庭園に出されたチェンバロを優雅に弾きはじめた。その音にご令嬢達はうっとりとした表情で聴き惚れている。勇気ある一人が、前に進めば、それを合図かのように令嬢達も思い思いの男性達の元へと向かっていく。
「王子様、ご機嫌よう」
「ご機嫌よう、レディー」
「初めまして、カール様」
「初めまして。僕の名前を知っているの?」
「有名ですわ。ねぇ」
「そうです、カール様は今とっても有名ですよ」
柔らかな笑い声が響く中、優雅なお茶会が始まった。
夢見る乙女達と綺麗な王子様達。まるで一枚の絵画のように楽しみながら、カールはハイリンヒが言ったドレスの森の意味がわかった。
ふわりふわりと甘い香りをさせながら、ロイヤルズの周りを囲んでしまう。
「気分はどうだい?」
ハイリンヒが楽しげにカールに聞いて来た。
「不思議な気分だよ。まるで絵本の中に迷い込んだみたいだ。」
「まぁ!」
「カールにとっては、別世界かな?」
「そうだね。領内では体験できないよ」
あそこは、どちらかというと無骨な騎士に囲まれる方が多いだろう。
「カール様は、アムストラ領からいらっしゃってるとか、やはり剣の腕前も凄いので?」
「あぁ、凄いぞ。俺は一度手合わせしたが、なかなか手強かった」
「まぁ!王子自ら!素敵ですわ」
可愛らしく驚かれたり、褒められたり、これがモテる男が体験することなのかっとカールは思いながらも、悪くない気分だった。だが、そんな時間はあっという間に過ぎてしまう。
後ろ髪を引かれるような感じで令嬢達が帰れば、カール達もやっと帰りの馬車に乗れた。
「どうだった?」
レーオンハルトの問いにカールは苦笑いだ。
「凄いね。なんだか、気恥ずかしかった」
「カールはずっと令嬢達に囲まれてたしね。」
ペーターの言葉に、カールはすかさず突っ込んだ。
「いやいや、君たちだって囲まれてただろう?」
「僕たちは適度に抜け出してたよ。ちゃんとご婦人方の相手もしてたしねー」
「だな。まぁ、ジークハルトはずっとチェンバロを弾いてたけど、また新しい生徒でも見つけたかい?」
フィリップがジークハルトにきけば、楽しげに返事が返って来た。
「あぁ、3人ほど増えたね」
「生徒?」
「そう、ジークハルトをチェンバロの教師にって求める親が多いだよ。まー弾けるか弾けないかは関係なく、ジークハルトに教授されたっていうのが、彼女達にとって重要なんだけどね。まぁ受けられるかは、ジークハルトが気に入った相手だけだよね」
ジェームズがニヤニヤ笑いながら言えば、ふんと鼻をならしてジークハルトが言った。
「箔づけ目的なんだから、こっちが選り好みしたっていいだろう。ちゃんと弾ける子に教えたいしな」
貴族の令嬢達は大変だなっとカールは心の中でつぶやきながらも、仕事もしていたのかと驚いた。
「さて、こんな感じで俺たちメンバーはお茶会や舞踏会に参加するんだ。俺たちが揃っているっていうだけで、主催者の知名度も上がるしな。だから覚悟しとけよカール」
ハイリンヒは楽しげに言った。
「えっと?」
「ダンスは得意かな?」
フィリップが楽しげに聞いて来た。
「えー・・・?」
思わず視線を彷徨わせれば、ジェームズがクスクス笑いながらとどめを刺した。
「舞踏会では、僕たちはダンスをちゃんと踊ろないといけない。だからカールにも踊ってもらうよ。大丈夫教師はこちらで手配するから。次の舞踏会にまでは踊れるようにしような」
「わぁー」
思わず棒読みになったのは致し方ない。




