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結衣お姉ちゃんとミルククラウンに行った。もう秋なので季節限定メニューが出ていた。結構旨そうで目移りしたが、オレはさつまいものタルトを、結衣お姉ちゃんはモンブランを頼んだ。

色々お喋りする。そう言えば秋と言えば文化祭の季節だね。確か結衣お姉ちゃんの学校でもそろそろじゃなかったっけ?


「もうすぐ文化祭だね。用意してる?」

「まだ。今度のHRで会議する予定。長引きそうで憂鬱だよ。」


結衣お姉ちゃんは学級委員長だもんね。


「結衣お姉ちゃんは何やりたいの?」


学級委員長なら上手くすれば自分のやりたいものに誘導できるんじゃない?


「別に希望は無いけど春日さんを招待する予定だから、ちょっとは見栄えがするとか、楽しんでもらえるものがやりたいな。」

「春日さん招待するんだ?いいな~」


結衣お姉ちゃんに直に招待されるとか羨ましい。光ヶ崎学園は不審者対策で招待状を持った者しか学園祭に行く事が出来ない。例外は中学生。学生証を見せると入れてもらえる。青田買いだろう。


「雪夜君も招待しようか?それとも月絵先輩か七瀬さんに招待される予定?」

「どっちも予定はないよ。月姉、去年も一昨年も招待してくれなかったし。結衣お姉ちゃんが招待してくれるなら行きたいな。」

「そうなんだ。勿論招待するよ。」


やった。高校の文化祭って初めて行く。どんな感じなんだろう。ちょっとわくわくする。上手くいけば当日結衣お姉ちゃんと一緒に周れたりする?文化祭デート憧れる。まあ、春日さんの事を招待してるみたいだし、里穂子お姉ちゃんと一緒に周るかもしれないし、それ以前に忙しいかもしれないから、そのへんはあんまり期待しないで行ってみよう。


「雪夜君は文化祭の出し物何にしたらいいと思う?」

「休息室。」


額をぺちんと叩かれた。


「嘘だよ。定番は喫茶店とかお化け屋敷とか縁日だよね?オレは結衣お姉ちゃんが変わった衣装着てる所とか見たいな。」


自分の欲望に忠実なコメントを添える。猫耳喫茶とかだったら萌える。いや、ウサ耳とかもいい。絶対可愛いと思う。見たい。


「喫茶店にしたらテーマの衣装が見られるし、お化け屋敷にしたらお化けの衣装が見られるし、縁日にしたら浴衣とかが見られるかもしれないね。」

「うーん、浴衣は一度見たし、お化けの衣装…微妙。喫茶店はテーマによるな。可愛いものだと目に楽しい。春日さんもファッション系の仕事してるし目に楽しい衣装がいいんじゃないかな?前に聞いた知り合いの話だと色んな衣装の人間が校内に解き放たれてそれを探すゲームとかあったみたいだよ。探し出すとスタンプを押してもらえて、それを集めるとお菓子が貰えるとか。」


近所のお姉さんだけどね。今は大学生だ。


「へー。面白そう。」


さつまいものタルトが来たので食べる。ほくほくしてるけど意外としっとり?喉が渇いてギブ!みたいな感じではない。おいしい。


「雪夜君の知り合いはなんの衣装来たの?」

「女の人だけど、チャイナドレス着たって。」

「へー。私もチャイナドレス持ってるよ。」


なんか聞き捨てならない発言が聞こえた気がする。


「えっ?そうなの?」

「うん、中国土産にもらったの。」

「着てるとこ見たい。」


是非!見たい。すげー見たい。見なきゃ絶対後悔する気がする。

結衣お姉ちゃんはあまり乗り気ではないようだ。


「えー…」

「ダメ?」


一番自分が可愛く見える角度で小首を傾げる。この技、あとどれくらい通用するだろう。子供の内しか通用しない技だよね。


「いいよ。じゃあ今度うちに来た時着てあげる。でも、その…凄くミニなの。」

「うん?」


ミニだと何?


「だから写真はちょっと…」

「わかった。見るだけね。」


写真に撮られたら困るほどミニなのか。期待が高まる。っていうか『今度うちに来た時』っていつ?早く見たいんだけど。約束が風化して自然消滅とか嫌だよ?要するに『今度うちに来た時』が早く訪れればいい訳だよね?なら、お家に誘われるように会話を誘導すればいいだけだ。オレは手早く頭の中で計画を組みたてた。


「結衣お姉ちゃん、あーん。」


さつまいものタルトを切ってフォークに乗せた物を差し出す。結衣お姉ちゃんは当然のようにぱくりと食べる。美味しかったのだろう。笑顔だ。


「雪夜君もあーん。」


結衣お姉ちゃんはモンブランを一口とってフォークに乗せた。モンブランに食い付く。こういうやり取りも習慣化してきた。普段の努力も報われたかな?


「ん。おいしい。モンブランってすごい甘いイメージがあったけど、ここのは甘すぎない。」


罠を仕掛ける。


「だよね。多分栗の渋皮煮使ってるよ。裏漉ししないとクリームが絞りづらいけど、裏漉しするの大変だから家ではあんまり作らないんだ。たまにお店で美味しいのに出会うと感激する。」


予想通り結衣お姉ちゃんはお菓子の作り方を披露する。


「へー。じゃあ裏漉し手伝ったら作ってくれる?」

「えっ?大変だよ?」

「体力には自信あり。」


にっこり笑う。


「食べたいの?」

「うん。結衣お姉ちゃんが作ったなら、きっとおいしいと思う。」

「じゃあ、日曜日に家に来てくれる?材料用意しとくから。」

「りょーかい。」


期待を裏切ることなく獲物は罠にかかりましたとさ。



日曜日。わくわくしながら結衣お姉ちゃんの家に行く。扉の前でミントタブレットを齧ってピーンポーンとインターフォンを押す。「今出ます」と声がして扉が開いた。

結衣お姉ちゃんは既にチャイナドレスを着用していた。黒のミニチャイナだ。カラフルな柄の入った光沢のある黒が結衣お姉ちゃんの白い肌に映えている。体に沿ってぴったりとしたシルエット。丈は超ミニでサイドにスリットが入っている。もうちょっとで見えそうなのに見えない。

顔は華やかに化粧をしていた。目尻に赤の差し色が中華っぽい。眼鏡はしていない。凄く可愛い。というかものすごく色っぽい。


「……。」


結衣お姉ちゃんはオレが無言なので戸惑っているようだ。


「あの、雪夜君…?」

「あのさ、可愛いし、ものすごく似合うんだけど…」


オレも戸惑う。


「色っぽすぎて反応に困る。スリット眩しい。見えそうで見えないのがもやもやする。」


ホントぎりぎりなんだよ。ほっそりした腿が白い。触れてみたいほど。もうちょっとスリットが深かったら確実に最後の装備が見えていた。オレだって見たいよ。男だもん。


「今日も誰もいないんだよね?」

「うん。」

「オレに襲われたらどうするの?」


結衣お姉ちゃん危機感足りなさすぎ!


「雪夜君はそんなことしないよ。」


完璧に信頼している目だ。

このまま押し倒してその柔らかそうな体を暴いて散々鳴かせて滅茶苦茶にしたいとか考えてるのは気付いてないんだろうな。

オレは溜息をついた。


「信頼が重い…」


好きだから滅茶苦茶にしちゃいたいけど、好きだから裏切れない。

とりあえず洗面所で手を洗ってダイニングキッチンに通された。

モンブランってどうやって作るのか想像つかなかったけどフードプロセッサーを使うようだ。材料をがーっと混ぜている。タルトとスポンジは予め焼いてくれていたみたいだ。香ばしそうな狐色のタルトが並んでいる。


「この網とヘラで、このペーストを裏漉ししてもらえる?結構量があるから大変かもしれないけど。」

「力仕事は任せてよ。」


網にペーストを乗せてヘラで漉すと裏側に漉された滑らかなペーストがにょろっと出てくる。結構楽しい。結衣お姉ちゃんがコーヒーを淹れてくれたようだ。


「喉乾いたら飲んでね。」

「ありがとう。」


オレがせっせと漉している間に結衣お姉ちゃんは生クリームを泡立てていた。

お互いに作業しながら会話する。

春日さんがデザインとオーナーをやってる服飾店のフェアリアでは、秋の妖精ルックが流行らしい。森の妖精をイメージしたシルエットのワンピースとか。どんなだろう。

ルティでの話では結衣お姉ちゃんについたファンの話とか聞いた。最近頻繁に握手を求められるんだそうだ。結衣お姉ちゃんの柔らかい手に触ろうとする野郎がわんさか出てるのかと思うと気が重い。まさかそんなところから恋敵出たりしないよね?

桃姉の話と、一緒にローテ入ってる麗香先輩の話も聞く。麗香先輩の話はちょっとウケた。M属性の客が集まるって…なんか別の才能ありそうな気がするよ。女王様的な?

家の学校の『こどもまつり』という文化祭的な催しの話もした。小さな縁日のような物が出来るが、景品が総じてしょぼいし、やたら父兄との接触を求められるので正直うざい。親子間の交流は家で出来てるから十分です。大体小学校高学年って反抗期真っ盛りですよ。反発するお子さんの多い事多い事。低学年はナチュラルに楽しんでるみたいだけどね。

そんなこんなを話していると裏漉しが完了した。結衣お姉ちゃんが『大変だよ?』っていうからもっと大変なのかと思ってたけど、結構すんなりできた。時間もそんなにかからなかったし。

結衣お姉ちゃんが見本で作ってくれるみたいだ。

スポンジを敷いたミニタルトに栗の渋皮煮を乗せて生クリームを絞る。その上にモンブラン口金でマロンペーストを絞る。飾りにぼこっと栗の渋皮煮を乗せておしまい。

マロンペーストがにょろにょろ出てきてちょっと面白そう。


「雪夜君もやってみたい?」

「うん。」


試させてくれた。マロンペーストを絞る口金は小さな穴がいっぱい開いている。にょろーっと絞るけどクリームがへにょへにょによじれてるモンブランが出来た。いくつか試させてもらったけどそんなに上達しなかった。悔しい。


「なんかオレの不格好…」

「ふふふっ。最初は難しいよね。でも味は変わらないから。」


予定してた分を全部作り終えて、二人でモンブランを食べる。オレが作ったのを結衣お姉ちゃんが、結衣お姉ちゃんが作ったのをオレが。コーヒーは淹れなおしてくれた。

タルトを千切ってぱくりと口に含む。ふわっとマロンとラム酒のいい香りがする。口当たりも滑らかでコクがある。甘すぎずまったりしていて美味しい。

「ん。おいしい。ミルククラウンのもおいしかったけど、オレはこっちの方が好きだな。」

お世辞でなく美味しい。


「ほんと?光栄だな。雪夜君がきちんと裏漉ししてくれたから口当たりが滑らかだね。」

「楽しかった。ありがとう、結衣お姉ちゃん。」

「ううん。私も楽しかった。有難うね、雪夜君。」


こんな子供の我儘に付き合ってくれて優しいなー。カワイイし。

ケーキを食べつつチャイナドレス姿をじろじろ観賞する。マジで色っぽい。オレはやましい気持ちでいっぱいだ。ものすごく色々触りたいけど自制。


「なに?」

「写真撮れないからいっぱい見とこうと思って。」


しっかり目に焼き付けたよ。

結衣お姉ちゃんは苦笑してた。オレは好きな女の子のこんな可愛い恰好見て、しかも家には二人っきりで、保てるオレの理性すごい。と自分を褒め称えた。


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