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六十三話 一クジラ 二ザリガニ 三トンビ 

次の街まであと半日、僕らは野営の準備をしていた。ギルマンやペンギンはともかく人間に野営は辛いので小さなテントを買ったのだ。臨時収入もあったし。


「そろそろあっちは終わりそうかな?」


 僕は食事当番である。魔導コンロは一つしかない貴重なものなので僕かダイケルさんかサ・バーンさんが作ることになっている。サ・バーンさんがこれまた謎の腕を持っている。なんか腹立たしい。


「こんなもんか」


 ソーセージを炒めて皿に盛る。今日のメニューはソーセージ炒め、ベーコンと海藻のスープ、それからフライパンで焼いた小麦粉のトーストだ。豪勢である。臨時収入があったからね。


「ベーコンとソーセージが手に入ったのは大きいなぁ。メニューに横幅がある」


 みんなを呼ぼうと、僕は近くを見渡した。テントを張る林は入っては良いが、火を使ってはいけないので僕は離れて調理していたのだ。





 じっ……。


 サ・バーンがコペンと見つめ合っている。


 体長二メートルのサバが、わずか五十センチほどのペンギンと見つめ合ってる様はとても奇妙だ。


 じりっ。


 サ・バーンが一歩詰め寄る。コペンが一歩下がる。


 サ・バーンが一歩詰め寄る。コペンが一歩下がる。


 サ・バーンが一歩詰め寄る。コペンが一歩下がる。


 だっ!!


 全速力でサ・バーンがコペンを追い始めた、コペンは逃げる!


「何やってるんですか、危険な遊びしないで下さい」


 じゅぅ。と、フライパンを僕はサ・バーンさんに押し当てた。魚の焼ける良い匂いがする。


「ぎょーっ!」


 悶絶してのたうち転げるサ・バーンさん。


「ほら、コペン君も……あれ?」


 コペン君は、こつぜんといなくなっていた。切り立った崖の向こうで『どぼん』と言う音が聞こえる。


「ぎょーっ!」


 サ・バーンさんが転げまわっていた。





「なぜ、こんなところで泳がなくてはいけないのか」


「貴方のせいですよサ・バーンさん!?」


 ざばざばと海中を探す僕ら。僕は当然ローレライになっている。


「夜になると絶対見つかりませんよこれ。ダディさん怒るとめちゃくちゃ怖いんですからね? 特に息子さんのことだと」


 泳いでいると良さげな洞穴を見つけた。


「あそこに入ってるかもしれない、少し見てみましょう」


 中に入ると、僕は髪飾りをつける。人間に戻った。


「便利だな、それ」


「便利でもないですよ、いちいちズボンが脱げ落ちるんですからね」


 腰にシャツを巻き付ける。少々頼りない。


「む、骨が点々と落ちてるな、そんなに古くない」


「何の骨ですかね、大きい」


 ……なんか、嫌な予感しかしないぞ。


 奥で何か、動く音と重い音がする。あれって……。


「ザリガニだーーーーーっ!?」


「ぎょぎょーーーーっ!!!」


 青い巨体、鉄でできた甲羅、すべてを破壊するハサミ。まさにそれは陸の王者ことザリガニだった。


 僕たちは一目散に逃げだす、とても危険な肉食生物だからだ。


「なんでこんな海の洞窟にザリガニがいるんですか!?」


「どうやら外に繋がっているらしいなこの洞窟は。住処にしているのだろう」


「意外に冷静ですねサ・バーンさん!!」


「慌てたらこの状況から逃げれるという法律があるのかね!?」


 いや、無いけどさ!! ドアップで言われても困る!!


 僕らは死ぬ気で海に向かって走った!!




 僕はどこかの岬に漂着していた。


「ぜーっ、ぜーっ。さ、サ・バーンさんとはぐれた……」


 あの人ものすごい速度でバタフライするんだもん。相変わらず逃げるの素早いなぁ。


 人がいる。ローレライの姿は何なので人に戻る。Tシャツ落ちなくてよかった、無けりゃ変態だがあってもかなり怪しい。


「すいません、ここはどこでしょう?」


 もはや自分が遭難しないのが優先だ。遭難しては命がない。荷物もお金もないし。


「ここは暁の岬だぜ」


 口の悪い可愛い女の子の声、これは。


「ミーティスさん」


「なんでぇ、ウィリックか。どうしたんでぇ、その変な恰好」


「……ズボンを海に流されて」


 真面目に説明するのがめんどくさかったのでそう答える。


「ドジだなぁ、お前」


 ミーティスさんは釣り竿から釣り糸を垂らしている。


「……釣り、するんですね」


「あたぼうよ」


「ものっすごい引いてますよ」


 こう、ありえないぐらい引いてる。頑丈な竿だなおい。


「これはエサの引きさ」


 もうすごく嫌な予感しかしないのだが、聞いてみる。


「何で、何を釣ってるんですか?」


「マグロで、クジラを」


 ざっぱーん!! 小さな島くらいはあろうかというクジラが釣れた。


「嘘でしょう!? ねぇ!? 嘘でしょう!?」


「しまった! クジラ肉を取ったら経費が浮くかと思ったら、どうやって倒すか決めてねぇぜ!」


「そこは決めておきましょう!?」


(弱肉強食――――!!!)


「ステイ!! クジラさんステイ!! ちょい待ちーーーーー!!!」


 僕らは津波に飲み込まれた。




「遅いなぁ、どこに行ったんだろうね。ミスターウィリックと、ミスターサ・バーンは」


 残った皆は、コンロを囲んで夕飯にしていた。ウィリックの作った夕飯である。


「おいしいか? コペン」


「おいしい!」


 ダディはコペンの口の周りを拭く。


「冷めてしまいますからそれ、私が食べてしまいましょう」


「厚かましいな、ミスターマダイン」


 キャンプは割と平和だった。




 そのころサ・バーンは泳いでいた。


 空の王者巨大トンビがサ・バーンを狙い鋭い爪を向けていたからだ。


 空と海とで激しい追いかけっこが始まる。


 サ・バーンのバタフライはこれまでになく冴えわたっていた。



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