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もうすぐ花火大会だ。毎年友達と花火大会会場に行ったりして楽しんでいる。今年は結衣お姉ちゃんを誘ってみたいけど、どうだろう。結衣お姉ちゃんは人ゴミが嫌いだから花火大会会場入りを嫌がるかもしれない。人があまりいなくて花火がよく見える穴場とかに誘えたらデートとしてはベストだけど…穴場かあ…心当たりないな。強いて言えば我が家のベランダからはよく見えるけど。オレの自宅に入るのとか嫌がるかもしれない。嫌がられたら…フツーに凹む。でも代案は浮かばないしなあ。……一か八か誘ってみようかな?欲を言えば浴衣姿が見たい。絶対浴衣似合うと思う。まずは両親に許可を取るか。来てくれるならベランダ独占したいし、夕食出してもらいたいから。

桃姉が自室に居るのを見計らって居間に降りた。義父さんと義母さんが2人でテレビを見ている。


「ねえ、義母さん、花火大会の日なんだけど…」

「うん?」


義母さんが振り返った。


「友達家に呼んでベランダから花火見たいんだけどいい?」

「いいわよ。」


すんなり許可が下りた。


「良かった。それで、当日夕食作ってもらいたいんだけど、どうかな?」

「いいわよ~。何人分?」

「オレ含めて2人分。」

「…もしかして、女の子呼ぶの?」


義母さんの目がきらっと輝いた。

まあ、隠してても当日ばれるし。


「うん。まだ誘ってないから、来てくれるか分からないけど。」


自宅に女の子呼ぶのとかって正式なお付き合いみたいだよね。まだ全然そこまで行ってないけど。


「いや~ん、伸一さん、聞いた?雪夜にも遂に彼女が!」


義母さんが頬を手で挟みこんでいやいやしながら義父さんに話しかける。


「聞いたぞ。雪夜にも春が…」

「来てないよ。彼女じゃなくて、友達。」


彼女にできたらいいんだけどね、と内心で呟く。


「でも2人で自宅で花火見るのってデートでしょ?」

「相手はデートだと思わないと思う。」


結衣お姉ちゃんは自分を恋愛から遠ざけてるから。その壁を取っ払わないとオレを恋愛対象として見てくれないと思う。恋愛対象じゃない人間と2人きりになった所でデートだとは思わないだろう。


「遊び慣れた子なの?」


義母さんが眉を顰めた。


「逆。鈍い。」

「あらあら~。おぼこい子なのね~。いいわよ。母さん張り切っちゃう。」

「来てもらえると良いな。いつ誘うんだ?もう花火大会までそんなに間が無いぞ。早めに予定を入れておかないと来てもらえないんじゃないか?」

「そうよ。早く連絡してみて!」

「え?今?」

「そうそう。善は急げよ!」


義父さんと義母さんに急かされて、廊下に出て連絡を入れてみた。

数コールめで結衣お姉ちゃんが出た。


「もしもし?」


甘いソプラノが耳を擽る。


「あ、結衣お姉ちゃん。今大丈夫?」

「大丈夫だけど、なんかあった?」


そうだよね。頻繁に連絡取り合ってるけど、この時間帯連絡するのは珍しいもんね。いつもは夜連絡してる。でも義父さんと義母さんに急かされたのもあるけど、勇気がくじけないうちに連絡したかった。断られて凹むヴィジョンが見えてて気が気じゃないから。


「や、なんもないけど……もうすぐ花火大会だね」

「そうだね」

「花火大会の日、何か予定入ってる?」


既に予定が入っていたらこの話は無かったことになる。


「入ってないよ。友達に誘われたけど人ゴミが嫌だったから断った。」


予想通り人ゴミを嫌ったようだ。

さ、誘うぞ。緊張する。親密でない男の自宅だなんて、断られるかも。でも来てほしい。


「じゃ、じゃあ家、来ない?」


緊張のあまり声が裏返った。カッコ悪い。


「雪夜君の家?」

「うん。家のベランダから結構綺麗に花火見えるんだ。良かったら見に来ない?あ、知ってると思うけど桃姉は出かける予定だよ。月姉は居るかもしれないけど」


月姉は出無精だから家に居る可能性が高い。

ファンタジアランドで名残惜しげに花火を見ていたから、花火自体が嫌いってことは無いと思うんだよね。


「それならお邪魔しようかな?」

「やった!えーと家わかる?」


よっしゃああああ!オレは小さくガッツポーズした。

自宅デートとりつけた!あとは浴衣着てもらえれば完璧!


「さすがに家はわからない。駅はわかるけど。」

「じゃあ駅まで迎えに行くから!6時に集合ね。と、当然浴衣で来てよね!」


また声が裏返ってしまった。いい加減にしろよ、オレ。


「雪夜君も浴衣着るの?」

「オレは着ないけど」


浴衣持ってないし着方もわからないし。


「じゃあ私も着る必要ないんじゃない?」

「えーっ!オレの楽しみが…じゃない。えーと、花火大会と言えば浴衣だよ。多分うちの両親も若い子の浴衣姿見たがると思うしさ。ね?ダメ?」


あぶね。本音ポロリだよ。

思いっきり子供ぶって甘えてみる。卑怯だね。でも手段は選ばない。両親をだしにするのも厭わない。オレは結衣お姉ちゃんの浴衣が見たい。


「わかった。浴衣でいくね」


よっしゃ!浴衣で来る!


「オッケー!じゃあまた夜連絡する。」

「うん。ばいばい」


通話を切った。


「ゆ・き・や。」


びくっと肩が跳ねる。義母さんが廊下の陰から顔を半分出している。妖怪みたいでちょっと怖い。


「浴衣で来てもらうんですって?」


しっかり聞いていたようだ。


「…うん。」

「いい事、雪夜。相手のお嬢さんが浴衣で来たら雪夜はどう思う?」

「え?こんな機会じゃないと見れないし、綺麗だろうし、嬉しいけど…?」

「なら相手のお嬢さんだって雪夜が浴衣を着ていたら、こんな機会じゃないと見れないし、嬉しいと思ってくれるはずよ。」


うーん。それはどうかなあ?


「女の子に浴衣姿を要求したんなら責任もってアンタも着なさい。」

「オレ浴衣なんて持ってないし、持ってても着方がわからないんだけど。」

「浴衣は買ってあげるし、着付けは美容室に頼めばいいわ。」


まあ、買ってくれるなら着てもいいけど。


「普段と違う和装とかってグッと来るものなんだから!私だって伸一さんが若い頃は…」

「あー。はいはい。」


義母さんは義父さんの話になるとちょっと長いのだ。この年になるまでラブラブっていうのは羨ましくもあるけど。


「あ、そうだ。来る相手、桃姉と同じクラスの女の子なんだ。桃姉に知られるとお互い気まずいと思うから、来る事桃姉には内緒にしてもらえる?」


桃姉にばれたら元も子もない。


「あら、年上なのね~。いいわよ。伸一さんにも伝えとくわ。」


それから結衣お姉ちゃんについて根掘り葉掘り聞かれたので言っても大丈夫だと思われる部分だけ情報開示した。

義母さんと義父さんはまだ見ぬ結衣お姉ちゃんに期待を膨らませているようだ。



浴衣一式はデパートで買った。濃紺地に刺子風ストライプの浴衣だ。

花火大会当日義母さんに予約していた美容室に放り込まれて着付けした。

鏡で見てみる。うーん。似合わない事もないと思うけど、結衣お姉ちゃんどう思うだろう?オレが浴衣着る事は伝えていない。似合うと思ってもらえると良いな。

ベランダにレジャー椅子と簡易テーブルを設置した。

あとは時間がきたら迎えに行くだけだ。




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