第2話
「私部活入ったからこれから帰りが少し遅くなるかも。」
桃姉が夕食を食べながら切り出した。今日の夕食のメニューは海老フライだ。海老がプリッとしてておいしい。
「あら、なんの部活入ったの?」
義母さんがニコニコしながら聞く。
「陸上部。」
全然陸上競技とか興味ないくせに!?そういえばノートに書いてあったけど担任の八木沢ってヤツが陸上部顧問なんだっけ?狙ってるのかな?部活関連で行くと四月朔日っていうヤツが園芸部だったはず。桃姉の性質的にも園芸部の方が性に合ってそうなのに、と思うと驚きだ。攻略対象が複数いる割には部活関連は少ないかもね。三国はバイトしてるとして一条とか六崎兄弟とか空いた時間何してんだろ?そう言えば町内ぶらついてばったり出会う!みたいなイベントあったな。
陸上ねえ…
「桃姉陸上なんて興味あったっけ?」
「え?えっと、最近ちょっと興味出てきたの。」
「とかなんとか言っちゃって顧問が格好良いからころっといっちゃったんじゃないの~?」
月姉が冷やかす。うーん、実は的を射てる気がするよ。
「顧問の先生格好良いの?」
義母さんは興味津々だ。
「うちの学校の教師じゃ一番のイケメンよ。若いし。」
「まあまあ。そうなの?桃花。」
「そ、そんなんじゃないって!」
桃姉はあわあわしている。桃姉はドジだから年上のしっかり者の彼氏とか合ってるのかもしれない。でも八木沢は結構うっかり失言系っぽい記述があったような気がする。と言うか…
「教員と恋愛とか大変だろうね。絶対に隠さなきゃならないだろうし、バレたら相手はクビだろうね?卒業してからならいいかもしれないけど、在学中はリスキーすぎると思うよ。」
千キャベツをモリモリ食べながら意見を述べる。
「そんなんじゃないったら!ユキの意地悪!」
桃姉の機嫌を損ねてしまったようだ。現実を述べただけだけどね。
結衣お姉ちゃんはこの事知ってるのかな?ご馳走さまして部屋に戻って、早速メールで連絡を入れてみた。『もう知ってるかな?桃姉は陸上部に入ったみたい』
『陸上部は顧問が八木沢先生だよ。桃花ちゃんって陸上に興味あるの?』と返信があった。やっぱり桃姉と陸上競技が結びつかないんだろうなあ。『陸上に興味があるとは聞いたことが無いよ。多分八木沢先生狙い。本命かどうかはわからないけど。』と送っておいた。八木沢狙いで陸上部に入ったとしても、他のヤツも同時攻略狙うかもしれないし。あんまり考えたくない事だけど。
『引き続き動向を探ってもらえるとありがたいです』と返信があった。お尻にお辞儀マークの絵文字が入っている。オレの周りでこういう絵文字活用してくる人間いないからちょっと新鮮だ。
『了解』と短く返事を送っておいた。
「ユーキ、誰にメール送ってるの?」
「わっ。月姉!入ってくるならノックしてよ。」
後ろから月姉が携帯を覗き込んでいた。メールに意識が行っていて気付かなかった。
「ノックなんてしたら不意を突けないじゃない。」
「なんで不意を突く必要があるのかが疑問すぎるよ。」
月姉はアイスのカップ片手にベッドの上に腰掛けた。零すなよ?
「それで?誰にメール送ってたの?」
「友達。」
「あんたはまだ彼女とかできないの?」
「出来ないね。」
腹立たしい事に桃姉に片思い中だよ。月姉は何も言わないけどオレの気持ちは知ってるんだと思うな。だからいつも触りだけ聞いて突っ込んでこない。藪から蛇が出るのを怖がってるんだろう。
「学校じゃモテてるって聞いたわよ。」
誰だ。月姉にそんな情報流す奴は。身近にスパイがいそうで安心できないな。月姉は美味しそうにバニラアイスを食べている。
「確かに身の周りは煩いけどね。」
今、オレを巡る女子で派閥が出来ちゃって、毎日煩い。メアド教えてって聞かれまくるし。オレが許可してないヤツにその辺の情報回したら縁切ると言ってあるので、一応情報は漏れてないみたい。
「『クールな雪夜クン格好良い~キャ~』ですってよ。学校じゃクールキャラなの?」
「さあ?」
「さあ…ってあんた、昔っから興味ない人間には冷たいわね。」
「一応必要最低限の愛想は保ってるつもりだよ。」
「ふうん?クールキャラ気取って気になる女の子に逃げられないと良いわね。」
残念ながら桃姉以外に気になる女の子は今んとこいない。深みに嵌まる前に抜け出したいけど。桃姉の前ではいつも生意気な義弟のまんまだ。なまじ好きだと思うと素直になれない。ガキだな。
「そういう月姉は彼氏できた?」
「い、いないけど。私がその気になれば彼氏の1人や2人や10人や20人くらいさらっとできるわよ!」
「へーえ?その気になるのが遅すぎて行き遅れないようにね?」
月姉もモテるくせに色恋には今一つ縁が無いからな。でも月姉はどういう訳か男よりも同性に根強いファンを持っている。オレについてるスパイもそのラインかもしれない。
「あんた、可愛くないわね。」
折角人が心配してあげてるのに!ってか。まあ気持ちだけ貰っておくよ。
「そう?可愛いって評判だけど。」
「見てくれだけはいいんだから。全く、性格悪いわ。」
「褒めてくれて有難う。」
にっこり笑うと睨まれた。
「…まあ、困ったら相談でもしなさいよ。」
「ん。」
月姉はアイスを食べながら部屋から出て行った。
後日、結衣お姉ちゃんからメールが来た。
『八木沢教師はセクハラ教師!訴えて勝つぞ!運動なんてキライ!』
なんのこっちゃ。
とりあえず結衣お姉ちゃんは運動は嫌いらしい。
雪夜君サイドでは吃驚するくらい月絵先輩が出てきます。
仲良し姉弟です。ノートの事が絡まなければ桃花ちゃんも同じ位仲良しです。