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オレは不機嫌の絶頂だった。結局桃姉とのプール行きを回避できなかった。泣きそうな顔されるとダメとは言えない。泣き虫には弱いんだ。この調子でイベント起こされるのかと思うと鬱。結局出不精な月姉は引っ張りだせなかったし。

プールに行ったら行ったで桃姉が注目の的というか人目を集めちゃって囲まれる。飲み物を買いに出ただけなのにオレらの周りには人だかりができて思うように進めない。イライラする。しかもこの後のイベントのあらすじを思い浮かべると嫌な感じだ。

オレが人だかりに閉口してると女の子の声が聞こえてきた。


「おーい、七瀬さぁん!」


そちらを向くと、桃姉くらいの年齢の知らない女の子と結衣お姉ちゃんがいた。結衣お姉ちゃんはものすごくオロオロしている。デート(?)中だったから声をかけたくなかったのだろう。オレとしては妨害してほしかったんだけどな。

桃姉は声をかけられた方へ足を進める。人だかりがゆっくり割れた。


「朝比奈さん、伊藤さん、二人もプール?」

「そうそう。七瀬さんも?そっちは弟さん?」


伊藤さん(仮)が物珍しそうにオレの顔を覗き込む。ちょっと地味なお姉ちゃんだ。水着も露出が少ない。見た目の割には元気が良さそうだけど。


「うん。そうなの。義弟おとうとの雪夜よ。ユキ、挨拶して。」


挨拶ね。オレは桃姉に結衣お姉ちゃんの事は話していない。結衣お姉ちゃんも桃姉にオレの事は話していないと思う。そもそも桃姉は結衣お姉ちゃんとそんなに親しくないのではないだろうか。呼び方も名前じゃなくて、苗字だったし。あんまり親しげに話しかけると関係がばれて、今後の情報収集がしにくくなりそうだな。


「…初めまして。七瀬雪夜ななせゆきやです。」


結衣お姉ちゃんとは初対面だというニュアンスを込めてみる。


「伊藤里穂子です。お姉さんの七瀬さんとはクラスメートだよっ」


里穂子お姉ちゃんがにこっと笑う。


「同じく、朝比奈結衣です。」


結衣お姉ちゃんも初対面という設定で通すようだ。良かった。結衣お姉ちゃんはぎこちない笑みを浮かべている。全身からいたたまれないオーラを出している。


「里穂子お姉ちゃん、結衣お姉ちゃん。よろしくね」


笑顔には笑顔で応える。オレは作り笑顔を浮かべた。


「七瀬さんはもうパラソル見つけた?」


里穂子お姉ちゃんが尋ねてくる。


「うん。さっき空いてるとこ確保したよ。」


プールに来てパラソルを確保して、ちょっと喉が渇いたから買い出ししてきた所なのだ。桃姉とオレの手には烏龍茶のペットボトルが握られている。結衣お姉ちゃんたちはまだパラソルを探せていないのだろうか?だとしたら無理やり合流して今日のイベントを潰せたらもうけもの。イレギュラーが発生すれば好感度の上がり幅も少なくなるかもしれないし。


「里穂子お姉ちゃんと結衣お姉ちゃんはまだ探せてないの?」

「うん。混んでてちょっと。」

「じゃあ。一緒のパラソルに入ろうよ!」


にっこり笑う。いかにも子供らしい無邪気な笑みを演出。パラソルは4人くらい入れるタイプなのでちょうどいい。


「え?ホント?いいの?らっきー!」


里穂子お姉ちゃんはすぐに乗ってきた。

桃姉がオレとデートしてるとか全く考えていないのだろう。弟だもんね?

桃姉の顔はひきつっている。


「ご、ゴメンね?」


結衣お姉ちゃんの顔もひきつっている。

ガチデート妨害に引いているようだ。悪いけど付き合ってもらうよ。それに結衣お姉ちゃんと一緒だとオレも楽しいし。

パラソルまで案内してそれぞれ日焼け止めを手に取る。ここからミニイベントだな。桃姉の背中にオレが日焼け止めを塗ってドキドキみたいな…


「ユキ、背中塗ってくれる?」


イベント通りに桃姉が微笑む。


「お姉ちゃんたちに塗ってもらえば?」


烏龍茶を飲みながら一応拒否してみる。折角結衣お姉ちゃんたちを引きこんだんだからそっちに塗ってもらえばいい。


「ううん。ユキがいいの。ユキの背中も塗ってあげるから。」


……。

オレがいいか。くそっ!イベントだって分かってるのに普通に心掴まれる。頬が熱い。


「しょうがないな。」


断固拒否って言うのも変な感じだし、何より普通に心が動いてしまったので塗ってあげることにした。桃姉の背中は白い。滑らかでシミ一つない。やましい心を抑えつつ丁寧に日焼け止めを塗っていると「ふふふ、くすぐったい」なんてニコニコしている。可愛いのに腹立つ。


「じゃあ、どこいく?」

「混まないうちにウォータースライダーいっとかない?」


結衣お姉ちゃんたちが予定を決めてるのを小耳に挟んだ。今日は結衣お姉ちゃんたちにべったり張り付く気満々だ。スライダーも行きたかったし。丁度良い。


「いいね~」


里穂子お姉ちゃんが頷いて決定したらしい。


「それじゃ、七瀬さん、またね?」

「うん、またね?」


桃姉がホッとした顔で二人を見送る。


「桃姉、オレらもスライダー行こう。混んでくると並ぶ時間長くなるし、今のうちに。」

「えっ。私は波のプールがいい。」

「そう?じゃあ、オレだけスライダー行ってくるから波のプールにいて?」

「えっ?ユキ行っちゃうの?」

「うん。スライダー乗りたいし。」

「じゃ、じゃあ私も行く!」


ホントはこんなナンパが心配なところで桃姉を一人にするつもりなんてない。桃姉をおびき寄せるための会話誘導だ。案の定桃姉は乗ってきた。

結衣お姉ちゃんたちの後ろにつけるよう、速足で歩いた。丁度結衣お姉ちゃんの後ろにオレがつく。順番としては里穂子お姉ちゃん、結衣お姉ちゃん、オレ、桃姉になった。ここぞとばかりに結衣お姉ちゃんに話しかける。


「結衣お姉ちゃんその水着似合うね?可愛いよ。」


結衣お姉ちゃんの水着は黒のフリルがたっぷりついたビキニだ。白い肌に黒が映えて凄く良い。可愛いけどセクシーでよく似合う。水着姿になるとよくわかるが結衣お姉ちゃんは胸が大きいな。柔らかそうな膨らみに目がいかないように自制する。胸元から目を逸らしたら自然に腰に目が行ってしまったが、これがまたきゅっと括れてる。ものすごくスタイル良い…

水着姿なんて褒めたら恥ずかしがるだろうけど、照れた顔が見たいから。


「あ、ありがとう。」


案の定照れている。カワイイ。

こそっと耳元に唇を寄せてきたからドキッとしたが、潜められた声の発言内容にムッとした。


「自分じゃ上手く選べなくて晴樹先輩、あ、晴樹先輩は例のノートに書いてあったからわかるよね?に選んでもらったんだ。」


は?男に水着選んでもらったの?晴樹って桃姉の攻略対象だよね。


「へーえ。その水着選んでもらったやつなんだ?男に?結衣お姉ちゃん晴樹とそんなに親しいの?」


自分でもびっくりするくらい冷ややかな声が出た。

なるほど。オレは妬いてるらしい。

結衣お姉ちゃんが色んな水着を試着するのを晴樹が見ていてあれこれ口出した揚句、最高に似合うこの一着を探し出したんだと思うと悔しい。

水着を選んであげるほど親しい男がいたってことに心が焦れる。


「や、全然親しくない。むしろ初対面に近かった…けど?」

「ふーん?全然親しくない男に水着選んでもらうのが普通な訳?結衣お姉ちゃんちょっと危機管理能力欠けてない?」


親しくないことに安堵しつつ。親しくない男に水着を選んでもらう結衣お姉ちゃんに危機感を覚える。初対面に近い男と水着選びとか…水着選びを口実に身体に触れられたりしたらどうするつもりだ。更衣室なんて逃げ場が無いぞ?


「えっと、選びかねてちょっと困ってるところだったし、晴樹先輩フレンドリーだし、そもそも晴樹先輩は七瀬さんの攻略対象な訳であって私を異性だなんてこれっぽっちも思ってないかと…」


確信したけど、結衣お姉ちゃんには危機感というものが決定的に足りない。よく今まで無事だったな。しかも今もそんなに怒ることないのに、くらいにしか考えていないだろうと思われる。危険だ。


「ハァ。桃姉の攻略対象だからってむやみに“異性”から除外しないように。攻略対象も結衣お姉ちゃんが思ってるほど無害じゃないから。それから初対面の相手に頼るほど困ってるならオレを頼って。」


事実桃姉の攻略対象であるオレは結衣お姉ちゃんに気があるわけで、他にもそういう奴がいないとは言い切れない。攻略対象だからって自分にとって無害だと思い込むのは早計だ。

それに困ってるなら他の誰でも無くてオレを頼って欲しい。そう思うのは贅沢なんだろうな。


「水着って言えば七瀬さんも可愛いよね。すっごい似合ってる。さっき人だかりができてたのって七瀬さんの水着姿が見たかったからでしょ?さっきからチラチラ見られてるし。」


結衣お姉ちゃんは会話の転換を試みているようだ。まあ、オレもこれ以上ぐだぐだ言うつもりはない。

水着姿ね。確かに桃姉は凄い見られてるよ。人だかりができるくらいに。でも結衣お姉ちゃんも水着姿じろじろ見られてるのには全く気付いてないんだろうな。そりゃ見るだろうよ。こんなに可愛くてスタイルいいんだから。オレだって正直目のやり場に困るくらいだし。


「ハァ。見られてるのは桃姉だけじゃないけどね。まあ、桃姉はちょっと普通と違うような気はする。」  


溜息が洩れる。結衣お姉ちゃんに自分の容姿を自覚させるにはどうしたらいいのかな?桃姉は自分の容姿についてはある程度自覚を持ってるからその辺心配ないんだけど。確かにそこらの芸能人よりよっぽど可愛いよね。


「七瀬さん雪夜君に話しかけたそうだよ?いいの?」


桃姉と距離を置く為のこの順番だよ。


「いいの。結衣お姉ちゃん、今日は眼鏡してないんだね?見えてるの?」

「あー。私普段は眼鏡エンジョイだけど私的外出の時はコンタクトなんだよ。前にランド行った時には目の調子が悪くて眼鏡だったけど。特に今日はプールだし。」

「そうなんだ?素顔の方がキレイだよ。」


眼鏡も可愛いけど素顔の方がずっと可愛い。美人だ。ナチュラルに褒めると素直に照れる。そういう所がたまらなく可愛い。けど、結衣お姉ちゃんの照れ顔に周囲の男の視線が集まったのがわかる。イラッとする。オレは周囲を睨んだ。

列は順調に進み、そろそろ里穂子お姉ちゃんの番だ。スライダーに乗った後はどうしよう。桃姉は波のプールに行きたいらしいけど。


「もうすぐ里穂子お姉ちゃんの番だね。結衣お姉ちゃんたちはこの次どこ行くの?」

「里穂子ちゃんに聞いてみないとわかんないけど波のプールに行こうかなって思ってる」


おお。それなら丁度良い。


「じゃあオレもそっち行く。ビーチボール持ってきたから一緒にビーチバレーしない?」

「いいけど…」


結衣お姉ちゃんがちらっと桃姉に視線を向ける。桃姉に気を使ってるんだろう。イベントで振り回されてるんだからこれくらいの我儘は許してもらうよ。



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