異常少女物語
初めての投稿なので、誤字脱字があれば、わたしに連絡をお願いします。
ある国のある森の奥、それまた奥の隠れた場所に、大きく深く開いた洞窟で、その男女は幸せに笑いあっていた。
微笑む2人の視線は女性の膨らむ腹に向けられ、それはそれは2人とも幸せそうに笑い合うのだった。
できる事など考えてもおらず、可能性は低かったが、彼らにとって、これから生まれてくる命はかけがえのない宝物である。
「そろそろかしら?ふふっ、この子は元気ねぇ男の子かもしれないわ。」
「元気な女の子かもしれないぞ。どちらにしろ俺たちの大切な大切な子供だ。」
それから数ヶ月のち。
見守る者と辛そうに子を産む女性を助ける者は男性1人しかいない中。
───《異常者》は産声をあげるのだった。
「女の子だぞ!…………元気だ。無事に、無事に生まれてくれて…………!」
「あなたの方が赤ん坊みたいよ。そう、良かったわ無事なのね!」
名前はとうに決めてあった。
2人の名前から取ろうと決めていたのだ。
男の子ならエルド。
女の子ならエルニーナ。
「あぁ、エルニーナ。俺たちの元へ来てくれてありがとう!」
エルニーナ。
その名を持つ者として彼女は確固たる自分を得たのだった。
また、彼女は───異常者としてこの世へと生まれてきてしまった。
父と母はぐずるエルニーナを幸せそうに見つめながら、彼女を育てることを決意する。
知識はなく、助けてくれるような人物もいない。
知らせても良いかと思われる友人たちは遥か遠くにいるし、2人ともに2人の両親はこの子に見向きもしないだろう。
未知の赤ん坊の世話をする。手探りで少しずつ少しずつ。
2人で世話をする。
それは大変だが、とても幸せな日々であった。
気付いた時には首も座らなかった赤子は、ハイハイからも脱して自力で立って歩けるようになった頃。
いつものように女性が娘へ自分の知りうる知識を教えていた時だった。
2人は自分たちの娘が、異常者なのだと知る時がやってきた。
「人はね、優しい心を持つ人と冷たい心を持つ人、様々な心のかたちをしているのよ?」
「おかあさま、こころとはいったいどのようなものなの?」
「えっと、そうねぇ……………………」
言葉につまった女性に。
無表情のまま育ったエルニーナは再度口を開いた。
「わたしにこころはないわ。」
キッパリと。
それが事実であるかのように。
つたない口調ながら。
「え……?」
「わたしはうまれたときからいじょうなのよ。おかあさま、わたしはしってるの。」
───私は生まれてきてはいけない子なのでしょう?───と。
誰も教えるはずもないその事実。
女性は初めてエルニーナの前で涙を零した。
震える声で、
「なぜ、知ってるの……?」
涙ながらに真実を知りたくもない気持ちを抑えてエルニーに問うた。
エルニーナはそこで生まれてから初めて《笑顔》を見せた。
暖かさの感じられないただの表情を動かして作られた仮面のような笑顔だった。
「おかあさま、わたしはいじょうよ。いじょうなの。うまれたときからせかいからわたしはきょぜつされたわ。かんじたのよ、わたしはうまれてきてはならなかった。」
ボロボロと泣き崩れる女性はエルニーナを強く抱きしめたまま、大きく声をあげた。
ごめんなさい、と。
それでも私たちはあなたを愛しているわ、と。
抱きしめられたエルニーナはまた無表情に戻り、そのまま目を閉じて動かなかった。
狩りから帰ってきた父親も同じように涙ながらに謝罪し、愛していると繰り返し繰り返しエルニーナに囁いた。
※※※※※※※※※
「エルニーナ」
弱々しい声がエルニーナを呼んだ。
頬の肉はだいぶ落ちた。
身体も今は肘から先しか動かない。
エルニーナの母であった女性は当時のふくよかさがまるで見当たらず骨のようになって洞窟の奥に横たわっていた。
「どうしたのお母様。お水?」
「いいえ、違うわ。…………私はもう少しで逝きます。それがあなたに影響を与えるものではないと知っていても私は心配なのよ、エルニーナ」
「……」
「ふふ、あの人が帰ってくるまで死ねないわね。私とあの人は一種の契約をしていると教えたでしょう?」
「はい。2人のうちどちらかが死ねばもう片方も息を引き取ると。」
「死ぬときは一緒にって考えていたけど。エルニーナ、あなたを残して逝くのは心残りだわ。今になって契約などせず、どちらかがあなたを見守ることにすれば良かったと思うの。」
涙が頬を伝うのをみて、エルニーナは塩辛い水を指先で拭ってやる。
心はない。
何も感じない。
それを女性は知っていた。
エルニーナも知っていた。
そして禁忌の術は女性だけが知っていた。
「ねえ、エルニーナ」
体力のない体はもはや不要のもの。
だが有り余った魔力だけは動かなくなってからどんどん蓄積されていた。
母親として、最期に出来ること。
人によったら邪道で、もしかしたらエルニーナが壊れてしまうかも知れない。
それでもエルニーナに何かを残したかった。
エルニーナは壊れないと信じてるがゆえの死に逝く母から最後の贈り物。
「約束をしましょう。エルニーナ」
「約束?」
「ええ、私が今から言うことは人に告げてはいけない。そして行動することに躊躇いを感じてはいけないわ。あなたなら大丈夫でしょうけど、それでもエルニーナ必ずすると誓って頂戴?」
「…………誓うわ。」
すこし考えて、母親の言葉を噛み砕いて飲み込んだエルニーナは首を縦に振って母親の言葉に応えた。
女性は、語った。
エルニーナは了承した。
そしてそれがエルニーナにとって危険なものであることも、エルニーナは理解しそして了承した。
「私は、私たちはずっとずっとあなたのことを愛しているわエルニーナ。…………あなたが幸せに生きることを願うわ。」
「…………愛している、という感情は分からないけど今までありがとう、お母様」
───ふふ、そうね、分からないわよね。いつか分かる日がくると良いのだけど。───にっこりと微笑んだ彼女は静かに、最愛の娘に見守られて息を引き取った。
どこかで父親も息を引き取ったことだろう。
エルニーナは母親であった女性の傍から立ち上がると父親を探すべく、洞窟をでた。
「…………エルニーナ、私の名前。」
ざわりと、風もないのにエルニーナの真っ黒な髪が揺れる。
母親譲りのアメジスト色の瞳には微かに銀が混ざり、キラキラと輝いていた。
薄く桃色ののった唇は何かを紡ごうとしてとまり、そして再び自分の名を呼ぶのだった。
歩いてすぐ、目的の人物は見つかった。
もう帰るところだったのだろう。
本当に洞窟まで後少しだった。
痩せ細った体は軽く、エルニーナにとっても運べる程だ。
幼少期の父は見上げるほど逞しかったがいつの間にか同じ視線になっていた。
洞窟まで着くと、父を母の傍に横たわらせた。
母親との約束を守るためだ。
ガサゴソ、と隅の方から1本の濡れたような光を放つナイフを探し出し、両親のそばに座る。
「私は異常よ。壊れることはないわお母様。大丈夫だから心配しないでね。」
歌うように呟くと、手に持ったナイフを痩せ細った女性の体に突き立てた。
丁寧に丁寧に、左胸を丸く斬っていく。
骨が邪魔だが、このナイフなら力を込めればすぐに断ち切れた。
死んだ直後の身体だからだろうか、溢れ出る真っ赤な液体は暖かく、エルニーナはその暖かさに包まれながら作業を続けた。
紅く染まったエルニーナ。
彼女は目的のものを見つけるとそっと両手を突っ込み、掲げるように取り出した。
拳大の大きさの紅く染まった臓器。
心が宿ると。
チカラが宿ると。
そう言われているモノ。
「お母様、お父様のも取り出すまで待っててね。」
頬についた液体を拭うこともせず、男性の身体にもナイフを突き立て母よりやや大きい心臓を見つけ出すと優しく丁寧に取り出した。
真っ赤な死体の傍には2つの臓器が仲良く並べられ、エルニーナはなんの感慨もなくそれらを見つめた。
両親が作ったエルニーナの服は元が白かったのに今や、血で紅く染まり、白い部分など見る影もない。
小さめの母親の心臓だったもの。
両手で掬い、口元へ運ぶ。
ニチャリ、と音を立てるが気にすることなく、エルニーナは小さな口で、母親の心臓を口に含んでは飲み込み、口に含んでは飲み込んだ。
甘く、口溶けのよい、今までで1番美味しいと感じた食物だった。
期待を寄せて、やや大きい父親の心臓を手に取る。どっしりとした質量にエルニーナは落ちないよう、口元へ。
噛むと、先ほどの母親よりも弾力があり、よく噛まないと喉につまりそうだった。
甘すぎず、むしろこちらは少しの苦味が感じられ、それでも美味しいとエルニーナは感じた。
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