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《婚約破棄―エンゲージブレイク―》はスキルじゃなくて呪いです!  作者: 空乃智春
プロローグ 私が《婚約破棄の魔女》になるまで
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2.ダンジョン名は《ウェディングケーキ》です

 私、クレイシア・ウォルコットは、貧乏貴族の娘でした。

 貧乏でしたが子だくさん。

 それでいて、家族は皆仲がよかったです。


 父は、威厳があるというよりも皆をまとめるリーダーといった感じでした。

 領土はそれなりに平和で、のんびりとした暮らしがそこにあったのです。


 令嬢自ら畑を耕して、穀物を取る。

 そしてダンジョンに潜り、やってくる冒険者相手に金を稼ぐ。

 貴族としては珍しい生活を送っておりました。



●●●●●●●●●●●●


 世界には、神様が作ったダンジョンが数多く存在しております。

 ダンジョンには神様ごとに特色があり、それをクリアしたものには、神様の加護――《スキル》が与えられることになっていました。


 私達の領土には、恋愛と婚約を司る愛の神・アベア神がお作りになられたダンジョンがありました。

 結婚式の時に、夫婦が力を合わせて切るケーキにも似た白い塔。

 通称・《ウェディングケーキ》と呼ばれるダンジョンです。


 アベア神は『愛』が大好きで、各地にダンジョンを立てておりました。

 アベア神がお作りになったダンジョンの多くは、どれもカップルや婚約者同士、もしくは夫婦でしか入ることができません。

 お一人様だと、入り口で弾かれてしまいます。


 まぁ……例え一人で入れたとしても、ダンジョンの中に溢れるラブラブオーラに当てられて、帰りたくなること請け合いです。

 えぇ、もう本当にむなしくなります。

 恋人のふりをした従者と、何度も一緒に入った私がいうのだから、間違いはありません。


 私達の一族は、領主でありながら塔の管理者――神子でした。

 アベア神の意志をくみ取り、塔を運営するのがお仕事です。


 しかし、どうして神子である私達まで、カップルで入らなくてはならないのか。

 そのシステム周りを、アベア神はもう少し考えたほうがいいと思います。

 それを母様に言えば、その理由を苦笑いで答えてくれました。


「このダンジョンは、愛を確かめるためのものでしょう? そこら中で挑戦者達が、人目を気にせず愛を確認しちゃうものだから……お相手のいない純真無垢な子供がこの塔に入って、ピンクな光景にショックを受けないための処置なんじゃないかしら」


 このダンジョンに挑戦しにくるのは、我こそはという常春な頭をした方々です。

 あっちでちゅっちゅ、こっちでベタベタ。

 時には――【自主規制】。


 本当お前らは何をしにきたのかと正座させたいところですが、ここは愛の神の仕切る塔なので、彼らの方が正しいという現実がやりきれないです。

 アベア神は、そういうのも大好物でむしろ推奨してやがります。


 この神様ときたら本当クズだな……なんて。

 神子である私は思っていても、ときどきしか口には出しません。


 ちなみに、ダンジョンでは二人で力を合わせないと、乗り越えられない試練ばかりが襲ってきます。

 命を奪われるかもしれない。そうヒヤリとさせられる罠はありますが、結局危険なものは何一つありません。

 なぜならアベア神の目的は『愛』を試すことであり、命を奪うことではないからです。


 アベア神が見たいのは、試練を乗り越えられず散っていく多くの『愛』。

 そして、試練を乗り越えた先にある――究極の『愛』なのです。


 このダンジョン《ウェディングケーキ》は、私が尽力したこともあり大盛況でした。

 他のアベア神のダンジョンに比べ、難度はかなり高めに設定してあります。

 こういうものは、障害が多いほど燃えるもの。

 我こそはという奴らを狙ってのことです。

 

 それと大盛況な原因はもう一つ。

 中に休憩所と称した、カップルでいちゃいちゃできる迷惑なスペースをたくさん用意したのが原因です。


 要望が多かったので、挑戦者増加に繋がるんじゃないかと、私は思いました。

 その予想は的中。

 これはいいと思った私は、少々やりすぎてしまいました。

 色々なシチュエーションでお楽しみくださいとばかりに、温泉まで作って宿を用意してしまったので、一泊していく方々が後を絶ちません。


 ちなみにぐちゃぐちゃになったシーツのお洗濯は、姉様達と交代でやっていました。

 いっそ、シーツごと燃えればいいのにと何度思ったことか。

 通常の相場の三倍に値段を設定しても、皆様がじゃんじゃんご利用してくださるおかげで、商売繁盛なのはいいことですが。



 しかし、そんなぼったくりの愛の宿も、アベア神にかかれば全てが『愛』を試すための布石になります。

 最高に高まった愛が壊れるその一瞬は――芸術のように美しい。

 アベア神は、そうお考えでした。


 アベア神は愛の神様ですので、全ての『愛』を心より愛しておられます。

 試練を乗り越えられず、壊れていく『愛』達も慈愛たっぷりに、それはそれはよい笑顔で親指を立てながら見つめておられるのです。


 まこと懐というか、業の深い神様だなと私はいつも感心しております。

 ですが、尊敬は一切しておりません。

 

 それでいてこのダンジョン、塔の最上階まで行ってもスキルはもらえません。

 《安産祈願》や《夫婦円満》の祝福が、がんばったね賞といった形でもらえるくらいです。



 なぜなら塔は、ダンジョンの表部分にすぎないのです。

 この《ウェディングケーキ》には、隠された地下の裏ダンジョンがありました。

 植物が地下に丈の何倍もある根を張り巡らせるように、地下のほうが表のダンジョンよりもディープで、本来のメインだったのです。


 アベア神は有名な神様です。

 愛の神といいますと、多くの人々は慈愛たっぷりに全てのものに愛を注ぐ、優しい聖母のような女神様を想像しがちです。

 しかし、ここまででよく分かっていただけたとおり、アベア神はそんなお綺麗な神様ではございません。

 

 不倫どろどろの愛憎劇や、三角関係の泥沼――そういうものを手を叩いて喜ぶ、迷惑な破局の神でもあったのです。


 アベア神曰く、最初からハッピーエンドの観劇がつまらないのと一緒で、山あり谷ありな恋愛が一番とのことです。

 そこから生まれる負の感情にまみれた『愛』も、アベア神は肯定し、そしてこのうえなく好んでおりました。


 表のダンジョンとは違い、地下のダンジョンはお一人様推奨。

 アベア神の裏の顔全開で、与えられるスキルもその恩恵にあずかったえげつないものだと言い伝えられておりました。


 万が一、裏のダンジョンの存在を知り、挑戦する者が現れたときは――行く末を見守る。

 ダンジョン管理を任されていた私達の家は、そういう役割も持っていたのです。


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