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《婚約破棄―エンゲージブレイク―》はスキルじゃなくて呪いです!  作者: 空乃智春
プロローグ 私が《婚約破棄の魔女》になるまで
11/44

11.婚約破棄は突然に

 スキルを手に入れたら、あとは婚約破棄するだけです。

 なのに、ジークのことが小骨のように引っかかって、そのことばかりを考えてしまいます。

 それを振り払い、ヴェルフレイム様へと手紙を送ります。

 会いたい旨を書けば、すぐに手紙が来ました。


「ぷぎー! ぷ、ぷぎ?」

 何故か手紙を持ってきたのは、城からの使者ではなくジークのペットであるティファニーでした。

 心配そうな感じで、小首を傾げています。


「これはヴェルフレイム様からのお手紙ですよ、ティファニー」

「ぷぎ」

 手紙が何か知りたいのかなと思って言えば、それは知っているとばかりにティファニーが頷きます。持ってきたのはティファニーなので、送り主も知っていたようです。


「どうしてこれをティファニーが持ってきたのです?」

「ぷぎ、ぷぎぃ!」

 大きく手を広げ、何かを表現しているようですがさっぱりです。

 伝わらないと思ったのか、ティファニーは諦めたように肩を落として首を振りました。

 この問題は置いといてというように、手を動かします。


「ぷぷ、ぷぎー! ぷぷぎ?」

 手で釣り目をつくり、偉そうに腕組みして。

 横に移動してくねっと可愛い動作をし、それからバタバタと手を動かします。


「ジークと喧嘩したのかと聞きたいのですか?」

「ぷぎっ!」

 たぶん最初のはジークで、次のは私を表しているつもりなんでしょう。

 当たっていたようで、ティファニーが頷きます。


「ちょっと、いいえ……かなり大きな喧嘩をしてしまいました。何がジークを怒らせたのかも、私にはよくわからないのです」

 力なくティファニーに笑いながら、手紙の封を切ります。

 中にはヴェルフレイム様からのお返事がありました。


 ――わざわざ、堅苦しい手紙をありがとう。

 そんなに会いたければ、俺のほうから会いに行こう婚約者殿。


 手紙には思いの外汚い字で、そう殴り書きされていました。

 指定された日時まで、あともう少ししかありません。


「大変です! そ、粗相がないようにしなければっ!」

 ザッと青ざめます。

 私が出向くつもりだったので、お迎えの準備はしていませんでした。


 こんな時に限って、父様も姉妹達も留守です。

 急いで来客用のドレスに着替え、お茶やお菓子を用意しました。

 使用人がいればいいのですが、そんな者を雇うお金はうちにありません。

 しばらくして来客を告げるベルが鳴り、ドキドキとしながらヴェルフレイム様を迎え入れます。


「い、いらっしゃいませヴェルフレイム様。ようこそ、我が家へ」

 頭を下げれば、ヴェルフレイム様の足下が見えます。

 金の縁取りがある高級そうな黒のブーツに、黒のマントが見えました。

 これからすることの大きさと、目の前にヴェルフレイム様がいると思えば、顔をあげるのにも勇気がいります。

 

「……別に中に入る気はない。お前との婚約を破棄してやるよ」

「えっ!?」


 まだ私は、ヴェルフレイム様に好きと言っていません。

 スキルは発動していないはずです。

 驚いてヴェルフレイム様を見れば、すでに私へ背を向けていました。


 パリン、と薄いガラスが弾けたような音。

 左手の甲が一瞬熱くなって、それから熱が引いていきます。

 そこを見ればもう《エンゲージ》の証はありませんでした。


「俺との婚約を破棄したかったんだろ? そのスキルを使って、俺の気持ちまで変えられるのは……耐え難いからな」

 どうしてかは知りませんが、ヴェルフレイム様は私が《婚約破棄エンゲージブレイク》のスキルを手に入れたことを知っているようでした。


 ヴェルフレイム様の声は軽蔑するように冷たく。

 それでいて、傷ついているとわかる声でした。

 自分が大きな間違いを犯してしまったんだと、そこでようやく気づきます。


 ヴェルフレイム様は、私を本当に好きで……求婚してくれていたのです。

 私はヴェルフレイム様が気まぐれで婚約を言い出したのだと、ずっと思っていました。


 この間、城で会ったのが初対面です。

 私を好きになる時間なんてなかったはずですし、誰かから好かれるような性格をしているわけでもありません。

 だから、ヴェルフレイム様が私を好きだというところまで、考えが及んでいませんでした。


 ――本気でヴェルフレイム様は、私を好いていてくれた。

 それを知れば、自分の身勝手さに愕然とします。

 相手の『好き』という気持ちを素直に受け取らず、あろうことか私はねじ曲げようとしていたのです。

 

 私は、自分が嫌々をするだけで、ヴェルフレイム様のことを知ろうともしなかった。

 化け物王と呼ばれる彼は、幼い頃からずっと私の恐怖の対象でした。

 婚約というより生け贄に捧げられたような気持ちで、相手が見えていなかったのです。


 ヴェルフレイム様は困っている私達の領土だけでなく、国全体に支援をしてくれました。

 その好意も、私は枷のように感じていました。

 周りから固められていくような気がして、私の気持ちを置き去りにしているように思えていたのです。


 たとえいきなりの婚約でも、もっと歩み寄るべきでした。

 どうしてそこまでしてくれるのか、その理由を知ろうとするべきでした。

 相手のことを知りもしないで、傷つけて。

 私は――最低です。


「ぷぎっ!? ぷぎっ、ぷぎぎぃっ!」

「うるさい、黙れ。帰るぞティファニー」

 ティファニーが動揺した声を出して、ヴェルフレイム様の足下にまとわりつきます。

 ヴェルフレイム様はそんなティファニーをつまみ上げ、馬の上に放りました。


「ヴェルフレイム様……!」

 その後ろ姿に、私は何を言おうとしたのでしょう。

 自分が彼を傷つけたのに。

 後味の悪さと後悔しか――胸にないというのに。


 何も言わず、後ろも振り返らず。

 ヴェルフレイム様は馬へと跨がって、去っていってしまいました。

  

7/16 脱字等の微修正をしました。内容に変更はありません。

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