表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《婚約破棄―エンゲージブレイク―》はスキルじゃなくて呪いです!  作者: 空乃智春
プロローグ 私が《婚約破棄の魔女》になるまで
17/44

17.《婚約破棄の魔女》はじめました

「むぅ……後八十五回も依頼をこなさなくちゃいけないのですね!」

「こればかりは、コツコツやっていくしかないな」

 机に突っ伏した私を、ティファニーが慰めてくれます。

 

 愛のある婚約を成就させる、もしくは愛のない婚約破棄をあわせて百件成立させないことには、私のスキル《婚約破棄》は無くなってくれません。

 色々考えた結果、私は婚約破棄を請け負う仕事をすることにしました。


 婚約破棄専門店――《婚約破棄の魔女エンゲージブレイカー》。

 王都の、貴族御用達のお店がひしめく繁華街。

 その端の端にある、目立たない小さな店が、今の私がいる場所です。



 普通の人なら、人の婚約を破棄するお仕事よりは、くっつけるお仕事のほうを断然選ぶことでしょう。

 そのほうが感謝されますし、良心が痛みません。


 しかし、『愛のある婚約』の成就の場合、ゴールは結婚するまでです。

 愛し合う二人を婚約まで持っていったとして、結婚まで持ち込まないと件数にカウントされません。しかも、離婚すれば件数から引かれてしまうようでした。


 件数を第一に考えるなら、『愛のない婚約を破棄』したほうがいい。

 その結論に私が思い至るまで、時間はかかりませんでした。


 私には、《ウェディングケーキ》の経営で培った経験があります。

 カップルの仲を引き裂くなら得意分野です。

 それに、このスキル――《婚約破棄エンゲージブレイク》だってありました。


 そうと決まれば、すぐに行動です。

 ターゲットは、望まない婚約を結ばされて困っている人。

 貴族なら家同士の決めた婚約が多く、私を必要としてくれる人がいるはず。

 そう見込んで、貴族が多い王都に店を構えることにしました。

 

 しかし、店を構えてしばらくは、誰もきてくれませんでした。

 出世払いする予定だったジークのお給料を切り崩し、ムリをして店舗を一つ借りたというのに、これで大丈夫なんでしょうか。

 そんな不安で、毎日胸の中はいっぱいでした。

 しかし、今では口コミで噂が広がり、こうやってどうにかやっていけています。

 

「それにしても今回はとてもうまくいきました。婚約破棄もそうですが、レベッカさんと幼なじみのジゼルさんが結婚すれば、さらにもう一歩スキル解除に近づきますしね! これで今月の家賃もどうにか支払えそうです!」


 小さな店ですが、王都のいい場所にあるのでなかなかにキツイものがありました。

 現在私は十九歳で、あと三年後にはジークに今までのお給料十年分を支払わなくてはなりません。

 その摘み立ても考えると、もう少し儲けておきたいところでした。


 いや……まぁ、第一の目的はスキル解除なのですけれどね。

 悲しいことに先立つものがなければ、何もできないのです。


 最初は無料で婚約破棄をしますよというのも、私は考えていました。

 しかし、こういう仕事で大切なのは――信頼とそれっぽさです。

 安い値段設定だと怪しすぎて、余計に誰も利用したがりません。本当に婚約破棄してくれるのかと、疑われる恐れがありました。

 なので私は、あえてよいお値段を依頼者から貰うことにしていました。


 別に私ががめついとか、守銭奴とか……そういうわけでは決してありません。

 幼い頃から帳簿をしっかりつけ、お金の計算もお金も大好きですが、これはダンジョンを経営する神子として当たり前のことです。

 


「今回の仕事はこれで終わりだろ。俺はもう行くぞ」

 お金を数えていたら、ジークが店を出て行こうとします。


「まだいいじゃないですか、ジーク! 折角ですし、一緒にステーキでも食べに行きませんか! ようやくこの案件が終わったことですし、おごりますよ!」

「おごる前に俺の給料を前払いしろよ。それに、面倒だから嫌だ」

 誘ったのに、ジークはつれないことを言います。



 ジークが私の記憶を失ってしまって、もうすぐ丸一年。

 その距離は……なかなか縮まってくれません。

 辛うじてジークが私の側にいるのは、従者の契約があるからでした。


 十二歳の私は、十年の労働契約書を作り、そこにジークのサインを貰っていました。

 しかも、約束事を司る神に誓った本格的なものです。

 その契約書があるから仕方なくといった感じで、ジークは私につきあってくれていました。

 ですが、どうにも事務的で……仕事が終わるとさっさと帰ってしまうのです。

 

 ジークは、全く懐かない猫のようでした。

 初めて出会ったときですら、こんな冷たい態度をとられたことはありません。

 この温度差は思っていた以上にキツイものがあります。

 結局、私の誘いを断り、ジークは店を出ていってしまいました。


「どうしてジークはこんなにも頑ななんですか……ティファニー。《婚約破棄》のスキルを解除できても、ジークが私を好きになってくれなきゃ……記憶は戻らないのに」

「あぁ……それは、仕方ないと思うんだ」

 落ち込んだ私に、ティファニーが言いにくそうに答えます。


「ジークは、私……ヴェルフレイムを自分の子供、つまり次の世代へ託したいと考えている。そうしないとそのうち封印が解けて、私はまた穢れに飲み込まれてしまうからな。けど、あいつはそもそも……酷い女嫌いというか、人嫌いなんだ」


 お茶でも飲みながら話さないかと、ティファニーが誘ってきます。

 わかりましたと頷いて、私はスコーンと温かい紅茶を用意しました。


次回は7月26日火曜日投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ