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君は青、俺は赤。  作者: ハルタ
1章:出会いに伴う特筆事項
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4話


「おはよう」


 ざわざわと談笑する声が滞留している朝の教室で、幹也は眠そうにあくびをしながら教室に入って来た友人、高橋たかはし一志かずしにそう挨拶をした。


「はよ。今日も爽やかだねぇおまえは」


 あきらかに皮肉が混じった友人の挨拶に、しかし幹也はいつも通りふわりと笑う。皮肉が通じない事を気にする様子もなく、少し寝癖の残る明るい色の髪をぽりぽりとかきながらまた大あくびをする一志。


 一志が教室にいることに気付いた何人かの女子が「あ、一志じゃん、オハヨー」と可愛らしい声をかけると、本人は慣れた様子でひらひらと手を振って応え、席に着いた。それを待ちかまえていたかのように幹也は後ろから声をかけた。


「ねぇねぇカズ」

「あん?」


 振り返った一志は小さな友人がいつもよりどこか浮ついた気分でいる事にようやく気付いたようだった。二枚目とは言えないまでも、そこそこ整った顔に疑問符を浮かべ首を傾げた。


「なんだよ、えらく嬉しそうだな」

「うん、あのさ、3月に僕カツアゲに遭ったっていったでしょう?」

「…おまえしょっちゅうカツアゲされてるからどれのことだか解ンねぇ……」

「ほら!不良が助けてくれたって話したヤツ!」

「あーあ。あれか」

「うん、でね、昨日その人が来てくれたんだよ店に!」

「へぇ?マジで?ヤンキーが花買いに来たの?」

「そう。亡くなったお祖母様の母の日にって。もの静かで、すごく格好良い人だったよ。でもやっぱり怖かったー。オーラすごいよオーラ!」

「へーえ?」


 振り向いた格好で頬杖をついて話を聞いていた一志は興味深いそうに幹也の話をきく。幹也は幹也で道長に改めて礼を言えたのだと嬉しそうに話を続けた。


「なんかね、暴走族の総長なんだって。三代目だって。三代目!」

「はあ!?ヤベぇだろそれ!」

「ヤバいよねー。あ、そうそう名前も教えてもらえたんだよ」

「いや、おまえ解ってねぇだろ!てか名前なんて!?」

「波多道長さん」

「……――は?」


 言った途端、一志が硬直する。だが幹也は聞き取れなかったのかとその程度にしか思わず、にこにこと再び同じ事を繰り返した。


「波多、道長さんだって。なんだったかな、確かケルベロスとかいうのの総長だって」

「………」

「カズ?」

「おまえ、ケルベロスの波多道長って何者か解ってる?」

「え、ううん…?そんなに有名な人なの?」

「バカかおまえ!バカか!ちょっと来い!」

「ええッ!?ちょッ、カズ!どこ連れてく気だよ!もうすぐ朝礼始まるのに!」

「言ってる場合か!良いから来い!」

「やだよ!朝礼始まるってば!」

「うるせぇ!来い!」


 わけも解らぬまま、結局幹也は一志に引きずられるように教室を出て行くことになり、人生初のサボりを余儀なくされた。



:::



「いいか、ケルベロスの波多道長っつったらな、不良やってりゃ知らねぇヤツいねぇくれぇ名前売れてるんだよ!関わったら死ぬぞおまえ!」


 良く晴れた屋上に連れて来られた幹也はその堅いが暖かいコンクリートに正座をさせられた。一志は仁王立ちで幹也に説教をかます。しかし、一志が鼻息荒く言えば言うほど、幹也は頬を膨らませて憮然とする一方だった。


「…でも助けてもらったし、お客さんだし……」

「なら必要最低限でとめとけ!いいか、ケルベロスってのは、このへんの暴走族っつーよりギャング寄りで、かなりの武闘派なんだよ。バイクより、ケンカで陣地取りする方が好きなヤバい奴らなの!しかも噂によると相当プライドが高ぇ。パンピーにはほとんど手を出さないみたいだけど、プライドをちょっとでも傷つけるようなことすれば話は別だ、即ボコられるって話だ!だから世間話とか、余計なサービスとかすんなよ!?」

「えー…でも折角数少ない男性のお客さんなのに…てかカズ、パンピーって死語じゃない…?」

「うっせぇ!話題変えんなうぜぇ!いいか、相手を考えろ相手を。だいたいな、年齢関係なく女なら誰でもカモンなおまえならべつに男の客がいなくてもいいだろうがよ」

「…誤解されそうな言い方しないでよ」

「事実だろうがこのマダムキラーが!!」


 頭を掻きむしりたくなるようなこの歯痒さ。どうして幹也はこう危機感なくのほほんとしているのだろうか。一志は、もしもハンカチをくわえたなら、キーっとそのまま咬みちぎる勢いだった。


「でもさ、実際悪い人じゃないと思うよ?本当の極悪人なら亡くなったお祖母様にお花なんかわざわざ買う?しかも思春期まっただ中の男子高生がだよ?好きな女の子にさえ花贈る男子は少ないのにお母さんやお祖母様にそんなの買わないでしょ?よっぽどお祖母様のこと大切にしてなきゃそんなことしないと思わない?」


――おまえならそう言うと思ったよ。


 一志は内心溜め息をつく。

 幹也は善くも悪くも疑う事をしない。己の目で見たことを信じようとする。だから、道長のことも、肩書きに惑わされて遠ざけるような事はしないのだろう。


 解っている。解っているのだ。しかし、相手が相手なだけに警戒して欲しい。それは一志の純粋な願いだった。一志は、はぁ…と深い溜め息をついた。


「好きな女子に花買うより親に買う方がまだマシだろうがよ…」

「もー。カズこそ話逸らすなよ」


 ぷうと頬を膨らませる幹也。本当に同年の男なのかと疑いたくなる。そういうことを平気でしてみせる感覚もだが、それがイヤミなく許せてしまうのだからことさら質が悪い。一志は何度目かの溜め息をついた。


「……警告はしたからな。もう知らねーぞ」


 諦めてみせれば、幹也はぱっと笑顔を見せる。


「うん。ありがと」


 そう、この笑顔。これがいけないんだ。屈託なく笑う幹也のこの笑顔をむけられると、まぁいいかという気になってしまう。結局これには勝てないのだ。一志は苦笑して幹也の頭を沈めるように撫で、このマダムキラーめと内心毒づくいて、教室に帰ろうと促した。


「さー。こってり絞られるぞー。今日小テストあったからな朝礼で」

「……そうじゃん」

「どうしよっかなー」

「どうしよっかな、じゃないよ!カズのバカ!!」


 知るか、と笑って一志は悠々と屋上を後にした。




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