男子はチャンバラが好きなんです。
「なるほど、シャルロッテ嬢の部屋に侵入者か。」
「そう、まー結界に阻まれて入れてなかったけど。特にその他に異常はなかったよ。でも一応報告した方が良いかなって思って」
カールは朝食をフェルディナントとルッツの部屋で取っていた。一階のカフェから持って来たサンドイッチを3人で囲みながら昨日の報告をしていた。
「こっちも辺境伯に連絡した。俺たちが護衛をしろっていうお達しだったよ。最近、お隣さんは静かにはなったらしいが、逆に中央と連絡を頻繁にしてるそうだからね。」
フェルディナントが言ったお隣さんとは、隣国の事だ。その内容にカールは口に入れていたサンドイッチを噛まずに飲み込んでしまった。
「それってどういう事?」
「さぁな、何かやり取りするような事が起きたって事だろ。それに伴って、あの事件だ。きっとタイミングを見てるんだと思うな」
その言葉にルッツも同じ様に頷きながら言った。
「そ、だから俺たちは馬車の護衛じゃなく、カールとシャルロッテの護衛に任務が変更。報告も逐一する事になった。」
「それじゃ、二人もあの宿に?」
「おう、使用人用の部屋があるからな、そこに泊まる事になる。といっても馬車の護衛の人数もあるから、今回護衛する予定だった馬車を後任と引き継ぐために途中までは護衛をする事になる。途中と言っても、たぶん1週間はかかるだろうから、その後からそっちに移動になる。」
「わかった。」
「その時に辺境伯のサインが入った証明書とかも持ってくから」
「じゃー1週間後に護衛が来るってことを伝えとけば良いね?」
「あぁ、それまでに外出するような事が会ったら、駅馬車から領内の騎士を連れていけ。明日からグライフとハイコが来る。」
「あの二人か〜・・・」
二人の名前にカールは頬をかいた。実は少し苦手な騎士なのだ。なんというかキャラがある意味濃い人達なのだ。
「あぁ、カールは苦手だったか。グライフはぶっきらぼうなだけで、よく気づく奴だから護衛には適任だ。ハイコはきっと女装して来るだろうが、気にすんな。」
「あの二人ってよく相棒同士でいられるよなってくらい、会話してねーもんな。俺も苦手だわ」
ルッツは笑いながら、カールの背中を叩いてがんばれっと言った。
「まーあのふたりはお互いライバルだったからな。仲は良くないが、お互いを認めあっているっていう特殊な関係だ」
フェルディナントは二人の能力をかっているようだが、カールだって二人が優秀なのは知っている。ただどう会話をしていいのか悩む二人なのだ。
そんな朝食を済ませると、カールは今日は二人と一緒に行動を共にしようと思ったら。
「ふむ、じゃー剣の稽古でもするか。ここだとあんまりできないし」
「王城はどうだ?あそこの訓練場使えるだろ?それに安全だ」
ルッツとフェルディナントにはどうやら伝があるらしく、そのまま王城の騎士の訓練場で稽古する事になった。
証明書と顔パスという事をやってのけた二人にくっ付いて行きながら、訓練所にたどり着けばすぐに何人か領内で見た事のある騎士達が居た。
皆軽く手を上げて挨拶をしてくるのを、カールも手を振って答える。
「ほら、俺たちの知り合いも居るし、ある意味安全だろ。」
「確かに、ここで襲われる事はなさそうだね。」
カールは頷きながら、模擬剣を借りて準備運動をした。基本の型値で素振りをして体を温め終わると、対戦だ。最初はルッツとだ。
「うっしゃー行くぜ!」
「うん!」
二人が構えれば、審判役はフェルディナントだ。手を大きく振り上げて降ろせば、それを合図にカールが飛びかかった。
「よっと」
振り下ろされた剣をルッツは軽くいなせば、直にカールは後方へと距離を置く。
「悪くないな」
そう言いながら、今度はルッツが攻撃を仕掛けて来た。それを受け止める事をせずに、カールはどんどん避けて行く。まともに剣を受け止めれば次の動作が出来ない程重い一撃をくらう事を身にしみて知っているから尚更だ。
大きくジャンプしながら、時には地面を転がりながら避けて行けば、一瞬の隙をついて今度はカールが攻撃を仕掛ける。その剣をルッツは軽く受け止めながらも攻防戦が続く。
「軽い軽い。こんなんじゃ、ヤラレルゾ」
そう言いながら、強くカールの剣を弾いた。
「ちっ」
なんとか剣が飛ばないよう持ちこたえるも軽い手の痺れを感じながら、走り出した。
「させるかっ」
そう呟くとルッツは追いかけた。
『我を追いし者の地に 水を抜け 砂を作れ』
魔力を混めてカールが唱えると、ルッツの足元の地が緩んだ。足に絡まる様子にルッツは舌打ちをする、自分が足をつける地面だけ、砂漠の様に足が埋もれる。
「くっそ」
剣の持ち方をかえて、ルッツは足の力に集中する。強く踏み込み勢い良く大きく膝を曲げてジャンプする。空中で一回転しながら走るカールの前に着地すれば、くるりと剣を廻してカールの前に剣先をぴたりと止めた。
「そこまで!」
審判役のフェルディナントが声をあげれば、続く様にカールも叫んだ。
「はぁ、はぁ、はぁ。まいった!」
汗だくになりながら、カールは持っていた模擬剣を地面にさした。
それと同時に、一人大きな拍手をする音が聞こえた。振り返れば、ラフな格好をしたハイリンヒが目を輝かせて訓練所に居た。
「ハイリンヒ様?!」
「げっ王子」
カールとルッツが同時に叫べば、周りに居た訓練している騎士や兵士が気づいた。慌てて膝をつく人達を無視してハイリンヒは嬉しそうな顔をして駆け寄って来る。
「カール!来ていたなら俺の所に来い!兵から君が来たと聞いて、居ても立っても居られず部屋から飛び出してしまったじゃないか!」
その様子に、カールはどうしようと周りを見るも、周りの大人達も困惑しながらも誰も動く気配はない。ルッツとフェルディナントも城下町の時の様に不遜な態度なんてとれるはずもなく、膝をついている。
カールもそれに倣おうとする前に、両手をハイリンヒに取られてしまった。
「凄い剣捌きだった!やはり、アムストラ領の剣士達の戦い方は違うな!」
「そ、そうでしょうか?僕のは全然攻撃用としては」
「あんな凄い剣を、身体能力だけで避け切るなんてカールは凄い!」
目をキラキラさせて迫られてカールはドキドキだ。何よりも自分の剣は時間稼ぎの為の技術が多いのだ、それが歯がゆくもあるのだが、それを褒められるとむず痒い気持ちだった。
「そ、そうですか?」
ハイリンヒの褒め言葉に顔が爆発しそうになって来た所で、慌ただしく訓練所の入り口が開いた。入って来たのは、ハイリンヒの近衛達だ。その様子にハイリンヒが小さく”げっ!”っと呟いたのが聞こえた。
「王子!見つけましたよ!!さぁ!早くお部屋へお戻りください」
先頭を歩く近衛が言えば、ハイリンヒは小さな声で猟犬並に鼻が利く奴だなっと呟きながら、小さくため息をついた。
「後で戻る、今はカールと話してるんだ。」
「それでしたら、終了です。ハイリンヒ王子、今は危ない時期なんですよ。お戻りください」
にべもなく言ってのけた近衛にハイリンヒはイラッとした様子でカールの手を離さずに言い返した。
「勝手に決めるな。今日は剣を習いたい気分なんだ。部屋には戻らない」
「王子!」
「何よりも!ここは優秀な我が兵士達の訓練所だ。ココで襲う馬鹿は居ないだろ?こんなに頼もしい者達が居る場所で」
そう言って見渡せば、兵士達はどうしたものかと顔を下げたまま皆視線を彷徨わせた。ちらりと見れば、王子の前に立つ近衛の男は睨んで来るし、王子は笑顔を向けてくれる。
「ここは王子が来るような場所ではありません。」
その言葉にハイリンヒはむっとしながらも、未だに頭を下げている兵士達に顔を上げる様に声をかけた。
「面を上げよ!俺には構わず訓練をしていてくれ!」
「王子!」
「カール、一緒にやろう!最近部屋に閉じこもりっぱなしで鈍っているんだ。お前達二人も付き合え」
そう言ってカールの近くに居たルッツとフェルディナントにも声をかけて来た。
二人は「「はっ!」」っと騎士らしく短く返事をすると立ち上がった。
「バルドゥール、お前達も終止ピリピリしているのも疲れるだろ?少しは休め。そこで見ていても良い」
「しかし」
「カール、やろう!」
近衛の男、バルドゥールの声を無視して、ハイリンヒはルッツから模擬剣を奪うと構えた。
「え?!いいのですか?」
「良いんだ!気晴らしは必要だ」
そう言って構えると、ハイリンヒはカールに向かって駆け出した。
「うわっ!ちょっ!」
カンカンっと小気味良い音をさせながら、カールはハイリンヒの剣を受け止める。向こうもそこまで本気でない様子に、カールは苦笑しながらも同じ様に剣を振るった。
「ハインツ、後でまた叱られるんじゃないかい?」
「あははは、ジェームズ辺りに叱られるかな?」
「王妃様にも」
「それは嫌だな〜母上は怒ると怖いだ。まだ父上の方が良い」
「そうなんですか?」
「父上も若い頃結構やんちゃだったらしいだ。」
「そうなんですね。では遠慮なく!」
そう言うと、カールは腰を低くして力強く剣を振るった。
「おっと!?」
「僕のお姫様に何かしたらしいね」
にっこり微笑みながらカールが問えば、ハイリンヒが若干目線を彷徨わせた。
「ん?何がだ」
「僕は、茨の騎士なんだ!」
「残念。俺は青の森の王子なんだな!」
二人で会話をしながら剣を振るっている間、バルドゥールはルッツとフェルディナントに止められていた。
「おい、離せっ!」
バルドゥールの両腕を二人が抱きかかえる様に掴む様子に後ろに控える近衛達は困惑気味だ。
「離したら、王子様を引っ捕まえて部屋に閉じ込めるだろ?」
「そうだな、流石にあの年頃で。あんな好奇心旺盛な男子が部屋で大人しくしていろって言うのは無理がある。」
ルッツに賛同するようにフェルディナントが頷きながら、後ろの近衛達にも「あんたらも、少し剣を振ったらどうだ?扉の前に立ちっ葉で運動不足だろ」その言葉に数人は運動を仕始めた。
「貴様ら!!勝手に俺の部下に命令をするな!」
「悪いな、同郷の奴もいるからさ。ついつい」
ルッツはケラケラ笑いながらも、目線はしっかりとカールとハイリンヒを捕らえている。
「護衛対象に逃げられるようじゃ、まだまだだな」
フェルディナントは暴れるバルドゥールの肩を掴んで耳元でそう囁いた。その言葉にバルドゥールはカッと頬を赤らめて叫んだ。
「うっるさい。」
「すぐカッとなるな、騎士とは常に冷静でないと、守るべき者を守れないぞ。」
その言葉にバルドゥールは奥歯を噛んだ。どうもこの二人とは馬が合わないのだ。昔、バルドゥールがまだ一般兵だった頃アムストラ領の訓練に参加した時からの知り合いなのだが。常に飄々としながら歩む二人はバルドゥールにとって嫉妬の対象だった。そのせいか、二人が絡むとどうも冷静で居られない。
「それに、王子もそこそこ出来るみたいだな。剣筋がいい!兵士だったら是非うちの領で訓練して行って欲しいな〜。」
ルッツの言葉に素早く反応した人物がいた。
「本当か?!」
そう返したのは嬉しそうに振り返ったハイリンヒ。完全にカールとの戦いを忘れてこっちを向く王子に、不3人は飽きれた。カールは隙あり!っと叫びハイリンヒの顔の真横に剣が突き出した。
「おお!」
「ハイリンヒ様!訓練中でも余所見は行けません!大きな怪我に繋がるですよ!」
カールが少し怒った様に言えば、ハイリンヒは嬉しそうに、そうだな!っと答えた様子にむっとした。
「真面目に聞いてます?」
「聞いている!聞いている!久しぶりに思う存分体を動かせて楽しいだけだ」
ニコニコ言いう様子に、カールは剣を降ろしてため息をついた。そして、ハイリンヒは小声でこうも言った。
「それに、二日連続良い事があったしな。シャルロッテ嬢とカールに会えた」
にんまりと微笑んだハイリンヒにカールは、胸がどきどきしながらも、また大きなため息をついてから、なんだか可笑しくなって笑った。
「僕も、王子と遊べて楽しいです。」
二人顔を見合わせて笑い合いながらまた剣をあわせる。
「よし!もう一本やろう!」
「えぇ!今度は余所見しないで下さいよ!」
「もちろん!」
楽しげに剣を交わす二人を見ながら暴れるのを止めたバルドゥールの肩を叩きながらフェルディナントが楽しげに言った。
「どうだ?うちの小さい騎士もなかなか優秀だろ?」
「ふん」




