表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/86

三十七話 ナニーさんとポルターガイスト

 いつもの深夜の銀貨袋亭である。


「あのですね、ナニーさん。僕もいつもいつも暇なわけじゃないんですよ」


「ですけど、ウィリックさん以外に頼る人がいなくて!」


「僕は今警邏に頼るかどうか検討しています。この惨状を」


 ナニーさんがうちの店に及ぼした被害はコップ三つ、皿十二枚、客四人である。なお二次被害拡大中に付きダイケルダンス出動中である。まぁ、巻き起こった喧嘩はこれで鎮圧できるだろうが、本日の営業は無理だろうなと思う。


「とりあえず話は聞きますから、大人しく自首するか弁償して下さい」


 そして、彼女への調停係が僕なのであった、ちくしょうババ引いた。


「おう、うちはお悩み相談所じゃねぇんだぞ」


「ブイローさん、あなたにだけは言われたくなかった。そもそもあなたが僕を便利に使ってきたのが原因です。ボーナス貰いますからねちくしょう」


「……とりあえずそいつ表に連れ出してくんな、クラダが逃げちまったから俺とアウレンで片付けるよ」


 喧嘩沙汰が起きるとギルマンはまっさきに逃げるのでギルマンのクラダさんは片付けの役に立たない。こればかりは人間で片付けるしか無いのだ。


 正直今回悪いのはナニーさんと、酔って絡んできた新顔のフィフティフィフティーである。弁償はあっちにやらせよう。あ、ブイローさん殴られて気絶してる客から財布抜き取ってる。あれは酷い。


「ともかく表に出ながら話を聞きますから、一体何があったんです?」


「実は、実はオバケが怖いんです!」


 ……ホワッツ?





 心霊現象。


 怨念が立ち込める場所で起こるとされている場所で起こるとされている現象であり、過去に未練を残している者が有形無形で現れる現象を言う。


「……と言うのは迷信で、僕もきちんと調べたんですけど実際には神の元へ行く魂が迷子を起こしている現象だそうですよ。別に怖くないです」


 ちなみに、集団でゾンビなどが発生する現象はその土地に起因することが多く、魂が迷いやすい土地に埋めると発生するらしい。街の中では入り組んだ路地が迷いやすいようなものだ。


「ですけど……」


 一緒に帰り道を歩くナニーさんがきょろきょろ振り向く。この人怖いものあったんだな。


「だから、オバケは別に怖くないんですよ。もし会ったとしても相手に何が出来るってわけじゃないんだから放っておきま」


「なにもできないだとぉーーー?」


「そりゃ何も出来ませんよ、ゾンビだったらともかく体もないのに何が出来るって」


「ウィリックさん、後ろ……」


「だから後ろに何かいても……うわぁっ!?」


 後ろを向いた僕は思わず、すっ転ぶ。指を突きつけてワナワナと震える。


「ななななな!!」


「ぬぁにを驚いているー!」


「そりゃ驚きますよ! 幽霊が出たならまだしも分かります。百歩譲ってもギルマンの幽霊くらいならもう驚きませんよ! だけど、だけどそれは何なんです! ってかあなた何者です!?」


 僕が目にしているのは、アオザメに手足が生えている、アオザメのギルマンだ。それだけならば、もう驚くに値しない。幽霊のギルマンだというのももう認めよう、半透明だ。だが。


 毛皮を着て。


 豪華な指輪をはめまくって。


 総金歯のギルマンって、おい。


「他は許しても金歯、金歯って!! ギルマン、それは鉄じゃダメだったんですか!? あと、そんな悪目立ちする幽霊が許されると思ってるんですか!?」


「幽霊が悪目立ちをしたら良くないという法律でもあるのか?」


「寄るな怖いっ!?」


 僕が今まで見たギルマンの中でもダントツの飛び道具ですよコレ! サメで金歯ってもう意味がわからない!


「ナニーさん、これに迫られてるんですか?」


 あえて取り憑かれてるって単語使いたくない。


「……はい」


 うわ、生まれて初めてこの人に同情した。





「……で、まぁ、一体どういったご用件で?」


 これだけ存在感のあるものを、もう幽霊と呼んでいいのだろうかわからないが、僕はサメのギルマンの幽霊(助詞が多いな)に話しかけた。


「何もカニもない。俺は金を貸したので取り返しに来たんだ」


「ナニーさん。幽霊から借りを作る趣味があったんですか?」


「いえ、ないです」


 僕はアオザメのギルマンを睨みつけるとサメの幽霊は毛皮の中から紙を一枚取り出した。


「金貨一枚を貸し付けるって書いてあるぞ」


「この際痛いですが、いっそ金貨一枚なら払っちゃいましょう」


「いや、残念ながら利息計算したものがこちらになる」


 えっいちじゅうひゃくせん……0がいくつ付いてんだこれ!?


「冗談じゃない! ローレライの全財産掻き集めても支払えませんよこんなの! 不当利息です!」


「不当じゃない、私が貸したのは三万八千五十七日前だからな」


 こっちは計算できる、要するに。


「お前百年以上前のギルマンかー!」


 僕の怒声が響き渡った。





 そりゃ利息も膨らむだろう。要するにこのギルマンはナニーさんのご先祖に金を貸したのだ。そしてこいつはシャア・アックさんのご先祖に決まっている。そうでなかったらおかしい。名前などもう聞きたくはなかった。


「俺の名前はアオザ・メークって言う」


「『ク』しか残ってねぇって突っ込ませたいんだろうけど、そうは行かねぇよっ!!」


 僕らは街中を移動中であった。一所に居てはうるさいとドヤされてしまう。


「で、どこへ行くんです?」


「教会」


「俺は別に聖水とか効かんぞ」


 ふんぞり返るアオザ・メークを見て、先程から思っていたことを口にする。


「ギルマンにしては度胸ありますね、ぶん殴りますよ?」


「殴ったところで体がないからな!」


「うわっ! タチ悪い。こいつ開き直ってるよ! まさかナニーさんが苦手な理由って……」


 ナニーさんはアオザ・メークをぶんすかぶん殴りながら。


「はいっ。こいつって、暴力じゃなんともならなくって!」


「あなたはその暴力で何とかしようとする癖を何とかしましょうね。それは暴力じゃどうしようもないから」


 軽い目眩を覚える。聖水が迷信なんて僕も知ってるよ。そもそも、金勘定とカレンダーに細かい幽霊なんて物体に通用するとは思えない。


「とりあえず、資料を調べさせてもらって大富豪で三万八千五十七日前に死んだギルマンを調べて貰うんです。そこまでデータが揃ってるんだったら楽勝でしょう。それから考えましょう」


 教会の扉を開けながら答える。流石に夜中なので人はいない。


「ふ、俺の墓など見つけてどうしようというのだ」


「……語るに落ちましたね。普通ギルマンは食葬ですから、美味しくいただかれて皆のお腹の中ですけど、サメで長生きしてるって聞いてひょっとしたらと思ってたんですよ。臭くて食えたものじゃなくて埋めてたんですね?」


「ぎくぅっ! しかし、俺の墓を見つけてもどうしようもないのは事実だ!」


「はい、しかたがないので折衷案があります。ナニーさん、旅に出ましょう」


 ナニーさんは、恋する乙女のように顔を赤らめた。……いや、まぁ実際恋はしてるし乙女でもあるんだろうけど。


「ええっ!?」


「どうせこの街の土着でしょうこの幽霊。街の外に出てしまえば付いてこれませんって。さぁ、どこまでも遠くに行って帰ってこないようにしましょう!」


「はいっ!」


 にやり。おおっと、笑いが出ないようにしないと、だがニヤケが止まらない。


 僕は別に『誰と』なんて言っていない。一人で離れて貰って永久に帰ってこないようにしていただこう。出先で恋をすればそれまで、そうでなくても避けて通れば一生出会うことなんて無いだろう。……たぶん。


「そそそ、それは困るぞ! 何、私は無害なギルマンだ、待っていれば利子だけの返済も認めよう!」


「その利子の返済が無理ですよ! あとあなたは存在が公害です!」


「そそそ、SO!」


「え?」


 突然、このギルマン何か言い出さなかったか? あ、長椅子が浮いて……。


「襲いかかってきたぁっ!?」


 どんがらがっしゃーん!!


「So! You! 俺の血潮、魂、生き様、生命、SoNo証! Soul! 金 カネ kane 金返Say yo!(金返Say yo!) 金返Say yo!(金返Say yo!) 金返Say yo!(金返Say yo!) Soul! 金 カネ kane 金!」


「なんか突然ラップ歌い出したー!?」


 突然のラップ現象から歌うと同時の魔法のように家具や椅子が飛び交う。僕らは身を低くして回避した。


「これを騒がしい霊、ポルターガイスト現象と名付けよう! 今度絶対学会に叩きつけてやる! 誰だ霊が無害って言ったやつ、実害しか無いじゃないか!!」


「Oh! 俺! 俺が生きる、可能性、力、野望、SoNo証!」


 本なんて信じるんじゃなかった! なんか二番に入ってるし! なんか幽霊ギルマンコーラスの皆さんが来てるし!!


「こうなったら頭に来ましたよ! あいつ目にもの見せてやる!!」


「どうするんです、ウィリックさん!?」


「どうしたもこうしたもないですよ!! 墓掘り返してやるんです!!」


 僕は拳を握りしめ、奥の神父室への扉をノックした。





 それからの僕の行動は迅速だった、神父さんに事情を説明して、ラップで講義するアオザ・メークをガン無視しつつツルハシとスコップで墓を掘り返し、鉄の棺を引っ張りだして中に使った道具を放り込む。ついでに石とか色々重しを叩き込んだ。そして鎖で厳重に封をする。


「ダイケルさん、この辺ですか!?」


「ミスターウィリック、確かにその辺だよ!」


「Oh! 俺をどうするつもりだ! このままだと俺の力で毎日騒いでやるからな! こんな所に放り込んでも俺は全然届くぜ!」


 それはこんなところが普通の所ならの話だ。


「ミーとしてもこいつはなんか許せない気がするよ!」


「ありがとうダイケルさん、あんたやっぱ親友だ! ナニーさん、せーので行きますよ!」


『せーの!』


 だっぱーん!


「俺はこの程度では!! ……わはっわわわわっ!?」


 急に引きずられるようにアオザ・メークが海の底へと消えていく。その金色の影に僕は言った。


「残念ながら、この海底には溝があって、深さを調べようと思ったダイケルさんのおじいさんが『一万メートルの巻き尺』を用意して、海底に届かなかったって場所です。何メートルあるかは知りませんがゆっくりしていって下さい」


「ウィリックさん成仏させようとかそういう考えはないんですね」


「時々、ミスターウィリックは物凄く恐ろしい」


 僕は海底に笑い声を上げるのだった。





 翌日の話である。


「で、まぁ、あの棺の中に、回収し忘れたのか金歯が一個転がってたんですよね」


「ユーは本当に恐ろしいね。色んな意味で。で、ポケットに入れるのかい?」


 僕は少し思案して答える。


「いえ、これは金貨に替えてからナニーさんからシャア・アックさんに手渡して貰いましょう。元金ちょうど金貨一枚になるでしょう」


「へぇ、珍しいね。ミスターウィリック」


「僕は他にあてがあるので、目指せ印税生活!」





 参考までに僕が、心霊学者の元を訪ねて。


「ギルマンの幽霊」


 まで言った所で、蹴り出されたことをお伝えする。





 海底奥深く、光も届かない所を活動する魚がいた。


(おい、アレどうよ?)


(良いね、良い感じ)


 鉄魚である。彼らは海底にも存在するのだ。そうでなければ海底の鉄資源をついばむことが出来ない。


(じゃあちょっと食ってく?)


(そうしようぜ)


 鉄棺はそれを縛った鎖は無残に食い荒らされていく。


 再び幽霊が現れるまでのカウントダウンは――。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ