第1話
アンケートにご協力有難うございます。
アンケートを取った結果雪夜君サイドUP希望者の方が多数いらしたのでUPさせていただきます。
あらすじにある注意書きに注意してください。
なんだか胸騒ぎがするので少林寺の稽古をちょっと早めに切り上げて帰ることにした。オレの勘は結構当たる。今日は重要な事が起こりそうな気がする。それが良い事か悪い事かはまだわからないけど。
ちょっと薄暗い脇道を通る。ふと目に着いた看板が閉店になって外されていたので、あそこは何の店だったか記憶を辿る。看板に目を向けながら歩いていたので人とぶつかってしまった。尻もちをつく。別に痛くは無いけど吃驚した。相手は大丈夫だろうかと思って目を向けると、ちょっとよろめいたようだが普通に立っていた。よかった。
「ごめんなさい。大丈夫?怪我はない?」
甘いソプラノ。綺麗な声だ。
艶やかな黒髪は前下がりのおかっぱ頭。眼鏡の奥の瞳は黒々としていて少し釣り目がち。肌理の細かい白磁のような肌。綺麗なお姉ちゃんだ。
少し尻をさすって立ちあがった。
「うん。大丈夫。お姉ちゃんは大丈夫?」
「私も大丈夫。」
「よかった。あ、ノート落としたよ。」
ぶつかった拍子に落としてしまったのだろう。ノートが開かれたまま落ちている。渡してあげようと拾い上げて見慣れた字面が目に入ったので目を止める。桃姉と月姉の事が書いてある…しかも詳しくみっちり。身長体重スリーサイズ得意科目不得意科目…月姉に至ってはショートヘアが似合わないのがコンプレックスという情報まで書いてある。
「なんで月姉と桃姉の事が書いてあるの?」
このお姉ちゃん怪しい…
「か、かかか、返してっ!」
お姉ちゃんはノートをばっと奪い返して胸に抱いて離さない。
「すっごく細かく月姉と桃姉の事が書いてあった…お姉ちゃん。もしかして…ストーカー?」
お姉ちゃんはぶんぶん顔を左右に振る。
「ストーカーじゃないもん。ただのファンだもん。」
「だって1ページいっぱいにちっちゃい文字でみっちり情報が埋まってたよ。怪しすぎるよ。まさか月姉や桃姉の事つけまわしたり郵便受け覗いたりゴミ漁ったりしてない?」
口ではそう言うものの、何となくしっくりこない。ストーカー…じゃない気がするけど、でも何か隠してる気がする。隠してるのは俺たち家族にとって重要な事?
「してないしてない。これは極めてクリーンなデータだよ。」
「じゃあ証拠にそのノート見せて。知ってて大丈夫な情報かオレが判断するから。」
ノートをもっとよく見ればこの違和感の正体がはっきりするような気がする。
「いや、それは無理。」
即答だった。
お姉ちゃんを観察していると視線が脇にずれた。これは逃げるつもりだな。お姉ちゃんが走りだそうとした瞬間、腕を取り左足を払いあげ、背が地面に着くように投げた。
「抵抗しても無駄だよ。そのノートを証拠にストーカーとして警察に突き出すよ?」
本当は警察に突き出す事は現時点では考えていない。こう言えばノートを見せるだろうと考えての脅しだ。お姉ちゃんは逡巡した。
「………わかった。警察に行こう。」
「えっ!?」
予想外の答えに驚いた。
「警察はオッケーなんだ。じゃあホントにクリーンなデータなのかな…」
ファンの枠で収まるクリーンなデータなら持っていてもかまわないけど。でもなんかおかしい。
「…いや、待てよ。なんで警察に見せるのは大丈夫なのにオレに見せるのはダメなの?おかしくない?」
警察に見られて平気なデータならオレに見られたっていいはず。むしろ警察に行かなくて済む分、オレに見せた方が手っ取り早いはず。
「どうでもいいでしょ、警察に行けばいいんだよ。」
「なら警察官の人に見せてもらうよ。親族ならそれくらいの権利あるでしょ?」
この胸騒ぎはノートを見せてもらうまでは収まらない。ちょっとしつこくてイヤな男だがオレは引かない事にした。
「…本当にお願い。雪夜君にだけは見られたくないの…」
お姉ちゃんの黒々とした目が涙で潤む。
「うっ……」
カワイイ…
ん?
オレ名前教えたっけ?教えてないよな?
「え?てゆーかなんでオレの名前知ってんの?やっぱり怪しい。ノート見せて。」
お姉ちゃんはしばらく悩んでいたようだが心を固めたらしい。
「わかった。ノートを見せるよ。ここじゃ場所が悪いから喫茶店でも行こう。」
「逃げても無駄だよ?」
驕るわけではないが、お姉ちゃんくらいならすぐに捕まえられる。
「わかってるよ。」
お姉ちゃんはまるでオレが近接格闘に通じてるのを知ってるかのように頷いた。
オレはお姉ちゃんに連れられて喫茶店へと足を踏み入れる。喫茶店の名前は『ミルククラウン』ちょっと薄暗い店内に影絵のついた橙のランプが灯っている。廊下の隅にウサギの置物があったりして、イメージは森の小人の小屋って感じだ。正直メルヘンすぎてオレ場違い。ちょっと居心地が悪い。お姉ちゃんも初めて入る店なのか視線を追うとインテリアをじろじろ見ている。
席に案内されて椅子に腰かける。お姉ちゃんも座ったのを確かめて口を開いた。
「ノート。」
「ダメ。まずメニュー。お姉さんが奢るから好きなの頼みなさい」
正直今日はどこにも寄るつもりが無かったから持ち合わせが無いので、奢ってもらえるのは有り難いけど、奢られたからって態度を甘くしたりはしないよ。
「…懐柔されたりしないからね。」
「難しい言葉知ってるね?」
普通知ってるでしょ?オレは眉を顰めた。
「馬鹿にしてるの?」
「褒めてるんだよ。」
じっと目を見つめるが嫌味を言っている様子はない。本当に褒めてるんだろう。
「ならいいけど…」
お姉ちゃんはオレの様子を見て深い溜息をついた。
オレもお姉ちゃんを観察している。お姉ちゃんは思索に耽っているようだ。多分ノートの事。普通だった表情がどんどん暗くなっていく。寧ろ泣きそうな顔をしている。
「そんなにひどい事書いたノートなの?」
思わず心配になって聞く。
「それは雪夜君が判断することだよ。」
お姉ちゃんの顔に浮かんでいる表情は悲哀、後悔、諦観。
ウェイトレスさんに注文を済ませてオレは渡されたノートに目を通した。丹念に読み進めて行く。最初はなんだか人物のプロフィールのようだった。桃姉や月姉は勿論の事、オレのプロフィールもあった。今のオレに寸分違い無いプロフィールだ。しかも身長や体重のような外見のデータに留まることなく、オレの誰にも言った事が無い内心にも触れられている。誰にも言うつもりのないオレの密かな恋心。
人物紹介の次は桃姉が前世の記憶を持っており、乙女ゲームの世界に転生した転生者だという事が書いてあった。乙女ゲームって言うと女の子が主人公で、男の子とイチャイチャするあのゲーム?
後半に行くにつれオレの戸惑いは深くなる。後半は乙女ゲームのイベントがずらっと箇条書きにされていた。
「これってお姉ちゃんの妄想?」
「うん。」
お姉ちゃんは頷いた。しかし腑に落ちない。
「…ううん、違うでしょ。俺と月姉と桃姉のことしかわからないけど情報が正確すぎるもの。それにオレの心の中まで知ってる…」
いくら調べたからって心の中まで知ってるのは変だ。俺が格闘技に勤しむようになった理由なんて家族にだって話してないのに。まさかこれが全部事実ってこと?妄想じゃなくて?ちょっと信じられない。そもそも事実だったとして、なんでこのお姉ちゃんがそれを知っているのかわけがわからない。
お茶とケーキが届けられた。
お姉ちゃんは何も言わない。
「これ事実なの?桃姉はゲームの知識を持って生まれてきた転生者なの?」
「……」
お姉ちゃんは何も言わない。ただ苦しそうな顔をするだけだ。苦しめたい訳じゃない。でも放置はできない。まずは答えられそうな質問からするか。
「お姉ちゃん、誰?何者なの?その制服月姉と桃姉が通ってる学校のだよね?」
「私は七瀬桃花さんの同級生です。」
「名前は?」
「朝比奈結衣。」
嘘をついている様子はない。
「結衣お姉ちゃん。じゃあ桃姉に『桃姉ってゲームの知識を持った転生者なの』って聞いてもいい?」
「………いいよ。」
結衣お姉ちゃんは迷った末許可した。
オレは結衣お姉ちゃんの瞳の奥をじっと見つめる。
嘘は言ってない。オレは嘘なら解る自信がある。でも『桃姉ってゲームの知識を持った転生者なの』と桃姉に質問する事は結衣お姉ちゃんが頑なにノートを見せるのを嫌がった理由の根底にない。
「駄目だね。結衣お姉ちゃんまだ何か隠してるでしょう?」
「!」
びくりと結衣お姉ちゃんの肩が震える。
「全部話して。」
「……」
結衣お姉ちゃんは何も言わない。
「結衣お姉ちゃん。真実が知りたいんだ。」
苛立ってはいけない。落ち着いて答えを待つ。じっと瞳の中を覗き込む。結衣お姉ちゃんの瞳の中には強い拒否の意志が宿っている。
「怒ったりしないから。」
「……」
結衣お姉ちゃんは沈黙を守っている。
「知りたいんだ。月姉や桃姉、オレの事が。」
この問題はこのままにはしておけない。もしオレが攻略対象だというのなら、これからの身の振り方も考えなきゃいけないし。
「……」
薄紅色の唇はきつく噛み締められたままだ。
オレに怒られるのが嫌だと言う訳じゃないのは分かる。なら理由はなんだ?結衣お姉ちゃんの瞳に様々な感情が浮かんでいる。読みとれるのは苦渋と憐憫。オレは結衣お姉ちゃんは悪い人ではないんじゃないかと思っている。寧ろオレに対する態度は優しい。優しい結衣お姉ちゃんが嫌がる事…
「……もしかしてオレにとって辛い事?」
当たったようだ。結衣お姉ちゃんの目が泳いだ。詰めよう。
「だから心配してるの?」
「……」
パチンと結衣お姉ちゃんの両頬を掌で挟んだ。結衣お姉ちゃんの目が泳がないようにひたと見つめる。
「耐えられるよ。オレを信じて。」
じっと目を見つめると結衣お姉ちゃんが震えるように薄紅色の唇を開いた。
それから結衣お姉ちゃんが語ったのは驚くべき内容だった。
突然前世に書いたノートが現れた事、このノートは小説用設定資料集である事、この世界が結衣お姉ちゃんのノートの通りに動いている事、オレ達が登場人物であること、オレの…母さんが『設定』で決められたから『設定』どおり死んでしまったのであろうと言う事、オレの桃姉に対する恋心が『設定』によって成り立ってると言う事。正直に言えば苦しい。オレの気持ちもオレの母さんの死もこんなぺらぺらのノートの数行によって決められた事だと思うと。オレの人生って何だろう、という気にならなくもない。でもそれを引きとめているのは結衣お姉ちゃんの表情。酷く怯えている。恐らく、オレが信じたかどうか、怒っているか、悲しんでいるか、考えているのだろう。後悔満載の視線にちょっと笑う。
「怒らないって言ったろ。それに耐えられるって。大丈夫だよ。ほんの少し胸が苦しいけど。」
「ごめん。ごめんなさい。」
結衣お姉ちゃんが泣きだした。
「わっ!泣かないでよ。」
吃驚して慌てる。釣り目がちの瞳が気丈そうだったからまさか泣くとは思わなかった。
「ごめんなさい。ごめんなさい。」
結衣お姉ちゃんは子供のように泣きじゃくって謝る。大粒の涙がいくつも流れているのでハンカチを貸してあげた。眼鏡を外して涙を拭っている。確かにオレの境遇は結衣お姉ちゃんの招いた事かもしれないけど、普通小説用にノートに書いた文章が現実になるとか考える?もの書きならそれくらい大なり小なりやってる事だろう。どう考えても結衣お姉ちゃんは悪くない。それに、なんて言うか……自分の為に泣いてくれてるのがちょっと嬉しかったりもする。泣かせたくはないんだけど。
「大丈夫だよ。ね?ホントだ。結衣お姉ちゃんが悪気があってそうした訳じゃないってわかってるから。それにオレは今幸せだよ。だから大丈夫だ。」
将来恋敵が現れるようだが、オレは桃姉を取り合うつもりはないし。今の家族が好きだから現状に不満は無い。
結衣お姉ちゃんは涙を堪えている。潤んだ瞳が綺麗だ。
「本当にごめんね、雪夜君。」
「もういいよ。大丈夫だよ。」
安心させるように何度も『大丈夫』を繰り返す。
「ほら、飲んだら?」
お茶を勧めてみる。結衣お姉ちゃんは紅茶を注文していた。勧められるままミルクを注いで口に含んでいる。
「おいしい?」
「ん。」
これは嘘。
「あ、嘘ついた。味なんてわかんなくなってるんでしょ?」
結衣お姉ちゃんはしょぼんとした。
「…うん。まだちょっとよくわからない。」
「その紅茶が味わえるようになるまで落ち着いて。」
ゆっくり心を落ち着けてくれればいいから。
オレもコーヒーを口に含む。適度な苦みと酸味が美味しい。ああ、コーヒーはブラックで飲むとか、こんな些細な味覚についてもノートに書いてあったから結衣お姉ちゃんは知ってるんだな。そう思うとちょっとおかしくなった。
「美味しい…」
結衣お姉ちゃんも味覚が戻ってきたようだ。
「そっか。良かった。」
折角奢ってもらったのでケーキも食べる。ラズベリーのチーズモンブランだっけ?美味しい。まろやかだけどラズベリーが甘酸っぱい。
「ケーキもおいしいよ。」
勧めてみると結衣お姉ちゃんも自分のケーキを食べ始めた。
「こっちも美味しいよ。」
ぎこちない笑みが返ってきた。可愛いお姉ちゃんだ。しかしどうしよう、泣かせてしまったりして、どんな会話をとっかかりにすればいいか分からない。ふとケーキが目に入った。
「じゃあ一口交換しない?」
「いいけど…」
テーブルの上で皿を交換して一口食べる。うん。こっちのケーキも美味しいな。苺が瑞々しい。
「雪夜君は気にしないんだね?」
「何を?」
結衣お姉ちゃんは照れているようだ。何その顔。可愛いんですけど。
帰ってきたのは予想外の答えだった。
「間接キスと…か。」
思わず咽る。
「ゲホっ、そ、そんなこと考えてなかったよ!」
か、間接キス?何ソレ甘酸っぱい…
オレは回し食いとか気にしない方だけど、そうやって照れられると意識するじゃないか。
「ゴメン、別にどうでもいいことだよね。」
「…まあ…いいけど。それにしても結衣お姉ちゃん不用心だよね。そんな不思議ノート道で堂々と開いて読んでて。」
オレ以外の登場人物に見られたらどんな目にあわされるか…
「そのノート、妹が見たら白紙だって言ってて、てっきり私以外の人間には白紙に見えるんだと思ってて。」
「えっ、そうなの?」
「うん。妹にからかわれたのかな?」
白紙に…それなら安心かもしれないけど、万が一にも絶対見られちゃいけない人物とかいるな。第一オレには読めた訳だし。
「オレ以外の登場人物には絶対見せない方がいいと思うんだけど。特にこいつとか。」
三国翔太郎という人物の設定は酷かった。母が浪費癖の苦学生。まあ、浮気三昧とか書かれてないところが結衣お姉ちゃんの書いたノートかもしれない。どっちにしろ知られたらキレられそうではある。
「うん。見せない。三国君は喧嘩は馬鹿みたいに強いけど、女の子と子供には暴力振るわないから無理やりとかもないと思うし。」
「うっ、それは…ゴメン。」
結衣お姉ちゃん女の子なのに思いっきり暴力振るっちゃったよ。オレサイテー。もっと痛くないように捕獲する術だってあっただろうに。オレサイテー。
「気にしてないよ。私が怪しかったのが悪かったんだから。」
結衣お姉ちゃんが優しく笑う。あ、その顔可愛い。じゃなくて!
「ゴメンね。でも不思議だなー。字が見えたり見えなかったりするのか。ちょっと確かめてみる?」
「え?」
ノートを開いてウェイトレスのお姉さんに声をかける。
「お姉さん。このノート読んでもらえますか?」
ウェイトレスのお姉さんは顔を近づけてノートを見た後笑った。
「ボク?このノート何にも書いてないでしょ?お姉さん読めないわよ。」
手を振り笑って去ってゆく。何となく結衣お姉ちゃんと姉弟と思われてる気がする。別にいいけど。
「やっぱり何にも書いてないって。もしかしたら登場人物だけが読めるのかな?でも登場人物に読ますのは絶対反対だよ。」
「読まさないー!っていうか雪夜君も勝手に見せたらだめっ!」
結衣お姉ちゃんは怒ってるのに泣きそうだ。
「ゴメン。全然関係ない人だったから逆にいいかと思って。」
「良くないよ。これは私の黒歴史なんだか…あっ!別に雪夜君の事否定してる訳じゃないよ!」
急に結衣お姉ちゃんがわてわてし始めた。多分オレの事を黒歴史だと思っている訳ではないと伝えたいのだろう。あんまりにも慌てている様子が可愛い。
「大丈夫。誤解してないよ。」
「そう。なら良かった。」
「オレって黒歴史の申し子なんだよね?」
結衣お姉ちゃんはぎょっとしたが、すぐに笑ってるオレの顔を見て頬を膨らませた。
「もー!!雪夜君の意地悪!」
「ゴメンゴメン。結衣お姉ちゃん可愛かったからつい。」
思ったまま口に出せばすぐに照れる。素直なお姉ちゃんだなあ。
「でもこれからどうなるんだろうね?桃姉自身は自分が『前世のゲームの知識を持って生まれてきた』って思ってるんだよね?」
「多分ね。」
「しかもこのままいったら11人の彼氏ができる。」
「ハイ、ソウデス…」
「あ、10人か。オレはホワイトデーに告白とかしないから。」
「えっ。しないの?それはやっぱりノートを見たから?」
「違うよ。元々告白なんかするつもりない。いい家族でいたいから。」
桃姉の事は好きだけど、それ以上に家族として過ごす時間が大好きだ。だからこの関係を壊したくない。もしオレが桃姉に好きだと告げてしまったらこの家族関係はいとも容易く崩壊してしまうだろうから。
「でも雪夜君、イベントをこなして好感度を上げられたら途中で心変わりしちゃうかもよ?」
「そっか。その辺はゲーム要素なのか。とりあえずデートは断るけど…イベントって回避できないのかな?」
自分の意志に反して心の方が桃姉に傾いていってしまったら困る。
「さあ?やってみたことないからわかんない。」
「じゃあオレはイベント回避に専念しよう。元々イベント少ないし。っていうかオレのイベント少なすぎじゃない?」
なんだか非常にイベントが少ない。小説ではくっつかない設定だったのだろうか?いや、逆ハーレムものだって書いてあるしな。
「実は雪夜君は元々一緒に住んでるから、何もしなくてもどんどん好感度が上がっていくっていう裏設定をしていて…」
「ええ!?その裏設定って有効?」
「ううん、無効。」
二宗ってヤツの妹の名前を聞きだして検証したらしい。『頭の中に構想としてあってもノートに文章として明記されていないものは反映されない』良かった。何もしなくてもどんどん好感度上がっていったらたまったもんじゃないよ。
「とりあえず有効な方法わかったら教えてくれないかな?こっちも桃姉の事とか教えるから。誰が本命とか…」
探りいれてみるつもり。結衣お姉ちゃんとのラインは確保しておいた方が安全だろう。
「よしきた!あ、携帯持ってる?」
「持ってるよ。アドレスと番号交換する?」
「しよしよ。」
鞄から携帯を取りだすと、結衣お姉ちゃんも携帯を取り出した。紫のゴスロリ御用達のブランドのケースに包まれたアイフォンだった。ふーん?あのブランド好きなのかな?とりあえずアドレスと番号を交換した。
結構遅くなったので今回はこれでお開きにした。伝票は見せてくれなかったが味からしてそう安くは無いと思う。奢らせちゃって悪かったな。
文章の中にきりのいいところがなかったので初回はちょっと長め。大抵一話の目安は2千字程を予定してます。