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六十一話 肉屋とスミスの大不幸

「そろそろ食材が足りなくなる頃ですね」


「どうする? ミスターウィリック」


 何分食い扶持が六人いる旅だ。ダディさんからはお金を貰ってるので文句はないが、マダインさんに食わせるのがとても悔しい。


「買い足しましょう。幸いこの街には大きな市場があるそうです」


「分かれるか?」


「纏まって行動しましょうよ。トラブル嫌です」


 心からの本音だった。




 結局ダディさんとその息子コペン、あとマダインさんは別行動となった。


 ぶっちゃけあの三人はいなくても旅に支障はないのでむしろなんかあってほしい。


「大きな市は久しぶりですね」


「ハーヴリルとは少しだけ趣が違うのだな」


 ハーヴリルは地面で売る簡易屋台が多かったが、ここは店を構えているところが多い。大きめのテントのようなものである。


「ハーヴリルは流れの商人多かったですからね。あ、でもあそこは流れみたいですよ」


 仮設の椅子とテーブルだけ出して何やら売っている。……だが。


「可愛いな」


「なんか、やたら可愛いですね。ファンシーショップには見えませんが」


 売っている女の子はふりふりのフリルの付いた服を着ていた。テーブルも椅子も可愛いが、可愛い物を並べている節は無い。


「覗いて見ましょう、何売ってるか気になる」


「またミスターウィリックの良くない癖が出た」


 案外僕は好奇心が旺盛なのだ。猫だったら死んでる。





「もしもし、ここは何の店ですか?」


「なんでぇ、分かんねぇのかよ、ちくしょうめ!」


「うわっ口悪いっ!?」


 話しかけた女の子は見た目の可愛さとは裏腹にめちゃくちゃドスの効いた乱暴な言葉遣いをしていた。


「なんか文句でもあるってぇのか?」


「あ、いえ、無いです。で、何の店で?」


「決まってるだろう!」


 すると、彼女は鉈のようなでっかい包丁を取り出して肉を取り出し、それを骨ごと叩き切った。骨髄から出た返り血が頬に飛ぶ。


「肉屋よぉ!」


「そうですか、じゃあ」


 僕は一刻も早く立ち去りたかった。


「ちょいとちょいと、冷やかしは困るぜ。せめてなんか見ていきなよ」


「ロクな思いしなさそうなんで」


「そもそも我々は旅人だレディ。悪いが生肉を買い込むことはできない」


「そいつあ残念だ。でもこのミーティスのマーケットはちょいと違わぁ!! ほら見ろ!!」


 どん、と置かれたのは、旅人の憧れである。


「ビーフジャーキーじゃないですか!」


「これを売ってもらえるのかい!?」


 牛肉の燻製なんてめったに口に入るものではない。わざわざ牛肉に高価なスパイスをぶち込んで煙で燻して小さくするのだ。魚の干物をしゃぶるのとは訳が違う。


「あたぼうよ!!」


「一袋おいくらですか?」


「金貨一枚」


「普通に高いじゃないですか!?」


「あたぼうよ!!」


 駄目だわこの人。


「でもさっきから思ってたんですけど、生肉だのジャーキーだの売れもしない原価高い重いもの良く行商で売ってますね」


「ああ、それはこいつのおかげさぁ」


 彼女は言うと小箱を取り出した。


「ローレライの作った魔法の小箱でな。こいつがあれば牛一頭だろうと冷やして持ち歩けるってー寸法だ」


「ほー、そりゃ凄い。さぞお値段がするんでしょうね」


「いやーそれが」


「それなら貰いッ!」


 スミスがミーティスの手から箱を奪い逃げ去る。


「なっ!? スミス!!」


 追おうとするが雑踏の中あっという間に隠れてしまった。こういう場所ではあっちに分がある。


「おうしかし、アレ、呪いがかかっててウチの家計以外が持つと、その」


「死ぬんですか?」


「死んだほうがましって目に合う」


「アチャー」


「どうする、ミスターウィリック。自業自得だが」


「まかり間違って他人が拾ってもあれですし、身内がやらかした事です。責任持ちましょう」


 僕は顔を覆った。




「チッ、なんかついてないな。でもまぁ、こいつを売ればお釣りがくるだろう」


 逃走中に財布を落とした。鳥の糞は二回落ちてくるし、犬の糞も踏んだ。


「暴れギルマンだ―――――!!!」


「なぁっ!?」


 走ってくる鯖のギルマンをギリギリ避ける、避けると生ごみの中に顔を突っ込んだ。


「ちっきしょー! 気を付けろ!!」


「おい! 危ないぞ!!」


 上からレンガが落ちてきて、頭を強打する。


「ぐあっ」


「早く逃げろ!!」


 そこに、何の因果か古くなった建物が一棟倒れ込んできた。




「こ、効果てきめんですねー」


 探すまでもなかった、大きな音がしたので行ってみたらズタボロのスミスがいたのだ。


「これはひどいな……」


 紙袋の中でダイケルさんも顔を顰める、見えてないが分かるのだ。


「途中でサ・バーンさんはいなくなっちゃいましたが。ま、何とかなるでしょう。どうぞ」


 こんな危険物を自分で持つなんて愚かな落ちは作らない。ミーティスさんに先を譲る。


「おう、助かったぜ!」


 言うと箱を取り、その直後、我々を影が覆った。


 巨大トンビが、スミスさんだけかっさらって行ったのだ。


「……不幸にお釣りが来ましたね」


「あれ、どうするんでぇ?」


「どうするもこうするも、僕らにできることの範疇を超えています。彼の悪運に任せましょう」


 僕は神に祈った。無駄かもしれないけど。




「急患ー」


 サ・バーンがベッドに包帯ぐるぐる巻きのスミスを投げ入れる。


「お主、帰ってくるの、早かったの」


 脱走したスミスに何も言うこともなく、重傷を負っていたジジムムは、くそマズい粥をすするのだった。


 ああ、彼らに幸運は訪れるのか、それは誰も知らない。



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