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今日は結衣とショッピングデートだ。一緒にショッピングモールに来ている。冬物一掃セールだしちょっと新しい服が欲しい。春物と冬物両方買うつもり。結衣に見たててもらえたら嬉しい。
春物のシャツを数枚購入して冬物のニットを選ぶ。
会話していると二宗の事を結衣が心配しているようだ。
「雪夜君、二宗君の様子がやっぱりおかしい。まだ何かノートの影響が残ってるんじゃ…?」
結衣は話しながらもホワイトのブークレニットと、ボーダーシャギーニットを結衣がオレにあてている。
「おかしいってどういう風に?」
ブークレニットは買いだな。気に入った。やっぱり結衣センスが良い。オレと趣味が似てる。
詳しく二宗の話を聞くと、委員会の仕事で持つ荷物は重い軽いにかかわらず全部持ってくれる。帰りが遅くなった時は、やれ寒くないか、疲れてないかと過剰なくらい心配してくる。しかも何かというと目が合うし、話しかけると赤くなる。手が触れたりすると吃驚するくらい勢いよく手を引っ込める。挙動不審なんだそうだ。
二宗……自分の行動が制御できなくなってきているな。
「ははあ。なるほどね。」
気持ちは分かるよ。過剰と思われるくらい大事にしたいし、目で追うから必然的によく目が合うよね。接触を避けるのは慣れてないからだと思われる。意識しているからこそ避けちゃうんだよね?オレは逆だったけど。
「雪夜君わかるの?」
「うん。それがノートの影響ではない事は分かる。心配しなくても大丈夫だよ。オレは別の意味で心配なんだけど…」
だいぶ結衣との距離感は縮めたと思うけど、二宗がそれ以上に距離を縮めようとしてきたらどうしよう。
ちらりと結衣の顔を見た。
「別の意味でって?」
結衣の手を取って抱き寄せた。両腕でぎゅうと抱きしめる。
柔らかい。相変わらずいい匂いだな。
耳元に唇を寄せる。
「結衣、ドキドキしてるね?」
「そ、そりゃあ、するけど…」
「二宗にも?」
「え?」
放してあげる。
多分結衣はオレのこと好きだと思う。恋愛拒否モード実行中だから告白しても振られると思うけど。でも多分であって確定じゃない。二宗の事、どう思ってんのかなあ…
あいつイケメンだし頭も性格も良いらしいし。ぱっと見だけど体つきもしっかりしてた。女の子ならよろめきそうではあるよね。
まあ結衣はまだ恋愛できないと思うけど。
「大丈夫だと思うけど……はぁ。」
大きな溜息をついた。
結衣は薄いグレーのタータンチェックのパンツを見たててくれた。結構いい感じ。購入決定。裾上げに時間がかかるそうだ。
その間結衣と時間を潰す事にする。
「結衣の服とかも見る?」
「私こないだ里穂子ちゃんと大量に買っちゃったから今日はいい。」
「そっか。」
どんな服買ったのかな?
雑貨屋をちょっと覗いてからなんか食べようと言う話になってフードコートへ来た。
結衣はジェラートが食べたいらしい。この季節だし、外だったらお断りしたいところだけど、フードコートは暖房がきいてて温かいしね。別に断る理由もない。
結衣はうんうんメニューの前で悩みに悩んだ末お米のジェラートを注文していた。オレは抹茶のジェラートにする。
二人で仲良くジェラートを食べていると結衣を呼ぶ声がした。
「あ、朝比奈君。」
二宗だった。嫌なとこで会ったな。折角デート中だったのに。
「あれ?二宗君。」
結衣は意外そうな声を出した。二宗が休日にショッピングを楽しむタイプに見えないからかもしれない。二宗は一人で来たようだ。周りに人はいない。
「こ、こんなところで会えるとは、偶然だね。」
二宗は結衣と会えて嬉しそうだ。
「そうだね。私は雪夜君のお洋服選びに来たんだ。二宗君も何か買ったの?」
二宗がちらっとこちらを見た。オレもじろじろ二宗を観察しているけど。
「シャーレとピペット。それからこれは宇宙食の苺ショートケーキだよ。珍しかったから買ってみたんだ。今夜食べてみるつもりだよ。」
二宗銀色のパックに密閉されている物体を結衣に見せている。まあ珍しいよね。オレも一度くらい食べてみたい気はする。それより結衣の作ったケーキのほうがずっと食べたいけど。
「へー。」
「結衣。抹茶のジェラート一口食べる?」
よく考えればこの場は二宗を挑発するのにうってつけじゃないかと思う。2人きりでデートだし?ここでいつもの食べさせあいっことかしたらどんな顔するかな?
「え?いいの?」
「うん。はい。」
にこっと笑って抹茶のジェラートをプラスチックのスプーンで一口掬いとって差し出した。結衣はそれをぱくりとくわえる。途端に顔が緩んだ。美味しかったのだろう。
「おいしい?」
「うん。良い風味だね。すっごく美味しい。ありがとう。雪夜君もお米の食べる?」
「うん。頂戴。」
結衣がお米のジェラートをプラスチックスプーンですくいとって差し出してきた。ぱくりと食べる。うん。結構旨いな。変わり種だけど、今度はオレもお米にしてみよう。
「うん。ほのかに甘いけど甘すぎない。おいしいね。ありがとう。」
ちらっと二宗の反応を窺う。眉を顰めてるな。
自分の好きな娘が他の男と食べさせあいっこを目の前でくり広げてるなんて悪夢だよね。
「もしかして朝比奈君は彼と…」
「違うけどね?」
にっこり笑う。「付き合っているのか?」という質問はさせなかった。結衣が今後意識してオレとの食べさせあいっこを拒むと嫌だし?言外に「違うけど親しい」と含ませる。
挑発だ。賭けでもある。
もし二宗が煽られて結衣に告白したら…多分結衣は振ると思う。結衣の恋愛拒否モードは今日も実行中だからだ。二宗が自爆してくれたら儲けもの。
二宗はそのまま去らず、結衣に話しかけている。学校の話題だ。高校の話題になるとオレはついていけなくなる。それを見越しての挑発だろう。オレはいくら挑発されても結衣の恋愛拒否モードが解除されるまでは告白して自爆なんて事しないけどね。好きなだけ煽ればいいさ。気にしてませんと装いながら澄ました顔でジェラートを食べる。ジェラートを食べ終わると時計を見た。そろそろいい頃合いだな。結衣のカップの中も空になってるし。
「結衣。そろそろ裾上げ終わっているはずだから行こう?」
席から立った。結衣も席から立つ。
「二宗君、話の続きは学校でね。私雪夜君と行かなきゃいけないから。」
「あ、ああ。」
ゴミをゴミ箱に捨てると、自然な仕草で結衣の手を繋いでそっと引く。
結衣は裾上げの仕上がりを楽しみにしているのだろう。顔が綻んでいる。二宗から見える位置でダメ押しの横顔。「結衣、楽しそうだね?」と笑いかければ。「うんっ!」と満面の笑顔が返ってきた。笑い合うオレらの横顔は二宗にとってどう見えたかな?
裾上げはきちんとできていて結衣に「絶対似合うよ!」と太鼓判を押された。履いた姿を凄く見たがってるので「今度会う時に履いていくね。」と約束した。
後日、二宗に告白されたけど断ったという話題を電話口で聞いた。オレが煽ったせいかもしれないけど、自爆したな。
結衣はモテそうだからまだライバルはいるかもしれないけど、絶対に譲らない。




