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25.まいた種が実る頃に

「はぁ……どうしましょう……」

 依頼を受けた後、テーブルに突っ伏します。

 実を言いますと……第一騎士団の人達に、サキュバスさん達をけしかけたのは私なのです。

 


 サキュバスさん達は、厳つい顔をした二メートル級のおっさんですが、心は乙女。

 夢の中では美女の姿をしていますが、何故か現実世界に出てくるとおっさんの姿をしているのです。


 夢に生きる種族なので、彼女達は夢の中で男性と交わり、子供を産むことができます。

 ちなみに子供は夢の中で成長し、大人になると現実に出てくることができるようになるのですが、何故か現実に出てくるときの姿はおっさんです。 


 近しいものを感じるのか、彼女達はオカマであらせられるアベア神にとても懐いておりました。

 よくうちのダンジョンに遊びに来ては、振られたと愚痴を言いつつ、お菓子を食べて帰っていきます。



 事の起こりは一年前。

 あれは、ジークの記憶がなくなる直前のことでした。


 当時、第一騎士団のお三方は私の天敵でした。

 俺様系の俺様騎士、チャラいチャラ騎士、一見正統派な騎士っぽいエセ騎士。

 私は、勝手に彼らのことをそう呼んでいました。


 彼らは私が経営するダンジョン《ウェディングケーキ》のお得意様。

 毎度違う女の子とやってきては、ダンジョンの中で襲いかかってくるイベントを騎士の能力でさらりとこなし、女の子の好感度を上げていきます。


 彼らにとって、うちは女の子とのデートスポット。

 吊り橋効果を狙うことができ、ここに挑戦すること自体が彼女への愛の証明になる。

 しかも便利な宿屋がある、お手軽な場所だったのです。

 まさにゲーム感覚で、彼らは女の子を連れ込んでいました。


 騎士達を誘惑して、女の子との仲を裂こうとしても。

 手を読まれてしまっているので、引っかかりもしません。


 ――俺モテるからゴメンネ、君に気を持たせちゃって。

 でも今は、この子一筋だから。

 みたいな感じで、私までダシに使われる始末です。


「先週は他の女の子と来てましたよ、こいつ。超遊び人ですよ」

 あるときは写真付きで、真実を彼女にいったところで何の効果もありません。


 今はお前一筋だからとか、君しかいないよとか。

 奴らはワンパタなセリフで切り抜けてしまうのです。

 顎をクイっとしながら言われるだけで、女の子達は落ちます。


 皆、イケメン好きですか?

 中身クズでも、イケメンならなんでもいいんですかっ……!?


 こいつらが来るたび、敗北感に苛まれ。

 私は、やるせない気持ちになっておりました。


「あのとき、あなたが言ったのは本当だったのね。私……騙されていたわ」

 彼らにもてあそばれた女の子達が、真実に気づくころにはもうボロボロです。

 彼女達を慰めるたびに、クズ騎士共への殺意はめらめらと湧きました。


 二股三股当たり前。

 そんなクズ騎士共を打倒したい、被害者の会ができつつあったのです。


 うちのダンジョンは、本来そういう使い方をする場所じゃありません。

 愛を確かめあう、由緒あるダンジョンです。

 この三騎士を絶対にいつかぎゃふんと言わせてやると、私は心に誓っていました。



 ◆◇◆


「何そいつら、ホント女の敵じゃないの!」

 三騎士の事を話せば、たくましい肉体をフリルたっぷりのドレスで包んだサキュバスさん達が、テーブルをドンと叩きます。

 テーブルが真っ二つになることはありませんでしたが、お茶のカップが二センチは浮いて、カタカタと音を立てました。


「そいつらたぶん、本気で人を好きになったことがないのね。いつもゲーム感覚で女をつまみ食いしているんだわ! もう、許せない。愛はいつだって、真っ直ぐであるべきなのよ!」

「そうよ、そうよ!」


 私の仲良くさせてもらっているサキュバスさん達は、三姉妹です。

 長女の言葉に、次女と三女が同意して、拳を天高く突き上げました。


「それでサキュバスさん達にお願いがあるのですが……奴らをぎゃふんと言わせるのに、協力してもらえませんか? 三騎士を本気の恋に落として、こっぴどく振ってやってほしいのです」

 私と被害者の会の皆さんが言えば、サキュバス三姉妹がふっと笑みを浮かべます。


「いいわ。私達が恋に落として、それから絶望に叩き落としてあげる! いつも自分達が女の子にしてることの残酷さを、身をもってしればいいわ!」


 サキュバスさん達は快く引き受けてくれて。

 そして、決行したのです。



 夢魔であるサキュバスさん達は、人を眠らせることができます。

 三人の騎士を夢へと引きずり込み、デートをするときは夢の世界を現実だと思わせ。

 サキュバスさん達は、騎士達との距離を縮めていきました。


 半年経つ頃には、三騎士はすっかりダンジョンに来なくなりました。

 そして、一年が経過したつい最近のこと。

 サキュバス三姉妹が、私達をこっそりと夢の中へ招待してくれました。


 夢の中で、彼らがサキュバス三姉妹を見つめる瞳は、甘く蕩けきっていて。

 誰がどう見ても、べた惚れの状態でした。



「そろそろ頃合いではありませんか?」

 当初の予定では、サキュバス三姉妹に三騎士を落としてもらい、被害者の会の前で種明かしをする予定でした。

 しかし、サキュバス三姉妹は首を横に振りました。


「私達、彼らを気に入っちゃったの。このままいただくっていうのは……ダメかしら。婚約まで結んでしまえばこっちのものだし、もう二度と誰かに手を出したりしないよう、首輪はしっかりしておくから」


 サキュバス三姉妹の顔は、まさにハンターでした。

 種明かしをして、人前で恥をかかされるほうが、三騎士にとってまだマシだったのではないでしょうか。


 彼らは、もう――逃げられない。

 そう気づいた私と被害者の会のメンバーは、ぐっと親指を立てました。


「結婚式には呼んでくださいね!」

「全然いいわよ! あいつらが涙流すのを見るの楽しみだわ! 婚約したら祝杯をあげましょう!」

 満面の笑みで私と被害者の会のメンバーは、サキュバス三姉妹を祝福しました。


 サキュバス三姉妹は、婚約を結ぶ瞬間だけ三騎士を強制的に現実へと戻し。

 その瞬間だけ灯りを落とすことによって、現実で《婚約》結ばせることに成功したそうです。

 皆で婚約の報告を魚に祝杯をあげたのは、確か三週間ほど前だったと記憶しています。



 つまりは……私がまいた種でもあるわけで。

 多少やりすぎたかなと、三騎士に同情する気持ちもあるのです。


「王妃様の依頼ですしね……」

 私はサキュバス三姉妹と会うことにしました。

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