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四十三話 ねんどこねこね

 僕は一人で歩いている。


「あのですね」


 いや、後方に話しかける。距離は六メートルだ。ここまで来るのに何日かかったか。同行者は後方にいた。


「僕いらないと思いますし、目的地がわからないのに先行しても意味ないと思うんですよ」


 前方を移動しつつ距離を取りながら目的地に行くのがやりづらいったらない。


「あ、じゃあ前に行くね。道が狭いからちょっと路地に入って」


 いつも思ってるけど、めんどくさいなぁこの人!


 僕はアウレンさんとデートであった。


 デートというよりストーキングに近い。




「んで、これからどこへ行くんです?」


 中央通りから少し入った路地を行きながら尋ねる。


「うん、趣味で陶芸をやってるから、陶芸教室へ行こうかと思うよ」


「趣味で陶芸ですか、結構優雅ですね」


 どうでも良いがお互いに耳が良くなったもんだ。悲しいが、今では会話に支障がない。


「よお、ウィリックじゃねぇか。一人で何やってるんだ?」


「リチャードさん。一人じゃないんですよ、これが」


 僕はアウレンさんを指差す、アウレンさんは小さく会釈した。


「ストーキングは犯罪だが、この場合どう表現したらいいんだ?」


「僕にも分かりません」


 僕は、首を一つ横に振ってからリチャードさんに言葉を返す。


「そういうリチャードさんも、恋人連れてないのは珍しいですね。いつも違う人連れてるのはどうかと思いますが」


「今日は趣味だからな。陶芸をやってるんだ最近」


 あ、アウレンさんが涙目で首を振ってる。だがまぁこう言うべきだろう。


「僕らも行くんですよ」


 ここにアウレンさんとのデートは終了した、その時間十五分であった。





「ここが陶芸教室ですかー」


 僕自身皿はいくらでも扱うが、それがどう作られているなんて興味は湧いたことはなかった。いい勉強になるだろう。


「ここでは主に白磁を作るね。この辺りは良い土が取れるの」


「へぇ、ところでアウレンさん。いつも思ってたんですけど、その、土ってどこから持ってくるんです?」


 僕は粘土なんてものが落ちてるのを見たことがない。


「粘土は海でよく取れるのさ。ギルマンが良く掘り出してきてそれを塩抜きして使ってる。塩が入ってるとイマイチ出来が悪くてな」


 リチャードさんが、解説してくれる。アウレンさんがそれに付け足し。


「ローレライは肉体労働になるから、これ取ってきてくれないらしいよ」


 なるほど、やっぱり思うんだけど、人間ってギルマンに依存してるなぁ。





 ぐしゃ。ろくろで回していた僕の器はまた変形してしまった。粘土をこうやって回して形を整えるらしいが、それ以外の説明は聞いていない。


「初心者用って言われたけど、これ、難しい……あの?」


 リチャードさんとアウレンさんは、滴る汗も無視してじっと作品に向き合っている。


「あの……」


「黙ってろ」

「黙ってて」


「あ、はい」


 なんだろう、これ、物凄く面白く無いような。門外漢がいきなり趣味の世界に放り込まれるというのは、どういうジャンルであれ最初面白く無いというのは分かるが。


「……」

「…………」


 二人共必死すぎる。いつもは見ない顔だ。普段は女性にフラフラしてるイメージのあるリチャードさんが没頭するのも見ないし、いつも笑顔かオタオタしてる顔しか見ないアウレンさんが怖い顔をしている。


 趣味は人の不思議な側面を見ることが出来る。


 だが、面白くないものは面白く無いのだ。





「やーっと、出来た」


 整形したものを乾かし、さらに整形して完成である。


「ほんと、やっとだね」


「いやぁ、らしくないなぁ。これくらい楽だろ?」


 二人ともすげぇ上から目線である。なんかむかつく。


「……で、これを焼くんですよね?」


「焼かないよ?」


「何を言ってるんだお前は」


 二人が、冷たい視線で見る。


「僕は焼き物のことを何も知らないのは分かっていますが、その非常識人を見るような目を見るのはやめて下さい」


 僕の故郷では、焼き物は作るものじゃなく買うものだったのだ。


「まず一週間くらい乾かすんだよ。完全に乾いてないと割れてしまう」


「それで、一回焼いてから絵をつけて、うわ薬をかけるの」


「うわ薬?」


 聞かない薬だ。


「ガラスの粉を溶かしたようなもので、陶器の表面にかけるんだ。こうしないと陶器は水漏れしてしまうからね」


「ああ、アレってガラスなんですか。へぇ、一つ勉強になった。薬じゃないんですね……ということはこれで今日は解散ですか?」


「ううん。私達が前来た時に作ったのが焼きあがったそうだからそっちに行こう」


 ああ、やっと完成品が見れるのか。それで楽しめそうだ。やっぱり趣味の世界は難しい。





 並べられた数々の作品を、目を細めて見る。よくわからないけどこれは壮観だ。


「へぇ、全部作ったんですか?」


「こっからここまでが私たちのですね」


「すごくたくさん作ってますねぇー。そんなにあるなら、うちの店で……」


 とまで言った時のことである。


「こんなんはダメだーーーーーー!!!!」


 いきなりリチャードさんが地面に皿を叩きつけた。


「これもダメーーーー!!!」


 アウレンさんも続けて地面に皿を叩きつける!


「こいつもこいつもこいつもダメだーーーー!!!」


「この、時間かけて作ったものを破壊するのが陶芸の醍醐味ですよねーーーー!!」


 僕は、十歩位引いてそれを眺めていた。怖い。


 後で聞いた話だと、これは失敗作らしいのだが……。


 趣味は人の不思議な側面を見ることが出来る。


 別に見たくて見ているわけではないやい。



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