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六十八話 妖精研究家ドコトナクスキー博士

 僕とダイケルさんは他のメンバーと別れ、やっと二人旅をすることができていた。


「ああ、ウザかった」


「ユーは完全にミスターサ・バーンのことを邪魔者と認識しているね」


「宿でも探してご飯にしましょう。お昼まだですし」


 日は高いが今日はもう移動しない、なぜならばここは中央だからである。


「ところでこれ以上は移動しないのかね? 今日はまだ日が高いが」


「良いんですよ、ダイケルさん中央都市は初めてでしょう? 何なら観光していっても良いんですよ?」


 ダイケルさんは紙袋の首を振る。中央は人の目が厳しい、ちょっと刺さる。


「いや、急ぐ旅だしいいよ。別に大きいがそんなに変った所でもなさそうだし。向こうに大きな建物が見えるくらいかな?」


「だと思うでしょう? ちなみにあの建物から先は魔術研究都市ですが中央の魔術学会を含むあの都市だけでハーヴリルの三倍を超えます。それに、王城のある王都と都市国家の集合体でして、僕らのいる場所は、なんとここなんですよ!!」


 ばんっと地図が張ってある掲示板を叩く。現在地は、端っこの飛び地であった。


「で、でかい!? でかいよユー!! こんなの逆に回り切れないだろう!?」


「はい、全部回れって言ったら僕も断りますが、網の目のように走っている巡回馬車を利用すれば多少は回れます。真ん中は見る価値ありますよ? 帰りは火山も見て帰りましょう」


 我々が知る限り、一つしかない『山』だ。あれを見たら他は丘にしか見えない。


「それでも帰りにするよ。で、今宿をとる理由は?」


「明日の朝一の馬車で街を出るからです。ぶっちゃけ言いますがこっから先に出ると同じこと考えて宿を決めてない人たちと合流します。宿が決まらないで酷い目に合いますがこの街は野宿が禁止なので、ぼったくりに合いますよ」


「なるほど、ユーはそれで酷い目にあったのだな」


 昔の話である。




 そして、気を付けてても不幸な目には合う。


 まぁ、不幸と言うほどのことは無いので目を瞑っておきたい、旅慣れた身としては。


「そういうわけでじゃのー、吾輩は妖精研究の資金を学会に要請したんじゃが……あ、ここ、笑うとこじゃないぞい?」


「はぁ」


 笑えないし。この片眼鏡で白衣の爺さんとずっと二時間妖精の話に付き合わされていた。食事屋で相席になってしまったのだ。店員の目がきついが、僕らは悪くない。


 そもそも妖精なんていない。そんなものはおとぎ話の世界だ。僕がメケミケピケロケの研究をすると言ったら学会は認めてくれるのか。


(……なんて言えないし、どうしますよ)


(ミーに聞くな)


 すっかり冷めたコーヒーをすする。ダイケルさんのオレンジジュースは半分氷で薄まっていた。ああ、もったいない。


「ところで、君たち、吾輩のラボに来ないかの? 助手を募集してるんじゃ。吾輩はドコトナクスキー博士と言うんじゃが」


「流石に資金のないラボには行きません。……もとい、急ぐ旅をしているので。そろそろ行きましょうか?」


「そうしよう」


 おお、やっと話が切れる流れにできた、二時間の妖精話は疲れた。もうお腹いっぱいだ。


「ああ、そうか」


 と、伝票を取るドコトナクスキー博士。お、太っ腹。


「じゃあ払っておいてくれるか?」


「断る」


 全力の否定だった。ちくしょう。





「いや、疲れました。夕飯は買って宿に帰りますか。今日はもう出たくない」


「そうだな、せっかく良い宿に泊まるんだから風呂に入りたいな」


「そういやその紙袋の中身いつどうやって洗ってるんです?」


 つい聞きたくないことを口を突いて出てしまう。答えられても困る。


「いたいな! 注意して歩け!」


 誰かにぶつかっただろうか。ちっちゃい女の子の声で言われる。声質から思わず下を見る。誰もいない。


「……?」


「どうしたのだ、ミスターウィリック」


「下よ、下!!」


「……あ」


 下を見て頭が痛くなった。なるほど、女の子がいた。髪も赤けりゃ服も赤い女の子を『踏んでいる』。


「スイマセン」


 無機的に足をどかす、そこには掌に乗るか乗らないかくらいの女の子がいた。心なしか等身も低く幼女のよう。


 そんな、妖精じゃあるまいし。





「いやぁ、悪いね! もらっちゃって!」


「まぁ、飴一個くらい大した出費じゃありませんし」


 ボンボンを舐める少女、べたべたにならないだろうかちょっと心配する。


「所でしゃがんでるの辛いんですけど。往来もありますし」


 というか、よくこの子中央で轢かれずに生きてこれたな。


「……これがフェアリーかい? 初めて見たよ」


「断じて違うと言いたい。これは多分小さい人間です」


 妖精なんていてたまるか、それもこんな都合よく。


「その通りだよ。アタシはエリ・ライ。ただの魔術師さ!」


 魔術は大体誰にでも使える。魔術師を名乗るということは普通、その職の研究者のことを指す。


「はぁ、なんでエリさんはそんなに小さいんですか?」


「ちょっと魔術の実験に失敗してしまったんだよ」


「なるほど」


 一時的なモノなのだろうか、どちらにせよ妖精の可能性は消えた。


「うっかり魔術でローレライを火だるまにしてしまって報復に魔法を食らってね。おかげで異世界存在に姿を変えられちまった!! いやあうっかりだよ!!」


「本物、本物なんですかそれ!? やたら人間の縮尺じゃないと思ったら本物なんですねそれーーーーっ!!?」


 結論、妖精は実在した。


 ただしローレライによる故意である。





「それは妖精かぁ~~~~~~」


 しゃがんでる僕の後ろにぬっと出てくる影。


「やっぱり出たぁ!! ドコトナクスキー博士!!」


「解剖してやる、それを寄越せーーー!!!」


 エリさんをなんとなくひっつかんで僕は逃げる。いくらなんでも妖精を解剖しようとか言ってる人に渡すのは良心が痛む!!


「こっちだミスターウィリック!!」


「ナイスですダイケルさん!!」


 ダイケルさんは往来の馬車を拾っていた。僕が飛び乗ると出発する。そのお金がどこから出るかは知らないけど助かった!!


「こら、乙女を握るな!!」


「あ、すいません。肩にでも置きますか?」


「人間の肩って意外と座りが悪いんだ」


 意外に贅沢だなこの人。


「そこが良い、胸ポケット」


「はぁ」


 こっちの座りが悪いが、この際言わないでおこう。


「ウィリック!! ミスターウィリック!!」


「どうしたんですか、ダイケルさん」


 後ろ窓のところで呼んでいるダイケルさん。……まさか。


「逃ぃがすものかああああああ!!!」


 そこには全力のダッシュをかまして馬車と並走しているドコトナクスキー博士がいた。


「足が!! 足が速い!!」


「って、そんなレベルじゃないでしょう!? 魔術ですよ! それにしてもあの老人元気ですねちくしょう!!」


「ドコトナクスキービームッ!!」


 目から謎の光線、おそらく魔術だろうを馬車に向かってぶっ放す博士。馬車は抉れてその衝撃で横転する。


「うわぁっ!?」


 僕らはなんとか馬車から飛び降りる。老人がダッシュで向かってくる。


「ひっひぃっ!?」


 慌てて僕らは走る。僕らだって遅くはないのだがなんか追いかけっこで勝てる気がしない。


「だ、ダイケルさん、ダイケルダンスで!!」


 忘れていた必殺技を僕は提案する。


「嫌だっ!! ミーだってあの老人と二人きりで踊りたくない!!」


「薄情者っ!!」


「どっちがだ!!」


 ののしり合いながら僕らは後ろを振り向く、いない。


「こっちじゃああああ!!!」


 って思ったらもう前に回っていた!! 怖い!! 怖すぎる!!


「えいっ」


 エリさんが魔術を唱えると、ドコトナクスキー博士は発火した。


 ローレライを火だるまにした魔術だ。ドコトナクスキー博士は、いつまでも、いつまでも燃えていた。


 合掌。





「じゃあ、ここで良いんですか?」


 後から追いついたサ・バーンさんによると博士は全身火傷で済んだらしい。あのギルマンいつも怪我人治してるな。


 僕らは、街の郊外で翌日別れることとした。


「ああ、呪いを解く手立てを見つけないとな」


「ところで、その足の長さでどうやって旅をしてるんです?」


「もちろん、こう」


 エリさんは羽を出して飛んで行った。最初っからそうしろよ。


「……ミスエリか。世の中には不思議なこともあるものだな」


「ダイケルさん、僕、メケミケピケロケ探してみようかなって思います」


「流石にそれはいないからやめておきたまえ」


 僕らは朝日にメケミケピケロケの影を見たような気がしたが、それは気のせいだと思って先を急ぐことにした。


 さようならメケミケピケロケ。



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