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君は青、俺は赤。  作者: ハルタ
5章:無関係な2点の関係性(下)
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19話


「かんぱーい!!」


 爆発したような大歓声がホームを揺るがせた。カツアゲ狩りを始めてすでに10日。今日も無事に〝狩り〟を終え、新しいチームを同盟として迎え入れたケルベロスはブラッズや他のチームのメンバーと共にホームである廃工場に集まって祝杯をあげていた。


 ケルベロスの県下統一への道は恐ろしいまでに順調だった。その中でもひときわ鮮やかだったのは、やはり一番初めに襲った佐宮紅蓮連合会の一件だ。


 あれは、完全に道長達の作戦勝ちだった。


 ケルベロスとブラッズによる佐宮の縄張り内でのカツアゲ狩り。しかし佐宮はケルベロスによってカツアゲ狩りがあったと報告が入っても気にも止めなかった。周囲がケルベロスを指差して笑ったのと同じように、佐宮のトップも負け犬どころかハエが飛んでいる、程度にしか思っていなかった。


 だが、それも道長の計算のうちだった。初日から派手な狩りはしなかったのだ。報告は入る程度に暴れるも、気に留めるほどのことはないと思わせる程度に押さえた。それを2日続けた。


 しかし、3日目は負け犬がじゃれついていると笑っていられるレベルを遥かに越えて狩りを行った。それもカツアゲ狩りとは名ばかり、佐宮のチームメンバーを手当たり次第襲ったのだ。ただし正々堂々、タイマンで。


 当然、そこまでされて佐宮が黙っているはずはない。ケルベロスを潰すために、3日目の夜、佐宮は集会を開いた。だが、それが間違いだった。


 道長達はその集会に殴り込んだのだ。


 佐宮の集会場の突如現れたバイクの大軍団。慌てて傘下の兵隊を集めようにも気付いた時にはチームの大半が潰されていた。幹部会のその席に、ゆっくりと迫ってくる道長。そしてその脇を固める大地と慶太郎。それはまさに地獄の3つ首の番犬ケルベロスそのもの。県下で1番を自負していた佐宮の幹部でさえ、その姿に恐怖を覚え、戦慄した。


 そんな相手とやりあったところで結果は見えている。もともとのケルベロスの実力に加えて、この状況。佐宮幹部会乱入開始からものの30分でケルベロスの圧勝は現実のものとなった。とはいえ、県下一を自負していた佐宮だ、底意地をみせたのだろう、流石の道長達もこの抗争で大多数が負傷した。


 しかし、勝利は勝利。そうして佐宮は事実上消え去り、その傘下は解放された。


 通常、この地域ではケンカが終わると、負けたチームは勝ったチームの傘下に入る。しかし、佐宮を潰した時、道長は傘下にいれることなく、大半のチーム存在そのものを亡きものにした。


 ケルベロスの強さに恐怖しか抱かない、佐宮に守られることに慣れ、指示されることに慣れてしまったチームばかり。道長は同盟はおろか傘下として組み入れることをも嫌がった。


 だが、道長のその姿勢に、佐宮とその傘下のチームから何人かが、自らケルベロス側に移って来た。佐宮の傘下にいたときから、虎視眈々と佐宮の幹部の首を狙っていた連中や、純粋に道長や大地、慶太郎の強さに惹かれた者達が、ケルベロスに入れてくれと言って来たのだ。


 なかには道長の首を狙った者もいたようだが、道長はそういった者も含め、自ら上を目指してやってきた、ケルベロスに相応しい人材ならば何も言わず受け入れた。


 こうして力のある者、道長について行こうとする者が確実に集まり、当然ケルベロスは瞬く間に強くなっていったのだ。


 佐宮襲撃から始まったケルベロスの快進撃は、開始から10日経った今もその勢いは留まることを知らない。幹也の心配など挟まる隙もないほどの、無敗伝説の始まりだった。


「おい」


 道長は缶チューハイを片手に、くわえた煙草に火をつけると、廃工場の外の非常階段で見張りをしていた少年に声をかけた。


「波多さん!」


 慌てて居住まいを正す少年に、道長は視線でそんなことをしなくていいと伝える。名前は解らないがよく見た顔だ。恐らくブラッズのメンバーだろう。


「代る」

「へ?」

「見張り。代わるから、中で騒いでこい」

「え、で、でも…」

「酔い覚ましついでだから気にすんな、ヤッセかトビになんか言われても俺の名前使え」


 ヤッセはブラッズの総長八瀬圭司だ。トビは副総長の山形トビオ。最近はあだ名で呼ぶようになっていた。道長がそこまでいうと見張りの少年はぱっと嬉しそうに顔をほころばせ、何度も頭を下げながら足早に階段を下りて行った。


 思いっきり煙草を吸い込み、ゆったりと吐き出した。ひんやりとした風が酒でほてった頬を撫でて行く。廃工場の錆びれた非常階段の踊場に腰を下ろし、ぐるりと周りを見渡す。奇襲をかけられる心配はなさそうだ、と道長は今度はきらきらときらめく町の光を眺めた。


 目の前に町が広がっている。その奥に少し小高い丘が緑に覆われて横たわっており、その向こうにまた町並みが見える。丘より手前の範囲はすでにケルベロスのものだ。そのもう少し向こうは次の襲撃地にあげられている。成功すれば今目にしている範囲はすべて自分たちのものになる。心地よい満足感がゆったりと胸に広がった。


「道長ぁ」


 突然、階下から声がかかった。


「…大地」


 ひょこっとやって来た親友に驚くも、道長は何も言わずに大地が座れるスペースを空けた。


「酔い冷ましかぁ?俺も俺もぉ」


 隣によっこいせーと座りながらながら、大地は手に持っていたスミノフを飲み干し、遠くへ投げ捨てた。しばらくしてからパリーンと甲高い音がする。何が面白いのか、酔っているのか、大地はその音を聞いてケタケタと笑うと、ニッカポッカのポケットから煙草を取り出した。


「あ、火ねぇや。道長の貸して」


 言われたものの、ライターを取り出すのが面倒で道長は既に口にくわえていた煙草を、大地の前に突き出した。大地はそれにすぃっと自分の煙草の先を合わせて火を移し、そのままふーっと紫煙を吐き出した。大地の吐き出した煙を顔にかけられ、流石の道長もげほげほとむせる。思わずキロリと睨んだが、大地はケタケタと笑っただけだった。


「おまえさぁ~…なんで突然戦争参加するなんて言い出したんだよ」


 唐突に投げられた疑問に驚いた道長は、思わず言葉に詰まった。


「なぁ、なんでだよ?ずっと渋ってたじゃねぇか」

「……」

「だんまりかコラ。大親友様が聞いてんだ、言えよぉ~おらぁ~」

「うぜぇ。絡むな酔っぱらい」

「んだとぉ~?んん~?いいのかぁそんなこといってよぉ」

「っせぇな。…気まぐれだ」

「ふ~ん?」


 しん、と沈黙が落ちる。廃工場内のばか騒ぎの騒音に混じって、遠くで虫が鳴いていた。


「ところでよぉ。なんでカツアゲ狩りなんだ?」


 酔っているのだろうか、今日はやけに大地が絡むな、と道長はぼんやり考えながら大地の質問を反芻した。くだらない質問だ。大地は道長の考えを大体解っているだろうに。それでも訊いてくるのは確認か、もしくは本当に酔っているのか。だが、無視する理由もない。道長はまたふーっと煙を吐いてから答えた。


「…便利だろうが」


 負け犬と呼ばれるようになっても、ケルベロスの『喧嘩上等』の掟の知名度は依然高いままだ。つまりカツアゲを良しとしないことも割とよく知られているのだ。そのあたりは初代の伝説によるだろう。カツアゲ狩りを口実にするのは掟を忠実に守っていると大義名分にしやすいのだ。


「…まぁ、確かにそうだけどよ…」


 同意するも、大地はあまり納得した様子ではない。どうにも何かを考えているようだ。大地が道長の考えを良く理解しているように、道長もまた、大地のことを良く理解していた。こういう顔をしているときは、何か腹の中に何か溜めているときだ。親友は一体何が知りたいのか、道長は大地の次の問いかけを待った。


「道長おまえさぁ…」

「あ?」

「女でも出来たのか?」

「――ッハ!んな訳ねぇだろ。トび過ぎだ」


 探るように尋ねた大地の見当違いな問いに、道長は思わず笑ってそう返事をした。惚れた女が出来て、守るなり、イイ所を見せるなりしたいから戦争を始めたんじゃないのかといいたいのだろう。なかなか妄想逞しいことだ、と道長は肩を揺らす。くつくつと笑う道長に大地は「何だ違うのか」とつまらなそうに口を尖らせ、壁に体を預けた。


 大地は、単純に道長が戦争を始めた本当の理由が知りたかっただけらしい。道長は心の中でつぶやく。女なんかの為じゃない。


――おまえと慶太郎の為だ。


 はっきり言えば調子に乗るのは眼に見えているから、決して言葉にはしないけれど。道長はつまらなそうにしている大地を横目で伺い、ふっと笑うと残っていたチューハイをあおった。


 ふと、幹也の顔が脳裏をよぎった。


――違う。


 とっさに反論を唱える。あいつの為じゃない。道長は自分に言い聞かせた。


 ただ、カツアゲ狩りを思いついたきっかけは、まぎれも無く幹也だった。


 心のどこかで、罪悪感を感じていたのかも知れない。展覧会を一緒に見に行った帰り、怒って先に帰ったものの、引き返したそこで幹也がカツアゲに遭っているのを見つけた。だが、すぐには助けなかった。助けるつもりだった。でもしばらく傍観した。そのせいで幹也はひどいケガを負った。


 全く、気が咎めなかった訳ではなかったのだ。


 自分にも、良心の呵責なんてものが残っていたのかと道長は笑いそうになる。でもだからこそ、あの日の翌日、学内で幹也を見かけた時に。避けた。気まずかった。後ろめたかった。自覚はなかったが、きっとどこかで感じていたのだろう。良心の呵責、罪悪感、そんなふうに呼ばれるものを。


――あいつの為じゃない。


 自分の為に、親友の為に、チームの為に始めたのだ、このカツアゲ狩りを口実とした、全面戦争は。


 でも、結果的に幹也も救えたらいい。せめてもの罪滅ぼしだと、どこかでそう思っている自分がいるのは確かだった。


 いまだ、カツアゲにあっているのだろうか、かの少年のような青年は。戦争に必死ですっかり忘れていたあの花屋の店員の、太陽のような笑顔を久しぶりに見たくなった。





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