その少年は?!
薄暗い図書館から出ると、外は晴れ渡り一瞬眩しくて目をつぶった。軽く食事をするにも、ここだと少々値段がはるので、貴族エリアから出ることにした。中級家庭がいくちょっと豪華なレストランにはいれば、既に席は埋まり始めているような状態だった。中庭のカフェテリアに座り、適当にお昼を注文した。
「今日はこの後どうするんだい?」
フェルディナントの質問にシャルロッテは、特に何も決めていなかった事を思い出し、悩んだ。
「ん〜、グロリア様は今いないからマナーレッスンは無いし、部屋にこもってるのもね。」
その言葉を聞いて、ルッツが身を乗り出して言ってきた。
「だったら、観劇にいかないか?今ちょうど南の劇場でやってるんだ。当日券になるから末席だけど、全然見れる」
フェルディナントを見れば、肩を竦めただけで何も言わない様子にシャルロッテは質問した。
「何をやってるの?」
「フライヤメスっていう民族音楽がやってる。歌と激しい踊りが特徴なやつだ」
「聞いた事はあるけど、見た事無いわ!!見に行く!」
「そう来なくっちゃ!」
食事を済ませれば、南側にある劇場へと移動した。チケット売り場にはルッツが意気揚々と並びに行った。
「午後も私に付き合って大丈夫だった?」
シャルロッテが、フェルディナントを見上げながら聞けばにっこりと笑顔で返された。
「大丈夫だよ。むしろありがたいよ。アイツと一緒だと、だいたい同じルーティンでしか廻らないからね、シャルロッテ嬢が嫌でなければ、また俺たちの暇つぶしに付き合って、カールにもね」
そう言われてシャルロッテはホッとした。
しばらくすると、ルッツがチケットを持って戻って来た。一番後ろの席だったが真ん中に位置していたのでなかなか良い席だ。
フライヤメスは独特な踊りで、元々南西に位置する国が発祥の民族舞踊と音楽だ。踊り子のステップの音と楽器の音を融合させたもので、激しい踊りと曲調が特徴だ。シャルロッテはわくわくしながら舞台を見つめれば、綺麗な女性と男性が登場した。
舞台に上がる踊り子は男女で赤と白の花を手に持ち、女性は薔薇の花びらのような裾の長いドレスを足でさばきながら軽やかに踊り、男性は胸元までピッタリとした黒いズボンを身に着け大きなマントを翻しながら踊り、手拍子と共に鉄が仕込まれた靴でステップ踏みならせば曲と一体化して劇場を響かせた。
「男性も体の線が細いのね」
舞台に人が増えてきたが、男女ともに体が細い人ばかりだった、逆に楽団の人が太って見える程だ。領内の男性は皆筋肉質な人が多いのでシャルロッテには新鮮に見えた。
「フライヤメスを踊る男は、格好良く、体が細い事が最低条件なんだそうだ。ほら、腰から上は位置がぶれないだろう?あれが綺麗に見える様にする為に体を絞るんだよ。逆に体がぶれるのは未熟な踊り子だけだそうだよ。」
ほらっとルッツが指差した、端で踊る踊り子は確かにステップを踏むたびに体が左右に揺れていたが、それでも普通の人がステップを踏むよりは揺れてはいない。
「凄い。ルッツって何でも知ってるのね」
シャルロッテが関心して言えば、フェルディナントが笑い、こっそり耳打ちされた。
「シャルロッテ嬢、俺たちはルッツのデートの予行練習に付き合わされてるんですよ」
「あ〜そうだったのね」
「おい、ばらすなよ」
「聞こえてたか」
二人のやり取りにシャルロッテはまた笑った。楽しく観劇をしたあとは、ルッツの今度のデートプランを聞く事にした。
「で、ルッツのデートプラン的にはどこに行くの?」
「嬢!!」
顔を覆って恥ずかしい〜っと叫ぶルッツに笑いながらシャルロッテとフェルディナントが突く。
「やめろ、物理で突くな!!」
「で、何処に行くんだ?」
「公園で散歩予定だよっ」
「なるほど、観劇の後はゆっくりと感想を言いながら、ナチュラルに開放的な空間に連れていくと」
「おい、嬢の前でなんて事を」
「何か不味い事なの?」
シャルロッテが不思議そうに二人の会話に突っ込みを入れながらふと、何か気になって二人から視線を外した。
そこには、帽子を被った黒髪の青年が此方を見ていたのだが、なんだか見た事のある顔だった。
「あれ?」
シャルロッテと目が会うと、青年は慌ててその場を立ち去ったのだが、ルッツが素早く動いた。
「よう、少年どうした?」
そう言いながらも、しっかりと肩を掴んだ。帽子に手をかけかけて、ルッツが固まった様子に、シャルロッテとフェルディナントは顔を見合わせた。
「どうしたの?ルッツ」
シャルロッテが駆け寄れば、ルッツはガッツリと青年と肩を組んでいる様に見せかけて、しっかりと捕らえている様子に首を傾げた。
「嬢、どう思う?」
そう言って青年を見せるルッツにシャルロッテはちゃんと顔を見た。
「あっ・・・似てる」
顔立ちがとある人物に似てるのだ、しかも瞳は珍しい色合いを持っているのだが、本来ならこんな所に居るはずの無い人物だ。
「だろ?」
フェルディナントも顔を確認しながら眉間に皺を寄せながら答えた。
「本人っぽいな」
青年は、抵抗もせず無言を貫いている。
「・・・やっぱりそうなの?・・・王子」
シャルロッテの言葉に、やっと目線を泳がせた様子に、ルッツとフェルディナントは大きなため息をついて叫んだ。
「「あーーー」」
「バレたか」
小さく呟いたハイリンヒ王子にシャルロッテは思わず叫びそうになって口を抑えた。
フェルディナントは素早く周りを見渡し、王子の護衛が見当たらない様子にまた大きなため息をついて言った。
「とりあえず移動だ」
ルッツはハイリンヒの肩を捕まえたまま、移動することにした。辻馬車に乗り込み、とりあえず駅馬車の寮に向かう事にした。
馬車の中、フェルディナントが聞いた。
「で、とりあえずだ。あんた、護衛もつけずに何してんだ!?」
「えー観劇?」
小首をかしげながら笑顔で答えたハイリンヒにフェルディナントの顔は引きつらせた。その様子にシャルロッテは不味いっと思った。フェルディナントが怒っている時の顔だ。
「フェルディナント、落ち着いて。あの、王子は一人で来られてたんですか?」
「僕は王子じゃ無いからね、護衛なんていないんだよ?」
ニッコリと答えたハイリンヒに、今度はルッツの眉間にも皺が寄った。
シャルロッテがどうしようっと思っていると、頭の中でカールが囁いた。
「そうなんですね。・・・謹慎中の王子が居る分けないですもんね。ごめんなさい、余りにも王子に似ていたから。そうそう、カールがあまりにも心配していたので、これから王城に伺って王妃様に伝えようと思っていましたの、貴方がハイリンヒ様でないのなら王妃様にご紹介して良いかしら?」
ニッコリと微笑みながらシャルロッテが言うと、今度はハイリンヒが困った顔になった。
「・・・見逃してくれる様子は無い感じかな?」
「えぇ」
「駄目だろ」
「駄目だね」
三人の返答にハイリンヒは大きなため息をついた。
「あぁ〜あ。シャルロッテ嬢を見すぎたのがいけなかったか〜。こんなに可愛い花を見るなって言う方が無理だけどね」
そう言いながら、ウィンクしたハイリンヒにシャルロッテは頬を赤らめた。
「おい、うちの姫を口説くなよ」
ルッツがすかさず釘を指すと、ハイリンヒは小さく舌を出した。
「連絡つくまで俺たちの部屋に入れるか」
「だな」
「ぇーーせっかく抜け出して来たのに!!」
「「おい」」
「じゃー連絡がくるまで遊ぶのはどう?身だしなみ整えて、貴族風にする?騎士風にする?」
何処に行こう〜っと計画を立て始めたシャルロッテに、フェルディナントが頭を鷲掴みにして止めた。
「シャルロッテ嬢、ここは家に返す一択です。何、一緒に遊ぼうとしてるんですか」
「痛い〜!え〜だめ?私も王子と遊んで見たかったのに〜」
「俺もシャルロッテ嬢と遊びたい!!痛っ!!」
ハイリンヒが調子良く乗ろうとしてルッツから脇腹にパンチをくらっていた。
「ルッツ!」
シャルロッテの静止の声にルッツは小さく舌を出した。
「いてて、酷いな〜もう。家にかえっても暇だしさ。落ち着いて食事も出来ないんだよ、このままでは健康遊幼児な僕は餓死してしまう。だから食事を希望する!」
「つまり腹が好きすぎて外に食べにきたと」
真面目にうなづくハイリンヒに二人は呆れ、シャルロッテは首をかしげた。
「家にいるのに食べれないの?」
「ん〜まぁ、過保護な人たちが多いからね」
そう返したハイリンヒはちょっと困った顔をしながら返させてしまった。
「はぁ。ルッツ、お前のデーとプラン2は何だ?」
「え〜・・・プディットゥバルだけど」
「そこにするか」
フェルディナントはさっさと御者に行き先の変更を伝えた。




