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七十九話 金貨袋亭開店!

 久しぶりのハーヴリルだ。


 母さんが付いてきたりしたが、まぁ、もう、どうしようもないので放って置くことにした。どうにかなるだろう。


「ともあれ、銀貨袋亭に行きましょう」


「そうだな、ミスターウィリック」


 流石に警邏に顔を出したいリチャードさんと、診療所に帰りたいサ・バーンさん。おまけのマダインさんと別れ、ダイケルさんと二人で銀貨袋亭に帰ることとなった。


「所で、私もこの街に根を下ろしてみようと思うのだが、良い物件はないかね?」


 違った。この魚がいた。僕のお師匠であるお肉マスターホン・ローさんだ。


「てっきり牧場経営するものだと思ってましたけど、飯屋やる暇あるんですか?」


 というか、この魚が本気を出したら僕ら敵わないんじゃないだろうか。


「それもこっちでスタッフを集める予定だよ」


 まぁ、この人の肉料理は客層がちょっと違う。この街に良い刺激にはなるか。





「うっ……わぁ!」


「これは……凄いね」


 帰ってきた銀貨袋亭は、様相が一変していた。


 今までのこじんまりとした店舗は奇麗になって残っているが(奇麗になったのは多分おじいさんのヒオラーさんの仕業だ)横にでかい三階ぶち抜きの建物が併設されていて、旧銀貨袋亭と繋がってる。


「いくら客が増える見込みがあるからって、ブイローさん気合入れすぎだろう」


 母屋がおまけみたいになってるじゃないか。


「おお、ずいぶん遅かったな。おふくろさん元気どうだった?」


 奥からブイローさんが出てきた。サクラダイのギルマン、クラダさんも出てきたが、姪っ子のアウレンさんの姿は見えない。


「お久しぶりです。なんか割と元気でしたよ。その辺の事情は話すと長くなりそうですが……」


 僕が目を逸らすとブイローさんは察したようだ。やっぱりこの人はがめついが話が分かる。


「所で、アウレンさんはどうしたんです?」


「ああ、いるよ、ほら、あそこ」


 あ、屋根の上でちっさく見える。


「病気、酷くなったんですね」


「遠距離恋愛って奴だな」


 ……あまり深く突っ込まないでおくが、これは挨拶するのにしばらくかかるな、手紙でも書こう。





「どうだ、この店舗。今まで悪い事やって稼いだ金、全部突っ込んでみたぜ」


「どうだじゃないですよ。こんな広い店二人で仕切るんですか?」


「クラダはつけてやるよ。ずいぶん有能なウェイトレスになったぜ」


 ウェイトレス問題は後々解決するとしても……、三階建てはなぁ。


「三階建ての飯屋って海原の月夜亭レベルですよね? ダイケルさんは確かにそこそこのレベルに仕込みましたけど」


「ミーとミスターウィリックではキャパオーバーだよ。ミスターブイロー」


 そこまで聞いてブイローさんは首を傾げた。


「ああ、違う違う。店は二階まで何だ。二階は宴会用に客席だけ広めにとってるから、普段使いは一回だけ使えばいい」


「じゃあ三階は何なんです?」


 僕が問うと、ブイローさんはもちろんと付け加え。


「そりゃ、お前の居住スペースさ。アパート探すのも大変だし、今まで住んでた部屋は爺さんが住んでるしな」


「ああ」


 へぇ、この人その辺の事考えてくれてるんだ。それは助かる。こんなに気が利く人だっけ。


「家賃収入も見込めるしな」


 いや、ちゃっかり者だったんだ。





「所でそこのギルマンは? 一瞬サ・バーンかと思ったが」


 ああ、ブイローさんが間違えるのも無理はない。一見似てるもんな、あの二人。


「ええ、この方はホン・ローさんと言いまして。僕が料理のお師匠さんですね。間違えるのも無理ないですよ、サ・バーンさんとはご兄弟だったらしいですから」


「どうも、ホン・ローです。肉屋を営んでます」


「へぇ、肉屋! こっちには観光で?」


 ホン・ローさんは首(?)を振り答える。


「いえ、営業で。土地を買って今牛を放してる途中なのです」


「……このギルマン何しに来たわけ?」


「彼は肉の伝道師なんですが、説明するのがめんどくさいですね」


「説明するのがめんどくさいなら、いっそ食べてもらうのが良いかと」


 そう言って、ホン・ローさんはどこからか肉の塊を取り出した。


 どこにしまってたんだ。





「……なんだこりゃあ!?」


 ブイローさんは一口食ったとたんに驚く。この人も料理人だ。


「これに比べたら俺らが今まで食ってた肉は、なんだったんだ!? あれか!? 革靴か何かだったのか!」


 その気持ちは分かる。ホン・ローさんの肉料理は世界で通用する。


「これ……いくらぐらいで売るんだ?」


 ソロバンを取り出して、弾くホン・ローさん。ブイローさんは覗き込んで難しい顔をする。


「安い、安いが、高いな……」


「多分それ大赤字価格ですよ」


「銀貨一枚じゃ提供できねぇよなぁ」


 まだそこに拘っていたのか。


「馬鹿言わないで下さい、銀貨が金貨になっちゃいますよ」


「所で、ブイローさん」


 ホン・ローさんが話を切り出す。


「私、この街で小さな料理店でも作って、肉食の素晴らしさを布教したいと思うのですが、何か物件を知りませんか?」


 ホン・ローさんは宗教家レベルでの肉食の伝道師だ。まぁ、こうなると思ってた。


「この街は、屋台が多くてね。あんまりそういう施設の付いた店って言うのは少ないんだが……まてよ!?」


 ブイローさんが何やら閃いた。あ、この人ロクなこと考えてないぞ。





「ステーキ上がりまーす!」


「ひぃ、ミーがウェイターやっても追いつかないよ!!」


「ホン・ローさんが物珍しがられて大変なんですよ!!」


 料理人のメインがホン・ローさんで僕はぶっちゃけ手伝いだ。


 銀貨袋亭の方は通常営業なんだろうなちくしょう!!


 ブイローさんが最初に呼んだのは看板屋だった。


 そして、銀貨袋亭副館を『金貨袋亭』と直したのだ。


 その名の通り、全品金貨一枚の店である。あの人は金を稼ぐタイミングでは行動が素早い。普段は起きるのもめんどくさがるくせに!!






「はいはーい! 次、チキンステーキ行きますよー!」


 ちなみに、自分で勘定しないから金貨袋亭は、金貨のメニューと銀貨のメニューに別れている。ぶっちゃけると銀貨袋亭のメニューも注文できるのだ。これにより忙しさは増大した。「ステーキを試しに食べてみて、シメにラーメン」とかいう客が続出したのだ。


 厨房は、申し合わせたように広かった。


 この、ハーヴリルのお肉ブームは、一週間、滞ることを知らなかったという。


 ブイローさんの商才と、ホン・ローさんの情熱は本当にすごいと思う。


 そして僕は、ブイローさんに人員の強化と歩合制の賃金交渉を最初にするのであった。


 やってられっか。

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