表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

佳純と佑樹

「ねえねえ。今度の日曜日って休み?」

『はあ?何だよ、突然。』

「あれ?佑樹(ゆうき)だよね?番号、変わってる?」

『いや、そうだけど。だから・・・・・・』

「あたし、あたし。佳純(かすみ)だよ。もしかして忘れてる?」

『いや、それは分かってっけど、だから、そうじゃなくて。』

「あー、良かった。違う人にかけちゃったのかと思ったよ。」

『いや、だから、話聞けって!』

「聞いてるよ。日曜日は休みかって。」

『いや、だから、そうじゃねえよ!』

「ん?なに?」

「だからさ、日曜日とかじゃなくて、それよりも前にもっと言うことがあるだろうが。」

「前に?」

『そう。例えば、「久しぶり」とか。』

「あ、そっか。久しぶり。」

『「元気?」とかさ。大学卒業して2年経ってて、それ以来会ってないのに、いきなり「日曜日、空いてる?」って、それはないだろ。』

「あはは、そうだね。」

『「そうだね。」じゃねえよ。全く。・・・・・・相変わらずだな、佳純は。元気そうでなによりだ。』

「うん。あたしは元気だよ。元気しか取り柄ないって言ったの、佑樹じゃん。」

『そんなこと、言ったか?俺。』

「うん、言ったよ。」

『・・・・・・忘れたよ。そんなこと。』

「忘れっぽいんだから。」

『2年以上も前のことを、覚えてねえよ。』

「あたしのことも、忘れてるんじゃないかって思ったよ。」

『そんなわけあるか。例え、俺が忘れっぽいヤツだとしても、佳純のことを忘れるわけないじゃん。』

「やーん。それって、あたしのことをそんなに気にかけてくれてたから?」

『違うわ!』

「えー。違うの?」

『大学の時、どれだけ俺に迷惑かけたのか、忘れたのかよ。』

「え?そんなこと、あったっけ?」

『「あったっけ?」じゃねえよ。・・・・・・全く。』

「今みたいに、そうやって笑ってくれたから、迷惑かけてるなんて思ってなかったよ。」

『まあ、それが佳純だもんな。』

「・・・・・・褒めて、ないよね?それって。」

『褒めてないな。』

「ひどーい。笑いながら言うなんて。」

『分かった、分かった。』

「もう!」

『で、日曜日な。良いけど、何?』

「うん。一緒に行って欲しいところがあるんだ。」

「行って欲しいところ?どこだよ。』

「それは、日曜日のお楽しみ。じゃあ、日曜日の10時に、S駅の銅像前ね。」

『分かった。10時な。』

「遅れないでよ。」

『それは俺の台詞だ。』

「大丈夫、大丈夫。これでも社会人なんだから。」

『佳純がきちんと社会人として出来ているってのが、都市伝説に近いがな。』

「もう!ひどい!」

『むくれんなよ。んじゃ、日曜日な』

「うん、じゃあね。」


「・・・・・・遅いな。もう10時半回ったのに。佳純のヤツ。」

「ごめーん!佑樹。待った?」

「待った?じゃねえよ。待ったに決まってんだろ。」

「ごめんね。出かけに、電話が入っちゃって。家を出るのが遅くなっちゃった。」

「全く。相変わらずだな、佳純は。」

「佑樹は、大学の頃より、大人になったね。っていうか、おっさんになったね。」

「2年やそこらでおっさんになるか!」

「はいはい。ほらほら、行くよ!」

「遅れてきといて、その台詞かよ。・・・・・・全く、変わんねえな、佳純は。」

「こっち、こっち。」

「分かったって。相変わらず、歩くのだけは早いよな。」

「歩くのだけは、って。そんなことないじゃん。」

「だって、食べるのは人一倍時間かかるし。」

「猫舌なんだもん。熱いと食べられないよ。」

「俺、生きてきた中で、ラーメン食べるのに30分以上かかるヤツ、佳純以外に知らねえわ。」

「適温になるまで冷ましてたら、そんな時間になっちゃったんだもん。」

「おかげで、麺が伸びきってて、量が倍位になってたし。」

「佑樹ってば、それみて、お腹抱えて笑ってて。ほーんと、ひどいよね。」

「ひどくないだろ、それは。ってか、あんなの笑わずにいられるかよ。」

「佑樹って、いつもあたしをばかにするんだよな。」

「ばかになんか、してないぞ、多分な。」

「・・・・・・それって、ばかにしてるんじゃん。」

「悪かったって。ばかにしてるんじゃないって。ちょっとからかっているだけだって。」

「むー。」

「悪かったってば。・・・・・・むくれんなよ。」

「むくれてないよ。」

「立ち直りの早さは、きっと日本一だな。」

「やった!あたし、日本一だ。」

「そうやって調子にのるところも、相変わらずだな。」

「2年やそこらで、そんなに変わんないよ。」

「まあ、そう、だな・・・・・・」

「・・・・・・佑樹。」

「うん・・・・・・」

「寝ないでよ。電車に乗ったら、すぐに寝ちゃうんだもん。」

「う・・・・・・ん・・・・・・」

「・・・・・・寝ちゃった・・・・・・」


「起きて!起きて!佑樹。次の駅で降りるよ!」

「・・・・・・ん・・・・・・」

「もう!相変わらず寝起き悪いなあ〜。」

「んー、もうちょっ・・・・・・・」

「だめだめ!起きて!駅に着いちゃうよ!」

「う・・・・・・ん。」

「あー、もう!しょうがないなっ。ほら、佑樹。行くよ!」

「うわっ!びっくりした!」

「起きた?行くよ!」

「起きた、けど。急に引っ張るなよ。びっくりするだろ。」

「だって、佑樹、起きないんだもん。」

「それは悪かったよ。」

「ね、早く行こ?」

「分かった分かった。」


「・・・・・・ここって・・・・・・」

「覚えてる?」

「あ、ああ。覚えてるよ、もちろん。」

「良かった。それじゃ、あそこの岩場に座ろ?」

「・・・・・・ああ。」

「久しぶりに来た〜。大学の卒業式の後に、みんなで来た以来だよ。」

「俺も、そう、だな。」

「そっか。」

「・・・・・・あの時は楽しかったな。卒業式が終わって、酒とつまみを持ってきて、ここで祝杯あげてさ。」

「うん、楽しかったね。」

「春なのに寒くってさ。なのに、智史(さとし)のヤツ、スーツのまま海に入ってさ。」

「そうそう。で、あのあと、智史ってば「風邪ひいた~。」ってメールしてきて。当たり前じゃんって。」

「智史のヤツ、ほんとバカだよな。」

「あの頃はみんなしてバカなこともいっぱいやってたね。」

「ああ。楽しかったよな。あの頃。」

「うん。楽しかった。だから、謝恩会に行かずに、みんなでここに来て、解散会をしたんだよね。」

「ああ、そうだったな。」

「次にみんなで会うときまで、それぞれで頑張ろうって言ってね。」

「で、酔っ払った耀司(ようじ)がここで宣言したんだよな。『俺は営業で全国一位になってやる』ってさ。」

「そうそう。で、それからみんなで、ここで宣言し合ったんだよね。」

「そう、だった、な。」

「あたしは、早く仕事を覚えて、いつかはバイヤーになるって宣言したっけ。」

「そうそう。で、俺は・・・・・・」

「・・・・・・うん。」

「俺は、俺は、いつか新しい雑誌を立ち上げて編集長になるって、言った・・・・・・んだよ、な。」

「うん。」

「あのさ、佳純。」

「うん。」

「俺さ、その・・・・・・。」

「うん。」

「部門縮小のため、リストラされて・・・・・・。」

「うん。」

「・・・・・・無職になっちまった・・・・・・。」

「・・・・・・うん。実はね、知ってたよ、そのこと。」

「え!」

「智史から聞いたの。」

「智史のヤツ!誰にも言わないでくれって頼んだのに!」

「あたし以外には言ってないよ。だから、智史のことを責めないでね。」

「・・・・・・はあ~」

「ね?あたしが無理に聞いたんだし。」

「・・・・・・分かった。」

「良かった。」

「・・・・・・だから、ここへ俺を連れてきたのか?」

「う~ん。それもあるけど、ね。」

「あるけど?」

「うん。海が見たかったの。佑樹と一緒に。」

「俺と?」

「そう。佑樹と。」

「なんで?」

「あたしね、海を眺めるのが好きなんだ。波を見ていると心が落ち着くし。」

「・・・・・・」

「なによ、黙っちゃって。どうせ、『佳純らしくない』って言うんでしょ?よく言われるし。」

「・・・・・・いや。そういうところも、佳純らしいよ。」

「ほんと?ありがと!」

「そういう素直なとこ、好きだったな・・・・・・」

「え?」

「あ、いや、その、そういうのは、えっと。」

「仲間として?それとも、女として?」

「えっと、そ、その・・・・・・」

「教えて、佑樹。」

「あ、でも、俺・・・・・・」

「過去の話なんでしょ?過去形で話してるもの。だったら、言ってもいいじゃない。」

「いや、その、でも、な。」

「じゃあ、今もなの?」

「あ、その、えっと。」

「教えて、佑樹。」

「・・・・・・か、佳純。」

「・・・・・・」

「・・・・・・そんな顔、も、できるんだな、佳純。」

「・・・・・・」

「か・・・・・・佳純。今も、その、女として・・・・・・」

「うん。知ってたよ。」

「え?」

「知ってたよ、大学の頃から。だって、あたしもだもん。」

「ええ?」

「だから、ちゃんと言って?」

「あ・・・・・・」

「・・・・・・」

「でも・・・・・・」

「・・・・・・」

「佳純、好きだ。その、大学の頃からずっと。」

「うん。」

「俺、今、無職で、それで、あ、いや、ちゃんと求職活動はしてるけど、その。」

「仕事は気にしてないし、関係ないよ。大丈夫。」

「・・・・・・俺と、その、付き合ってくれ。」

「うん!」

「あ、わわ!急に飛びつくなよ!危ないだろ!」

「うん。佑樹。私も大好き!」


「ね、あたしがここへ佑樹と一緒に来たかったもう一つの理由、知りたい?」

「もう一つの理由って、海が見たいってことだろ?」

「ん~、まあ、それはそうなんだけど。そうじゃないんだな。」

「ん?どういうことだ?」

「子どもの頃からの夢だったんだ。海見ながら告白されるのが。」

「あ、え?」

「だから、佑樹と来たかったんだ~、あたし。次に海に来るのは、佑樹とって思っていたんだ。」

「・・・・・・そっか。」

「うん。だからね、佑樹。」

「なに?」

「あたし、すっごく幸せ!」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点]  楽しませていただきました。 [一言]  お金のない男からすれば、ちょっとだけ憧れます。愛情で交際してくれる女性を捜し求めていきたいです。
2016/03/05 08:40 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ