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《婚約破棄―エンゲージブレイク―》はスキルじゃなくて呪いです!  作者: 空乃智春
最終章 婚約破棄の魔女と化物王の場合
41/44

41.白にこめられた想い

本日2話目です

 ジークの歩く方向に任せていたら、街の中心街に来ていました。

 てっきり店に帰るのかなと思っていたのですが、デートのようで嬉しいです。

 手を繋ぐどころか、私に関する記憶を失ったジークは横に並ぶことも滅多にしてはくれませんでした。


「ここ、入るぞ」

 ジークが立ち止まったのは、一軒の店の前です。

 庶民には敷居の高い、高級なアクセサリーショップでした。


「えっ、ここですか? って、ちょっとジーク!?」

 手を引かれるままに入れば、きらびやかな宝石達がお出迎えしてくれます。

 上品なお姉さんに挨拶され、つい固まってしまいました。


「好きなものを一つ選べ。ただし常に身につけるもので、白が使われているやつな」

「……買ってくれるんですか?」

「そうじゃなきゃ、連れてこない」


 淡々とジークは答えます。

 素っ気なくも見えますが、照れていることはわかりました。

 

 今のジークからプレゼントを貰うのは初めてです。

 しかもこんな本格的な……気分が浮き足立って、夢のような心地になります。


「アクセサリーを買ってもらうのは、初めてです!」

「そうなのか?」

 ジークは意外そうな顔をしました。


「昔の俺がプレゼントしなかったのか?」

「誕生日になると、ジークから毎年プレゼントは貰いましたけど、普段使うものばかりでしたね。ペンとか財布とか、そのとき私が必要としているものをくれました」


 ふと思い出すのは、そのプレゼントが全部『白色』だったということ。

 今のジークも『白色』を指定してきましたし、何か意味があるのかもしれません。


「ジーク、どうして白色限定なんですか? 昔のジークも、プレゼントは白い色のものばかりくれたんですけど」

「俺の国では白は花嫁の色だった。恋人に白色のアクセサリーを送るのは、お前を花嫁にしたいという意味なんだ。まぁ今は人間が住んでないから、消えた習慣だけどな」


「そういうことだったんですね。だから白色ばっかりだったんですか」

 プレゼントに込められた想いに気づけば、嬉しくなります。

 私が過去のジークを思い返しているのが気にくわないのでしょう。

 ジークは少し不機嫌になりました。


「アクセサリーは、まだ俺からもらったことないんだよな?」

「はい。普段身につけませんし、あの頃はおしゃれよりも実用性でしたからね。ジークもそれをわかっていたんだと思います」

「それなら、俺がはじめてってことだな」


 私が頷けば、ジークは機嫌を直してくれたようでした。

 張り合ったって、それも結局はジーク自身なのですが。

 こんな小さなことで喜んでいるジークが可愛いです。


 散々悩んで、白い石がついたネックレスをプレゼントしてもらいました。

 一目で気に入ったのですが、お値段が可愛くなくて悩んでいたら、ジークが有無をいわさずに買ってしまったのです。


「ありがとうございます、すごく嬉しいです」

「《婚約破棄エンゲージブレイク》のスキルが解除されるまで、《エンゲージ》を結ぶことはできないからな。その代わりだ」

 この世界の婚姻は、アベア神の元で管理されています。

 《エンゲージ》を結んで三カ月が経たないと、結婚することができませんでした。


 しかし、私には《婚約破棄》のスキルがあります。

 《エンゲージ》を結んだ瞬間、相手が私のことを嫌いになるという厄介な呪い。

 スキルを解かない限り、一生独身を貫くことが決定したようなものです。


 そう思っていたのですがよく考えてみれば、《エンゲージ》さえ結ばなければいいのです。

 そうすれば、相手の心は変わらないまま一緒に過ごすことができました。

 いわゆる事実婚というやつです。


「事実婚という手がありましたね。盲点でした!」

「絶対にお断りだ」

 いいところに気づいたと思ったのに、ジークに一刀両断されてしまいます。


「俺はクレイシアを、ちゃんと妻にしたいと思ってる」

「は、はい……」

 瞳を見ながら改めて言われます。

 これってプロポーズじゃないでしょうか。

 心臓がドキドキとするあまり、しおらしい返事になってしまいました。


「実は……この間の騒動で、一つスキル解除の方法を思いついてはいるんだ」

「どんな方法なんですか?」

 ジークが話を変えてくれたので、私もそれに乗っかります。

 なんとなく、むずむずとした空気に耐えられなかったのです。


「単純で簡単な方法だ。これなら、すぐにノルマが達成できる。うまくいけば一日でな」

 ジークは悪戯っぽく笑いました。



 ◆◇◆


 《婚約破棄エンゲージブレイク》のスキルを解除するには、他人の婚約破棄を成立させるか、誰かの仲を取り持って愛のある婚約を、合わせて百件成立させなければなりません。

 これがなかなか難しく、一年とちょっとでまだ半分もこなせていませんでした。


「スキル解除のノルマを、一日でこなせるんですか?」

 《婚約破棄の魔女エンゲージブレイカー》の店を始めて、こつこつとあげてきた成果を一日でと思うと、到底できるとは思えません。

 しかし、ジークは自信があるようでした。


「条件に合う奴らを一カ所に集めて、スキル解除のノルマを一気に稼げばいいんだ」

 ジークは簡単に言います。

 ですが、お店の周知だけでも、かなりの時間がかかりました。

 そう簡単に、特定の人達を集められるのでしょうか。


「俺達のターゲットは二通りだ」

 少なくともどちらか一方に愛がなく、別れたいと思っている婚約者同士。

 もう一つは、今はこじれてしまっているが、結婚までいく可能性があるカップル。


 婚約から結婚までいくか、婚約から婚約破棄までいくか。

 どちらかを満たせば、《婚約破棄》のスキルを解除するノルマとして数えられます。

 店では主に、後者をターゲットにしてきました。


「この方法では、前者をターゲットにする。つまり、これから結婚しようと思っている婚約者達に的を絞るんだ。前に三騎士の父親共が、賞金をかけて冒険者を募ったのを覚えているか?」


 情報を整理してから、ジークが私に問いかけてきます。

 ついこの間のことですし、もちろん覚えていました。


 ダンジョンを攻略し、囚われた三人の騎士を助け出した者に、賞金を与える。

 三騎士の親達は、冒険者の集まる場所にかたっぱしからお触れを出したのです。

 破格の賞金もあって、その噂はすぐに広まりました。

 多くの冒険者達が、男同士でダンジョン《ウェディングケーキ》に挑み、そして文字通り新たな扉を開いていったのです。


 しかし、ダンジョン内でできあがったカップルが、その後婚約から結婚に至っても、スキル解除のノルマには反映されないことになっていました。

 まぁ、それ以前の問題なんですけどね。


 結婚と離婚の神であり、アベア神の姉であるユリア神様。

 彼女はアベア神と違い、男色を許していません。

 なので、男同士の場合婚約はできても結婚することはできませんでした。

 そういえば、あそこで出来上がったカップル達は、今どうしているでしょうか。


 参加者特典のラブラブブレスレットは、互いの気持ちを近づけるアイテム。

 効果は三カ月ですが、積み重なった気持ちというのはそう消えないものです。

 彼らの行く先を考え……途中で考えるのをやめることにしました。



「賞金や豪華な賞品を用意したイベントを企画して、現在婚約中の奴らを集め、結婚式をあげさせる。それが俺の考えた方法だ」

 ジークが口にしたのは、単純で大胆な作戦でした。


「結婚資金を全て出して、一軒家をプレゼントすればそれなりに集まるはずだ。そうすることで、俺達がそいつらの結婚を後押ししたことになる。ノルマも達成できるってわけだ」


 確かにそれなら、ノルマはたやすく稼げそうです。

 しかし、現実的な問題がそこにはありました。


「お金をそんなに用意できるわけないじゃないですか! 残り七十三組あるんですよ!」

「それくらいの費用なら問題ない。俺は王だし、ヴェルフレイムを封印しているからと各国から金も貰っているんだ。使い道もなかったから、たんまりとある」


 さらりとジークは言い放ちます。

 つい忘れそうになるのですが、ジークは一国の王でした。

 というか、そんなにお金があるのに、どうして幼い頃の私に雇われてくれたのでしょうか。

 それが今でも謎で仕方ありません。


「狙うターゲットは、結婚をしたいと思っている婚約者達。お金がなくて結婚できない奴らが特に狙い目だな。ただ、俺やクレイシアが宣伝したところで、商品が魅力的でも、人はそれほど集まらないだろう」

 そこに関しても、ジークには案があるようでした。


「周辺国に、ヴェルフレイム王として事情を話し、協力を仰ごうと思う。クレイシアのスキルが解けなければ、俺は一生独身だってな。俺の結婚は奴らにとって関心事だ。よろこんで協力してくれるだろうよ」


 ジークに跡継ぎが生まれなければ、体内にいる魔王・ヴェルフレイムを封印する者がいなくなってしまいます。

 そうすれば魔王が復活して、世界は大変なことになるのです。

 周辺国の王は、協力をせざるを得ないでしょう。


 それ、脅しっていうのでは?

 そんなことを思いましたが、口にはしませんでした。


「確かにそれなら行ける気がしますけど……ズルをしている気になりますね?」

「スキル解除が早いか遅いかの違いだろ。どうせなら、早いほうがいい。そうだろ?」

 笑いかけてきたジークは、私と同じくあくどい顔をしていました。

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