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運動会。結衣お姉ちゃんが来てくれることになっている。今回の運動会はイベントだ。借り物競走で「大切な人」というお題が出てオレが桃姉を借り出して、桃姉から「私の大切な人もユキだよ、お揃いだね」と微笑まれて好感度が上がるというもの。イベントを避けようとして借り物競走を断固拒否したが、人数が足りず、補欠にぶち込まれた。補欠にぶち込まれた時点でこのイベントが発動するフラグはビンビンに立っている。計画では結衣お姉ちゃんを大切な人として駆り出すというシンプルなもの。早速借り物競走の宮部君が足をくじいている。やっぱり回ってきたな。

パァンとスタートの合図が鳴らされる。足は速い方だ。並べられた紙の一枚を選ぶ。予想通り『大切な人』と書いてある。結衣お姉ちゃんは紫のポールの下に…あれ?いない。さっきまで居たのに。キョロキョロ周りを見回してみたがどこにも姿が見えない。これはあれかな?イベント妨害を阻む謎の力?男子を連れてくとか気持ち悪い事したくないし、女子は最近オレをめぐる派閥が激化してるから炎にガソリンを注ぐまねはしたくない。義母かあさんか義父とうさんを借りられれば…

オレは走って家族の元へと行った。『大切な人』と書かれた用紙を見せた。


「義父さん来てくれる?」


義父さんはデジカメ片手だ。


「父さん撮る人だから母さんを連れてけ。」

「母さん気分悪いから木陰で休んでるって。」


桃姉が義母さんを指さした。義母さんはぐったり木陰で休んでいる。


「桃花が行け。」


義父さんの一言で桃姉を連れていくことになってしまった。3位でゴールしたけどがっくりだ。


「私の大切な人もユキだよ。お揃いだね」


桃姉がにっこり微笑む。……ときめいちゃうんだもんなあ。鬱い。

桃姉が観客席に戻ると先生に呼ばれた。不審者がオレの友人を名乗ってるらしい。

不審者って……案の定結衣お姉ちゃんだった。

先生たちに囲まれてオロオロしている結衣お姉ちゃんがいた。


「先生、このお姉ちゃんはオレの友達です。」

「本当なのか?」

「本当です。大切な友達です。先生方はオレの応援に来てくれた大切な友達を捕まえて何やってるんですか?」

「いや、なあ。ちょっと見てくれが怪しいから事情を聞いていただけだぞ?」


確かに今日の結衣お姉ちゃんは帽子にサングラスにマスクという怪しさ満点の格好だが日焼け防止だとすればそうおかしいとも思えない。やっぱりイベント妨害を防ぐ謎の力が加わってるとしか思えない。


「ごめんね、雪夜君。役立たずで。」


結衣お姉ちゃんがしょげている。折角日曜来てもらったのに申し訳ない限りだよ。


「しょうがないよ。相合傘の時もそうだったけど、多分妨害されないように何らかの力が働いてるんだと思う。」

「うん…」


結衣お姉ちゃんは俯いたままだ。結衣お姉ちゃんは多分自分を責めている。せっかく付き合ってくれた結衣お姉ちゃんにこんな顔させてちゃいけないよね。


「オレ、騎馬戦とリレーのアンカーも引き受けてるんだ。良かったら応援してくれる?」

「うん。勿論。」


結衣お姉ちゃんの顔が輝いた。

上手い具合に結衣お姉ちゃんの気が逸れたようだ。上々。


「雪夜君、口あけて。」

「うん?」


なんだろう?とりあえず口を開く。あ、オレなんか間抜け面じゃない?

結衣お姉ちゃんは保冷バックのタッパーから大きな塊を出してオレの口に放り込んだ。

氷だ。しかもこの味は…


「ん。甘酸っぱい。レモン?」

「レモンの蜂蜜漬けを作った後の蜜を水で薄めて氷にした物。レモンの蜂蜜漬けもいいけど、暑い時は美味しいんだ。どのみち小学校の席じゃ昼食時以外飲食できないし、氷なら口に放り込むだけで楽しめるよ。食欲ない時もいいんだ。」

「ふーん。ありがとう。今日暑いし、美味しい。」


滅茶苦茶美味しい。冷たくて喉の渇きも癒されるし、レモンの味がまた絶妙に…いつまでも味わっていたくて舌の上でころころころがす。

今日の為にわざわざ作ってくれたんだと思うと嬉しいもんだな。


「残念。もっと食べたかったけど席に戻るよ。」

「うん。頑張ってね。応援してる。」


にこっと笑う顔が可愛い。

騎馬戦もリレーのアンカーも面倒臭いだけだと思っていたけど応援してくれる人がいるとなるとやる気が違ってくるな。



騎馬戦。自分でもちょっと引くぐらい無双して回った。関節を考慮して動けば誰の腕でも簡単に封じられる。人体ってこれで結構不便だしね。柔道技も織り交ぜると面白いくらい簡単に鉢巻きがむしり取れる。赤組の真打ちと言われてる体格の良い馬場君と対決した時はグラウンドが割れんばかりの声援が巻き起こった。その中で聞いてしまった。「頑張れー!雪夜くーん!」という声を。思わずそちらに目をやると結衣お姉ちゃんが声を張り上げて応援していた。ここで決めなきゃ男じゃないでしょ?オレはにやりと笑うと片手で馬場君の腕を絡め取って封じた。馬場君は立派な体格だけあって力は強いが、流石に体の機能に反する動きはとれない。オレは悠々と鉢巻きを毟り取った。

歓声が巻き起こる。

結衣お姉ちゃんがぴょんぴょん跳ねて手を振っていた。



ランチタイム。本当は真っ直ぐに結衣お姉ちゃんの元に行きたいのを我慢して家族の元へ行く。


「七瀬君!」

「ん?」


女子がわらわら寄ってきた。オレをめぐる派閥の如月派閥の女子だな。


「騎馬戦チョーカッコ良かった!」

「私達とお弁当食べない?」


食べねーよ。


「ちょっと、何勝手な事言ってんのよ!」


割り込んで来たのはオレをめぐる派閥の風間派閥の女子だ。


「七瀬君はあんた達と一緒にご飯なんか食べないわよ!」

「私達と食べましょう?」


両者が睨みあう。勝手にやってくれ。


「オレはどっちとも一緒に食べない。家族と食べるから。じゃあね。」


ポカンとする両派閥を置いて家族のもとで食事を摂った。今日のお弁当は桃姉の作品らしい。焦げ焦げのアスパラのベーコン巻きに異常にしょっぱい卵焼き。びちゃびちゃのポテトサラダ。間違えて砂糖で握ってあるおにぎり…溜息が出る。

結衣お姉ちゃんの作ったお弁当って食べてみたいな。二宗は食ったらしいけど。内容聞くと美味しそうなんだよなー。


「あ、あの…ユキ。おいしい?」


桃姉が上目遣いに聞いてくる。それは可愛いんだけどね。


「逆に聞くけど、桃姉、おいしい?」


桃姉は肩を落とした。桃姉は別に味覚音痴じゃない。普通にまずい事がわかってるらしい。とりあえず食べるけど砂糖のおにぎりはマジやばい。米が甘い。具はしょっぱい。この不協和音。



ランチタイムも終了になりかけた頃、こっそり結衣お姉ちゃんの元へ行った。


「さっきは騎馬戦応援してくれて有難う。結衣お姉ちゃんの声、ちゃんと聞こえたよ。」


結衣お姉ちゃんはちょっと照れている。


「凄く頑張ってたね。格好良かったよ。」


結衣お姉ちゃんが応援してくれたからやる気が出たんだけどね。


「そう?有難う。リレーも頑張るから応援していって。」

「うん。」

「あ、そうだ。氷まだある?」

「あるよ。食べる?」

「うん。」


口を開けると結衣お姉ちゃんが蜂蜜レモンの氷を口に放り込んでくれる。さっきより小さくなった塊だが十分に美味しい。悲しい弁当の味を洗い流してくれる美味しさだ。幸せ。


「おいしー。」

「なら良かった。」


ふふっと結衣お姉ちゃんは笑った。幸せそうなオレの顔が面白かったんだと思う。午後も気合入れてくかー。



リレーのアンカーではオレにバトンが回ってきた時は3位だった。十分巻き返せるな。全力で加速した。身体能力は優れている方なので結構足は速いと思う。一気に2人抜いてトップに躍り出た。このまま差をつけてゴールしよう。最大加速したまんまゴールテープを切った。視界の端で結衣お姉ちゃんがカメラを構えてるのが見えたけど、写真撮ってたのか。

ゴールしてからはまた如月、風間の両派閥からちやほやされてうざかった。あんなに押せ押せなのに桃姉が顔を出した瞬間ピタッと止まって引っ込んだ。これが桃姉効果か。普段あんまり意識してないが超絶美少女らしいからな。



結衣お姉ちゃんは挨拶できないまま帰っちゃったのでメールを送っておいた。『妨害は失敗しちゃったけど来てくれて有難う。結衣お姉ちゃんが応援してくれたから頑張れた気がする。』掛け値なしの本心。今日は有難うと。

結衣ちゃんサイドでは出てきませんでしたが、実は女子に付きまとわれてました。雪夜君モテます。

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