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《婚約破棄―エンゲージブレイク―》はスキルじゃなくて呪いです!  作者: 空乃智春
プロローグ 私が《婚約破棄の魔女》になるまで
13/44

13.傷口に塩をふりかける所業です

 ティファニーが去って三十分もしないうちに、来客を知らせるベルが鳴りました。

 てっきり戻ってきたのかと思ってドアを開ければ、そこにはジークがいました。


「ジーク……久しぶ」

「シア、お前……まさかとは思うが、ヴェルフレイムが誰か気づいてないのか!?」

 挨拶しかけた私の肩を掴み、ジークが凄い剣幕で尋ねてきます。


「誰って、どういうことです」

「……ヴェルフレイムの顔は見たよな。俺に似てなかったか?」

「確かにジークと同じ黒髪でしたけど、涙で滲んでよく顔までは見ていないのです。目があうと食べられてしまうとファウストに散々脅されたので、怖くて直視できませんでした」

 答えれば、ジークはその場で頭を抱えてしゃがみこんでしまいました。


「嘘だろ。あれで気づいてないなんて……」

「一体なんのことです?」

 悲痛な声をジークはあげましたが、こっちにはさっぱりわけがわかりません。



「……なぁ、シア。一つ、どうしても確認したいことがあるんだが」

「な、なんですか?」

 立ち上がったジークが、私に一歩近づきます。

 話し出すのを待っているのに、ジークは何故か黙ったままです。

 何か思い悩んでいるように見えました。


「もし、俺が……ヴェルフレイムだったら、シアは婚約を破棄したか?」

 少し怖がるような声で、ジークは私を見つめてきます。


「何ですかその質問」

「いいから答えろ」

 ジークは真剣な顔で尋ねてきます。


「破棄なんてせずに、婚約をそのまま受けたと思いますよ」

「シア……!」

 考えるまでもなく答えれば、ジークは顔を綻ばせました。


「ジークなら怖くありませんし、私のピンチに助けてくれたんだなと婚約の理由がわかります。契約の形は少々変わりますが、これまでどおりですしね!」

「……」

 何か私は変なことを言ったのでしょうか。

 先ほどまで笑っていたジークの眉間に皺が寄りました。



「おい、シア。お前、肝心なことわかってないだろ」

「肝心なこと? 何か見落としていることがあるのですか?」

 怒った声で言われましたが、何のことを指しているのかが、よくわかりません。

 首を傾げれば、ジークが焦れたように私との距離をつめました。


「本当、お前は鈍感なんだな。言わなきゃわかんないのかよ」

「何も言わずにわかってくれというほうが、おかしいと思うのですが」

 私の返しに、ジークがうっと声を詰まらせます。


「とにかくだ。お前の状況はティファニーから聞いた。アベアのとこへ行って、この馬鹿げたスキルをどうにかするぞ」

 ジークがそう言って、私の手を掴みました。

 その手の甲に《エンゲージ》の証がないことに気づき、はっとします。



「ジーク、お相手と婚約を解消したのですか!?」

「お前なぁ……」

 つい口に出せば、ジークが恨みがましく睨んできます。

 この様子だと、お相手に破棄されたのかもしれません。

 デリケートなところなのに、気を使うべきでした。


「大丈夫ですよ、ジーク。私とお揃いです!」

「何の慰めにもなってないうえ、傷口に塩を塗りこまれてる気分だ」

 ジークはがっくりきているようです。

 こんなことを言ってはいけないとわかっていますが、少しほっとしている自分がいました。


「婚約がダメになったということは、まだしばらく私の従者でいてくれるんですよね?」

「……シアが望むならな」

 尋ねればジークが頷いてくれます。


「なんでにやけてるんだ」

「すみません。ジークがふられたのに、喜んじゃいけないとは分かってるんですが……まだ一緒にいていいんだなって思ったら、嬉しくて」


 ここのところずっとジークとギスギスしていましたが、いつもの日常が戻ってきたみたいです。

 自分で思っていた以上に、ジークの婚約が堪えていたようでした。

 緩んだ私の頬を、ジークがつねってきます。


「いひゃい! 何するんですか!」

「……うるさい。どれもこれもお前が悪いんだからな! ほら、行くぞ!」

 ジークが私の頬をつねってくるときは、大抵照れ隠しです。

 ジークも私と同じように思ってくれてるような気がして、何だか嬉しくなりました。

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