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1.質は縦に並べることができない

 私たちは日常の生活で、多くの数字に接する機会があります。「小説家になろう」においても、数字を様々な場面で見ることができます。ランキング、ブックマーク数、評価――。こうした「基準」はたくさんありますが、この基準の妥当性について、ちょっと踏み込んで考えてみましょう。

 検討したい内容は、次の問題に集約されています。それは「『基準』として用いられている数値のうち、いったいどれほどの数値が妥当な数値なのか」という問題です。


 話を分かりやすくするために、一つ例を取りましょう。この記事を読んでいる人の大半の人は、義務教育課程を修了しているか、あるいはその途上にあると思われるので、「学校」を例にとってみましょう。生徒の時分に実施される主な測定は二つ、「身体測定」と「学力測定テスト」です。このうち、「身体測定」は「身長」、「体重」そして「座高」といった量的なものを、量的な基準にしたがって測定しています。

 では「学力測定」はどうでしょうか。よく「勉強ができる」ことと「頭の回転がはやい」こととは違う、という旨の主張がありますが、「頭のよさ」は質的な問題です。ところが「学力測定」で測定されているのは、「頭のよさ」ではなくて「問題の正答率」という、量的な問題なのです。


「頭がよい人ならば、問題を出されてもよく答えられるにちがいない。だから、問題の正答率をもって、“学力”をある程度測定できるはずだ」

 という素朴な類推が、「学力測定」の背後で作用しているわけです。


 能書きはこれくらいにしましょう。今の例が示唆しているのは、

「質的な事柄を比較することは、究極的にはできない」

 ということです。私たちは苦しいことがあったとき「苦しい」と言いますが、他人の経験している「苦しさ」と、自分の経験している「苦しさ」を直接比較することはできません。これを仮に比較したいのならば、別の量的な基準を持ってきて、「苦しさ」を数値化して類推するしかありません。しかしこのような基準も、あくまで便宜的なものにすぎないのです。


 実は私たちは、質的な事柄を量的な基準を用いて数値化し、それを計測することに慣れきっています。そのせいで、「質的な事柄」と「量的な事柄」とを、しばしば錯覚していることがあります。


 いいかげん「小説家になろう」に話を戻しましょう。「小説家になろう」における基準のうち、いったいどの基準が「量」を測ったものであり、どの基準が「質」を測ったものでしょうか。

 「ブックマーク」という基準について考えてみましょう。大抵の人は、「ブックマーク数の多さ=面白さ」だと素朴に思い込んでいるのではないでしょうか。もちろん、ジャンル・傾向・モチーフといった要素がほとんど同じであり、にもかかわらずブックマーク数に隔たりのある2つの作品があったとしたならば、それは「面白さが違う」と言ってもいいかもしれません。


 しかし、その場合でさえ、論じられるのは程度の差にすぎません。日本で身長180センチと測定された人間は、フランスへ行こうがどこへ行こうが身長は180センチです。それは「身長」が絶対的な量であるためです。ところがこの場合の「面白さの違い」は、「身長」のようには絶対的ではありません。状況や環境などが変化すれば、「面白さ」隔たりは埋まるかもしれませんし、もしかしたら逆転することだってあります。


 同じジャンルの作品でさえこのような次第ですから、ジャンルが違えば「面白さ」の比較はいっそう困難になります。例えば「ファンタジー」のジャンルで9000件のブックマークを獲得している作品と、「推理」のジャンルで3000件のブックマークを獲得している作品があったとしましょう。このとき、この事実をもって「ファンタジーの作品の方が、推理の作品より3倍面白い」などと主張することはできないはずです。なぜならファンタジーの「面白さ」と推理の「面白さ」は、そもそも同じかどうかさえはっきりしないためです。


 では、あの「ブックマーク数」とは、いったい何を計測しているのでしょうか。「作品の面白さ」を比較することはできませんが、「ある作品に対し、いったいどのくらいの人数が関心を持っているのか」を比較することは可能です。「ブックマーク数」で私たちが分かることといえば、「その作品に関心がある人数」だけなのです。

 「作品の面白さ」と「その作品に関心がある人数」は、一見するとほとんど同じようですが、実際の意義には大きな隔たりがあります。「小説家になろう」では一部のジャンルがもてはやされていますが、そのジャンル以外の作品のブックマーク数が相対的に少ないからといって、まったく箸にも棒にも引っ掛からない駄作と決めつけることはできないわけです。


 ですが、これらの違いについて、一般のユーザが意識する機会はほとんどないはずです。多くの人は「出版社がブックマーク数の多い作品にオファーをかけるのは、その作品が面白いからだ」と考えているかもしれません。この考えもより正確に言えば、「ブックマークの多い作品ならば、作品に関心のある人数が多い作品だろう。そうした作品ならば、出版しても採算がとれて、もうかるだろう(しかも自分たちの手で新人を発掘する手間が省けるから、安上がりだ)」ということなのです。

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