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《婚約破棄―エンゲージブレイク―》はスキルじゃなくて呪いです!  作者: 空乃智春
プロローグ 私が《婚約破棄の魔女》になるまで
16/44

16.祝福と呪いと

「騙されるなクレイシア。まだ、希望は残っている!」

 アベア神にそっと抱き寄せられ、落ち込んでいたら声がしました。

 聞き覚えのない男の人の声です。

 印象からすると、二十代後半から三十代くらいでしょうか。

 耳障りがよく、少々色気を孕んだとてもいい声をしています。


 きょろきょろとあたりを見渡しましたが、人影はありません。

 そもそもここはアベア神の裏ダンジョンです。

 そう簡単に、人が入ってこれる場所ではありませんでした。


「ここだ、ここ。足下だ!」

 ちょんちょんとふくらはぎを突かれ、下へと視線を向けます。

 そこにはティファニーがいました。


「……ティファニー?」

「ジークの拘束が解けて急いで飛んできたんだが……間に合わなかったみたいだな。すまない」

 名前を呼んだ私に頷き、ティファニーが私をアベア神から守るように二本足で立ちました。


「だが、せめて私にできることをしよう。お前の思い通りにはさせないぞ、アベア!」

 キッとアベア神を睨み、ティファニーがひづめをつきつけます。

 どうやらこの腰にくるようなボイスは、ティファニーから発せられているようでした。


 声と言葉にだけ注目すれば、ピンチを救いに来たヒーローですが、いまいち格好がつかないのはその見た目のせいでしょう。

 アベア神から私を庇うように二本足で立つと、そのひづめを突きつけました。


「真に思い合う二人には、祝福を持って見守るのが愛の神。それを引き裂こうとするのは、本来の在り方に反するはずだ! さすがにそれは卑怯じゃあないか? アベア!」

「うるさいわねぇ、ヴェルフレイム! 神である前に、あたしはクレイシアちゃんの友人なの! 苦労するのがわかってて、あんたらなんかに渡す訳ないでしょうが!!」

「友人なら友人らしく、恋路を応援するべきだろう!」


 目の前で、アベア神とティファニーが言い合いを始めます。

 喧嘩するオカマとブタ。

 それは、とても妙な光景でした。



「ようやくジークが見つけた幸せなんだ。それを壊すことは、誰にも許さない。それにクレイシアをあの子から奪えば、この世界がどうなるかわからないぞ?」

「それは……脅しかしら? 残念なことに、あたしってばクレイシアちゃん以外の人間はどうでもいいのよ」

 ティファニーが不敵に笑えば、アベア神が眉をひそめます。


「ジークの負の感情は、私に直接届き作用する。記憶を無くしても、何か大切なものを失ったことくらいはわかるからな。今のジークの感情は荒れ放題で、封印を解こうと思えば……私は元の姿に戻ることができる。この神殿を破壊されたいか?」

「そっちこそ、あたしに喧嘩を売るなんて……焼き豚にされたいのかしら?」

 ティファニーの首根っこを、アベア神が掴んで持ち上げます。


「生ぬるい炎で私が焼けると思うなよ? 逆に焼きオカマにしてくれるわ!」

 じたばたと短い手足を振り、ティファニーが言います。

 しかし、虚勢を張っているようにしか聞こえませんでした。


 アベア神が、ティファニーをその場に投げ捨てます。

 ころころと転がり回転が止まれば、ティファニーはびしっとポーズを取りました。

 まるで、今のはわざと転がったんだと言わんばかりです。

 立ち上がると、仕切り直しだというように服を整え、咳払いします。


「……スキルには大きくわけて二種類ある。純粋な願いのスキルと、代価を支払う必要のある呪いのスキル。前者では叶えられない願いを後者は叶えることができるが、その代償は大きい。《婚約破棄エンゲージブレイク》は後者だ」

 後ろで手を組んで、まるでどこかの博士のようにティファニーが語り出します。


「大きな代償を払って、呪いのスキルを受けたとしても。その呪いを解く方法は、かならず存在している。なぜなら、神は基本的に人間に対して甘いからだ。そうだろう、アベア?」

「ちっ」

 アベア神のその様子からすると、それは図星のようでした。


「《婚約破棄》のスキルを解除する条件を言え、アベア。聞かれたら答えなければいけない義務があるはずだ」

「これだから同じ神は厄介なのよね……いいわ。教えてあげる」

 ティファニーに指摘されて、アベア神が溜息を吐きます。


「《婚約破棄》のスキルを解除する方法は、愛のない他人の婚約を百件解除すること。もしくは愛のある婚約を百件成立させること。あぁ、もちろんあわせて百件ってことよ?」

「百か……多いな。まぁ、一ヵ月に一件成功させれば、五年で解除できるな!」

 アベア神の提示した条件を聞いて、ティファニーが私を振り返ります。


「あんた相変わらずバカね。その計算だと八年と四ヵ月はかかるわよ」

「う、うるさい! 少し計算を間違えただけだ!」

 アベア神からツッコミを受けたティファニーは、顔が真っ赤でした。


「クレイシアはどうしたい?」

 ティファニーが私を見上げてきます。

 心はもう決まっていました。


 このままでは嫌です。

 ジークに忘れ去られたままなんてゴメンですし、耐えられません。

 何より私は、ちゃんとジークに『好き』だと言えていませんでした。



 ジークに好きと……伝えたい。



 相手を見ずに婚約から逃げて、間違って。

 傷つけて、たくさんすれ違って。

 ようやく誤解がとけて、気持ちに気づいたのに――こんなのってありません。


「私はジークに、好きって……ちゃんと言いたいです。だから、この呪い……必ず解いてみせます!」

 そう強く、私は誓ったのでした。

 

ちなみに、ティファニーが一人でもダンジョンに入って来られたのは、ジークと入れ違いだったからです。

ダンジョン的には、ジークとティファニーは同一人物でカウントされます。

ようやくプロローグ終わりましたので、次回からは本編ですが、少々休憩を挟むため、明日はお休みします。すみません。

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