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文化祭の準備が本格化してきた。月姉も桃姉も帰りが遅い。二人ともミスコンに出るんだそうだ。何の衣装で出ようかきゃっきゃと相談している。競い合うことになったら姉妹間が険悪にならないだろうかと思う所だが月姉がそのへん割り切ってる。小さい頃から比べられると「どっちも同じくらい可愛いけどどっちか選べと言われたら桃花の方が可愛い」と言われ続けてきたからだ。そこで僻まない月姉は自慢の姉だ。桃姉は学園祭演劇にも出る。雨竜とのイベントだな。今雨竜のカウンセリング真っ盛りなようだ。家ではそんな事言わないけど。


「ユキ!朝比奈さんのクラスの出し物が決まったわよ!」


月姉がアイス片手に部屋に入ってきた。今日はクッキー&バニラか。


「聞いた。天国と地獄喫茶だってね。」


可愛い結衣お姉ちゃんの天使姿が見られると思うとわくてかだ。


「あ~ら?やっぱり聞いてたのね。」


月姉はにやにやしている。オレの恋愛事情に首を突っ込みたくて仕方ないのだろう。


「天使ですってね!多分朝比奈さん可愛いわよ~。私も見に行こうっと!」


月姉も忙しい合間を縫って行くらしい。美味しそうにアイスを食べてる顔はわくわくしている。


「そう言えば1年4組の文化祭実行委員の篠原君と朝比奈さんが良い仲だって言う噂があるけど何か聞いてる?」


さらっと言われて目を剥いた。


「聞いてない。何その噂。」

「文化祭準備協力してやってるみたい。私も見てみたけど篠原君は完璧に朝比奈さんに夢中ね。朝比奈さんの方は気付いてないみたいだったけど。うかうかしてると先越されちゃうわよ。」

「ふーん…」


結衣お姉ちゃんの恋愛拒否モードはまだ実行中なはず。多分大丈夫。だけどオレは気が気じゃない。もし結衣お姉ちゃんが靡いちゃったら?


「篠原ってどんな奴?」

「バレー部の背の高い男の子よ。かなりイケメン。運動は出来る。成績は普通。性格はちょっとへたれみたいね。」


絶対に結衣お姉ちゃんを渡したくないけど現時点でオレが出来ることなどない。

悔しくて歯噛みした。


「そ・れ・と、副委員長の二宗君とかなり距離が縮まってるっていう噂よ。2人で一緒に仕事する機会がすっごく多いからね。」


確か二宗は副学級委員長なんだっけ。


「なんでも階段の踊り場で抱き合ってたとか。」


どうしたら一緒に仕事しててそんな状況に陥るんだよ。オレは頭を抱えた。


「ユキは当日誰と行くの?」

「一人で行こうかと思ってる。出来れば結衣お姉ちゃんと周りたいけど、無理かな?」

「無理でしょうね。当日朝比奈さんは相当忙しい筈よ。」

「そっか。でも一人で行く。」


下手にクラスのヤツ連れて行って、万が一にも結衣お姉ちゃんに惚れられたりしたらマズい。特に可愛い恰好しているはずだし。


「ふうん?ま、頑張れ、少年。」


月姉はアイスを食べ終えると部屋から出て行った。



当日、桃姉のローテを調べていない時間、且つ結衣お姉ちゃんに電話してローテを調べて結衣お姉ちゃんのいる時間帯に天国と地獄喫茶に行った。

早速結衣お姉ちゃんが対応に出てくれるが、結衣お姉ちゃん、一瞬別人かと思った。アッシュブラウンのロングウエーブのウィッグはぐっと柔らかな印象。大きな釣り目がちな瞳はグリーンのカラコン。顔は華やかに化粧を施されていてえもいわれぬ可愛さ。唇なんてピンクでぷるぷる。衣装はレースとチュールのオフホワイトのマキシ丈ワンピースだった。柔らかそうな透け感のある生地で結衣お姉ちゃんが歩くたびに裾がふわふわ舞う。背中には本物の羽毛を使った天使の羽。神々しいばかりに綺麗だ。オレは今日友達を連れてこなかった自分の判断を褒め称えた。これは惚れる。ヤバい。


「結衣お姉ちゃん、すごくきれいだ…似合うよ。本物の天使みたい。」


天使というものがいるかどうか知らないが、いたとしたらこんな感じだろう。

結衣お姉ちゃんはオレの感想を聞いてちょっとはにかんだ。凄くカワイイ。でも褒めたのはお世辞だと思われてそうでちょっと面白くない。


「ありがとう。まずは食券を買ってね。」


席に案内された。

周りから「すっごい可愛い子~!」「みてみて!凄い綺麗な顔してるよ。朝比奈さんの弟かな?」などの声聞こえたがスルーした。やっぱり姉弟に見えるか。ちょっとイラッとする。

結衣お姉ちゃんににこやかに問いかけた。


「何がおススメ?」

「私のおススメはアップルパイかな?他と比べてちょっと高いけど私のレシピなの。」


おお。結衣お姉ちゃんのレシピ。それならきっとおいしいのだろう。オレは迷わずアップルパイとコーヒーの食券を買った。

オレのオーダーを伝える為に結衣お姉ちゃんは離れて行ってしまった。後ろ姿まで可愛い。チラッと周囲を見回すと見惚れてる男が何人もいた。……可愛すぎて誰にも見せたくないってこんな気持ちなんだろうな。不意に視線を感じて振り向くと二宗だった。オレの事見てる。なんだ?目が合うとすぐに逸らされた。二宗はかっちりした執事服に悪魔羽根だった。オレの目から見ても似合うと思うしイケメンだ。結衣お姉ちゃんの心が動いてないと良いけど。同じ学年で同じクラス。学級委員長と副委員長。二宗はかなり優位な立場にいる。

しばらくすると結衣お姉ちゃんが注文していたアップルパイとコーヒーを持ってきてくれた。


「お待たせしました。コーヒーとアップルパイです。」


食券を回収して品物を並べる。


「ありがとう。結衣お姉ちゃんは自由時間いつ?良ければ一緒に周らない?」


ダメ元で一応聞いてみる。


「ごめんね。私自由時間ほぼゼロ。喫茶もだけど学級委員の仕事が忙しいんだ。」

「そっかあ。残念。」


やっぱりダメだったか。残念だ。文化祭デートはちょっと憧れてたんだけどな。


「じゃあ代わりに今度ルティに来て。なんか奢ってあげる。それに今ハロウィンの仮装で給仕してるよ。」


残念そうなオレに気を使ってくれたのだろう。優しい。カワイイ。

ハロウィンの仮装も気になる。どんな仮装しているんだろう?


「そうなの?それじゃあ行かなきゃね。」


にこっと笑う。


「それじゃあ私仕事に戻るから。」

「うん。頑張ってね。」


アップルパイを食べてみたら大変美味だった。普段食べるアップルパイよりも林檎がシャキシャキしている。何が違うんだろ。よくわかんないな。コーヒーは普通のインスタントだった。可も不可もない。しっかり味わって可愛い結衣お姉ちゃんを鑑賞した後、天国と地獄喫茶を出た。



文芸部やら吹奏楽やら冷やかして、桃姉のイベントでも見て行こうかと思い、学園祭演劇に足を運んだ。題目は親指姫だそうだ。

学園祭演劇は演劇よりも衣装に重点を置いていると月姉から教えられている。手芸部の作品なんだそうだ。確かに綺麗だ。可愛らしいお花のモチーフの親指姫の衣装の桃姉が観客の目を引きつけている。演劇的に言うなら結構大根だけど。オレは桃姉は見慣れているし、もう恋心にも縛られていないので別に何とも思わない。「衣装綺麗だね。」くらいには思う。そう言えばノートの解決法で考えている事があるんだよね。修正液で消すのって出来ないかな?効果があれば残り10人分の解決方法になる。ただ効果があるかないか、実際に桃姉がアプローチされてからじゃないと試せない。オレで試せばよかったんだろうけど、この方法を思いついたのは心変わりを記入した後だ。

親指姫がカエルにさらわれて蓮の葉の上で泣いているシーン。確か葉を魚が食いちぎってくれるんだよね。ぼーっと見ていたらすごく綺麗な魚が鋏を片手に登場した「可哀想なお嬢さん!」とか甘いソプラノが台詞を紡ぐ。結衣お姉ちゃんだ。なんで?演劇出るとか聞いてない。代役かなんかかな?衣装は上は水色のビキニ、下はマーメイドラインのピッチリしたスカートだ。裾にふんだんなレースを使われている。魚の鱗のスパンコールがキラキラしている。ウィッグはつけたまま。凄く綺麗。人魚みたい。周りの観客からもほうっと溜息が洩れる。

それから場面はどんどん移り変わって行き、親指姫がツバメに連れられて春の国にやってくるシーン。五十嵐が王子か。ちょっと軍服っぽい王子服が憎らしいほどよく似合う。因みにツバメ役の雨竜は燕尾服だった。雨竜って初めて顔見たな。格好良い系というより可愛い系?

どうでもいい事を考えている間にもシーンが進む。

王子が親指姫に求婚する。


「姫、どうか私のお嫁さんにな「嫌だ!」」


雨竜が五十嵐の言葉を遮った。


「親指姫、傷付いた僕を癒してくれたあなた。あなたが他の人のお嫁さんになるのなど嫌です!どうか僕についてきてください。ずっと僕のそばに居てください。」


傷付いた心を桃姉に救われた雨竜のプロポーズだ。例えただの演劇でも他の男に嫁ぐのが我慢ならないらしい。気持ちは分かる。周囲は思わぬ展開にザワザワしている。

我に返った五十嵐が芝居を続行する。


「親指姫、もしあなたの気持ちが本物ならツバメと共に行くがいい。ああ、だが、もうこの春の国には立ち入らないでおくれ。あなたを恋しがる私の心が疼いてしまうから。」


アドリブな割にすらすら台詞が出てくるな。五十嵐の真骨頂か。


「王子さま。ありがとう。私ツバメさんと行きます。」

「どうかお幸せに、私の愛おしいマイア。」


無事かどうかはさておいて幕が閉じる。

オレは携帯を取り出して結衣お姉ちゃんにメールを打った。

『さっき親指姫で魚役やってたよね?もしかして代役?驚いたけど、綺麗だったよ』返信はすぐにあった。『有難う。役者の子が倒れちゃって代役だよ。失敗しなくて良かった。次はミスコン、ミスターコンあるよ。良かったら投票して行ってね』か。うーん、ミスコン、ミスターコンってかなり混むんじゃない?まあ誘われたし行ってみるか。

会場、めっちゃ混んでる。仕方なく端の方に陣取る。それぞれの美少女が簡単な特技を披露する。アオザイ姿の月姉はグラスハープを、グリーンカラーのドレス姿の桃姉はハーモニカを。他にもバレエ、タップダンス、歌、風船アート、中々みんな芸が多彩で結構面白い。ミスターコンではやっと攻略対象たちのそれぞれの顔を確認できた。八木沢はいなかったけど。みんなタイプの違うイケメンだ。ホント桃姉は誰が本命なんだか。未だに聞いても口を割らない。というかオレ目線で言うなら恋愛してなさそうなんだけど。

誰に投票しようかな…月姉?桃姉?でもホントに投票したいのは……オレは『1年4組の学級委員長』と記入した。多分無効票扱いになるだろう。でもいい。オレの気持ちだから。今日見た誰より結衣お姉ちゃんが綺麗だったよ。

ミスターコンでは悩んだが三国に1票入れといた。ホントは二宗が一番いいと思ったけど素直に敵を称えられるほどまだ心が広くない。

小腹がすいたので色んな所で買い食いして、縁日で遊んだ。

3時間後結果を見に行くと桃姉が1位で月姉が2位になっていた。予想通り。たまには月姉に勝ってもらいたいところだけど。まあそのうち月姉しか目に入らない!っていうヤツが出てくる…かな?


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