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ウォータースライダーは楽しかった。もっぺん乗りたいところだけど、列がもうかなり長いし、連れがいるから諦めた。


「桃姉、波のプールに行きたかったんだよね?結衣お姉ちゃんたちも行くらしいから一緒に行こう。ビーチバレーしよう?」

「えっ。朝比奈さん達も…?」

「ビーチバレーは人数多い方が楽しいよ。」

「う、うん…」


桃姉は全く乗り気じゃなかったが気付かないふりをした。

桃花&雪夜チームVS里穂子&結衣チームでは呆気ないほど圧勝できた。結衣お姉ちゃんは自分でも運動苦手だと言っていたが、本当にダメらしい。スポーツタイプの遊びではずっと負け続けてきたんだろうな…と思うと不憫だ。


「結衣ちゃんドンマイ!」


里穂子お姉ちゃんが慰めている。でも結衣お姉ちゃんはしょげたまま。ビーチバレーなんかに誘って悪いことしちゃったかな?今度はハンデにオレと結衣お姉ちゃんで組んでみよう。雪夜&結衣チームVS里穂子&桃花チームで対戦。結衣お姉ちゃんがぼろぼろボール零しまくってんのをフォローに周る。結衣お姉ちゃんもちょっと慣れてきて点を入れられるようになってきた。結果勝った。


「やっったあああああ!」


凄い喜んでる。

一緒に組んで良かった。


「結衣お姉ちゃんナーイス!」


二人でハイタッチする。


「むー!結衣ちゃんズルイッ!雪夜君今度は私と組もっ」


今度は里穂子お姉ちゃんから勧誘が来た。断る理由もないので組んでみた。里穂子お姉ちゃんは潜在値が高いと思う。ちょっとフォローするだけで驚くほど動きが良くなる。結果勝った。


「きゃー!雪夜君やったよっ!」

「やったね。里穂子お姉ちゃんはやればやるほど動きが良くなるね?」

「へへ。そうかな?」


嬉しそうだ。

反対に結衣お姉ちゃんは凄く申し訳なさそうに桃姉に謝っている。


「七瀬さん、ゴメンね?私運動音痴で…」

「ううん。いいよ、今のは結構いい勝負できてたと思うし」


仲良き事は美しきかな。

ビーチバレーもたっぷり楽しんだのでバレーボールを置きにパラソルに戻った。


「ね、ねえお昼にはちょっと早いけど何かお腹に入れない?」


桃姉がちょっと緊張気味に発言する。

イベント開始か。


「そうだね。ちょっとお腹減ったかも。」


里穂子お姉ちゃんが同意する。確かにちょっとお腹は減っている。


「私なんか買ってくるね?ユキ、何が良い?」


桃姉が小銭の入ったビニールポーチを取りだした。


「いや、オレも行くよ。」


一人で行かせたらナンパイベントが発生してしまう。桃姉をそんな危険な目に合わせるのは嫌だ。イベントだから自分が間に合うとはわかっていても、万が一という可能性を考えるとこのイベントは阻止したい。


「大丈夫。ユキはバレーボールの空気抜いておいて?」

「でも一人じゃ…」


どう考えても危険だ。かと言ってオレが買いに行く場合、ここに残った桃姉がナンパされてるのがオチだと思う。


「じゃあ、結衣ちゃんと一緒に行ったら?」


桃姉が微妙な顔をした。オレも微妙な顔になってると思う。


「私はいいけど、里穂子ちゃんは一緒に行かないの?」

「雪夜君を見てる人が必要でしょ?」


ちらと結衣お姉ちゃんを見る。結衣お姉ちゃんを一緒に送りだしてイベント回避できるとは思えないんだけど。寧ろ羊が二人に増えて狼ウマーな展開でしかないと思う。やっぱりオレが一緒にいかないと…


「じゃあ、俺と桃姉と結衣お姉ちゃんが買い出しで、里穂子お姉ちゃんにビーチボールの空気抜いてもらおう。」

「ユキ、他人様を勝手に使うんじゃありません!」


こんな時ばっかりお姉さんぶるのは卑怯だと思う。でも里穂子お姉ちゃんを残して3人で行って、里穂子お姉ちゃんがナンパされてたら目も当てられない。仕方ないか。このイベントは避けられない。


「じゃあ、焼きそば…」

「私はポテトとフランクフルトお願いね!あとコーラ!」

「わかった。いこ、七瀬さん。」

「うん。」


2人が出て行った後、大急ぎでボールの空気を抜く。すぐ後を追おう。

ボールをたたんで里穂子お姉ちゃんに声をかける。


「桃姉達の所に行こう?荷物が多くて困ってるかもしれないし。」

「雪夜君はお姉ちゃん子だねえ。ちょっと離れてると我慢できない?弟かわいいな~」


そういう問題じゃないんだけど。


「買い物くらい2人で大丈夫だよ。入れ違いになっちゃうかもしれないし。」


いや、行かなきゃまずいんだけど。


「でも…」

「あれえ。雪夜君じゃない?」


声をかけてきたのは近所に住むおば様だ。自分の子供を連れている。


「こんにちは。」

「こんにちは~。プールに来てたのねえ。月絵ちゃんと桃花ちゃんは一緒じゃないの?まっ。もしかしてデート?おばさんお邪魔虫かしら?」

「いえ、違います…」


里穂子お姉ちゃんとデートとか違うから。でもこのおば様話しだすと止まらないんだよね。


「あらそうなの~?雪夜君は可愛いから女の子には不自由しないんじゃない?私が若い頃は…」


長々と話をされてしまった。何度も切り上げようとしたが次々に別の話題を出されて圧倒される。このパワーには恐れ入る。しかしまったりもしていられない。何とか切り上げる。


「里穂子お姉ちゃん、桃姉達遅い。何かあったかもしれないからオレは迎えに行くよ。里穂子お姉ちゃんも来てくれる?」


一人で残していくのも心配なので誘う。オレの気迫に押されたのだろう。里穂子お姉ちゃんは「いいけど…」と頷いてくれた。売店のある方へ向かう。桃姉達のいる所なら人だかりができているはずだからすぐわかるはずだ。

桃姉と結衣お姉ちゃんのコンビなら美味しい餌にしか見えないだろう。

前方に大きな人だかりが見えたので割ってはいる。桃姉と結衣お姉ちゃんが複数の男たちにナンパされているようだ。後ずさる桃姉の腕に男が手を伸ばす。当然触らせるつもりはない。男の手を掴んで後ろ手に捻り上げる。


「いだだだだっ!!!」


茶髪の男が苦痛の声で騒いだのでぱっと手を離す。あとは蹴散らすだけだ。伊達に道場に通ってる訳じゃない。これくらいのチンピラならすぐに片付けられるだろう。


「お兄さんたち、邪魔なんだよね。」


可愛く見えるように小首を傾げる。


「何だこのガキっ!」


殴りかかってきたが拳を軽く掴んでながし、相手に膝蹴りを入れる。


「ガッ!?」


面白いくらいに素直にダメージを受けてくれる。


「お、おい。テメ調子に乗りやがって!」


掴みかかろうと突進してきたので避けるついでに足をかけた。転んで顔面を打ちつける前に頭を掴んで止めてやる。顔面擦り傷だらけ鼻血大量になると大変そうだから。頭を掴んだから首にダメージが来てると思うけど。


「邪・魔・なんだよね?」


にっこり笑って頭を離す。男たちが動揺しているのが手に取るように分かる。

結衣お姉ちゃんの前に立ちはだかっている男にも掌底を入れる。思いっきりつんのめって尻もちをついたようだ。


「消えてくれる?」


再び可愛く見えるよう小首を傾げた。

ギャラリーは多い。このまま争うことになっても監視員が飛んでくるのは必至。明らかに男たちの分が悪い。漸く冷静になって周りの状況を把握したようだ。「今回は見逃してやる」的な事をぶつぶつ言いながら足早に逃げて行った。

これで一安心か。

ふうっと溜息をついた。


「お姉ちゃんたち怪我はない?」

「特にないよ。敢えて実害をあげるなら戦利品が冷めた事くらいかな?」

「ユキ、ありがと…」


桃姉がうっとりした目で見てくる。


「ありがと、じゃないよ。遅いから来てみれば。…次からはついてくからな?」

「うん。ついてきて。守ってね?」


守ってね、か。オレは桃姉を守りたくて格闘技に手を出したんだよな。今こうしてイベントとして利用されてると複雑な気分だ。これがイベントだって知らなかったら素直に喜んだかもしれないな。自嘲する。


「雪夜君強いねー!なんか格闘技でもやってるの?」


里穂子お姉ちゃんが後ろから近づいてきた。


「あー…柔術と空手を少し。」


合気道と少林寺もやってるけど。そこまで詳しく情報を開示する必要はないな。


「格好いい!顔も整ってるし将来有望だね。私もこんな弟ほしかった~」


そう言ってもらえるのはちょっと嬉しくもある。桃姉に気がある分健全な姉弟関係に憧れがある。里穂子お姉ちゃんみたいなお姉ちゃんがいたら…うん。毎日が疲れそうだな。

冷めた焼きそばを食べて午後も遊ぶ。流れるプールで思う存分流された。浮き輪でぷかぷか浮かんでいるとゆらゆら流されていって楽しい。アスレチックプールはちょっとアクティブな要素のあるプールだ。色んな設備があって結構面白い。続いてジャグジーを始めとする温浴施設に入った。円形のジャグジーで結衣お姉ちゃんの隣に行った。


「何で隣に来るの?」

「来ちゃいけないとでも言うつもり?」


じろっと睨む。ナンパ撃退イベントなんて作るべきじゃないと思うんだよ。女の子にとって一番大切なものが危険にさらされるんだよ。桃姉や結衣お姉ちゃんに何かあったらと思うと肝が冷える。絶対になくしたくない二人なんだ。

顔がくっつきそうなほど近付く。薄紅色の唇に誘惑される。ああ、ナンパ男も危険だけどオレも危険だな。


「い、言わないけど…イベント回避失敗しちゃったね。」

「全く。イベント条件が揃った時点で回避できないのかと思うよ。」

「私も今のところちゃんとイベント回避してる人見たことない。好感度上がった?」


残念ながら上がっているよ。守りたいと思っている相手に「守ってね?」とか言われて舞い上がったのは確かだ。これ以上好感度なんてあげたくないのに桃姉は可愛い。でも桃姉と二人っきりでプールに来てるよりは上がり幅は少なく感じる。結衣お姉ちゃんがいるからかな。


「まあ、下がってはいないよ。」


曖昧に言葉を濁した。好感度が上がっているのを結衣お姉ちゃんに知られるのが嫌だった。結衣お姉ちゃんに気があるから。


「私の事もついでに守ってもらっちゃったみたいで、ごめんね。有難う。」

「“ついで”とか言わないで。結衣お姉ちゃんの事もちゃんと大事だよ。」


凄く大事だ。とてもついでという言葉じゃくくれないくらい。桃姉に何かあったらすごく嫌だけど、同じくらい結衣お姉ちゃんに何かあったら嫌だ。結衣お姉ちゃんの事も守りたいんだ。

結衣お姉ちゃんは照れたようだ。

ヨシヨシと前髪を撫でる。


「二人とも随分仲良しだね?」


桃姉がオレの隣に来た。結衣お姉ちゃんとオレがちょっと親密だから危機感を抱いているのだろう。


「気が合うみたい。」


適当な作り笑いで誤魔化す。オレをキープしておきたいと言う桃姉の気持ちが透けて見えて嫌だ。桃姉を大切にしたい気持ちと、オレをキープにしておきたいと言う桃姉への侮蔑で心ん中がぐちゃぐちゃだ。桃姉がオレを切り捨ててくれれば大切にしておきたい気持ちだけ持っていられるのに。


「なぁに?私も混ぜてぇええ!」


里穂子お姉ちゃんがオレ達の真ん中に乱入した。

心変わり…してるんだろうな。でもそれをノートに書いた場合の結衣お姉ちゃんの反応を予測して溜息が洩れる。

結衣お姉ちゃん、オレの心を信じてくれる?


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