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六十七話 やっぱり金は回り物

「右の左の旦那さまー」


「報われないギルマンに愛の手をー」


 ゴザをかぶり、空き缶を前に物乞いをするサ・バーンとマダイン。


「おねがいしますー」


 だが、ギルマンは食べる必要がないと知ってるので誰も同情しない。世間はギルマンに冷たい。


 追いつこうと思えば走ればいいのに、金が欲しいなら医者をやればいいのに全然思いつかない辺りがこの二人であった。


 彼らはどこまでも堕ちていた。




「へっへっへ。今日は本当についてるぜ」


 重たい財布二つをお手玉するスミス。運良くローレライと貯め込んでそうなギルマンを狙えたのが良かった。


 結果としては年収の十倍ほどを稼いだことになる。しばらくは豪遊して暮らせそうだ。


「あの紫もやしに関わってからと言うものさっぱりツイて無かったもんな。いよいよ俺にも運が向いてきたってもん」


 そのとき遠くで星が降った、地面が揺れて、転ぶ。


「あいたたた、ったく、財布はどこだ?」


 スミスが見渡すと、そこには財布を拾ったサ・バーンとマダインがいた。


「拾ってくれてありがとう……」


 じりっと、詰め寄るスミス。


 じりっと、後ずさる二人。


「待て、なんで逃げ」


『ぎょーーーーーーーっ!!!!』


「逃げるんじゃねーーーーーっ!?」


 ここに欲にまみれた追いかけっこが始まった。





「待て待て待てーーーーっ!!!」


『ぎょーーーーーっ!!!』


 道をかき分けながら三人は走る。基本走るギルマンに人間は追いつけない。スミスは単純に気迫だけで走っていた。


「むっ?」


 ぬっとあらわれるジジムム。やっと回復したらしい。


「爺さん、そこのギルマン捕まえてくれ!!」


「よしわかっぎゃーっ!?」


『ぎょぎょぎょーーーっ!!!』


 ジジムムは弾丸ギルマンに跳ね飛ばされた。そりゃそうだろう。


「くそうっ!!」


「ぶぎゃらっ」


 そのジジムムをスミスは踏みつけていった。お前に慈悲はないのか。




「ち、ちきしょう、見失っちまった。……腹減ったな、しかし無一文だし」


 漂ってくるラーメンの匂いに腹の虫が鳴る。


「牛串お待ちどう」


「ギルマンがラーメンと牛串食ってやがるぜ。ったく、俺は無一文だってのに」


 立ち去ろうとしたとき、ふと違和感を覚え振り向く。


「……」


 サ・バーンと目が合う。


「……」


 マダインが振り向く。


『ぎょぎょーーーーーーっ!!!』


「お客さん、食い逃げーーーっ!?」


 牛串食いながら逃げる二人をラーメン屋の店主も追いかけ始めた。




「ち、ちく、ちょうっ、横腹がいてぇっ!!」


 ずっと走っているから当然である。


「仕方ない、一杯飲んでいくか。飲み逃げすりゃ良いんだ」


 いつもの調子で立ち飲み酒場に入ってカウンターに肘をつき注文する。


「ビール一杯」


「あいよ」


 そこに横から声をかけられる。


「一人飲みですか?」


「なんだ、悪いのかよ」


「いいえ、何なら一杯奢らせてください。景気がいいので、ジャーキーもどうぞ」


「お、こいつは飲み逃げする手間が省け、いやありがてぇ」


 一礼をして、顔を上げると、ドアップのサバと目が合った。


「うわーーーーっ!?」


『ぎょぎょーーーーっ!!!』


 サ・バーンとマダインはビールを飲みながら逃げ出した。


「こ、このっ!?」


 必死で脇腹を抑えながら走るスミス。


「飲み逃げだーーーーっ!!!」


 追う店主。悪夢の連鎖だった。





「や、やっと追い詰めたぞ。か、金を返せ」


 ナイフを取り出し、ちらつかせるスミス。


「そうは言ってもですね。あれがスったものだというのは自明の理で。財布に『ヒ・ラメイ』って書いてありましたし」


「やたら落ち着いてるじゃねぇか、おい」


 ビビりのギルマンらしくない。


「そのナイフ、切れなさそうですし。喧嘩弱そうですし」


 完全にギルマンに舐められていた。


「てめぇっ!?」


 ナイフで切る。だが、ナイフは折れて明後日へ飛んでいく。


「ほら切れない」


 はっはっはとギルマンズは笑うが、当然である。鉄の鱗を持った魚を誰がナイフで切れるというのだ。いっそ鉄の棒で脅すべきだったというのが正しい。


「ぎゃー!」


 通りの向こうから声が聞こえる。


「こーこーかぁ?」


 そう言いながら、頭にナイフを刺し、血みどろで現れたのはジジムムだ。ボロボロである。


「うわぁっ!?」


『ぎょーーーーっ!?』


「見つけたぞ!! 食い逃げだ!!」


「飲み逃げだ!!」


「万引きだ!!」


 数々の店主がそこに追いついた。


「お、おい、金は、金はどうした!?」


 慌ててスミスがサ・バーンに掴みかかる。


「あれ? 落とした」


「『落とした』じゃねーーーーっ!?」


 今から、フルボッコタイムが始まる……。




 場所は港湾。ここでは数々の肉体労働者が働く。


「遅いぞお前! 日給を減らすぞ!」


「す、すいません、ぐっ、ちきしょう。なんで俺まで……」


 重い荷物を担ぎなおすスミス。もともと肉体労働は苦手だ。


「だらしない」


 サ・バーンが言う。


「まったくだらしない」


 マダインが言う。


「うるせーよ元凶っ!?」


「私語は慎め強制労働者っ!!」


「ちきしょーーーーっ!!!」


 スミスはどこまでも堕ちていた。




「ん? どうした、コペン」


 コペンは拾った財布をダディに渡す。


「そうか、今日はステーキが食いたいか」


 そのお金をダディは預かった。世間様がどうかは知らないが南極では拾得物は拾得者の物だ。


 その日、ペンギン親子は豪遊した。


結局全ては日ごろの行いということである。

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