六十五話 ハードボイルド子連れペンギン
話をしよう。この話に僕は出てこない。
僕は語り部として突っ込みとして、ただここにいる。そう、これは一人のハードボイルド子連れペンギンの物語。
もうこの時点で僕の突っ込みは追いつかないような気がしてならない。
「バーボン」
ダディといえどもコペンを置いて飲みたいときもある。宿に預けたから問題ないだろう、そう思い来た酒場は混沌としていた。
「ヒャッハー! 水だぜー!」
「食料もあるぜー!」
『ヒャッハー!』
正座をしてそんなことを言って騒いでいるモヒカンたち、実に礼儀正しくて迷惑じゃない。近くのおっさんがそっちを見ると。
「アッスイマセン。こういうプレイなんです」
と頭を下げた。なんのトラブルもない。
「バーボンです。あと、これはあちらのお客様から」
と、つまみにイカフライが出される。バーでイカフライかよ。
横を見ると、そこにはペンギンがいた。
「お前は、フルルト。死んだと思ってたが」
フルルトは椅子から飛び降りると、歩いてきてまた椅子をよじ登り座りなおした。いちいち可愛い。
「どうぞ」
忘れてきたビールをバーテンが置きなおす。
「お前が殺したんだぜ? まぁ、俺は生きていたぜ」
ばりっざくざくとイカフライを食べる。
ばりっざくざく、ばりっざくざく、ばりっざくざく、話が進まない。
カウンターの上のイカフライが無くなったときダディが動いた。
「マスター燻製卵」
お前ら大概にしろよ。
「……で、何の用だ。香典を返しに来たのか?」
「あれは治療費に貰ってやったぜ」
案外仲が良いなこの二人。
「そうじゃなく、お前に決闘を申し込むぜ」
「良いだろう」
ダディはバーボンを飲み干して椅子を降りる。
「場所は?」
「郊外の草原だ。見晴らしが良いぜ。銃の戦いになるからな」
ダディはそこから出て行った。
ヒャッハーたちは会計を済ませ、その場から立ち去った。何しに来たんだこいつら。
風の吹きすさぶ草原。拳銃を二丁持ったダディとフルルトが向き合う。
「ルールはいつも通りだぜ。このカードが地面に着いた瞬間に撃ち合う」
「分かった」
次にフルルトが何かを言おうとした瞬間にダディは口をはさんだ。
「その前に言っておくが、私の今の名前はダディだ」
「そうか、ダディ」
フルルトは空を見上げた。
「カード、飛んで行ったぜ」
「そうだな」
二人は空を見上げていた。
~二時間後~
方やコーヒーを沸かしてすすっていたダディ。方や本を積み重ねて寝っ転がって読んでいたフルルトは突然起き上がった。
僕には分からない方法でカードが地面に落ちたことを察知したらしい。ペンギンは時々分からない。
銃を抜こうとしたダディはなにかを察知して跳んだ。
「コペンッ!?」
「ダディ」
抱きしめ、転がるダディ。その通り道に次々銃弾が刺さる。
「ははははは! 子供を抱えていては手も足も出ないな!!」
フルルトは銃がたくさん円形に繋がった機械を回転させている。たくさん銃が撃てるからくりのようだ。どこから出した。
円を描くように起き上がったダディは走る。
「どうするどうする!? 親子ともども粉々になってしまうがいいぜ!!」
からくりを回し続けるフルルトは異変に気が付いた。
「い、いないっ!? コペンは、子供はどこだっ!?」
「そこだよ」
「どこだっ!?」
コペンは、フルルトの頭の上に座っていた。気付けよ。
「こ、この、振り落としてやるぜ!?」
よちっよちっ。
「はっ、ペンギンは、頭がうまく振れない!!」
気付けよ。
「どこを見ている?」
銃を構えたダディが、走ってくる。近距離から拳銃を撃つ。
からくりはバラバラになった。
「大掛かりな機械はやはり脆いな。チェックだ」
コペンはフルルトの頭の上から飛び降りる。フルルトは両手を挙げた。
「た、助け」
「られないな」
銃声が響いた。
「ただいま、待たせたな」
「あ、ミスターダディ。ちょっと待っててもらえるかな」
説明をするダイケルにダディはコペンに魚を与えつつ聞き返す。
「どうした?」
「ミスターサ・バーンが、急患を預かって手術中なのだよ。なにかモヒカンの服装も人相も悪いが礼儀が丁寧な人たちが来てな」
「人相に関してはダイケルもそうは言えないだろう」
「それは違いない」
二人は大いに笑うのだった。マダインはコペンと魚を奪い合っていた。
「あのですね。サ・バーンさん。毎回患者を受け持つのそろそろやめにしません? 凄く旅が遅れてますよ?」
「まぁまぁ、今回は旅費も入ったから良しとしよう」
僕は片手で頬杖を突きつつ空いた片手で財布をお手玉する。
「まぁ、丁寧なモヒカンさんたちでしたが。しかし、変な怪我したペンギンでしたね」
「ぎりぎり致命傷は外れてたよ。運のいいペンギンだ」
「そうですか」
なんとなく腑に落ちないものを感じつつ。僕はなぜかダディさんにこのことは伝えないほうが丸く収まるだろうと感じていた。