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四十六話 金は天下の回り物

「……あのですね」


「ぶくぶくぶくぶく」


 僕は崖の上から魚の下半身に話しかけていた。ギルマンの下半身に話しかけるのは非常にシュールだ。


「ああ、もう良いですから這い出てきて下さい」


 じたばたともがきながら崖にしがみついたのは、縦に長いことに定評のある太刀魚のギルマン、ターチウォさんだ。全長五メートルはある。うねうねとしてて慣れても気味が悪い。


「スイマセン、せっかく教えてもらってるのに」


「むしろなんで僕なんです。ギルマンの泳法なんて分かりませんよ」


 僕はカナヅチのターチウォさんに泳ぎを教えていた。だが、そもそも生き物としての形の違う僕では、どうもギルマンに教えられる気がしない。というか、太刀魚が立ち泳ぎできないっておかしいだろ。


「どうしても、泳ぎを覚えたくって、そして大渦を越えクジラになりたいのです」


 そうか、この人は夢があるんだな。大望すぎてちょっとツッコミが追いつかないが。


「しかし、一つ聞いていいですか? 沈むんならともかく、なんで体を鉄で覆った重たいギルマンが浮くんです?」


 いくら海だからと言っても、鉄は海に沈む。ギルマンの身を海に沈めたことはないが、きっと沈むだろう。


 だがターチウォさんは尻から浮くのだ。


「続きやってきます」


 どぼん、また下半身になる。ち、逃げやがった。




 まぁ、ターチウォさんは放っておいてもいいだろう。何しろギルマンは水陸両用種族だ。海の中で呼吸が出来る。決して溺れることはないし、溺れたところで死にはしない。


「……いや、なんでそれで泳げないんだ?」


 浜辺で僕が悩んでいるところに、長男さんが話しかけてきた。そういえば家が浜辺なんだ、この人。


「やあ、ウィリックじゃねーか」


「ああ、長男さん、仕事はどうですか?」


 三兄弟はサメのシャア・アックさんと一緒に運輸会社をやっている。昔は金貸しのゴロツキだったのがずいぶん頑張っているようだ。


「おう、今もシャア・アックの兄貴を筆頭に遠方までの一括便を引き受けたところさ。急な話だったんで、もう出発してる。俺は警護役なんで出発したら早引けさ、次男と三男で交渉してるぜ」


 どうも、長男さんの話では大口で急ぎの仕事を持ってる人に受けているらしい。


「そういやそうですよね。泳脚って個人経営だから数揃えられないし、大型船は簡単に動かせるものじゃないですから急には無理ですもんね」


 どうやら、僕らが考えた運輸会社は上手く行っているようだ。


「ところで、その手に持っているものは何なんです?」


「ああ、これ、帰り際に買ったんだ。ほれ、こうして見ると手が透けて見えるんだぜ。高価な魔法の品なんだとよ」


 長男さんが手を筒で覗いて見てる。レンズのつもりだろうか。


「長男さん、それ、魔法かかってません。魔力を感じませんよ」


「え、ほら、見えるし」


 長男さんから受け取って僕は覗きこむ。確かに赤い物が見えるが。


「人間は血袋じゃないからこんなに赤く見えませんって……ほら」


 筒から赤い袋を抜き出す。微妙に動く布なので血のように見えたらしい。


「え……?」


「言いなさい、いくら払ったんです?」


 そして僕は、そんなことをしそうな奴に覚えがある。詐欺師のスミスだ。あいつ懲りてなかったのか。


「ええっと……」


 言ってると、次男さんが声をかけてきた。


「おーい! 二人共、銀貨袋亭に飲みに行こうぜ、割引券を買ったんだ!」


「僕は従業員ですし、何よりめんどくさがり屋でがめついブイローさんがそんなもの発行するわけ無いでしょう!?」


 スミス、あいつそんなもの売りさばいてるのか!! ちょっととっちめないと!


「え、じゃあこれ」


「そんなのただの紙切れですよ! どんな口八丁かまされたか知りませんけどね!」


「兄さんたちどうしたんだい? 家の前で騒いで」


「ああ、三男。お前先に家に戻ってたんだな」


 洞窟の中からひょっこり三男さんが出てくる。


「あなた方まだその狭っ苦しい浜辺の洞窟に住んでたんですね、引っ越しましょうよ」


「いやあ、これが住めば都ということで。で、どうしたんだい?」


「どうしたもこうしたもないですよ。……ところで三男さん、なにか売りつけに来た男がいませんでした?」


「いたよ、砂糖畑の権利を買わないかって」


 やっぱりか。カモだと思われてるな。


「で、買ったんですか?」


「金が入ってないから止めておくって言ったら、待ち合わせの場所を渡されたよ。郊外の屋台だね」


「そこだ!!」


 長男さんが剣の柄を握る。


「ここで会ったが百年目! 生かしちゃ帰さねぇ!!」


 次男さんが棍棒を握る。これは血を見そうだぞ。




 結局夜中。店に断りを入れて休ませてもらったがスミスはなにか感づいたのか姿を表さなかった。


「くそう! 来なかった、あの野郎!!」


「美味しかったですねー、鶏の串。でも良かったんですか?」


「ああ、大丈夫なんだ。今日騙された金額も奢った金額も別に今日の売上に比べたら」


「へぇ、儲けてるんですね、あやかりたいくらいです」


 そこでふと、違和感を覚えた。あの洞窟には一応入り口に鍵はかけれるのだが、その扉が開けっ放しになっている。


「三男さん、アレ」


「え? ええええっ!?」


 血相を変え慌てる三男さんを見て僕らは急いだ。




 部屋はめちゃくちゃだった。半分は荒らされていたのと、今、大慌てで探しまわっているからだ。


「無いっ! 無い! 今日の売上がない!! あれ、ギルマンたちに払う分の金も入ってるのに!!」


 三男さんは涙目で探すが、これは見つからないだろう。


 僕は、表を探そうと歩き出した。


「だけど、あれだけ稼いだらもう高飛びしてそうだなぁ……」


 奴は僕と同じく根無し草だ、僕は軽く舌打ちする。とりあえず警邏隊だ。




「へっへっへ、俺が盗みも出来るとは思わなかったろうな。口先だけじゃないのさ。恵まれない俺に施しを感謝」


 スミスは手の中の大袋を確かめるように手の上で跳ねさせる。跳ね返る重みが心地よい。


「さて、これだけ盗んだら足がつくな。中身だけ確認したらさっさとずらかるか……おおっ! すげぇ入ってる!」


 と、中身に喜んだのがまずかった。


 ざばーんっ!!


「やりましたよウィリックさん、私立ち泳ぎが出来ました!! ……おや、何かを跳ね飛ばしたような」


 突然飛び出した太刀魚のギルマン、ターチウォが水面から飛び上がってスミスを跳ね飛ばしていった。崖からざっと数メートルのジャンプである。ぶつかったスミスは吹っ飛び、海の中へと消えていく。


 じゃらじゃら。


 音を立てて、スミスと一緒に跳ね飛ばしたお金が崖の上のターチウォに降ってくる。


 ターチウォはこれを素直に喜んだ。


「お、おや、天からお金が降ってくるなんて!? これは凄い奇跡だ! 泳ぎを頑張った私への神様のお祝いに違いない!! そうだ、お世話になったウィリックさんにプレゼントしよう!! きっとそれが良いに違いない!!」


 金は天下の回り物、結果としてウィリックがターチウォから話を聞き、お金は元通り帰ってくるのだった。


 皆は落とし物をちゃんと届けよう。




 なお、スミスは海の藻屑として二日後に浜辺に打ち上げられたのを近隣のギルマンが発見した。


 ぎりぎり生きてたらしい。



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