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結衣お姉ちゃんはアルバイトをするらしい。桃姉と同じ所で。なんでよりにもよって同じ所…と思わないでもないが、メイド喫茶らしいのでメイド姿の結衣お姉ちゃんが見られるだろう。見てみたい。

ローテを聞きだして早速行ってみることにした。桃姉と一緒の日だと気安く話すせないので桃姉のローテが入っていない日に行くことにした。オレの習い事的に言っても木曜だと空いてるから都合がいい。因みに月曜が少林寺、火曜が柔道、水曜が合気道、金曜が空手だ。結衣お姉ちゃんは月、火、木がバイトらしい。桃姉が月、金がバイトだ。

ルティは服飾店舗のいっぱいある通りに面したビルにある喫茶店である。道行く人はお洒落な人が多い。オタ系跋扈する地域とはちょっと違う雰囲気だがどんなところだろう。重厚な木製の引き戸を開けるとカランとベルが鳴って結衣お姉ちゃんがすぐに気付いて近付いてきた。


「おかえりなさいませ。旦那様。お席へご案内致します。」


微笑む結衣お姉ちゃんは正直に言おう。カワイイ。ふりふりぶりぶりのミニスカメイドさんではなかった。

かっちりした紺のロングワンピース。ハイネックの襟から胸下にかけて一列にフェイクパールのボタンが付いている。オーソドックスなタイプの白いフリルのついたエプロンを着用して、頭にホワイトブリムをつけている。

ちょっとはにかんだような笑みが…破壊力ぱない。

思わず旦那様呼びをスルーしそうになったよ。


「ありがとう」


それだけ言うのが精いっぱいだった。

しげしげと結衣お姉ちゃんを眺めながらついていく。席に案内されてから店内もよく見たが高級感溢れるシックな内装だ。それに反してメニューの内容は普通の喫茶店と同じくらいかやや高めくらいの価格だったから拍子抜けした。もっと暴利を貪られることを覚悟して多めに持ってきたんだけどな。しかし見たことないケーキとかあるな。どんなケーキか想像つかない。


「旦那さま、ご注文はお決まりでしょうか?」

「ブレンドと…コンベルサシオンってどんなケーキ?」

「パイ生地にクレームダマンドを敷き込み、表面にグラスロワイヤルを塗り、その上に格子状にパイ生地で模様を作り焼きあげたお菓子です。表面がサクサクしていて美味しいですよ。当店のものは中に林檎が入っております。」


なるほど、わからん。クレームダマンドとかグラスロワイヤルって何?とりあえず林檎が入っている事だけは分かった。あとは食べてみればわかるだろ。


「じゃあそれ。」

「承りました。旦那様。」


結衣お姉ちゃんはカウンターに注文を伝えに行くとそのまま他の接客についた。折角だからそれを眺める。結衣お姉ちゃんは表情豊かだ。澄ました顔、笑顔、ちょっと困った顔、表情がくるくる変わる。ああ、やっぱりメイド服似合ってるな…今までそんなことないと思ってたけど、意外と変わった衣装好きかもしれない。

結衣お姉ちゃんが注文の品を運んできた。


「ご注文のブレンドとコンベルサシオンでございます。」


しずしずとテーブルの上に並べる。結構様になってる。本職のメイドさんみたいだね。桃姉もこうやって働いてるのだろうか?桃姉は粗忽者だからちょっと想像つかない。


「ありがとう。」


急に態度を崩して向き直った。

ぱっと咲くような笑顔を向けてくる。


「雪夜君。オーナーがちょっと話してきていいって。」

「ホント?後で感想メールしようかと思ってたよ。」

「うーん、どんな感想か怖いなあ。」


って言っても顔は笑っている。

似合わないとか言うわけないし。

可愛いだろうと思ってたけど予想の斜め上。キレイカワイイ。


「別に想像してたよりもずっと可愛いって言いたかっただけだよ?すごくキレイでお人形さんみたい。話し方はちょっと気持ち悪かったけど。」


旦那様って。笑。


「マニュアルだから仕方ないんだよ。」


結衣お姉ちゃんは唇を尖らせる。

笑いながらコーヒーに口を付ける。予想外にコーヒーは美味しかった。


「あ、おいしい。そうだ。結衣お姉ちゃん、写メ撮っていい?」

「あー、ゴメン。店内での撮影は禁止されてるんだ。」


それはそれで意外だな。こういう所ってメイドさんを売りにしてどんどん写真とか出してるのかと思ったよ。


「そっか、なら仕方ないね。」


可愛いメイド姿の写真欲しかったが仕方ない。と話していると20代半ばくらいの男の人が近付いてきた。かっちりしたお洒落な執事服を着ている。


「坊や、制服が目当てなら店内以外で着てもらえばいいのよ。」


にっこり微笑む。

なんか凄い口調を耳にしたような気がするけど…

そう言えば結衣お姉ちゃんのノートの隠しキャラの春日奏多かすがかなたってオネェ口調って書いてあったな。この人が春日さんか。攻略対象なだけあってかなり美男子だ。背も高いし体格もしっかりしている。ちょっと憧れるな。とりあえずメイド服の写真撮れるのかな?


「…って言ってるけど?結衣お姉ちゃん?」


結衣お姉ちゃんの顔を窺う。多分これが一番可愛いと思われる上目遣いで。子供って卑怯だね。


「本当に写真が欲しいなら今度私の自宅で着てあげる。あ!妹がいない日に限る。」


妹さんに知られたらからかわれるのかな。まあオレが女だったとして、メイド喫茶でバイトしてたら月姉には絶対知られたくないから気持ちは分かる。


「じゃあ、約束ね。」


小指を立てた。普段人と約束する時に指切りなんてしない。照れた結衣お姉ちゃんが見たいだけだ。やはり結衣お姉ちゃんは照れてもじもじしつつ自分の小指を絡めてきた。カワイイ。桃姉の三国イベントで指切りするシーンがあったからやってみた。結衣お姉ちゃん自分が体験することは考慮に入れて…ないだろうなあ。


「指切りげんまん、嘘ついたら針千本のーます。指切った。」


絡めていた小指を離す。小指の柔らかな感触が離れていく。


「仲良いわね。」


春日さんが感心したように呟く。

それからお客さんが来たので結衣お姉ちゃんは接客に戻った。オレは結衣お姉ちゃんが接客するのを眺めつつコーヒーとケーキを味わった。コンベルサシオンはパイの一種のようだ。カリカリサクサクしていて美味しい。しっかり最後まで味わって満足すると席を立った。

結衣お姉ちゃんがやって来てレジでお会計する。


「850円でございます。」

「はい。ケーキも美味しかったよ。また来るね。」


お財布から千円札を取り出した。カーキ色の財布はくたびれている。この財布もそろそろ寿命だな…


「はい。おかえりをお待ちしております。」


結衣お姉ちゃんはお釣りを渡すと、サラサラのおかっぱの頭を下げた。


雪夜君のコスプレ好き発芽。笑。

密かに春日さんに憧れてます。

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