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ノートが解決した今になっても順調に結衣と交流が持ててる。毎晩マメに電話してるし、嬉しい事に向こうからもかかってくる。その日あった事や、最近思った事、他愛ない話を紡いでいく。休日もよく一緒に出掛けたりしている。この前も動物園とか行って大はしゃぎだった。結衣、オレはどれだけ結衣に近付けたかな?
「ゆーきーや。その後どうよ?」
正哉がオレの机の前に来て発言する。
「どうって、何が?」
「お前の好きな奴。落とせたか?」
正哉が声を潜めてきいてくる。
「まだ。ちょっと距離は縮まったと思うけど。」
「相変わらずガード固いのか?」
「そんなとこ。」
恋愛拒否モードの原因…なんだろ。まだ話してくれる兆しが無い。会話のきっかけになる綻びを掴めたら話してくれるかもしれないけど。
「お前をそこまで夢中にさせるって、そんなにイイ女なのか?」
「最高。惚れられたら困るから紹介しないけど。」
弁当箱返す時に正哉は付いてきてなかったから結衣の事は見てないはず。正哉は割と良い男だ。ライバルとかになったら結構手強いと思う。余計な種は撒きたくない
「あっそ。」
正哉と話していると亮太も来た。
「何話してたんだよ?」
「別に。」
「何でもねーよ。」
亮太はお調子者で口を滑らしがちなので結衣の事は話さない。正哉も心得たもので亮太には何も言わない。
「なんだよ。そういや、この前雪夜が見たいって言ってた映画観て来たぜ。」
「観るつもりだからネタバレすんなよ?」
「おー。面白かったぜ。特にクライマックスの…」
オレは亮太の頭をはたいた。
「お前人の話聞いてるか?」
「いてて。ちょっとくらいいーじゃねーか。」
「よくない。」
「いつ観るんだよ?」
「まだ決めてない。」
「あれすごいらしいな。話の内容もさることながら映像美が凄いって評判だぜ?」
正哉が言う。ふーん。そんなに評判になってるのか。この前結衣に電話で話したら「私も見てみたいなー」とか言ってたから誘ってみようかな。映画館デートだ。いいかも。
「じゃあ、近いうち観てみるよ。」
「観たら感想話そうぜ!」
とか言いながらその頃には亮太はころっと忘れてるんだろうな。あいつはそういう奴だよ。
帰って部屋でごろりと横になる。結衣には夜連絡すればいいか…ほのぼの系の漫画本を開いて和んでいたら急にぞわっと全身の毛穴が開いた。嫌な感じだ。虫の知らせって言うの?こういう時のオレの勘は外れない。今すぐ結衣に連絡を取りたい。オレは起き上がって携帯を手にした。
数コールで結衣が出る。
「雪夜君?」
「結衣?今大丈夫?」
「ごめん、今出先なの。急ぎの用件?」
出先。どこに出掛けてるんだろう。オレの都合の悪い所なような気がする。嫌な感じだ。でもそんなことはおくびにも出さない。
「ううん。ただの映画のお誘い。じゃあ夜また電話するよ。何時頃なら大丈夫?」
「えーと、21時頃とかどうかな?」
「わかった。急にごめんね。」
「ううん。電話待ってる。」
「了解。じゃあ、後で…」
通話を切った。嫌な感じは収まったからこれで大丈夫だと思うけど、なんだったんだろう?
21時。結衣に電話をかける。ワンコールで出た。
「結衣、今大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ。」
「この間オレが観たいって言ってた映画一緒に観に行かない?」
「うん。行く。私も観たいと思ってたんだ。雪夜君から話聞いてから情報集めたらおもしろそうで、ますます観たくなっちゃったんだ。」
「そっか良かった。じゃあ、待ち合わせは…」
映画の予定を決めた。結衣と映画館デート。楽しみだな。
今日あった事などをちょっと話す。友達がその映画を既に見ていて、ネタバレされそうになった事とか。
「そう言えば結衣は今日どこに出掛けてたの?」
凄く嫌な感じがしたんだよね。
「二宗君の家だよ。」
「……。」
ハァ?二宗ん家?なんでそんな場所に行くのさ?うちに来てもらったのだって花火大会と風邪の時の2回だけだってのに。
「雪夜君?」
「……何しに行ったの?」
いちゃつきに?思わず声が低くなる。
「二宗君の妹さん、夏美ちゃんがクッキーの作り方を教えてほしいって頼んできたの。だから教えてきたんだ。なんでも幼馴染の男の子にプレゼントするんだとか。」
「ふーん。」
クッキーくらい本見て作れ。何となく二宗妹はオレの敵な気がするな。家に呼んだのって二宗と結衣の距離を縮める為じゃない?邪推かな?
「二宗、なんか面白い話してた?」
「別に面白い話はしてなかったかなあ…ずっと好きな人の話してたよ。」
それって「ドキッ。もしかして二宗君の好きな人って私…?」とか結衣お姉ちゃんに思わせたいっていう作戦だったりしない?残念だったね。結衣は全く気付いていないようだよ。
「それから雪夜君の事いっぱい聞かれた。」
敵の情報収集か。でもオレと結衣の関係の発端は秘密だし、桃姉の事とか二宗を実験台にしたりしてた事とかあるから話せない事多いんじゃないかな。
「すっごく格好良くて頼りになる優しい人だよってちゃんと言っておいたよ!」
……。
……素なんだよなあ。それを好きな娘の口から聞かされる二宗がちょっと哀れになったよ。




