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《婚約破棄―エンゲージブレイク―》はスキルじゃなくて呪いです!  作者: 空乃智春
最終章 婚約破棄の魔女と化物王の場合
40/44

40.妨害の裏には

前回のお正月に投稿できなかった分となります。

18時までには次話と投稿予定です。

「ジーク、また仕事の邪魔をしてどういうつもりなんですか! 最近多いですよね!?」

 人通りの路地に来たあたりで、ジークの手を振り払います。

 《変幻自在メタモルフォーゼ》を解けば、私の姿が巨乳美女から冴えないクレイシアへと戻ります。


 ここはいい加減、強く言っておかなくてはいけません。

 ジークを下から睨みつけます。


「仕事の邪魔なんてしてないだろ。むしろ効率よく婚約破棄できてるだろうが。前より件数も多くこなせてる」

 ジークには、全く反省の色が見えませんでした。


「確かにこなした件数は多いですよ。でも、私が相手を落としきる前にジークがしゃしゃり出てくるせいで、成功率も低いじゃないですか!!」

「……」

 叱りつければ、ジークの不機嫌は余計に増したようです。


「いいですか? 婚約破棄のお仕事には慎重さが大切なんです。事前によく依頼者とターゲットの身辺調査をして、《婚約破棄の魔女エンゲージブレイカー》の力が必要だと判断したら……」

「まどろっこしいんだよ。時間がかかりすぎる」


 確かにジークの言うとおりです。

 しかし、ここでひるんでいては、ジークが調子に乗るばかりでした。


「ですが、私がターゲットを引っかけ、ジークと依頼者がそれを盾に脅すのはどうかと。これじゃまるで悪徳業者の手口ですよ!」

「今までも割とそうだっただろうが」


 何を今更とジークが言ってきます。

 そんなふうに思っていたのかと怒りたいところですが、私にも自覚があったのでそこは言い返せませんでした。

 クズ男をサキュバスさん達の生け贄……もとい恋人にしてきた実績や、他にも色々やってきていますからね。


 ここは建前ではなく、本音を話し合うべきでしょう。

 私が今どういうことを考えているのか、伝える必要があると思いました。


「私はやっぱり、ジークのことが好きです」

「なっ!?」

 脈絡ない愛の告白に、ジークがうろたえます。


 貴重なものをみました。

 記憶に焼き付けておきたい表情です。

 しかし、今はそれに構ってはいられませんでした。


「今とか過去とか、そんなの関係なくジークが好きなんです。《婚約破棄》のスキルを解除して、いずれは婚約して、結婚もしたいんです。記憶を取り戻すとか関係なく、ジークとずっと一緒にいたいんです」


 ジークに包み隠さず、今思っていることを伝えます。

 だから仕事の邪魔はしないでくださいと最後に付け加えて、私はとんでもないことに気づきました。


 ――そもそも私達、付き合っているのでしょうか?

 独り言のような告白をうけて、キスまではしました。

 しかし、付き合おうと言われていません。


 そもそも世の中の男女は、どうやってお付き合いをはじめるのでしょう?

 もしかして、私は勘違いで暴走している痛い子なのではないでしょうか。

 付き合ってもいないのに、勝手に先のことを計画しているとか……相手にしてみればドン引きです。

 嫌な汗が、背中を伝いました。


「……」

 ジークは無言で、私から顔を逸らしてしまいます。


 とてもいたたまれません。この沈黙が苦しいです。

 今すぐ穴を掘って埋まりたい。この場から逃げ去りたい。

 私の恥ずかしさが最高潮に達したとき、ジークが口を開きました。


「そういうことなら、ちゃんと言え……バカ」

 ツンとした口調で、真っ赤になりながらジークは呟きます。


 最後のバカという言葉が、甘やかな響きを帯びていました。

 その声だけで、私がジークを好きなように、ジークも私を好きなんだと改めて気づかされました。


 なんだか照れくさくて、嬉しくなります。

 想いが一方通行じゃないというのは、こんなにも幸せなことだったのでしょうか。


「俺だって別に邪魔したくてしてたわけじゃない。クレイシアが男を誘惑するのが……気に入らなかっただけだ」

「いつもやってることじゃないですか。何を今更?」

 アベア神の神子として、ダンジョンに勤めていた頃からやっていることです。

 それに店をはじめてからも、日課のようにやっていました。

 ジークがどうしてそんなに渋っているのか、よくわからず首を傾げます。


「演技だと知ってても、好きな奴が他の男に媚びを売ってるのを見るとイライラするんだよ。それくらい分かれ」

 長い間、ジークはむすっとした顔で黙り込んでいました。

 それから舌打ちをし、吐き捨てます。


「もしかして、嫉妬……とか」

「うるさい。そうだったら悪いか!」

 確認すれば、ジークが真っ赤な顔で睨んできます。

 耳まで赤くて、照れているみたいでした。


 仕事の妨害は、やきもちだったんですね。

 そう気づけば幸福感に包まれます。

 比べるのはいけないと分かっていますが、今のジークは過去のジークよりも、大分やきもち焼きのようでした。

 それが嬉しくてしかたありません。


「にやにやするな。余計に恥ずかしくなる」

「仕方ないじゃないですか。嬉しいんですから」

 甘酸っぱい雰囲気に酔わされるように、ジークと距離を詰めます。

 そしたらジークは、半歩後ずさりました。


 少しもどかしくも思いますが、これが今の私とジークにぴったりの距離なのでしょう。

 これでも最初の頃と比べると、ジークも大分慣れてくれたと思います。

 ゆっくりと互いに歩み寄って、この距離を縮めていけばいい。

 そんなことを思いながら、私から手を繋ぎました。


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