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君は青、俺は赤。  作者: ハルタ
4章:無関係な2点の関係性(上)
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16話


「狙うのは佐宮紅蓮連合会だ」


 ケルベロス、ブラッズ両チームの幹部にのみ先に知らされていた道長の思惑を、道長自身が両チームのメンバーに言い渡した。廃工場を揺るがす大歓声が治まった後、ひとことも聞き逃すまいとシンとしていたメンバーは途端に興奮したような困惑したような複雑なざわめきを起こした。


 だが、道長はそれを気に留めず、話を進めた。


「佐宮の縄張りでカツアゲ狩りをやる。それを宣戦布告として、いっきに叩く。佐宮を足がかりに、最終狙うは県下だ」


 言えばまたどよっと声の波が起こった。


「ケルベロスの名を轟かせる。もちろん同盟を組んだブラッズもだ」


 はっきりと言い切った道長に、今度こそ、どっと大きなどよめきが空気を揺らした。


 道長はぐるりと暗がりに浮かぶメンバーの表情を見る。少し困惑の表情が混じってはいるが、概ねこれから起こる一大イベントに興奮を覚えているようだ。悪くない。もっと煽れば、大きな力になる。ちらりと大地に視線を寄越せば、同じ考えなのだろう、にやりと笑う頼もしい相棒の視線にぶつかった。


「納得出来ねぇな」


 具体的な方法の説明をしようかと思った矢先、突然、否の声が上がった。


 声の方に視線をやれば、人垣を割ってずいと前に出てくる男がいた。がっちりした体型の少し小柄な男。ケルベロスのメンバーではない。ブラッズのメンバーだ。先日の抗争で道長直々に殴った記憶があるその男は、道長をしばらく睨んでいたが、道長の沈黙を発言許可と取ったのだろう。静かにまた反対意見を述べ始めた。


「県下一にケチつけたりはしねぇ。俺達だってそれを目指してケルベロスに喧嘩売ったんだ。ケルベロスがやるっつーんなら、むしろ喜んでやる。けどな、突然佐宮は無謀すぎる。玉砕しに行くつもりなら、ブラッズを解放してくれ」


 はっきりと言い切ったブラッズの男。その意見に激昂したのは道長ではなく、その男のすぐ隣にいた、ケルベロスのメンバーだった。


「聞いてりゃテメェ!ミチナガさんの意見に逆らうのか!?」

「っせぇ!ヘッドにシッポ振るだけのクソが!討ち死にしてーなら勝手にしろっつーんだよ!」

「んだとごるぁ!?ブッ殺すぞテメェッ!!」

「やれるもんならやってみろよブタ野郎!」

「おうおう、おまえらやめろやめろ」


 大地がそう言うと、慶太郎がスッと立ち上がり、言い争いを始めたふたりを引き離した。道長はというと、すぃと視線を八瀬に移し、反論したブラッズのメンバーの正体を視線で問うた。八瀬はそれに静かに答える。


「トビオの右腕の矢部やべ久信ひさのぶだ。俺らの代弁だと思ってくれていい」


 道長はそれに頷いて矢部を見据え「言ってみろ」と先を促した。矢部は先走ったことを八瀬と山形に謝罪してから、まっすぐ道長を睨みつけた。


「今の俺達は佐宮とやるには数が少な過ぎる。俺達は合わせてもせいぜい50人いるかいないか。でも佐宮は単体で70人強。傘下を入れたら150人を軽く越える。しかもヤクザと繋がりがあるっていう噂は知ってんだろ?県下狙うなら、確実に数を増やしてから叩くべきだ」


 そう、言い切った矢部を道長はただ見据えた。矢部は先日終わったばかりのケルベロスとの抗争で顔中に大きな絆創膏を貼っている。そのうちのいくつかは道長によって出来たものだ。それなのに、臆することなくブラッズの意見を代弁した矢部に、道長は表情こそ変えなかったが、好感すら抱いていた。


 だが、道長の個人的感情はこの場の議論には関係ない。口を閉ざしたままの道長に、八瀬は念を押すように体を乗り出して口を開く。


「というわけだ。無謀なことすんなら――」

「八瀬」


 言いさした八瀬を、道長は遮る。そして道長は口の両端を少しだけ持ち上げた。


「つまんねぇこと言うなよ」


 にぃ、と笑った道長。まともにその表情を向けられた八瀬の背中にぞくり、と悪寒が走った。八瀬やほかの大勢のメンバーは当然のこと、長年側にいる慶太郎の背中にも冷たい汗が流れる。道長のその顔を見てその真意を汲み取り、笑みを深めたのは大地だけだった。大地は恐らくこれ以上説明する気のない道長の代わりに解説を買って出た。


「確かにおめぇらが心配する通り俺達は数が少ねぇ。持久戦に持ち込まれりゃ勝ち目はなくなるだろぉなぁ。けど、短期集中ならいけると思わね?」


 世間話でもするように説明を始めた大地に、八瀬の視線が突き刺さる。大地はその視線に両肩を上げ、佐宮を心底バカにした笑みを浮かべてスミノフの瓶を傾けた。


「佐宮はさぁ、牛の群れみたいなもんなんだよ」

「……牛?」

「そ。佐宮は牛の群れ、俺達は狼の群れだと思えばいい」

「……」

「要するに個々の戦力が高い俺達の方が有利だって話よぉ。ブラッズのケンカの強さは俺らと互角。さらにヘッドが動けなくなっても自分で動ける兵隊が多い。けど、佐宮はボスだけがつえぇただの牛の群れ。数で来られりゃ確かにヤベェけど、逆に言えば、数の力がなきゃ恐くなんかねんだよ。頭さえ叩きゃ、佐宮は崩れんぜ。副長も特攻長もみんな揃ってカスだからなぁ。こえぇのはトップの真城ましろとメンバーの数。それだけっしょ?」

「確かに……でも」

「ケルベロスはさぁ、この近辺のチームにも入れないヤンキーどもには最強なんて言われてるけど、県下での評判は〝負け犬〟だ」

「……」

「勘違いしてくれんなよ、やっつぁん。要するに今が狙い時なんだよ。能あるタカは爪を隠すっていうだろ?ま、俺らは犬だけど」


 そういうとケルベロスのメンバーが違いねぇと笑った。


 なるほど、と思わないではない。ブラッズは決して弱いギャングチームではない。小さなチームだが、それでも周りの大きなチームを牽制して、今までやってきた。それなりの実力があると自負している。だからこそ、ケルベロスに喧嘩を売ったのだ。なのに、負けた。対峙した時に肌で感じたのだ。ケルベロスは強い、と。


 そしてそれは周知されていない強さだ。今まで戦争に参加していなかったのだから誰もケルベロスの実力は知らない。そこに、自分たちブラッズも入る――。大地の話が、道長の狙いが理解出来ない訳ではない。落ちぶれて力がないと思われている今が、チャンス。それはよく解る。しかし、それだけに力を読み誤った場合に手酷い致命傷を負うのはこちら側だ。


 八瀬は渋面を作った。出来ることなら確実に行きたいという気持ちが少し強い。八瀬個人にとっては道長や大地の考えは魅力的だが、ブラッズのヘッドとしては即座に賛同しかねる。


 それを後押しするように矢部がまた叫んだ。


「八瀬くん、俺は納得いかねぇッスよ!こんな博打みたいなやりかた!やっぱり、確実に行くべきッス!」

「ちょっと矢部ちゃ~ん。おまえさぁ~」


 大地が笑顔の裏に苛立ちをチラつかせてそう言えば、ケルベロスのメンバーのほとんどが大地の言葉に倣って非難の視線を矢部に容赦なく投げた。さすがの矢部もじりっとたじろいだが、意見を変えるつもりはないのだろう、ぐっと歯を食いしばり、足を踏ん張って八瀬に思いとどまるようにと視線に力を込めた。


 その様子を見て、大地がまた笑顔で、しかし今度は苛立ちを露に矢部に食って掛かろうとした。だが、それをやんわりと止めたのは、道長だった。


「いい、大地」

「……」


 大地は道長のこの声音に、反対意見を言わせない空気にするなという意図を汲み取った。道長らしいことだ。だが、今まで弁舌を振るった大地にはとっては面白くない。さっきまでの陽気な笑顔が無表情に変わる。道長はそれに内心溜め息をついたが、特に何も言わずに矢部に向き直った。


「矢部っつったな」

「……おう」

「構えろ」


 そういって道長が立ち上がると、ケルベロス側からどよっとざわめきがおこった。ブラッズ側は何が起こるのかと警戒心を露にする。短気な山形がこめかみに青筋を立て、道長に食いかかろうと立ち上がった。


「おい!なんのマネだ!?」

「やめろよトビー。落ち着け。ただのケンカだよ、ケ・ン・カ。ケルベロス流の意見の通し方ぁ」


 大地が薄く笑いながらもつまらなそうに酒瓶をいじりながらそう言った。山形は勿論、八瀬も眼を見開いて驚いた。先日の乱闘ならばまだしも、こんな場でケルベロスの総長が直々に相手をするというのか。それにいくらブラッズ副総長の側近とはいえ、矢部はまだ幹部とは呼び難い。そんな矢部の相手を道長がするというのはブラッズのツートップには信じられなかった。


 それに、これはある意味公開リンチなのではないのか。力の差は歴然。多くのメンバーの前で叩きのめすことによって反対意見を完全に排除するつもりなのではないのかと、八瀬は徐々に前のめりになる。山形に至っては一度ソファに下ろした腰が完全に浮いていた。しかし、それを止めたのは大地の気のない声だった。


「勘違いしちゃいやぁよトビー。言っとくけどリンチじゃねぇかんな、コレ。道長は矢部ちゃんの話聞く気だから。それにさぁ納得すんだろぉ?圧倒的な力があれば、俺の言った方法でも充分勝てるってよぉ」

「……」


 カツカツと廃工場に道長の靴の音がこだまする。人垣はそれに合わせるように大きく分かれて矢部と道長を取り囲むように円を作った。簡単なリングの出来上がりだ。道長は充分な広さがあるのを確認すると、特に改造もしていない制服のズボンのポケットに両手を入れて、ゆったりとした動作で矢部を見た。


「ハンデだ。俺は右足以外でおまえを攻撃しねぇ。おまえが俺にいっぱつ当てたら、おまえの考えを参考に作戦を洗い直してやる」


 そう言い放つと、ブラッズ側がまたざわっと声が上がる。矢部はぴくりと片眉を上げると、怒りを押し殺した目で道長を睨みつけた。


「バカにしてんのか」

「誰が」

「――上等だゴラぁッ!!」


 言うが早いか、矢部が道長に襲いかかった。




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