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ミルククラウンにて。

夏祭りの弁解を聞いた。里穂子お姉ちゃんが偶然出会った二宗を結衣お姉ちゃんとくっつけようと一緒に周っていて、買い食いしてたら倉持ってヤツが友達とはぐれてるのを見つけた。里穂子お姉ちゃんは倉持ってヤツに片思い中らしく、結衣お姉ちゃんが一肌脱いで二人っきりにしてあげた結果、二宗と結衣お姉ちゃんと二宗の妹と一緒にお祭りを巡る事になったらしい。嘘ではないと思う。だからと言って普通に手とか握られるとすげーモヤモヤするんだけど。あの結衣お姉ちゃんの柔らかい手を他の男が握ったと思うと、二宗の手捻り潰したくなる。

とりあえず里穂子お姉ちゃんは敵認定。

二宗っていうヤツがどうも怪しい。

体育祭で結衣お姉ちゃんの弁当を食ってたヤツだ。しかも二人三脚した。イベントの勉強会では誘われたって言ってたし。そこんとこどう思ってるか結衣お姉ちゃんに詳しく聞いてみた。普通の友達だと思ってると言っている。


「だから二宗君とはそんなんじゃないって。」


じっと結衣お姉ちゃんの目を見る。嘘は言っていないな。照れてもいない。なんかまだ二宗については隠し事がありそうな気がするけど、現時点では恋情は浮いていない。寧ろオレの目に見惚れてる?


「ま、大丈夫か…」


結衣お姉ちゃんの恋愛拒否モードは今日も実行中だ。オレも手が出せない代わりに誰も手は出せないはず。


「でも結衣お姉ちゃん、二宗が桃姉の攻略対象だからって気を許しちゃダメだよ。」


ちゃんと釘は差しておこう。結衣お姉ちゃんが恋愛拒否モード中だからと言っても、相手が強引な手に出ないとも限らない。二宗に限らず、男はみんな注意してほしい。


「うん、ちゃんと異性として認識してるよ。」

「それはそれで微妙。」


異性として認識していないと警戒できないからダメだけど、異性として意識されてるとそれはそれで恋愛対象としてとらえられそうで微妙。オレなんて全然意識されてないのに。

不満げにチョコムースケーキをフォークでつつく。結衣お姉ちゃんの視線を追うとオレがつついているチョコムースケーキに注がれている。

「食べたい?」と聞けば「うん。」と答えた。別にお皿ごとまわしてもよかったんだけど、オレの望む形としては…ケーキを一口千切ってフォークに乗せて差しだした。結衣お姉ちゃんはぱくりっとそれをくわえる。こういう行動を自然に取られるのはどうとらえるべきかな。信頼されてる?それとも全く異性として意識されてない安全な人?しかし初対面の時はあんな事言ってたのにね。


「結衣お姉ちゃんも気にしなくなってきたね。」

「なにが?」

「間接キス。」


結衣お姉ちゃんは噎せた。


「だ、だって雪夜君が…」


まあオレが食べさせようとしたわけだけど。


「相手がオレだけなら何も問題ないんだけどね…」


聞き返されたがはぐらかした。

間接キスも食べさせあうのもオレだけが相手なら何も問題ないけど、他の男にも同じ事やってるのを想像して一人でモヤモヤした。オレにガード緩くなると他の男にも同じようにガード緩くなるのは手つなぎで実証済みだしね。

結衣お姉ちゃんはオレの内心なんて知らずに美味しそうにカスタードタルトを食べている。


「…結衣お姉ちゃんはオレにくれないの?」


結衣お姉ちゃんからもアプローチが欲しいよ。

結衣お姉ちゃんは戸惑っていたようだが、カスタードタルトを一口分千切ってフォークに乗せて差しだした。オレはそれをぱくりと食べる。


「ん。うまい。」


結衣お姉ちゃんは照れているようだ。頬が赤い。



それから一緒にショッピングデートした。服のセンスは結構合うみたい。あれが良いこれが良いというのがぴたりと当てはまる。秋物のビジュー付きの花柄ワンピースを見たててあげたらすごく喜ばれた。「可愛い!雪夜君ありがとうっ!」だってさ。可愛かったから今度着てきてくれないかな?オレの服もあれこれ見た。結衣お姉ちゃんのセンス好きだわ。

しかし、結衣お姉ちゃんの顔がずっと赤い気がする。夏ももう終わりだけどそんなに暑い?疑問に思いつつ結衣お姉ちゃんがハイテンションだったのでそれにつられて買い物を続行した。

だが、やっぱり顔が赤いのが気になる。


「結衣お姉ちゃん、もしかして体調悪い?」


立ち止まって聞いてみる。


「ちょっと。なんかさっきからぽーっとする。」


結衣お姉ちゃんの額に手をあてる。


「熱っ!熱あるよ。」


なんで気付かなかったんだろう。オレのアホ!


「気付かなくてごめんね。」

「ううん、一緒に買い物するのが楽しくて私も気付かなかったんだ。ゴメン。」


結衣お姉ちゃんはふらっと壁に寄り掛かった。そのままずるずると地面に倒れて行った。慌てて抱きとめて「結衣お姉ちゃん?」と呼びかけるが、完全に意識を失っている。こういう場合は救急車?それとも自宅に連絡して迎えを呼ぶか…

呼吸は穏やかで苦しげでもない。一瞬熱中症かとも思ったが見ていた感じ水分は十分に摂っていた。脈も早くない。手が冷たいという事もない。筋肉の痙攣等も見られない。桃姉は今日は出掛けてる。

携帯で自宅に連絡してみた。


「はい、七瀬です。」


義母さんが電話に出た。


「義母さん?今結衣お姉ちゃんと出かけてたんだけど、結衣お姉ちゃんが凄い熱で…気絶しちゃった。迎えに来てくれる?」

「あら、大変。場所はどこ?車で行くわ。」

「場所は…」


義母さんに場所を伝えると結衣お姉ちゃんをおんぶして歩道の端で待った。

ほどなくして車が来る。結衣お姉ちゃんを乗せて自宅に向かった。携帯で月姉に連絡を取る。


「ユキ?何か用?」

「今家?」

「そうだけど?」

「ベッド貸して。」

「ハァ?」

「今から結衣お姉ちゃんを運び込むから。」


オレのベッドだと流石に結衣お姉ちゃんが気がついたときに嫌な気持ちになるかもしれない。月姉は同性な分まだましだろう。


「朝比奈さんどうかしたの?」

「気絶した。熱があるみたい。」

「わかったわ。空けとく。」

「ありがとう。」


自宅について、結衣お姉ちゃんをおんぶして月姉の部屋に運び込んでベッドに寝かせる。


「朝比奈さん大丈夫かしら?」

「ちょっと様子を見て、駄目そうなら救急車呼ぶ。熱計ってみてくれる?」


うちの体温計は脇の下に挟んではかるタイプだ。オレがやったら問題だろう。


「わかったわ。」


オレは急いで冷蔵庫でスポーツドリンクを冷やしてタオルと洗面器と水と氷を用意した。月姉は毛布を出して来てくれた。タオルケットじゃちょっと心配だったんだ。有り難い。

氷水で冷やした布を額に乗せる。

ピピピと体温計が鳴る。


「ユキ、部屋出て。」

「ん。」


大人しく部屋を出ていく。部屋の前で待ってると月姉が出てきた。


「入って良いわよ。38.5ですって。」

「高いね。」


月姉も心配そうに結衣お姉ちゃんを見つめる。

額の布がぬるくなる度氷水で冷やして乗せ換える。オレの手は氷水でかじかんで真っ赤になっている。


「ユキ、代わろうか?」

「いい。」

「そう。」


何度か氷水を入れ替えて布を冷やす。

やっぱり救急車呼んだ方が良かったかな?目覚めない結衣お姉ちゃんに不安が募る。新しいものと入れ替えた氷水の入った洗面器を持って、月姉の部屋の扉をノックする。


「いいわよ。」


月姉の声がして扉を開けると結衣お姉ちゃんがベッドの上に起き上がっていた。


「結衣お姉ちゃん、気がついたんだ。良かった。救急車呼ぼうか迷ってたんだ。」


傍に行って床に洗面器を置く。顔色は普通になっている。


「迷惑かけちゃってごめんね。」


申し訳なさそうに謝る。


「ううん。もっと早く体調悪い事に気付くべきだった。オレが悪いよ。ゴメン。」


もっと早く気付いてあげていれば倒れるような事無かったはずなのに。ホントオレは何を見ていたんだろう。好きな人の体調すら見抜けないなんて節穴すぎる。もっと気を使ってあげなきゃ。


「義母さんが、結衣お姉ちゃんが気が付いたら家まで車で送るって言ってたけど…歩けそう?」

「うん。なんかすっきりした。大丈夫そう。」

「朝比奈さんの事は車から私のベッドまでユキがおんぶしてきたのよねぇ~」


さっきまでは心配そうにしていたくせに大丈夫そうと分かると途端に月姉がからかってきた。

おんぶの何が悪いよ?

結衣お姉ちゃんはおろおろしたと思いきや思いっきり申し訳なさそうな顔をした。


「雪夜君、本当にごめんね。」

「いいんだよ。気にしないで。でも家に帰ったらちゃんと安静にするんだよ?」


ヨシヨシと頭を撫でてあげる。

耳元でそっと「桃姉は外出中だから安心して」と囁いた。結衣お姉ちゃんはホッとしたようだ。

義母さんと月姉に口止めすれば桃姉からライバル認定される事は無いだろう。

結衣お姉ちゃんにスポーツドリンクを飲ませて義母さんの運転する車に乗って結衣お姉ちゃんの家まで送った。



「ユキ~。今日朝比奈さんと出かけてたのね~」


家に戻ると月姉がニヤニヤしながら寄ってきた。


「口止め料は駿河屋の抹茶プリンで良い?」

「い・い・け・ど~。ホントは付き合ってるんじゃないの?どうなのよ?」

「付き合ってない。」

「ふ~ん?」


疑ってるな。オレだって付き合えるもんなら付き合いたいっての。


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