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六十四話 ジャスティ―ナ襲来

 そこそこの人通りの中を、僕たち一行は歩いていた。人間二人(うち一人紙袋)、ギルマン二人、ペンギン二人とかいう珍道中何とかならないかな。


「この街はなんだか観光客が多いね。ミスターウィリック」


「名所旧跡が多い上に客船が止まるんですよ、この街は。まぁ、今までもずっと港街を渡り歩いてたんですが」


 客船が停まる街はまぁ、やっぱり栄える。観光客が多いのは強みだ。港街を渡り歩いているとやっぱり活気があるなぁ。


「ふはははは!! 師匠、勝負だー!」


「出ましたね、ジジムムさん。サ・バーンさんからの噂で来てるとは知っていましたがやっと怪我が治って来ましたか、おめでとう!」


「いや、まだ片足が曲げられぬ!!」


 そういえば杖を突いている。


「無茶すんなよご老体!?」


「この程度でザンド白影真流は死なぬ! 食ら……」


 と剣を振りかざした瞬間である。


「邪魔よっ!!」


 馬車ほどもある氷塊がジジムムさんを薙ぎ払って噴水に叩き込まれる。噴水は壊滅した。


『ギョギョー!!』


 逃げようとするギルマンズ。


「逃がすな!? サ・バーンさんだけでも逃がすな!! 奴は医者だ!! ジジムムさん、しっかりして、息をしてくれジジムムさーんっ!?」


 登場一分でこれほどひどい目に合うほど彼も悪い人ではない。


「いったい誰がこんなひどいことをっ!?」


 僕は先ほどの魔法、そう、こんなことができるのはローレライの魔法しかない。魔法の主を睨んだ。


「ダ~~~リ~~~ン」


「ひ、ひぃっ!?」


 地獄から響くような声で呟いているのは。ジャスティ―ナさんだ、そのオーラはギルマンじゃなくても逃げたい。


「な、なんですかジャスティ―ナさん、いや、いったいなんでここに!?」


 いや、どうやって来たかは分かる。きっと豪華客船に乗っていたのだろう。ちくしょううらやましいな!


 ジャスティ―ナさんはゆらりと半身でこちらを睨む。


「女と、女と逃げたと聞いて……女はどこなの?」


 ゆらりと手に魔力が込みあがる。


「あなた別れの時何聞いてたんです!? あの場にいたでしょう!?」


 大人しいと思ったら勘違いしてたのか!?


「つべこべ言わず……出しなさいですわーっ!!」


 氷の散弾があちこちに突き刺さる!! やばい、この人マジだ、今説得しないと、絶対こじれる!! こじれたら死ぬ! 殺される!!


「ウィリックさん、女性からのお助けです。この馬車にお乗りください!!」


 馬車がなんか走ってくる。え!? 聞いてないしなにそれ!! うわ、捕まった!?


 がしっと馬車に引き上げられ連れて行かれる、僕。さしものジャスティ―ナさんも人混みに向かって走っていく馬車を攻撃はできないようだ。


「うわーーっ!? こじれるーーーー!?」


 話は最悪な方向に行くのだった。


 ガラガラ走っている鉄馬車の中で僕は窓に頬杖をついて対面の二人を見る。あっち狭そうだ。


「で、なんですか?」


 僕の声に答えたのは、スミスさんのほうだ。ろくなことが起こるとは思えない。


「なに、ちょいとウィリックがやばそうだったから助けただけだって」


「嘘つくならまともな嘘ついてください。あなた本当に詐欺師ですか」


「チッだからこいつ嫌いなんだよ」


 詐欺師だったらそこで本音出さない。


「で、ヒ・ラメイさんに何か申し開きは?」


 ヒ・ラメイさんはガタガタ震えながら答えた。馬車の揺れではない。


「こ、ここでジャスティ―ナさんに誤解を生ませておくと……消せる」


「物騒なこと考えましたね、ヒ・ラメイさん!? お前なけなしの勇気を僕消すために利用しましたね!?」


 がっくんがっくんヒラメを揺する。


「さては計画はスミスですね!? きっと金貰ってるでしょう!? 外に向かって口笛吹いてんじゃあねぇよ!?」


 スミスもがっくんがっくん揺すると、馬車自体が傾いた。


「ひっ、ひいっ!? ローレライが凄いスピードでこっちに空を飛びながら雷を落としてきてる!?」


「言わんこっちゃない、ローレライからそう簡単に逃げられますか!?」


 轟音、そして馬車は爆発炎上。何の魔法を食らったのかもわからない。





「あ、あいたたたた。スミスさん、もうこの際ヒ・ラメイさんは良いからあんたは起きろ! この事態を何とか責任とれ!? 殺されるぞ揃って!?」


「だぁありぃぃん」


 ゆらり、と陽炎の中から現れる。ジャスティ―ナさん。


 僕はこりゃだめだと神に祈った。


「ふふふ、連れて帰って海の底で一緒に暮らしましょう?」


「全力でキャラ変わってませんか?」


 じりっと逃げ去る、よく見ると後ろは崖だ。街の外に出て海岸線を走っていたのか。海に逃げるって手もあるけど、海でローレライに勝つくらいなら陸のほうがまだ勝ち目がある。


「腹をくくるしかないのか……」


(助けに来たぞーーー!!!)


『えっ!?』


 僕とジャスティ―ナさんは同時に後ろを振り向く。水平線からすごい勢いでやってきたのは小島ほどもあるクジラの群れだ。凄いあんなの見たことない。


「助けに来たぞー!」


 乗っているのはダイケルさんとペンギンのダディさんだ。ああ、人助けってしておくもんだなぁ!?


「助かりますっ。とぉっ!!」


 僕は崖から飛び降りてクジラの上に乗ると、クジラは全力でその場を離れる。


「待ちなさいーーーー!!!」


(通さない、弱肉強食)


 そこに塞がるクジラの群れ。ざっぱーんざっぱーんと津波の合戦が始まる。船がなくて良かった。いくらローレライが強いといっても二番目に強いあの数のクジラが相手ではどうにもならない。





「とりあえず逃げるべきですね。頭に血ののぼったあの人は会話ができない。頭が冷えたら何とか会話に応じてくれるでしょう」


「このまま西の果てまで行けませんかね?」


(あっちは海の質が体に合わんでなすまない)


 ああ、だから西ではあんまり見ないのか。


「でも、助かりました。本当に酷い目にあいましたね」


「しかしレディのせいで骨折り損のくたびれ儲けだな」


 僕は、笑って財布をお手玉する。


「一応儲けはありますよ。気絶したスミスさんから財布抜いてきました」


「……その胆力と手癖はスリの素質があるよミスターウィリック」


「因果応報です。やり返さないと気が済まない。そう言えば、サ・バーンさんとマダインさんは?」


 あの二人邪魔だから要らないといえば要らないんだけど。





「心臓マッサージ、もう一回するぞ、イチニーサン!!」


「呼吸、戻りません!!」


 診療所でジジムムさんはサ・バーンさんから必死の処置を受ける。


 彼が、ぎりぎり息を吹き返したのは、翌日の朝の話だった。


 老齢ジジムム、奇しくも六十九歳の誕生日のことであった。


 合掌。

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